21. 記憶にございません!
《ネタバレ》 三谷幸喜の映画は久しぶりに観たけど、こんなに毒味がない作風だったとはちょっとがっかりでした。世間から嫌われている総理大臣が記憶喪失になったのを機会にイイ政治家に生まれ変わるというプロットは、すでにご指摘のある方もいる通り『チャップリンの独裁者』にルーツがあるストーリーですでに同じようなプロットの映画も存在するが、『独裁者』もだがたいていは政治家とそっくりさんが入れ替わるパターンで、本人が記憶喪失で改心してしまうのは珍しいかな。較べると『独裁者』には失礼かもしれないけど、ラストに主人公の大演説があるというのも確かに似ている。でも同じ題材ならやはり宮藤官九郎が監督したほうが面白かっただろうな、と感じざるを得ないところです、なんか弾け方が足りないんだよな。 まあリアル感が薄いメルヘンチックなお話なので目くじら立てたら野暮なのかもしれんが、あんだけ人格が変わってしまったら違和感が強すぎて世間はともかく官房長官以下の閣僚には気づかれそうなもんだけどね。政治のことは全部記憶が喪失してるのに子供のころのことは覚えているというのも、なんか都合よすぎじゃないかなこの脚本は。あとこの映画が製作されたのが19年で22年のあの事件のもちろん前ですが、現職の総理が石を投げつけられて負傷したり演説中にパチンコで狙われるなんて展開は、現在ではもうシャレにならずエンタメ化なんてもう無理でしょう。まさに“事実は小説よりも奇なり”です。 想像以上に光っていたのは女優陣で、中でも小池栄子はさすがの芸達者でした。私には前半のTV放送で突如出演する羽目になって無表情でヘンなダンスするところがツボでした、この映画で唯一笑わせていただけたシーンです。あと妙にバタ臭いニュースキャスター、まさかあれが有働由美子だったとは観てるときには全然気づきませんでした、まさにサプライズ! 不思議だったこと:なぜか総理以下の登場人物がみなスマホじゃなくてガラケーを使っていたこと、政府関係者だけかと思ったらフリージャーナリスト役の佐藤浩市も明らかにガラケーでした、90年代あたりが時代設定なら判るけどねえ… [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-09-21 22:33:17) |
22. スカイエース
《ネタバレ》 原作は第一次世界大戦西部戦線での英軍の塹壕戦をテーマにした戯曲で、いわば『西部戦線異状なし』の英国版みたいな感じだそうです。それを航空隊の物語に変更して、志願したパブリックスクール生の若者が、部隊配属から戦死するまでの7日のストーリーとして脚色されています。この若者が配属された第76飛行中隊の指揮官は実はパブリックスクールの先輩で姉の婚約者、つまりもうすぐ義兄になる人で演じているのがマルコム・マクドウェル、すでに23歳で少佐のベテラン・エース戦闘機乗りで同窓の英雄というわけです。製作されたのが76年でマクドウェルにはまだ『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスのイメージが残っている頃ですが、そんなパブリック・イメージにはそぐわない有能で老獪な戦闘機乗りです。設定は1917年の10月ですけど、史実としては西部戦線の航空戦は激しさを増していて、少数のエースパイロットが奮闘しているけど新人として配属されてくるパイロットはバタバタと撃ち落されてゆき、7日で戦死というのは実情に近かったんじゃないでしょうか。そんなわけでパイロットたちは酒に女と戦闘後はひたすら快楽を求めますが、中には精神が破綻して離脱する者も出てくる始末です。 空戦シークエンスにはレプリカの複葉機が使われていますが、英軍機はけっこう再現度が高かったと思います。それに反して独軍機の方はイマイチどころかイマサンぐらいの代物で、一次大戦の独軍戦闘機は赤く塗装しておけばそれらしく見える、というのは大間違いですぜ。とはいえ空戦シーンはそれなりのものでしたが、英軍機のパイロットが撃墜されたときに全身が燃えながらパラシュートなしで空中に投げ出され、地面に激突するまでをワンカットで見せるところは強烈でした。 『レッドバロン』や『ブルー・マックス』の様な派手な空戦映画を期待すると肩透かしを喰いますけど、塹壕戦と同じように消耗品として消費されてゆく戦闘機乗りにスポットを当てた地味ながらも英国映画らしい佳作でした。ジョン・ギールグッドやクリストファー・プラマーなどの渋い大物俳優たちも脇を固めています。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-09-18 22:14:46) |
23. ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
