1. 許されざる者(1992)
無口、長身、そしてハンサムというアメリカ人の理想の男性像を演じるクリント・イーストウッド。その彼の最近の作品ではどことなく運命を待ち受ける風情の受け身な主人公が多くなってきているように思う。近作の彼を見ていて歯がゆくなったファンは、この作品の最後の20分で溜飲を下げることができるはず。耐えに耐えて………最後にやり返す。この真珠湾攻撃的なラストシーンは凄絶で鳥肌がたつ。一時はやった日本の任侠ものにも一脈通じるものを感じる。任侠ものも西部劇もシチュエーションはやはりおんなじ。普段はただの老いたる弱い農夫であるイーストウッドが、怒りをきっかけに天恵のように力を与えられるという点に、アメリカ開拓者たちを突き動かしていたであろう衝動を垣間見ることができるような気がする。それは「絶対的な外在」とでも言うべきものだろう。おのれの身内から沸き上がる力以外の力に突き動かされている―――ブルーアメリカンと呼ばれるあの大西洋の渡航者、新大陸の開拓者たちの精神だ。開拓者たちの力の起源はピューリタンたちが大西洋を渡って、大陸を西へ西へと世界の涯まで追い求めた神なのかも知れない。この作品のイーストウッドに孤独と崇高さ、そして悲愴さにまで高められた悲しみを感じるのは、いわば運命の手に翻弄される操り人形に対して感じる感情と同じと言えるのかも。開拓者たちの物語―――そういう意味では派手なドンパチこそあまりないが、この作品は「西部劇」の王道なのだろう。まあ、この作品をひとことで言い表すと「帰ってきたクリント・イーストウッドの超カッコいい男」となる。 5点(2003-05-18 01:40:32) |