1. 笑う男(1928)
「恐怖と幻想の世界」の中の1本で写真からおどろおどろしい怪奇ものとして手つかずだった作品。 17世紀イギリスにおいて謀反人として処刑された男の幼児が父の愚行を一生笑うように子供の人身売買組織に笑い顔に整形され捨てられるという冒頭の展開にこれは復讐譚なのだろうか? 旅芸人の一座に拾われた幼児が拾った乳児(盲目だった)に対する心遣いに涙が滲み「えっ?」 一座のスターに成長した二人のいたわり合う純愛模様に、笑わせるのと笑われる違いに悶える姿に、座長の慈愛に、横暴極まりない王家の遣り口と闘う姿に、ハッピーエンド、バッドエンドの予想がつかないテンポの良い展開に手に汗握る硬直状態。 何度も泣かされた中で一番泣かされたのがジャーマンシェパードのホモ君。鑑賞史上最も男気ある犬の君に加点。泣き納めだったラストショットが目に焼き付きます。 恐怖も幻想も無い人間ドラマ文芸作品として極上の逸品です。 [DVD(字幕)] 10点(2022-03-21 18:20:45) |
2. バグダッドの盗賊(1924)
ダグラス・フェアバンクス初体験。ジャン=ポール・ベルモンドのような一つ一つの身のこなしのキレの良さに惚れ惚れすると共に、大胸筋に目が釘付けでありました。痛快活劇でありながら身分違いの恋に苦しみ自分と向き合う姿にホロリと。長尺ながらしっかりとした起承転結で飽きるところがありません。 あまりにも壮大にして美しいセット装飾、大群衆エキストラ、数々の特撮は97年前の作品とは思えない驚異の素晴らしさで、コケたらどうしようなどとは考えていなさそうな時間とお金のかけかたに製作者ダグラス・フェアバンクスの肝の据わりを見ました。 頑張っても報われない事を知っていても本作の「幸せは努力して得るもの」には納得。 スタッフ・キャスト渾身の傑作に拍手。 [DVD(字幕)] 10点(2021-11-28 03:41:07) |
3. キートンのセブン・チャンス
《ネタバレ》 突飛な設定に引き込まれ、オクテなキートンが700万㌦!目当てのプロポーズでの様々な「撃沈」模様に笑いが止まらず、新聞広告に話の道筋が見えてきました。 「ウォーミングアップは終わった。お楽しみはこれからだよ」 スケールの大きな緩急自在の疾走劇はサバクトビバッタが思い浮かぶ化物軍団(失礼)からの逃走でありメアリーのもとへ駆けつける爆走で、爆笑しながらもジーンとくるものがありました。 鮮やかなオチに後味も最高。キートンの至芸を堪能出来た大傑作。 余談ながら、受付嬢でのジーン・アーサー出演に驚きです。 [インターネット(字幕)] 10点(2021-01-31 05:02:48) |
4. 嵐の孤児
《ネタバレ》 気がついたら2時間30分が経っていました。まさに釘付け。リリアン・ギッシュを筆頭にキャスト全員が凄い存在感。 アンリエットの恋人を演ずる水も滴るいい男がジョセフ・シルドクラウトだったのがビックリでリリアン・ギッシュとのキスシーンはお宝映像。 フランス革命時のパリを舞台とした物語は監督がロシア革命を意識したのだろうかと思える貴族の横暴と民衆の狂乱ぶりが丹念に描かれています。姉妹に降りかかる「これでもかっ」という薄幸ぶりに地団駄踏む思いで、ラストミニッツレスキューと分かっていても「早く!!」硬直状態。10点か9点か迷った挙げ句、メデタシ度がちょっとばかり過ぎるかなと感じたところに-0.01点。 大正10年製作傑作無声映画です。 [DVD(字幕)] 9点(2023-07-30 01:48:07) |
5. 東への道
98年前に製作された無音の134分間は、ありきたりな物語でありながら、しっかりとした起承転結、リリアン・ギッシュ、リチャード・バーセルメス、ロウエル・シャーマン(映画におけるゲス男のバイブルと言える目つきが絶品)を始めとして端役に至るまで登場人物全員の際立った個性、肩の力が抜けるお笑いシーン、ラスト・ミニッツ・レスキュー(監督の十八番だというのを鑑賞後知る事に)一瞬も目が離せない。圧巻だったのがリリアン・ギッシュが吹雪の中を彷徨い流氷上で力尽きるシーンで、「このまま滝壺へ落ちてゆけばこれ以上辛い思いしなくて済むのかも、でも何とか助からないのか」涙が溢れ、救出に向かうバーセルメスに「早く!」握り拳。老婆のような顔つきになり凍死寸前だったというリリアン・ギッシュの役者魂(監督に対する信頼感なのか?)に喝采。無音でもこれ程までに表現出来る事に感嘆しきりの傑作。 [DVD(字幕)] 9点(2018-12-10 11:17:42)(良:1票) |
6. キートンの蒸気船
