1. ブリッジ・オブ・スパイ
《ネタバレ》 このレビューを投稿する時点で、平均7.22点という高得点にもかかわらず、10点を付けている人がゼロという事実がすべてを物語っているように思う。不出来な映画ではない。ストーリーは適度の屈曲を混ぜ込んで織られているし、トム・ハンクスをはじめ俳優陣も好演している。見て損したという気にもならない。演出にも破綻はない。 なのだけれども、では突き抜けた満足感があったかと聞かれれば、「No」と答えざるをえない。そこそこ面白い映画、そこそこ満足する映画、そんなところが当てはまる感じだ。そう感じてしまう原因の一つは、どこまでいっても結局は「アメリカ万歳」という限界にある。たしかに裁判のシーンでは感情的に暴言を吐くアメリカ人が描かれ、地下鉄のなかではドノヴァンを短絡的に睨みつけるアメリカ人が描かれている。けれども、そうしたつくり方も計算されたアリバイなのだ。 善なるアメリカと悪なるソ連。ヒューマニズムをどこまでも貫くのはアメリカ人。多少アメリカのネガな部分が散らしてあっても、行きつくところはやっぱ、そこかという印象が拭えない。そして、それは本作の限界であると同時に、アカデミー賞の好みの限界でもあるように思う。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2017-09-24 23:10:16) |
2. フライト
《ネタバレ》 「フライト」というタイトルと出だしの30分から最初はエアパニックものかと思ったが、もっとヒューマンなテーマの作品だった。端的にいえば「自分の弱さをどう乗り越えるか」という話であり、そのプロセスを見る者もともにたどり考えさせる。 パイロットとしてはスゴ腕でも人間としては自堕落な主人公。何度も酒を断とうとするが、そのたびに挫折。決して理想的な人間とは描かれない。あと一つウソをつけば身が助かるという場面で、彼はギリギリの選択を迫られる。最後のウソをつくには、命を犠牲にして子どもを救った愛人の尊厳に泥を塗らねばならなくなったのだ。ウソをつくのはお手のモノのはずの主人公だったが、どうしてもそれだけはできず、とうとう正直に告白する。彼のなかにはまだ「誠実」あるいは「真心」といったものが残っていたのだ。一方、覚せい剤を飲ましてまでも彼にウソをつき通させようとする弁護士やパイロット組合幹部のありさまに、見かけは立派でもじつは「誠実」より自分の利益のほうを大事とするあさましさも対照的に描かれ、いわゆる「立派な人たち」の欺瞞がさりげなく告発もされる。 主人公は結局、刑務所に入ることになるが、そこで彼は「初めて自由になれた」と素直に語る。そこにはもはや一片のウソもない。 つまるところ、人間の魂を救うものは何かが提示される。その中身自体は古くからあるものではあるが、同時に、古くからあるものだとして軽視すべきではないとも教えてくれる。コンベンショナルなテーマを扱っていても面白く最後まで観ることができる佳作である。 [地上波(字幕)] 7点(2014-05-26 11:36:09) |
3. フォーガットン
《ネタバレ》 まったくもって、みなさんがおっしゃっている通りだと激しく同意です。予告に釣られて見てしまいましたが、典型的な“腰くだけ映画”でした。娘をさらわれた男が記憶を取り戻すあたりまでは、けっこう面白かったんですよ。ところが、そのあとは……(以下省略)。こういうシナリオで商業ベースの映画をつくっちまうこと自体、ある意味、10点ものですわ。映画のクオリティに対する点数は、私の感覚では3点也ってところじゃないでしょうか。 [DVD(字幕)] 3点(2006-04-26 21:08:51) |
4. ブロークバック・マウンテン
《ネタバレ》 観終えての第一感想は、「期待したほどではなかった」でした。アカデミー賞を独占するのではとまで下馬評は高まっていましたが、そうはならなかったのは、テーマがどうとかより、単純に作品としてそれほどでもなかったという1点に尽きるのでは、と思います。 同性愛が描かれた作品ですが、私には同性愛はテーマというより、テーマをより浮き立たせるためのお膳立てぐらいにしか感じられませんでした。テーマ(らしきもの)は、「理想と現実」みたいなところではないかと。どなたかが書いておられますが、私も見ている最中、『青い珊瑚礁』を思い出していました。 2人だけのシャングリラを追い求めたいのに、現実はそれを許してくれない。その相克をどう生きるのか――そんな構図が終始提示されていたように思います。