21. アイコ十六歳
《ネタバレ》 原作のアイコを研磨してすっかりカドを落とした感じがするのは、その面白さでもある、彼女の一人称で語られる若者らしい考えの数々が、映画では見えないからだろう。 その代わり、さすが女の子映画の旗手、今関よしあきによる目にも楽しい美少女たちの、ごく普通の学校生活が楽しく美しく描かれている。 その辺、方向を違えていくのかと思ったら、数々のエピソードの中から、生き死にというテーマにそって、オリジナルとして首吊り死体発見や新任教師の自殺騒動など加えながら、次第に原作通りのクライマックスへ誘う展開は巧みである。そしてそれとは繋がりそうもなかった紅子の問題も、自殺未遂教師の件で着地(完全にではないけど)させているのも巧い。 しかし、今作の最大の魅力は、なんといっても(あんまり活躍しないが男子も含めての)高校生たち。夏の強い光をそのまま反射させているような、その輝きだ。ちなみに最後のシーンは本来年末の設定だったが、映画はすべてを夏(少なくとも夏服の時期)として描いている。これも正解。若い魅力にはまぶしい光がよく似合う。 [DVD(邦画)] 9点(2013-07-11 10:46:46) |
22. 真夜中の招待状
《ネタバレ》 なんだか、イマイチなお話だと思っていたら、犯人の動機となる事件が原作と全く異なるようで。 確かに昔の、しかも田舎の事だから、大きな薬屋の薬を信じて、大病を治せないばかりかおかしな事になっちゃうなんて、ありそうではあるがその後の展開が納得しづらい。…といか、最初に医者にかかれ。 いわゆる犯人が悪人一辺倒ではなく、むしろある種の被害者である点、しかし人を監禁して自殺に至らしめている点、却って失踪者側が酷い連中であった点なども相まって、解決部を見てもミステリ特有のすっきり感が薄い。だからと言って、人の心の脆さや闇が描き切れているのかというと、そうは思えない。原作は未読だが、あの遠藤周作が書いたのなら、そういう部分がこの作品のキモなのではなかったか。 ところで、なぜ、3件とも真夜中だったのか?それぞれ蒸発が11日(こういう事実系で嘘は言えまい)なのは何故か?最後までよく分からなかったし、渡瀬と五月の顔見知りを示唆するカットとか、最後に医者が劇中で触れた組手で手を組んでるカットとか、イチイチ意味ありげなのに消化不良だった。 しかしながら、小林麻美の美しさは、本作の一番の特徴で見どころである。この時代に若者だった自分には、どうしてもこの時代の美人というものに、抗えない魅力を感じてしまう。だから、この映画もこの人のおかげで最後まで見る事が出来た。 [DVD(邦画)] 3点(2013-05-22 06:48:53) |
23. 愛情物語(1984)
最初と最後のミュージカルシーンが、キツかった事しか覚えていなかった。それどころか、自分の記憶の中では、林隆三とやったやつと混同していたりもした。 デビュー作の『時かけ』の次作で、あれから一年しかたっていないのだから、演技者として厳しいのはしょうがない。監督はパンフレットの中で、「演技を引き出した」など自画自賛しているが、私には最後の笑顔のカット意外に、演者・原田知世として見るべきところが見えなかった。 彼がもう一つ言及している、「二次使用三次使用に耐えうるように、PV的要素を入れて永続的に楽しめる」点についても、さすがにしょぼくて頷けない。当時のファンは、「あのダンスシーンをもう一回見よう!」なんて思って、ビデオを再生したのだろうか? いや、むしろ原田知世のPVに、豪華俳優陣のドラマが付属していたと考えるのが、正しいのかもしれない。きっと、そうだ。だから彼の思惑通り、30年後にこのPVは映画枠放送という形で二次使用されたのだ。 ビデオといえば、今回パンフを見直して驚いたのだが、映画パンフレットにその作品のビデオ「発売中」の広告があるなんて初めて気付いた。そんな時代だったっけ? [地上波(邦画)] 3点(2013-05-16 20:10:12) |