キートン初体験。センスの良いBGM、列車到着のシーンから期待感にワクワク。当時どのように撮影されたのか街を襲う怒涛の大嵐、ポーカーフェイスのキートンの身体能力の凄さ。呆気にとられながら大笑い中笑い小笑いさせられる中で親子の絆にしんみりさせられる。期待以上の傑作です。 [DVD(字幕)] 9点(2013-06-02 01:41:27)(良:1票) |
7. チャップリンの黄金狂時代
《ネタバレ》 初見。後をつける熊に気づかず雪山の崖っぷちを「何時ものスタイル」で飄々と歩く登場シーンにいきなり大笑い。よくよく考えてみると笑えない餓死や転落死の危機をも笑いで魅せてくれる喜劇王。そんな彼が表した孤独の辛さ、初めて酒場に立った後ろ姿と蛍の光を聞く横顔に居たたまれない思いが。なので船上のジョージアが「何時ものスタイル」の彼に見せた優しさに救いを見ました。チャップリンの価値観を痛切に感じた作品です。 [DVD(字幕)] 9点(2013-02-04 20:08:43) |
8. 狂へる悪魔
《ネタバレ》 邦題と画質の荒れが102年前を感じさせるジキル博士とハイド氏が描かれた無声映画。 ジョン・バリモア>>>>>フレデリック・マーチ(1932版)>スペンサー・トレイシー(1941版) 超絶過ぎるオトコマエ貴公子が特殊メイク無しのアイーン顔での最初の変身シーンは強烈にも程があり久々のリプレイタイム。 哀れを誘う最期の横顔の美しさも目に焼き付きます。 本作がデビューとなった毒婦女優ニタ・ナルディを初めとする共演陣が影が薄く、字幕で語られる個々の胸中が今一つ表現されていないところの物足りなさもバリモアの怪演に押さえ込まれます。 善だ悪だと言っても価値観、本質は一つだと思わされる秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2022-02-04 14:26:13) |
9. 暗黒街(1927)
序盤はブルの馬鹿みたいな俺様キャラと、ブルの右腕としての活躍が描かれないロールス・ロイスにギャング映画らしさを感じられず、サイレントなのでこんなものかと眺めていました。途中から三角関係のメロドラマとして盛り上がってゆき、「人生を凝縮した数時間」に於けるブルは前言撤回の一匹狼に相応しい姿で痺れました。エドワード・G・ロビンソン、ジェームズ・キャグニーを始めとする多くのスターが活躍するギャング映画の先駆けとなった作品に敬意を表しての8点。 [DVD(字幕)] 8点(2019-04-18 01:53:59) |
10. キートンの探偵学入門
キートン2作目であって身体能力の物凄さは織り込み済みとは言えやはり唖然とさせられ、更にビリヤードでの身のこなしにはシビレました。アイデアに溢れた展開は笑いどころ満載。快作です。 [DVD(字幕)] 8点(2013-08-25 01:24:29) |
11. サンライズ
《ネタバレ》 こんなに古いサイレント作品であることも知らなかった予備知識が皆無の作品です。教会に辿り着くまでの世も末かという重苦しさ、教会を出てからのユーモアをちりばめたみずみずしい喜びに溢れる楽しさ、帰路の悲劇とハッピーエンドの結末。ありきたりで分かりやすいストーリーですが、最後まで見入ってしまったのは、主役2人の演技力ときめ細かい演出によるものなのでしょう。私も教会の神父さんの言葉にホロリとさせられました。悪女がもう少し絡んでくれればよかったのですが、美しく清純で可憐な奥さんと対決させるなどというのは罰当たりな事であって当時では考えられなかったのでしょう。 [映画館(字幕)] 8点(2009-05-01 01:05:39) |
12. 肉体と悪魔
台詞のない作品と言う事であまり期待はしていませんでしたが、素晴らしい作品でびっくりしています。心底ウルリッヒの事を大切に思いながらも、フェリシタスの美しい魅力に抗し切れず、もがき苦しむレオ。そんなレオの思いをとことん弄ぶフェリシタス。レオがフェリシタスを葬ろうとした際の感情の爆発の凄まじさ、フェリシタスがウルリッヒに助けを求めて(自分の想像ですが)あげる叫び声、画面から聞こえてくるようでした。彼女の本質を見抜いていた神父さんの台詞がこの作品のテーマなのでしょうね。最後まで観るのに力が入り通しの作品でした。 8点(2004-12-30 00:52:04) |
13. 第七天国(1927)
活弁入り。 「どん底からでも上に導く梯子は誰にでも開かれている。ドブの底から星空まで勇気という名の梯子だ」 冒頭からキチンと座り直しての鑑賞。体現した若い男女の純愛物語。キャスト全員が機能しているしっかりした脚本とWW1の迫力がある映像に好感。涙腺が崩壊間近からサーッと水位が退いた結末が意外ではありましたが見応えある秀作でした。 「上を向いて歩こう♪」の元ネタだったというのに無限へぇ [インターネット(字幕)] 7点(2023-01-24 16:05:16) |