《ネタバレ》 正直なところ、ジョニー・キャッシュやジューン・カーターはかろうじて名前を聞いたことあるぐらい、ジェリー・リー・ルイスに至ってはこの映画で初めて知った程度の予備知識でした。この当時のヒットソングは、カントリーミュージックなのかロカビリーなのか区別しにくい感じのサウンドで、自分がイメージするロックンロールよりも泥臭い感じがします。そんな50年代からのレジェンド・シンガーであるジョニー・キャッシュとジューン・カーターの伝記映画なのですが、ホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンという癖が強いキャスティングですのでけっこう胃もたれがするような映画になったかなと思います。なんせあのホアキン・フェニックスですから、観ていていつキレだすかドキドキしてしまいますが、かえってこれが妻との不和や薬物中毒に溺れるエンターテイナーとしての迫真の演技につながっています。リース・ウィザースプーンはその癖のある顔つきで日本では人気があるとは言い難いし自分にも苦手な女優の一人ですが、オスカーをゲットするのは納得の熱演です。そして演技以上にすごかったのは二人の歌唱力で、これがプロ歌手の吹き替えじゃないってのは信じられないぐらいです。ほんとにハリウッド俳優たちは、音楽については芸達者な人が多いですね。ホアキンが演じるキャッシュは幼いころに兄を事故死で失ったトラウマや父親との不和など根性がねじ曲がりそうな要素があることは判りますけど、あまりに自己中的な言動が目立ってとても感情移入できるキャラではなかったですね。実話なのかは知らいないけど、コンサート中に途中で歌唱を中断して「結婚を承諾してくれなければ、もう歌わない」とジューン・カーターにプロポーズするなんて、いやこれはプロとしてはやっちゃいけないことでしょ(笑)。劇中にも登場するキャッシュの最初の妻との娘は、自分の母親の描き方が酷いと激怒したそうですが、たしかに前妻ヴィヴィアンは夫に理解のない嫌な女という観方になってしまう撮り方でした。関係者が存命なうちに製作する伝記映画には、いろいろと厄介なことが付きまといますね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-15 22:49:59) |
24. オール・ザット・ジャズ
《ネタバレ》 巨匠・名匠と呼ばれるぐらいの映画作家は大なり小なり自分なりの『8 1/2』を撮る傾向があるけど、これぞまさにボブ・フォッシー版の『8 1/2』でございます。ぶっちゃけて言うと、フェリーニの『8 1/2』を知らなかったり好きではない人には響かない作品なのかもしれません。 この種の映画はその時の監督自身が抱える悩みや迷いがテーマになるけど、本作ではずばり“死への恐れ”だと言えるでしょう。実際フォッシーはこの後8年しか生きれなかったし、すでに自分の健康状態に不安を持っていたんじゃないかな。その他にも劇中で完成に苦労する映画『スタンド・アップ』は明らかに『レニー・ブルース』のことですし、女性関係のイザコザも赤裸々にぶっこんでいます。あのケイティを演じたアン・ラインキングに至っては実生活でも劇中通りのフォッシーの愛人(の一人)であり、いわばセルフパロディみたいなもんです。オードリーは妻のグウェン・ヴァードンで娘のミシェルはニコル・フォッシーがモデルであり、ほとんど私小説みたいな感じです。 やっぱ圧巻なのはラスト三十分の“Bye, Bye Love”のミュージカル・シークエンスでしょう。このキレッキレッのパフォーマンスはボブ・フォッシーのミュージカル集大成という迫力を感じます。自虐的なネタも光っていて、毎朝目薬さしてヤクでキメて「イッツ・ショータイム!」と気合い入れするのが繰り返されたり、ギデオンが入院して舞台制作が危ぶまれたときにプロデューサーたちが保険会社を呼ぶと、実は手術が失敗してギデオンが死ぬ方が彼らは儲かると判明するところなんか強烈な皮肉になってます。そうは言ってもショービジネスの非情さを糾弾するのではなく、どっぷりとショービジネスの世界に浸ってきたフォッシーのショーを創る喜びの方が強く感じられました。 人間は死ぬときには過去の人生が走馬灯のように流れるとよく言われますが、わずか六十歳で他界したフォッシーが見た走馬灯はきっと本作のラスト30分だったんじゃないだろうか。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-09-12 22:18:39) |
25. 首(2023)
《ネタバレ》 北野武の“戦国版『アウトレイジ』”というか“戦国版『日本統一』”といった感じでしょうか。戦国武将たちの国盗り合戦をヤクザ組織の抗争を透写したようなストーリーテリングは、たしかに北野武にしか許されないプロットだったなと思います。『アウトレイジ』で山王会の若頭に出世したのに大友=たけしに復讐されて散った加瀬亮に織田信長を怪演させるので余計に『アウトレイジ』味が感じさせられるのですが、いっそのこと三浦友和・西田敏行・塩見三省あたりまでキャスティングしたらと思ったりしたけど、いくら何でもやり過ぎか(笑)。でも三浦友和は明智光秀には適役のような気がします。■“全員悪人”という『アウトレイジ』のキャッチコピーを引き継いだような武将たちのキャラ付けなんだけど、羽柴秀吉=たけしがここまで悪辣なキャラを演じたというのは北野映画で初めてなんじゃなかろうか。