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自己紹介 映画を観る楽しみ方の一つとして、主演のスター俳優・演技派俳優、渋い脇役俳優などに注目して、胸をワクワクさせながら観るという事があります。このレビューでは、極力、その出演俳優に着目して、映画への限りなき愛も含めてコメントしていきたいと思っています。

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1.  ハッド 《ネタバレ》 
この映画「ハッド」の監督マーティン・リットは、赤狩りで辛酸をなめた映画人の一人としてよく知られていますね。 その時、彼は才能ある人々の裏切りを目の当たりにして、人と社会への厳しい目を培ったのだろう。  そんな彼の体験が、以後も一貫して反骨精神を貫き、「寒い国から帰ったスパイ」「男の闘い」「サウンダー」「ノーマ・レイ」などの映画で、特定の時代における人間の孤立と闘争を描き続けてきた原動力になっているのだと思う。  このマーティン・リットが監督した「ハッド」は、アクターズ・スタジオの縁でポール・ニューマンと6本ものコンビ作を生み出したうちの1本なんですね。  近代化の波に押しやられた、テキサスの荒涼とした風景の西部で、牧場を営む三代の男家族の確執と離散を通じて、現代アメリカの荒廃を浮き彫りにする秀作だと思う。  ポール・ニューマンが演じるハッド・バノンは、酒と女以外、人生に興味を示さず、心の中に闇を抱えた虚無的な男だ。  そんなハッドが、15年ぶりに故郷のテキサスの牧場へ帰ってくる。 酔っ払い運転で兄を死なせたハッドは、兄の遺児ロンからは慕われるが、老いた父ホーマー(メルヴィン・ダグラス)との断絶は解消できず、反目し合ったままなのだ。  ここに、離婚をして中年にさしかかった流れ者のアルマ(パトリシア・ニール)が住み込みの家政婦として雇われ、束の間、男だけの家庭に安らぎが訪れるが---------。  この映画の原作は、西部小説の名手と言われているラリー・マートリーの短篇小説で、彼の描く人々は、いつも物憂げで、他者のみならず自らをも肯定出来ないのが常なんですね。  マーティン・リット監督は、この原作を映画的に膨らませることで、アメリカという国の未来を憂う、彼自身の心情を吐露しているのではないかと思う。  父の大事にしている牛の群れが、疫病を患い次々と倒れていく。 そこには、かつて西部劇が描いた開拓精神や男のロマンなど微塵も見られない。  ハッドは、アンモラルなエゴイストで、彼は病気が証明される前に、牛を売ることを提案するのだが、そんな彼の無情の背景には、父への憎しみがあるからなのだ。  父親はそれに耳を貸さず、結局、手塩にかけて育ててきた牛たちを屠殺処分せざるを得なくなり、生きる意欲を失ってしまう。  ハッドは、父ホーマーの開拓者としての誇りを踏みにじり、口論の末に荒れて、アルマを強姦しようとするが、アルマは身を許さない。 大人の女のぬくもりも男たちの崩壊を救うことはできなかったのだ。  こうして、アルマは去り、そしてホーマーは落馬して夜道に倒れ、「わしが長生きすると迷惑だろう」と言い残して息を引き取るのだった。  ハッドの哀れな本性に嫌気が差したロンは、「あんたが生きる力を奪った」と言い放ち、故郷を捨て、ハッドはひとり寂しく取り残されることに---------。  ポール・ニューマンの自己破壊性、メルヴィン・ダグラスの威厳と孤高、そして、パトリシア・ニールは、アルマの瞳に根を張ることの叶わぬ、女の諦念をにじませて官能的だ。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2023-11-08 00:13:04)(良:1票)
2.  八甲田山 《ネタバレ》 
指揮権の所在と責任の明確化、指揮官の資質と判断力の重要性、周到な調査と準備の必要性などと共に、大自然に対する畏敬の念の重要性をも考えさせられる映画が、この「八甲田山」だと思います。  この映画「八甲田山」は、「砂の器」に次ぐ第二作として、橋本プロダクションが東宝映画と製作提携した作品で、脚本は橋本忍、監督は「動乱」「海峡」の森谷司郎、原作は新田次郎の「八甲田山 死の彷徨」。  昭和49年2月にクランクインしてから、3年余の歳月と7億円の製作費と30万フィートを超すフィルムを費やして完成された、当時の日本映画界にあっては未曾有の超大作です。  この映画のテーマについて、森谷司郎監督は、「厳しい自然と人間の葛藤を通して、人と人との出会い、その生と死の運命を描かなければならない。自然の思いがけない不意打ちと、それに対応しようとする人間の闘い、その強さと、胸にしみるような悲しさを八甲田山中の、人間を圧倒するような量感で迫ってくる雪の中で、アクティブに描きたい。それには映画のもつ表現力が、もっとも強く迫ることができるにちがいない」と語っています。  原作と映画を比較する事は、もともと芸術の分野が違っているので適当ではないかも知れませんが、雪におけるこの原作と映画の表現に差がある事を、原作者の新田次郎は認めています。  彼は、雪に対する"筆の甘さ"に対して、「この映画は、雪を完全にとらえることができたから、雪を背景として起こった人間ドラマを完全に映像化することに成功したのであろう」と率直に語っています。  地吹雪、雪崩、その雪の中の絶望的な彷徨を、厳しく、しかも美しく描き出した映像には、この映画に参加した人達の肉体の限界に迫る苦労が、そのままにじみ出ており、芥川也寸志の音楽をバックに映画のもつ圧倒的な表現力が生かされているように思います。  日露戦争直前の明治35年1月21日、弘前を出発した第31連隊の徳島大尉(高倉健、実名は福島泰蔵大尉)の率いる部隊は37名、その大半が士官であり、十和田湖を迂回して八甲田山に入る10泊11日間、240kmの行程は無謀に見えましたが、綿密で周到な準備と道案内によって万全が期せられていました。  