14. キッド(1921)
外出予定のある時に観て大丈夫だろうかは杞憂に終わりました。ホロリとさせられる部分と笑える部分、共に今一つインパクトにかけるものでした。「もう、終わり?!」物足りない中にもラストショットでの母親に「お金があるだけでは幸せになれない」を実感させられる見事なエンディングでした。 [DVD(字幕)] 7点(2022-04-08 13:51:33) |
15. 霊魂の不滅
《ネタバレ》 100年前に製作されたスウェーデン製サイレント作品が Amazon Prime に出ており鑑賞。100年前とは思えないクリア且つ幻想的な映像美に目を見張り、シャイニングの元ネタシーンに仰天。過去の悪業の後悔に身悶える男の話はベタながらも見るべきものがあったのですが、ムチャクチャにも程がある日本語字幕(酷・呆・怒)でもっての行ったり来たりの時系列に混乱し、感慨が吹き飛んだのが残念。まともな日本語字幕でリトライしたい哲学的な作品です。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-07-27 00:12:22) |
16. 幌馬車(1923)
全財産を積んだ幌馬車100台を超える隊列が進むカンザスからオレゴンに向かう3,200㎞の道のりは、西部劇がその昔は西部人情劇と呼ばれていたというのが納得の人々の喜怒哀楽が描かれており、一行が見舞われる最大の苦難には考えさせられました。物凄くお金をかけていると思われる大物量の映像は当時の苦難を想像させられるもの。登場人物達が華に欠けるのが物足りなくもありますが、目くじら立てる程でもありません。映画史的価値を感じる良作です。 [DVD(字幕)] 7点(2021-03-13 21:33:43) |
17. ゆすり(1929)
《ネタバレ》 冒頭からサイレント映画の様相だったのが、8分過ぎからいきなり喋りだしたのにはビックリ。鑑賞後に分かった事情に歴史的価値ある作品である事を知りました。アリスが殺人を犯す迄は退屈でしたが以降の展開は手に汗握るもの。腕の描写を始めとした監督ならではの映像演出にアシストされてのアリスの心情を表すアニー・オンドラの演技が素晴らしい。なので、尻切れトンボの結末の歯痒さに身悶えしました。これは製作者の意向で変更させられたそうで、巨匠も当時は悔しさで身悶えしたのではと想像します。私でも直ぐに分かった結構な長さのカメオ出演シーンはクスッとさせられた出来栄えです。 [DVD(字幕)] 7点(2019-06-09 00:26:13) |
18. 喝采(1929)
《ネタバレ》 トーキー初期の親子ドラマ。場末キャバレーでのラインダンスにおける脚だけショットは、小学生時分の口喧嘩「・・・大根足・・・」を思い起こさせるもので萎える。ヘレン・モーガン演ずる花形スターであるキティも微妙な美しさで興に乗れず。しかし、キティと娘エイプリルが互いに愛情を注ぐ姿が、憎まれ役ヒッチのスパイスが効いていて見応え充分。覚悟の服毒シーンの長回しは圧巻。切なさと明日への希望が入り混じる結末が余韻を残す良作。 [DVD(字幕)] 7点(2019-05-15 19:05:46) |
19. 巴里の女性
冒頭での自身が出演していない断り書きに、そんな作品があるのにビックリ。金に恋したマリーとひ弱いジャンの悲恋が描かれています。上流階級面々の髪型・メイク・顔つきが卑しさ全開で、乱痴気騒ぎは観るに堪えない下品さ。チャップリンの冷ややかな視線を感じます。その極めつけがマリーがネックレスを取り戻すシーン。建設的に生きて行こうとするラストはチャップリンならではのもの。 自らが立ち上げに参加して存分に腕を揮える自由を得たユナイテッド・アーティスツでの第一作は見応え有る力作でした。 [DVD(字幕)] 7点(2019-04-21 01:49:31) |
20. つばさ
《ネタバレ》 戦闘模様は空も陸も迫力満点だけど冗長さで飽きてしまう。男女4人とも深みの無い人物像で惹き込まれず。戦闘機強奪シーンは無理筋を感じるもので、そうなるんじゃないかと思った通りの展開に盛り上がれなかった。ジャックが悔恨を乗り越えて力強く生きてゆく姿が全く想像できないラストが何だかなぁ・・・ 戦争への痛切な思いを無言で示すデヴィッド父の姿は鑑賞した甲斐のあった名場面。第1回アカデミー作品賞受賞の力作。 [DVD(字幕)] 7点(2019-04-20 00:08:44) |