たけしって自作ではヤクザや刑事などのいかにもワルと世間ではイメージされるキャラを演じているけど、ワルなのにどこか人情味があったりお人好しな部分がどの役にもあるんだよな。北野武という人は突き詰めるとナルシストだと自分は分析していてそれがたけしが主演する北野映画には独特の臭みがあると感じるのですが、本作では徹底的にずる賢くて冷酷な秀吉となって今までのパターンからついに脱皮したと思います。だけど彼の年齢を考えるとちょっと遅きに失したの感もあります。でも秀長=大森南朋との掛け合いには往年のビートたけしらしさが見えて面白かったです。また大島渚の影響なのか武士=男色の世界が強調されてまるでBL映画的な様相を呈していますが、百姓出自で無類の女好きだった秀吉にはまったく理解の及ぶ世界ではないという対比は面白い観点だったと思います。■難を言えばやはり極端に走り過ぎた信長像となるでしょうね。終始尾張弁でがなり捲るサイコパスに過ぎないという感じで、いくら何でもあわや天下布武を成し遂げようとしていた傑物にはとうてい見えない。せめて本能寺ではカッコよく果てるのかと思いきや、これまた予想をはるかに超えた最期、これじゃ光秀がいくら血眼になっても信長の首が見つかるわけないですね(笑)。■けっきょく本能寺の変は秀吉が仕組んだというのが北野説となるわけですが、考えてみると『アウトレイジ』で山王会や花菱会の城壁を突き崩せなかった大友=たけしが、ついに雪辱を果たして天下を盗る物語だったとも解釈できるんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-09-09 22:03:01) |
26. リトル・ミス・サンシャイン
《ネタバレ》 ロードムービーではその物語の根幹を造る旅の目的が重要なプロットになるけど、ドン詰まってバラバラな関係となってしまった家族と親族の六人がおんぼろマイクロバスに乗ってカルフォルニアのチャイルドミスコンを目指すというというのは、よく考え抜かれた脚本だと思います。実質この六人だけで進行するストーリーだけど、六人が皆で素敵な演技のアンサンブルを見せてくれます。アメリカと言う国は異常なまでに勝者と敗者に拘る社会なんで、人々は”敗ける”ということには屈辱と恐怖を持ってしまう傾向が見られます。日本のようにいわゆる判官贔屓というような感情はアメリカ人には無さそうですね。本作のオリジナル脚本家は、知事時代のシュワちゃんが「私がこの世で一番嫌いなものは負け犬だ、私は彼らを軽蔑する」と高校生相手にドヤったことに腹がたったのがこの脚本を執筆するきっかけだったそうですが、その後のシュワちゃん自身がケネディ一族の妻から離婚されてからは転落していまや負け犬になってしまったのは皮肉なことです。 やっぱこの家族の中でいちばん光っていたのはエロ・ヤク中爺さんのアラン・アーキンであることには異論がないでしょうが、それでも特定のキャラに重点を置かずに個性派俳優たちの演技の化学反応を愉しませてくれる演出が秀逸です。とくにミスコン会場に到着してから家族総出で舞台に上がってダンスするクライマックスへの流れは脚本が上手過ぎて感心しました。2000年代以降に撮られたロードムービーとしては、今のところ最高傑作なんじゃないかと思う次第です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-09-06 23:08:44)(良:1票) |
27. 十三人の刺客(2010)
《ネタバレ》 オリジナルが持つ無常観は微塵もないけれど、『七人の侍』的な要素というか戦闘・チャンバラのシークエンスを前面に押し出したリメイクと言えるでしょう。この江戸版テルモピュライの戦いともとれるシチュエーションで、やはり重要となるのは決戦の地である落合宿の要塞化であることは戦術の基本であり、隘路に大軍を入り込ませて戦力を分散させるというのは合理的です。本作ではこの落合宿要塞化の描写に力を入れているけど、あんな短時間であそこまでの仕掛けを造るというのは、ちょっと嘘くさくなり過ぎの感もあります。まあそこはとかくやり過ぎるところが持ち味の三池崇史が監督ですからね、サービス精神が過剰になるのは必然でしょう。 とにかくこの映画は、稲垣吾郎のサイコパス殿様がおいしいところを全部持って行ってしまったと言えるでしょう。こんだけ狂っていれば排除されるのも当然と言えば当然、この殿様のキャラ付けこそがオリジナルになかった要素で、あまりに酷いので鬼頭半兵衛=市村正親が主君を守ろうとすること自体が悪事の片棒を担いでいるような微妙な感じになってしまいます。対する島田新左衛門=役所広司は相変わらずの飄々とした演技、とても大博打に打って出る凄腕武士には見えないんだよな。自分ははっきり言ってミスキャストだと思うんだが、2010年以降は彼が主役という日本映画が多すぎるとも思います。俳優にはそれぞれ演技パターンに応じた役柄があるもので、大物俳優の層が薄いというよりもぶっちゃけ役所の名前を出せば企画が通りやすいという風潮があるのかもしれない。彼の演技の最大の難点はとにかくセリフが一本調子でなおかつ聞き取りにくいというところで、映画館ではどうだったかは判りませんが普通にTVで視聴するとまったく聞き取れずヘッドホン着用が必須でした。