24. 未完の対局
《ネタバレ》 本作は日中国交正常化10周年記念作品であり、初めての日中合作映画だという。パンフレットを読むと当時すでに、南京大虐殺の教科書記述をめぐって日中で揉めていたようでもある。 ちょっと日本軍が悪く描かれすぎなきらいはあるが、不幸な戦の歴史を乗り越え、そんな出来事の前に打った碁の続きをソラで始める二人の姿が、両国の進むべき道筋という意味を込めて感動的に描かれている。 と、解釈しておくが、ちょっと引っ掛かかる事がある。 両国棋士の孫娘(つかさちゃん!)が最後に中国人棋士に言ったセリフ「碁の事ばかり考えて世の動きなんか考えなかったんじゃないの?」が痛く突き刺さるのだ。 この娘は両国の血を引いた、どちらにも偏らない立場の、いわば日中親善の象徴的存在。その娘が「本当の悲劇の原因はあなた方の『我』ではないのか?」と問いかけるのは、なかなか巧い構造だと思う。 島の領有をめぐって、ゴタゴタが絶えない昨今、「あんな所に来る漁船など護衛艦出して沈めてしまえ」なんて思ってしまう私だが、偶にはこういう映画を見て、相手側の気持ちを考えてみるのも良いのかもしれない。 [ビデオ(邦画)] 6点(2013-05-01 19:05:52) |
25. 刑事物語5 やまびこの詩
《ネタバレ》 一体、どうして片山元が突然、こんな礼儀知らずの失格社会人になってしまったのか。捜査時に警察手帳を見せない、被害者と分かっている者に恫喝する、上司とそのお客さんの間に挨拶もなしに割り込む…。 主人公が嫌なヤツだがそこに意味のある物語でもなく、笑わそうとしているらしい所でたいして笑えず、格闘シーンばかり見せ所になっている刑事ドラマなんて、テレビででもやれば十分だ。だから今回テレビで見て良かった。 シリーズの中で、これだけ公開時に観なかった自分は、けっこう選ぶ目があったのかもしれない。これじゃあ、シリーズが終わる訳だ。 ただし、今回の放送はかなりカットが多いようなので、評価をが変わる何かしらがあるかも知れん。DVDなど手に入ったら、もう一度見てみようと思う。 [地上波(邦画)] 3点(2013-03-29 11:24:59) |
26. 刑事物語 くろしおの詩
《ネタバレ》 前作でうっかり監視対象の家族と同居する羽目になった刑事は、とうとう成り行きでヤクザの構成員になった。潜入捜査にリアリティを出すためのアイデアだったが、その方法が喜劇的過ぎてついていけない。それでも何とか納得したのは、他の映画・番組で確立された植木等のキャラクタがあればこそ。ずいぶんとずるいやり方だ。 [地上波(邦画)] 4点(2013-03-29 11:22:24) |
27. 刑事物語3 潮騒の詩
《ネタバレ》 沢口靖子のデビュー作で、初々しい彼女を見られるのは、本作ならではの魅力ではある。しかし、だんだん話が面白くなくなってきている。 私にとっての刑事物語は、片山元という人への興味が一番なので、事件と彼の人生が交わるような話を期待していたのだが、本作では犯人を待ち伏せしている間に、女子高生と楽しく暮らしているだけにしか見えない。 そして、せっかく片山の母の境遇が明かされたのに、犯人の母親の件がただの通過点になってしまって、母と子の話が忘れ去られているのが残念。もっとも、この物語を母と子の話にしちゃうと、せっかくのシンデレラである沢口の存在が軽くなっちゃうか……。 [地上波(邦画)] 5点(2013-03-27 21:57:13) |
28. 刑事物語2 りんごの詩
