1. プライベート・ライアン
アメリカはなぜライアンを救出しなければならなかったのか?これは単なる戦場の美談ではないと思う。今でもたぶんアメリカは同様の事態になれば、国内世論の影響に配慮しなければならず、こういう策をとるだろう。いや、とらざるを得ないと思う。戦争を遂行する際、これがアメリカのもう一つの戦いであり、苦悩でもある。ライアン家にたまたま起こった悲劇(上3人の兄が立て続けに戦死)は、その典型にすぎず、当時おそらくこれに近い状況の家族はいくつかあったと思う。そして、これらの悲劇が反戦活動家に利用され、運動へと広がっていった。軍の幹部がライアンの兄たちの訃報を知らせに、母親のもとを訪問するシーン、車から降りてきた牧師を見るや、腰くだけで倒れる母親の姿は特に印象的だった。国内反戦派との戦い、しかもドイツの降伏が見えてきたこの時期に、戦争を完全に遂行しなければならなかったアメリカにとって国内世論を敵にして、反戦派につけいられてはならなかったのである。そのためには、救出側に多少の犠牲が出てもライアンだけは死なせてはならないというこの不条理、そしてアメリカのしたたかさというものを訴えたかったのではないのか? 9点(2003-04-05 22:13:49) |