まあ他の俳優たちのセリフも聞き取りにくかったのは共通で、これはやはり監督の責任でしょう。 けっこうエグい場面が多かったが、戦闘シーンでは意外と血しぶき描写が少なかった印象もあります。いちばん?だったのは伊勢谷友介の復活で、「こいつは化け物か…」と絶句してしまいました。まあこういうところが三池崇史らしいと言えますけどね。 地上波では絶対放送できない本作に、よくTV朝日が出資したもんだ。これもまだSMAPだった稲垣吾郎が出演するのであの事務所に対する忖度が働いたのか、はたまたプロデューサーに騙されたのか(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-09-03 23:35:28) |
28. 戦争の犬たち(1980・アメリカ)
《ネタバレ》 未読だが、原作は緻密な背景描写とフォーサイス自身が係わった闇社会の武器取引をリアルに落とし込んだいかにも彼らしい作品らしいが、本作はそのドンパチ要素以外をかなり端折っているので、成功した映像化とは言い難いらしい。どこまでが明かされているのかは真偽不明だけど、本作の様な独裁者打倒のクーデターをアフリカで実行しようとしたなんて、こんなぶっ飛んだ作家はもう現れないことでしょう。 監督がジョン・アーヴィン、これが劇場映画デビューでこの人は後に『ハンバーガー・ヒル』や『プライベート・ソルジャー』などの戦争映画の良作で名を残す人です。やっぱ本作ではクリストファー・ウォーケンの存在感が光っていて、彼を引っ張ってきたのは脚本のリライトに係わったマイケル・チミノだったそうで、やっぱこの頃はウォーケン&チミノは名コンビというか腐れ縁だった感じですね。彼がこの映画で使用するまるでおもちゃみたいなグレネード・ランチャーXM-18は実在の銃なんだそうでですが、確かチャック・ノリスもなんかの映画で使っていた記憶があり、出てくるとB級映画っぽくなるのは困ったもんです。端折り過ぎてクリストファー・ウォーケンのクーデター計画が判りにくいしロマンスめいたエピソード余計だったとしか言いようがないけど、サクサクとストレスなしに観れるのは良いんじゃないかな。フレデリック・フォーサイスの作品は、どれも映画化するには尺が最低三時間は必要ですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-08-30 23:33:41) |
29. 親不孝通り
《ネタバレ》 日活の石原裕次郎&浅丘ルリ子と並ぶ、当時の大映のゴールデン・コンビ川口浩&野添ひとみ、この二人と増村保造は相性が良かったんじゃないかと思う。自身の出自もあるけど、川口浩は育ちが良いけどちょっとグレた若者や大学生を演じさせたらほんと自然な感じで上手いんだよな。本作でも賭けボウリングで稼ぎ銀座の裏通りあたりで毎晩飲み歩く卒業間近の大学生、でもマメに会社訪問をして就職活動は怠らないのである。「あの人は六大学のボウリング・チャンピオンなのよ」女子学生のセリフもあり、自分の勝手なイメージでは法政大生って感じかな。彼の姉=桂木洋子は服飾デザイナーで証券会社員の船越英二と結婚を夢見て交際するけど、妊娠してしまい中絶することに。面白いというか不思議なところは、桂木洋子には中絶することには大して抵抗がない感じでそれよりも船越英二に結婚する気がないという事の方がショックだったみたい。今ではちょっと考えられないことだけど、人口爆増中の高度成長期に入った当時の日本では中絶に対する社会の認識がけっこう軽かったみたいなことを何かの本で読んだ記憶が甦りました。それを知って激怒した弟・川口浩は、溺愛する女子大生の妹=野添ひとみをモノにし妊娠させて捨てて船越英二に復讐することを画策する。二人が出会って知り合うところはちょっとご都合主義が過ぎた気もしますけどね。思惑通りに野添ひとみを孕ませたけど、彼女の決断で事態は思わぬ方向へ向かう。 まあ予想が付きやすいストーリー展開だけど、増村保造流のテンポの良い演出と川口浩の好演でサクサクと観れます。脇では学生たちのたまり場になる居酒屋の主人=潮万太郎が良い味出してました。この人は当時の大映作品には欠かせない名バイプレーヤーです。銀座界隈には親不孝通りなんてものはなく、本家は福岡の予備校が立ち並ぶ通りのことなんですが、劇中では川口浩も野添ひとみも親は出てこないのは笑っちゃいます。けっきょく、どう転んでも船越英二が川口浩の義兄になるのが運命でした(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-27 23:38:51) |
30. プー あくまのくまさん