《ネタバレ》 劇場で見た時には、園みどりさん可愛くて良かったんだけど、今あらためて見てみると、園さんの件と酒井和歌子の件が、断裂している感じがする。断裂というか、ひと段落して「それは昔の恋」って感じが出てしまっている。主人公が良い人設定だから、どうしても酒井和歌子といい感じになってしまうのだろうが、それによって園さんへの気持ちが薄れていってる感が出てしまっている。 前作を見た時に、この人の強さの秘密を不思議に思ったが、その源の一端である「男は強くなければ、大事な人は離れて行ってしまう」という事が本作で明かされたんだっけ。 本作で何が良かったって、このシーンが一番泣けた。えげつないくらいに、子供を投げ、張り倒し、少年に教えるこのシーンは、片山刑事が自分自身にもう一度、戒めていたシーンなのだろう。 現実的に強くあるべきだ、という考えは、現在でもそうだが公開当時には尚更、暴力主義的に映っただろう。だが、『黄色いハンカチ』の頃の、ヒョロヒョロの武田鉄矢からは想像もつかない、筋骨隆々の体を見ていると、強くなる事に本気になった男のカッコよさというものを感じる。 強い力を持っていなければ、大事なものは守れない。そうだよなあ。 [地上波(邦画)] 6点(2013-03-25 18:46:28)(良:1票) |
29. CHECKERS in TANTAN たぬき
《ネタバレ》 たぬきは他のものに化けて人を騙すという、わりと伝統的な日本人の共通認識を利用したコメディ。変身の過程の描写が、テクノチックでたぬきっぽくないのだが、それが時代を感じさせる。 周りの人間がほとんど、「チェッカーズ大好きです」という価値観で物語が出来上がっていて、それが最後の締めの原動力となっており、まあアイドル映画としては、真っ当でファンにはそれが良いのかも知れない。 それにしてもたぬきが人に化ける話を?なんて思っていたが、同時代の「女子高生がヤクザの組長に」なったりするのと、あんまり変わらないのかな?今思えば。 [DVD(邦画)] 4点(2013-03-16 08:41:47) |
30. 細雪(1983)
《ネタバレ》 美しいものが滅びてゆくのは、悲しい。こう文字にすると、至極当たり前のことだが、そういった普通の事をことさら普通に、穏やかに、淡々と綴っていったのが、この映画なのだと思う。その穏やかな滅び方が、これを観た若い頃にはよく分からず、退屈でもあった。 しかし最近(自分自身美しくはないが)、「終わりの時」がどんどん近付いているのを感じる身としては、それを考えると悲しく切なくもあるが、滅びつつある自覚が希薄そうな彼女らよりは、幸せなのかもしれない。 そしてやはり、日々していることは「いろいろあったけど、何も変わらへん」とも言える。 こうやって、何とはない普通の事をしつつも、終わりを迎えるのだなあ、などと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2013-03-02 02:00:16) |
31. 226
《ネタバレ》 久しぶりに困った映画を見た。 この無謀な青年将校たちを、どう描きたいのか、さっぱりわからない。映画で語られている限り、この人達は威勢のいい言葉と「はずだ。だろう。」という楽観主義と、狙う相手の顔さえ知らなかった非実務的な精神論で事を起こした、大馬鹿者としか言えない。 彼らの決断や最後のシーンを見ると、思い入れたっぷりに家族の描写などしているが、そんなことしたって、ごく一部を除いてそれまでの描写が殆ど無いのだから、「勝手に盛り上がってろ」としか思えない。少なくとも見ている者には、感傷は伝わらない。 一番参るのは、彼らの国を憂いた気持ちを、見ている者に判らせるための仕組みが無い事だ。同じ題材の『動乱』では、売られそうになる娘、そのために脱走する兵士など、うまく描いていた。 彼らの気持ちに賛同できれば、最後のシーンで涙したかもしれないが…。 本当の不幸は、国を憂いて理想を実現しようとしたはずの若者さえも、日本の軍隊らしい精神論で物事が解決すると思っていた、という事なのだろう。 [DVD(邦画)] 4点(2013-02-27 05:02:32) |
