1. パットン大戦車軍団
合理性・柔軟性を欠いた精神主義と形式・規律主義とによって軍を差配する主人公に対して、たとえば司馬遼太郎翁であれば、それこそボロクソにけなすことことでしょう(笑)。当時は、兵器のハイテク化や軍人の専門化という「構造改革」が進んでいく、まさに転換期。二言目には戦記からの引用を並べたて、往年の威光をかざす老将は、周囲に疎まれながら、時には嘲笑の対象とさえなるわけですが、これはパットンだけではなく、当時の多くの軍においてみられた光景です。まだ戦争が白兵戦至上主義・戦艦巨砲主義のもとに行われた時代においては、名将と称される人々は、たとえば乃木大将が当代随一の漢文の素養に恵まれていたように、文学や歴史に通じていることは当然であり、総合的教養人ともいうべき大人物でありました。そういえば、海軍畑から英国宰相に上り詰めたチャーチルも、かの大著『ローマ帝国衰亡史』を常に座右に置き、主要部分を諳んじていたといわれています。もちろん、軍事部門に限らず、リーダーの専門化・官僚化・小人物化は、政治・経済をはじめ、あらゆる分野に共通する傾向でありますが。パットンの場合、頭の中が戦史・戦術でいっぱいというところは軍の脱総合化・専門化に符合しますが、ハイテク化と現代化には到底ついていけなかったところが、当時の「転換期」を表しています。ほぼ風化してしまった古戦場に足を運び、まるで往時を思い出すかのように表情を緩めるパットン老将の演技は、そうした時代の趨勢を実感する者の寂しさを体現し、本作中でも出色の名場面。 8点(2004-05-16 17:13:40)(良:3票) |