「くまのプーさん」と言うたらあの一党独裁国家の親玉のあだ名、あの国ではプーさんというワードや映像はネットでは検閲&即削除されるタブー中のタブー。こんな今や物騒なキャラを怪物ヴィランにするなんて英国にあの国から刺客が飛んでくるんじゃないかと心配するが、案の定香港・マカオでは上映禁止だったそうです。 そんな高尚な志を持ってこのキャラを選んだわけもなく(単に原作小説がパブリックドメインになったからだそうです)、単なるC級スプラッター・ホラーでしかない代物ですが、10万ドルの製作費で420万ドル稼いだんだからそりゃ笑いが止まらんでしょ。なんかこの製作陣は味を占めて、続編は造るし『ピーターパン』や『ピノキオ』が暴れるスプラッターまで企画しているらしい。おまけに今年のラジー賞で作品賞はじめ五部門も受賞する快挙まで、でもねこんな便所の落書きみたいなクソ映画を相手にしたら、さすがにラジー賞の権威(?)が落ちるってもんですよ。 プーもピグレットも単にアニマル・マスクを被っただけとしか見えないし、バカバカしいほど単純な脚本の上に画面が暗くてストレスが溜まるし、ほんと褒めるところがないですよ。まあ妙に理屈っぽくないところと類似パターンが思いつかない救いようのないラストがある意味斬新だったので、プラス一点献上いたします。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-08-24 23:13:46) |
31. 炎のランナー
《ネタバレ》 自分は前回の東京オリンピックのゴタゴタで、巨大ビジネスと化してしまったオリンピックというお祭り騒ぎにすっかり嫌気がさして興味もなくしてしまったので今回のパリ・オリンピックはいっさい観てもいないが、ここで100年前の同地でのオリンピックを振り返ってみたいと感じて本作を観返してみました。 ハロルド・エイブラハムとエリック・リデルはもちろん実在のメダリストだけど、この映画の中では二人のアウトサイダーと大英帝国とのそれぞれの係わりを興味深い対比で見せてくれます。エイブラハムはユダヤ人移民の出自でリデルはスコットランド人の長老派教会の宣教師、両者とも大英帝国のエスタブリッシュメントからすればイングランドに飲み込まれた異邦人なんです。ハロルドは裕福な家庭で育ちケンブリッジに学ぶ頭脳の持ち主だが、レースで勝つことでユダヤ人というハンデを消したいと熱望する男。英国はロスチャイルド家が爵位を得たりベンジャミン・ディズレーリが宰相に昇りつめたりしているが、ユダヤ人を差別はしないが区別はするというのが英国社会の本音、要は利用できるものはとことん利用しますけど…という感じです。エリックは早く走れることは神が与えてくれた能力で、これを活かして神の御業を称えたい、というコチコチのキリスト者。両人とも、自己の信条をエスタブリッシュメントが求める国家や大学に対する忠誠のためには絶対に曲げないタイプ。対して真のエスタブリッシュメントの一員であるリンゼイには走ることは彼にとって遊びの一つであり、オリンピックでも何の気負いもなく400m走の出場権をエリックに譲る。この三者の生き方の違いを上手に脚色した素晴らしい脚本だと思います。 それにしても100年前のオリンピックの素朴なところと言ったら、100年後と較べると町内会の運動会を見ているような感じです。あとこの大会の参加は44国・地域だったそうですけど、異様なほど有色人種の選手が観れずまさに“白すぎるオリンピック”という感じです。日本はもちろん参加してましたし開会式のシーンではトルコの国旗もチラッと見えましたが、まだアフリカやアジアはほとんど列強の植民地だったころなのでしょうけどね。でもトラック競技で黒人選手がまったくいないというのは、現在の視点ではちょっと異様な感じがします。アメリカ選手団の練習風景では、一人だけ黒人選手がチラッと映りましたけどね。 今やあまりに有名なヴァンゲリスのテーマ曲や海辺を走る映像はもはや映画遺産といって良いでしょう。やっぱ本作はスポーツがテーマの映画としては最高峰なのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-08-21 23:05:37)(良:1票) |
32. ドッペルゲンガー/憎悪の化身
《ネタバレ》 ドリュー・バリモアにはソフィー・マルソーばりにかつては脱ぎまくってた女というイメージがあるけど、実は意外と脱ぎを見せていた時期は短くて、本作が撮られた当時の三年間ぐらいの数本だけだったみたいですね。それでも当時はなんとまだ18歳!まったく「お前の人生は何回あるんだよ!」と叫びたくなる成熟ぶりです。 『氷の微笑』もどきのエロチック・サスペンスなのかなと思っていたら、終盤になると全く理解不能なホラーと化してしまう脚本の酷さは特筆ものでしょう。割と早い段階でドリューのドッペル話を同居人の脚本家志望の男が信じてしまうのですが、ここでいわばネタバレしちゃうんならこの後のサスペンス要素はどうするつもりなの?となってしまうよね。途中でやたらと夢オチが使われるのも、イラつかせてくれます。ラストのドッペルの正体が明かされた時には、「もう、ふざけんじゃねえぞ!」と怒鳴りたくなりました。ネタバレが過ぎるので詳しくは触れませんが、これでは前半のエピソードとの辻褄が全然合わなくなるんですよ。製作陣も「こりゃヘンだ…」と気が付かないもんですかね。 こんな出来損ないのホラーもどきで頑張るなんてムダ脱ぎもいいとこで、おまけにグチャグチャの化け物に変身までさせれて、いまや女優・プロデューサーとして才能を発揮している彼女にとってはまさに黒歴史なんでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2024-08-18 21:39:15) |