32. 野菊の墓(1981)
《ネタバレ》 『Wの悲劇』の澤井信一郎が(こっちが先だけど)、真っ向勝負のアイドル映画だ。しかし、同時に真っ当な『野菊の墓』でもある。 最初に登場した民子の、あまりのイモっぽさに、これがあの松田聖子か?と驚くが、物語が進むにつれて、だんだんと可愛く見えてくる。映画というのは大したものだと改めて思う。いや、これが演出の力というものか。 原作や木の下版で、イイ所の無かった政夫が、今作では民子の嫁入り時にリンドウを渡せたのは、良かった。こんな昔の、十五の少年にこんな事が出来るのか、という向きもあるかもしれないが、若者は自分の想いに誠実であるべきだ、などと考えたりもするのだ。 それにしても、樹木希林は凄いわ。民子に張り合う勘違いおばさんとして、邪魔くさく感じていたが、嫁入りに悲しむ民に上着を羽織ってやるあたりで、すっかり気持ちを持っていかれた。 [DVD(邦画)] 6点(2013-02-26 05:10:33)(良:1票) |
33. 上海バンスキング(1988)
《ネタバレ》 見るまで、かつてレーザーディスクで発売されていた、舞台収録版かと思っていた。そういえば、昔、『ぴあ』で深作版とは違う、と解説されていた版があったのを思い出す。 冒頭導入部の舞台スタッフや、楽器演奏・歌唱の描写を見ると、彼らの舞台人としての矜持を見る思いだ。劇中の演奏も完璧にうまいわけではなく、それがリアルな「ライブ感」で好感度高し。その一方で、始まってすぐあたりのカメラの動かなさ、カットの具合を見て、映画として大丈夫なのか?と、ちょっと心配したが、杞憂だった。もともと物語に面白さがあるから、そんな事はすぐに気にならなくなる。 四朗のアヘン中毒の描写は、原作舞台でも厳しいシーンだが、この映画版は万人向けにソフト。同時に深作版で描かれたような、自虐的反戦部分も無いので、反戦というよりは厭戦。微妙な事ではあるが、主題をバンスキングから戦争へ持っていってしまうような事はない。 私には不思議な事だったが、マドンナと四朗の(かなり一方的ではあるが)、愛の物語として、受け入れられた。うまく言えないが、「セントルイス」でのシーンがあまり華やかでない為に、ジャズメンの主役感が薄いためなのではないか、と感じている。 また同時に、だからこそ、エンドクレジット以降にでも、あの終演後のミニコンサートのような部分を入れて欲しかったとも思う [ビデオ(邦画)] 5点(2013-02-03 22:42:25) |
34. LONG RUN ロングラン
《ネタバレ》 サンリオの映画だったこと、『刑事物語』の併映作だったこと、主題歌を時任三郎が歌っていたことなど、懐かしく思い出した。 物語は、ローラースケートでアメリカ大陸を横断する男と、そのスタッフのロードムービーと呼ばれるタイプの話。 途中、永島とかとうがデキちゃったりして、話が膨らむかと思ったが、その後その部分に何の展開もなく、揚句に「そんなことしちゃいませんよ」だと。 後半、愛想をつかしたと思わせたかとうが、陰ながらサポートしているのもバラシちゃって、最後の合流の感動感も弱い。 見るからに「文部省特選的」感動ドラマと思わせて、実はそうでもなく、併映作で○○○(現ソープ)譲が出てきて、焦った親御さんも多かったのではないか? [ビデオ(邦画)] 3点(2013-02-02 20:44:12) |
35. 悪霊島