そうした悩みは、誰しも大なり小なり抱えていることでしょう。趣味で生きたいが趣味では食っていけない、ほんとうに愛する人がいるけれど家庭があるからままならない、などなど。にもかかわらず、さほど心を揺さぶられなかったのは、脚本の弱さに起因する気がします。 “初夜”を迎えるシーンは、お互い“初めて”なのに、“うまく”運びすぎて不自然とか(笑)、理想と現実の相克が描かれてはいるのだけれど、イマイチ身を切られるような思いまでは伝わってこないとか。そして私が脚本的にもっとも抵抗を覚えたのは、ジャックを殺した点。これは、禁じ手ではないでしょうか。ストーリーの紡ぎように困窮して、やってしまったという印象さえありました。ということで、話題になったわりには平凡な作品だったというのが率直な感想で、6点也です。 [映画館(字幕)] 6点(2006-04-02 20:42:54) |
5. フレンチ・コネクション
《ネタバレ》 まったく飾り気のない、抜き身の刀を思わせるような作品である。場面を盛り上げるBGMなし。劇的感を高める効果音最少。(当然ながら)CGゼロ。しかし、そうしたテクニックがミニマムでも、ものすごく引き込まれるし、むしろかえって「本物」感が強く、ハンパな演出をいっさい拒絶するストイックな制作姿勢にしびれるばかり。ストーリーも、安易なハッピーエンドとはほど遠い。実話を下敷きにしたとはいえ、最後まで終末が読めず目が離せない。 印象的な場面は、車を徹底的に捜索するシーン。もはや「捜索」なんてものではなく、「解体」以外の何ものでもない。そんなことまでするのかと、唖然となってしまう。おのおののシーンが超リアルで、つくられて30年を経たいまでも終始圧倒されっぱなし。そのほか、地下鉄相手のカーチェイスの場面もすごい。 本作を見直して、改めて映画の本質を問い直さずにはいられない。巧みな作画技術とか、多彩な撮影技術とか、コンピュータを駆使した音楽やグラフィックとか、たしかにそれらは映画の進歩に大きく貢献しているし、作品の魅力を高める要因にもなっている。しかし、それらはあくまでもサブ的要素なのだ。作品の核をなすのは、やっぱりストーリーであり、作品を貫くスピリットなのだ。それらが不足している映画が最近、とみに多いのではないか、と思わずにはいられない。歴史的作品に拍手、ということで、9点也です。彼らの世界を垣間見て、ああ自分なんか超温室育ちだなと、ちょっと自虐。。。 9点(2004-12-15 20:51:27) |
6. プリシラ(1994)
この手の映画は高得点をつけないと「理解がないヤツ」と思われがちで、点が甘くなる傾向があるような気がするのは考えすぎ? 派手派手な内容のわりには淡々と進むストーリーで、ちょっと物足りなかった。盛り上げるところはもっと盛り上げ、シリアスな部分はもっとシリアスに、というふうに、メリハリの付け方を現状よりも激しくしたほうがよかったと思う。かといって見て損したとは思わないが。バスの屋根に乗ったガイが衣装をたなびかせて、バスがオーストラリアの大地を疾走するシーンが最高でした。ということで6点也です。 6点(2004-09-23 23:35:57) |
7. フォレスト・ガンプ/一期一会
面白かったけれど、これ以上の点は私にはつけられないです。事前のイメージとは、まったく違う内容で、これは、いわゆる、おとぎ話ですね。 よく比較される「ショーシャンク」ともども、よくできた佳作という印象が共通します。 8点以上つけれらないのは、あまりにも主人公に都合のよすぎる話が連続したからで、ファンタジーにあまりリアリティを求める必要はないのかもしれませんが、荒唐無稽すぎて、本作から何かを得ようという気にはなりませんでした。なお、邦題の「一期一会」は不要だったのでは、とも思いました。 7点(2004-07-11 14:09:33) |
8. フィラデルフィア
《ネタバレ》 床に倒れる――トム・ハンクスのただそれだけの動作に「名演」を見せつけられた。さすがにハリウッドの底力はすごい。 図書館で司書に「個室のほうがいいでしょう?」と親切ごかしの差別を受け、「あなたはそのほうがいいのか?」と切り返すセリフ、シナリオも光った。 ホモセクシュアルそしてエイズという重いテーマをステレオタイプに訴えるのではなく、映画という娯楽性を十二分に踏まえたうえで、観客に考えさせる。演出、脚本、俳優たちの演技、すべてが高いレベルで結実。これを名作といわずして何を名作というのか、と思わずにはいられない。 9点(2004-05-05 11:33:57) |