33. 顔(1957)
《ネタバレ》 松本清張の最初期の推理短編小説が原作だが、調べると驚くほど頻繁にTVドラマ化されていて今年も後藤久美子主演で放映されています、知らなかったけど清張原作としては最多の映像化なんじゃないかな。もっとも原作とは設定等が大幅に改変されていて、犯人自体が男女逆転していてもはや小説『顔』の映画化とは言い難いぐらい、TVドラマ群も似たようなもんですけどね。 冒頭でのヒロイン岡田茉莉子の行動は、これが殺人かと言うとちょっと?でせいぜい過失致死ぐらいなんじゃないでしょうか。死んだのが無免許の堕胎医で岡田が堕胎希望者をこの偽医師に紹介していて、腕が悪い偽医師のせいで何十人も術後に死亡したという事がこのストーリー内での重大犯罪であるわけだが、あまりに昭和的な価値観なので現代の眼では違和感が強い。笠智衆が演じるのは田舎の刑事なんだが、彼が警視庁の捜査に参加して名探偵ぶりを見せるという展開もなんか現実味が薄い、縦社会の警察組織なのに他県の刑事が警視庁に出入りするなんてあり得ないんじゃないかな。でも岡田茉莉子と犯行現場に偶然居合わせた大木実はなかなか面白いキャラ設定だったと思います。見た目は純情そうなファッションモデルである岡田が実は裏ではスポンサーになりそうなスケベ親父には体を許し世話になっていた先輩モデルを蹴落とそうする、まるで『イヴの総て』のアン・バクスターみたいだし、組合活動家崩れの大木の小悪党ぶりもなかなかです。歳を喰ってからの彼女しか知らなかった自分でしたが、若き日の岡田茉莉子の美人ぶりは半端じゃなかったという事が知れたのは、大きな収穫だったと思います。黛敏郎の音楽やストーリーテリングには確かにシュールさを感じるところがあり、岡田が大木を電波塔みたいなところに呼び出して転落死させることを妄想する件なんかヒッチコックの『めまい』を彷彿させてくれるが、実は驚くべきことに本作の方が公開は先なんですよ。まさかヒッチコックの方が本作をパクったのか、そんなわけないでしょ(笑)。 岡田の恋人みたいな位置付けの野球選手の存在や大木のあまりにご都合主義な事故死など雑なところもありますが、なかなか大胆な脚色だったと思います。とにかく岡田茉莉子をとくとご堪能あれ、ですな。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-15 22:29:45) |
34. オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック
《ネタバレ》 この映画、『オスロ国際空港』なんて邦題を勝手に付けちゃってるけど、実は設定上は“スカンジナビア国”という架空の国家が舞台で、どう見てもミエミエなのにノルウェーやオスロというセリフは一切使われておりません、エンドクレジットでは“ノルウェーでロケした”って出てるのにね。そしてダブル・ハイジャックなんてワードはどこから来た?って感じで、そのスカンジナビア国の英国大使館がテロリストに占拠されて大使たちが人質にされて英国に囚われている仲間の釈放を要求する事件が起き、その首都空港に着陸寸前の旅客機がテロリストの仲間にハイジャックされるという事件が同時に起きる。最初は軍用機を用意させて人質とともに脱出する計画だったのに、「降下地点が当局にバレた」ということでハイジャック機を脱出に使うとして仲間が急遽英国から駆け付けたというわけです。なんか腑に落ちないところがあるな、と観てて思いましたがこれがラストのオチに繋がってくるわけです。このテロリスト・グループは冒頭では派手に英国内で爆弾テロをかましますが、これもどう観たってIRAがモデルだろって判りますが、もちろんIRAなんてワードは出てきません。この当時の現実の英国は今では想像もつかないほど物騒な状態だったので、このような配慮というか忖度は必要だったんでしょうね。ストーリーはドキュメンタリー調というか淡々とした語り口で進行してゆきますけど、やはりジェームズ・ボンドから足を洗ったばかりのショーン・コネリーの渋さは光ってます。対するハイジャック犯の親玉はイアン・マクシェーン、『ジョン・ウィック』シリーズのウィンストンの若き日のお姿です。両者の知恵を駆使した駆け引きが見どころとも言えますが、ちょっと意表を突かれるあの結末には、正直なんか複雑な感じが否めなかったかな。まあ派手な見せ場が無いし演出もあまりに単調だったので、こりゃあしょうがないね。フレデリック・フォーサイスあたりがノベライズしたら面白くなりそうな題材だったので、ちょっと残念でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-08-12 22:13:46) |
35. TITANE/チタン