《ネタバレ》 この事件は、いつもの金田一モノの「昔の悲劇の結果としての今の事件」が、入れ子のように重なった構造になっている。 その一番外側に持ってきたのが、古尾谷青年の存在なのだが、そのドラマ(彼の出生の謎)が肩透かしで、高いコストを掛けて使用したLet It Beも、勘違い男のテーマとなってしまった。 金田一モノとしては異色の、戦後感の無い時代設定。私の世代には、ヒッピーというモノの意味がちょっと判らないが、新しい世代というくらいの想像はつく。それらによって、おそらく時代というようなものを描こうとしたんだろう、その意図は想像できるけど、何しろ「あの島での出来事は、僕にとって足を踏み入れることの出来ない聖域だった」なんて感傷に浸っている男は、ただ事件を通り過ぎただけで、ほとんど(モグリの婆さんに取り上げられた事だけは確かなようだ)、無関係だ。 あえて考えてみると、あらたなる世代は、古い時代の因習や不幸を引きずっているが、「そのままにしておきなさい。あるがままに」という事なんだろうか?何か、ひどい話だ。 さて、入れ子の内側になっている、島の人間たちの事件だが、あまりにも興味をひかない。大膳というジイさんの気持ちが、昔の所業を悔いているのか、秘密を知ったものは生かしては置かぬ、なのか、どっちつかずでよく分からない。出身地に復讐のようにやってきた実業家の、執念とか怨念のようなものも感じられないし、昔の恋人たちの再会に対する気持ちもトント見えてこないので、人間のドラマが展開されている感じがしない。パズルのための説明のようだ。 新たに御寮人の娘を双子に設定して、わざわざ特殊撮影で同画面に入れてみせるなど、ヒントとしてやっているのだろうか?これで、親の方が同時に画面に出ないって、ミステリでそういうヒントの出し方は、正統じゃないよな。 [映画館(邦画)] 3点(2012-12-17 03:46:13) |
36. 螢川
《ネタバレ》 なんだか、やたらと、両親の間に男と女的な関係の垣間見える、花街ならではの世界と、同様に自分や親友にも女の子が気になって仕方ない時期の、少年の話。 狂ったように相手を求めて、交尾して死んでいくホタルの大群は、少年たちには、これから体験する恋愛と性の象徴なのだろうし、夫に死に別れた女には、次の世代に命をつなぐ事の象徴だったのだろう。 それが最後に現れるシーンがとても美しく、観た当時にも「日本映画には珍しく美しい画面」と思ったものだ。当時の日本映画は、作家性の強い、独特のリアリズム傾向があり、こんなに映像的に美しいものは珍しかったのだ。が、25年ぶりに観返しても、やはりこのシーンは美しく胸を打つ。 なんといってもこのホタルのシーンはこの物語のキモであり、クライマックスなのだから、目一杯美しく盛り上げて正解なのだ。 そうそう、この頃か、ちょっと後に一般に認められる、篠崎正嗣の音楽も切なく美しい。この人はまた演奏家として活躍しているようだが、作曲者としてももっとその作品を聴きたい人である。 最後に、当時、自分もタツキチくんのように、「はあ~」されたいと思っていました。 [ビデオ(邦画)] 6点(2012-12-06 23:33:48) |
37. 動乱
《ネタバレ》 歴史的な事件を題材に、国の腐敗と国民の困窮を憂いた青年将校を描いた大作。 二部構成になっており、劇場公開時には、休憩を入れたのかな?だが、その配分がアンバランスな上に、第一部の「海峡を渡る愛」という、その「愛」の部分が第一部では殆ど描かれない。サユリちゃんは苦しんでいる不幸な国民の象徴だから、大事なのは判るんだけど、ちょっとうまく物語になっていない感じ。 冒頭描写される、売られる姉を救うために脱走した初年兵の顛末と、主人公の顛末が、(自決用拳銃を渡される所まで)そっくりなのは、もちろん意図してのことだろう。腐敗した国を憂いて起った宮城大尉は、姉の境遇を見ていられなかった青年そのものであり、おそらく殆どの人が寄せたであろう、彼への同情の気持ちを、上手くその後の宮城大尉らへの気持ちにつなげている。・・・というのは後付で、ホントはこの時点で、ああ自分のこの気持は、あの初年兵と同じなんだ、と気付く仕掛けになっている。 国を思う気持ちの根っこは、大事な人への思いと同じなんだと、気付かされる映画。 あっさり言ってのけたけど、多くの批判される戦争映画の中で、これを胡散臭いイデオロギー色を排して、ちゃんとわからせる映画は、なかなか無いと思う。 [DVD(邦画)] 6点(2012-12-04 22:37:40) |