一方、1月23日に青森を出発した第5連隊の神田大尉(北大路欣也、実名は神成文吉大尉)の率いる部隊は211名、2泊3日、50kmの行程は一見容易に見えましたが、混成の部隊であり、第二隊長山田少佐(三國連太郎、実名は山口勲少佐)らの大隊本部が同行しており、指揮命令系統に混乱があると共に、大部隊のため食糧、燃料の運搬のためのソリ隊が足手まといとなっていたし、案内人も雇っていませんでした。  この部隊は初日に目的地の田代まで、後2kmのところで道を見失っていて、零下22度、風速30m、体感温度零下50度という猛吹雪の中で、死の彷徨が続くのです。  1月27日に徳島隊が八甲田山に入った時には、神田隊は壊滅状態になっていましたが、徳島隊は全員無事に踏破に成功したのです。  神田隊の生存者は山田少佐以下12名、凍死199名。 映画はこの両隊の劇的な成否を交互に対比させながら描いていますが、もっと我々観る者にわかりやすくするために、随時、現在地を示す地図を入れるとか、隊名やそのルートを入れるというような工夫が必要だったのではないかと思います。  この映画を観終えて、指揮権の所在と責任の明確化、指揮官の資質と判断力の重要性、周到な調査と準備の必要性、そして、環境の急変に対する臨機応変な適切な対応、特に大自然に対する畏敬の念と慎重な行動の重要性と言う事をつくづく考えさせられました。  尚、八甲田山の踏破に成功した徳島(福島)大尉は、却って、その後、冷遇されたうえ、日露戦争では雪中行軍の生き残りと共に、酷寒の黒溝台の激戦で戦死しています。 この事から、八甲田山で起こった事実を隠蔽しようとする陸軍の陰謀の匂いを感じてしまいます。  また、事実として、その後、自決した山田(山口)少佐の実像は、映画のような悪役的な人ではなかったと言われています。 問題は、危機に耐える事が出来なかった神田(神成)大尉の弱さにあったように思われます。  最も困難な時点で、徳島(福島)大尉は、「吾人もし天に抗する気力なくんば、天は必ず吾人を亡ぼさん。諸子、それ天に勝てよ」と兵に告げているのに、神田(神成)大尉は、「天はわれ等を見放した。俺も死ぬから、全員枕を並べて死のう」と絶叫しているという事からも推察できるのです。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2023-08-28 08:53:39)
3.  バターフィールド8 《ネタバレ》 
1943年の「家路」で映画デビューを果たし、以後、「緑園の天使」(1944年)、「若草物語」(1949年)、「花嫁の父」(1950年)、「陽のあたる場所」(1951年)と、天才子役からアイドル女優へと順調にキャリアを伸ばし、その後、ハリウッド映画界を代表するスター女優となり、美人女優の代名詞ともなったエリザベス・テイラー、通称リズ。  エドワード・ドミトリク監督、モンゴメリー・クリフト共演の「愛情の花咲く樹」(1957年)、リチャード・ブルックス監督、ポール・ニューマン共演の「熱いトタン屋根の猫」(1958年)、ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督、キャサリン・ヘプバーン、モンゴメリー・クリフト共演の「去年の夏突然に」(1959年)と3年連続でアカデミー賞の最優秀主演女優賞を逃し、ようやく、このダニエル・マン監督、ローレンス・ハーヴェイ共演の「バターフィールド8」で念願のオスカー像を獲得した、いわば彼女にとって記念すべき作品になったわけです。ただ、リズ自身は、この映画での役をあまり気に入らず、完成した映画も観ていないと言いますから、皮肉なものです。  確かに、この映画での演技は彼女のフィルモグラフィーの中でも、特に優れた演技だったとも思えず、同じ年の他のオスカー候補の女優が、「ルーズベルト物語」のグリア・ガースン、「サンダウナーズ」のデボラ・カー、「アパートの鍵貸します」のシャーリー・マクレーン、「日曜はダメよ」のメリナ・メルクーリという事で、強力なライバルが存在しなかった事、リズが過去3年連続で受賞を逃している事、当時、「クレオパトラ」の撮影中にかかった肺炎でかなり病状が悪かったという事に対するアカデミー会員の同情票が集まったからではないかと言われています。  この映画「バターフィールド8」は、通俗的なメロドラマで、リズが演じたのは、コールガールのグロリア。本業はモデルなのだが、過去の男性遍歴の中でトラウマを抱えていて、刹那的な生き方をしている彼女の電話で指名される時の電話番号が、"バーターフィールド8"。  そんなグロリアが客の一人として、出会った妻子持ちの名家の男性ローレンス・ハーヴェイ。この男優は、「ロミオとジュリエット」(1954年)のロミオを演じてブレイクし、眉目秀麗な二枚目俳優として、その後も「年上の女」「アラモ」などに出演しましたが、それらの中で私が一番印象に残っているのは,ジョン・フランケンハイマー監督の、東西冷戦下の中で暗殺者として洗脳された男の姿を戦慄のサスペンス・タッチで描いた「影なき狙撃者」での迫真の演技です。彼は、その後、48歳の若さで亡くなったのが非常に惜しまれます。  映画は、リズとハーベイの不倫の恋の顛末を、俗物的な男のエゴイズムと、それに翻弄される女性の悲劇を描いていきますが、あまりにも通俗的な展開で、映画としてはあまり良い出来映えではないと思います。この映画は、ただひたすら、映画という夢の世界の中で美しく、きらびやかに輝くエリザベス・テイラーというスター女優の魅力に酔いしれる映画なのです。
[DVD(字幕)] 5点(2017-07-27 15:39:05)
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