《ネタバレ》 こういう観る者を平気で置いてけぼりにしてクリエイターだけで盛り上がる様な映画は、自分は大嫌いなんですよ。交通事故で頭部に損傷を負って側頭部にチタンのなんか判らん装置を埋め込まれた少女が、成長してタトゥーまみれのダンサーになっていて理不尽な殺人を繰り返すという前半は、まあ何となく判らんでもない展開だと思います。でも、その女が部下に自分を神と崇めるように強要する消防署長と出会ってからの後半は、もう何が何だかさっぱり判らん状態になってしまいます。何故か女が妊娠しているみたいでどんどん腹ボテになってくる、これは解説を読んでやっと理解しましたが車とSEXしたからなんで、私みたいにボンヤリ観る主義だと困ってしまいます。殺しの手口以上にエグいのは、この主人公の女が自分の体を痛めつけるところで、かなりのシーンでスッポンポンになりますが、若いのにこれほど汚い(失礼)ヌードは珍しいと言えるぐらい。こういうえげつない描写は監督が女性だからアートっぽく解釈してくれるアホがいるおかげで炎上せず、男性監督ならあの界隈の連中が目くじら立てて糾弾してくることは間違いないでしょう。こんな作品がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞するなんて、やっぱカンヌの審査員はどうかしているとつくづく思いますよ、この年の審査委員長はスパイク・リーだったそうですがね。ほんとここ10年のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作には、ろくな映画がない。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-08-09 22:17:36)(良:1票) |
36. 勝利なき戦い
《ネタバレ》 朝鮮戦争はイメージと異なり後期の三分の一ぐらいの期間は北緯38度線を挟んでの塹壕戦に陥っており、両軍ともに休戦協定に有利になるように戦略的価値のない土地を取り合う闘いになってしまいました。そんな中で53年の休戦協定交渉中に起こったポークチョップ・ヒルの争奪戦の実話に沿ったストーリーです。監督が『西部戦線異状なし』のルイス・マイルストンで、塹壕にこもっての戦闘を描くことは昔取った杵柄という感じでしょう。全体的に淡々としたストーリーテリングで戦闘シーンはそれなりに撮れていますが、中隊長グレゴリー・ペックを始めとしてヒーロー的な派手な活躍を見せるキャラは皆無で、戦争映画としては地味としか言いようがないです。テーマは“価値のない土地を取り合う意味がない戦闘”だったというのが適切で、米軍上層部の指揮にもグダグダ感が目立ち、後のベトナム戦争まで続く米軍のコマンド・カルチャーの劣化ぶりが伺えます。音楽担当がレナード・ローゼンマンなので、『コンバット!』風味があるのが良かったです。 実は『トコリの橋』と『M★A★S★H マッシュ』そして本作と、ハリウッドで製作された朝鮮戦争を題材にした映画はたった三本しかないんですよ。米国では朝鮮戦争を“忘れられた戦争”と呼ぶそうですが、これじゃ米軍戦死者も浮かばれないですね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-08-06 23:32:31) |
37. 白昼の死角
《ネタバレ》 過去に商法・手形小切手法をかじったことがある身だけど、正直言って約束手形と言うものは実に判りにくい制度でもある。約束手形の法理なんて理解できていたとは言い難いし今ではすっかり忘れてしまったけど、約束手形と言うものは厄介な代物で無借金経営の様な優良企業には用ないものだというイメージがある。なんでも2026年には紙の手形小切手は廃止されて電子化されるそうで、最近はめっきりニュースなどでも耳にすることもなくなっている手形パクリや手形サルベージと言った犯罪も消滅してゆくんだろうな。 高木彬光の原作は、手形詐欺を扱った日本では珍しい部類の推理小説というか経済犯罪がテーマのピカレスク小説です。この映画化である本作は、角川春樹がプロデューサーをしているけど角川映画ではなく、あくまで東映の映画です。だもんで、普段の角川映画では見られない様な大物俳優がこれでもかというぐらいに登場する賑やかさです。友情出演や特別出演の大物の他にも、原作者の高木彬光や角川春樹そして鬼頭史郎(もはやこの人が何をやらかしたのか覚えている人はいないでしょうね)といった色物(?)までも顔だししてるんですからねえ。主人公演じる夏八木勲は、確かに大作映画の主演と言うのは珍しい言えますが、終始脂ぎった色艶の顔でとても東大法学部卒のインテリらしくないところが難点だったかもしれない。実在の事件をモチーフにしているそうですが、劇中で描かれる手形パクリの手口はなんか乱暴であまり知的な感じがしないってのもどうなのかな。実際夏八木勲は善意の第三者という盲点を突いて稼ぐわけだけど、起訴されないとは言っても警察には完全にマークされているわけで、どこかで綻びが出て逮捕されるというのは必然でしょ。闇の権力者の尽力で保釈されて結局は海外に逃亡するという結末には、ちょっと肩透かしされた気分です。けっきょく昭和のアナログ時代のお話しで、生身の姿を相手に晒さないといけなかったのが宿命で、匿名が当たり前の現代のSNS詐欺の方がはるかに知的犯罪としての要件を満たしているんじゃないかな。 監督の村川透は本作がフィルモグラフィ中で最大の大作、でも撮り方は東映セントラルフィルム時代と同じなんでなんか安っぽさが目に付いちゃうんだよな。千葉真一なんかもうちょっと違う活かし方があったんじゃないかな、出番は少ないしあれじゃ『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利と大して変わらん(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-03 23:58:00) |