38. 海燕ジョーの奇跡
《ネタバレ》 最後の結末だけ憶えていたが、他は殆ど憶えていなかった。まだ高校を卒業したての頭の悪い青年だった私には、海燕と奇跡が繋がらなかったのだ。 劇中で、海燕はすばしこいという説明はあるが、海の上を歩いたとされる聖人ペテロになぞらえて、英語ではペトレルと名付けられた旨の説明を入れるべきだった。まあ、パンフ読めば良かっただけだが。 さて、それが分かったところで、面白みがないのは変わりない。最後の「奇跡」を気持ち的に受け入れるには、ジョーへの感情移入が出来る事、あるいはもっと何かを求める気持ちが感じられること、フィリピンの地でのそれを含む逃亡の旅が、もっと波瀾万丈である事などが、必要ではないだろうか。 とは言いながら、若者の海への投石で始まり、主人公も劇中悲しみをぶつけるように海に石を投げたこの映画は、最後に自分自身を海に投げて終わるのか、綺麗な海に飛べてよかったな、などと思ったりもするのであった。 [DVD(邦画)] 4点(2012-11-06 03:03:07) |
39. 幸福(1981)
《ネタバレ》 正直なとこ言うと、「色が邪魔」だったのなら、モノクロで撮ればよかったんだ。更にいうと、DVDで再現されたシルバーカラーも、劇場で見た時の印象よりは、セピアに偏っている気がする。何だか、懐かしい感じになってしまっているが、もっと、灰色っぽい、無機質な感じの、"都会の色の抜けた感じ"のする色調だったはずだ。 物語は、殺人事件を通して浮かび上がってくる、現代社会における家庭崩壊、親と子の姿、幸福とは何かを追求している。…そうである。そうである、というのは、パンフレットに書いてあるからそうなのだろう、と思うだけで、自分では納得していない。 まず、その親子・夫婦と家族の姿が、物語として有機的に機能していない、というか、それを知った主人公刑事の行動に結び付くさまが、見えないというか。ただ並べて描写しただけ、という印象。事件が「彼の事件」になっていない感じ。 主人公刑事は、事件によって明らかになった幾つかの家族の姿に触れなければ、あのままだったのか?普通女房に逃げられたら、まず会いに行って、どういう事か問い質すのではないか?ましてや子供のいる家庭で。居場所が判らないというでもなく。 シルバーカラーの色調だけしか印象に残っておらず、物語をすっかり忘れていて、今回すごく新鮮に見られたのは、公開時に同時上映した『アモーレの鐘』の城戸真亜子の、豊な胸の印象が強すぎただけでは、なかったようだ。 [DVD(邦画)] 5点(2012-10-27 23:35:17) |
40. 哀しい気分でジョーク
《ネタバレ》 そりゃあ、泣いちゃうけどさ。泣かすように仕組まれた設定にストーリーだから。だけど、公開当時見た時には、実際のたけしと同じ、コメディアンという設定が、今よりももっと、あざとく感じられて、とても印象が悪かった。 当時の漫才ブームというのは凄まじく、劇中で描かれるように、サイン攻めなどは当然、人気者ではあるが個人のプライベートなど、考慮される風潮はなかった。 だからこそ、そんな芸人の裏には、それぞれこんな人間のストーリーがあるのだ、という事なのだろう。そういう物語の構造は悪くはないと思うのだが、そこで語られるのが、難病の子供が死ぬ話という、鉄板の感涙ストーリーだというのが、「ズルさ」を感じさせるのだ。 [DVD(邦画)] 3点(2012-10-26 23:14:47) |