38. サンクスギビング
《ネタバレ》 『グラインドハウス』のフェイク予告編の長編映画化の第二弾は、イーライ・ロスと来ましたか。あの予告編群の中ではイーライ・ロス編が個人的にはなんか不条理感がマックスだった感じがしてたんだけど、いざ映画化されると王道的なスラッシャー・ムービーになったんでちょっと肩透かしを喰らった気分です。出演者も予告編版ではティム・ロビンスなんかも出てたのに、有名どころではジーナ・ガーションぐらいになったのはやはり予算の関係かな。まず冒頭の感謝祭セールで起こる事件が、ほとんどシュールなコメディにしか見えないところがイーライ・ロスらしいところです。登場する高校生グループやその家族などの犠牲者たちが皆感情移入できなさそうな奴らでしたが、余りに無造作な犯人フラグを始めに様々な登場キャラに立てるけど、そのフラグが次々に倒れちゃうので犯人の正体はぼんやり観ていても目途が付きます。まあイーライ・ロスの魂胆はそんな謎解きじゃないので、気にもなりませんが。お得意のスプラッター描写は今回もフルスロットル状態ですけど、あの人体丸焼き感謝祭ディナーは『グリーン・インフェルノ』の再現というか、私には『コックと泥棒、その妻と愛人』を思い出させてくれました、もっともあんな耽美性は皆無ですけどね。 振り返ってみれば、ストーリーとしてはやり過ぎ感は薄目でスラッシャー・ムービーとしては可もなく不可もなくという感想ですかね。調子に乗って続編が製作されるそうですが、やめといた方が良いと思いますがね。こうなるとこのフェイク予告編シリーズ、次回作はロブ・ゾンビの『ナチ親衛隊の狼女』にしてほしい、ニコラス・ケイジやウド・キアーなどのオリジナル・キャストを変えずにね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-07-30 23:00:05) |
39. ワンダラーズ
《ネタバレ》 ジョージ・ルーカスが『アメグラ』で1962年のカリフォルニアの高校生たちの青春を描いたのに対して、フィリップ・カウフマンは翌年63年のNY・ブロンクスの高校生不良グループをテーマにしている。劇中でも印象的に挿入されているけど、63年はケネディ大統領が暗殺された米国社会の大転換が始まった年でもあり、それは能天気なストーリーテリングながらもその前触れみたいなものが織り込まれた脚本でもあります。やはり劇中で、リッチーが明らかにボブ・ディランを模したシンガーが“The Times They Are a Changin'”を歌っているところで足を止めて聞きほれるところなんかも印象に残ります。フォーシーズンズはじめオールディーズばかり流れるこの作品の中では、唯一異質な楽曲なので強いメッセージ性を感じてしまいました。 観るまでは『ウォーリアーズ』の様な硬派な展開なのかと思っていたら、実際にはどちらかと言うと『グリース』に近い様なコミカル要素が強い映画でした。冒頭で颯爽と登場してジョーイとターキーをボルティーズから助けるペリーがてっきりこの映画のキーマンなのかと思ったのにその後は活躍せずに影が薄くなってゆき、ボンクラなイタリア系高校生の群像劇みたいな感じでストーリーが進みます。色男のリッチーが恋人を孕ませたら、実は娘の親父はどう見てもマフィアの関係者という展開には笑ってしまいます。強面親父が実は愛すべきキャラだったというのも定石通りでしたがね。不気味だったのは幽鬼のごとくに現れるダッキー・ボーイズの面々、こいつらがアメフトの試合中に大挙出現して大乱闘を繰り広げるシークエンスは、シュールと言うか訳が判らんというのが本音です。 冒頭でワンダラーズの面々が通うクラスの担任がシャープ先生、生徒の人種出自を申告させると、イタリア系18人で黒人が15人。人種融和のつもりなのか互いのグループに相手方の侮蔑的な呼び名を言わせて列挙すると、教室内で乱闘騒ぎになってしまう。いやー先生、思いっきり外してしまいましたね、そりゃケンカにならないわけないでしょ!それにこの先生“すべての人間は平等に造られている”と言ったのは誰かと問題を出し、「その答えはエイブラハム・リンカーンだ」と言いますが、先生そりゃ違いまっせ、トマス・ジェファーソンですよ(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-27 22:18:43) |
40. ヒッチコックの ファミリー・プロット
《ネタバレ》 これがヒッチコック御大の遺作というか白鳥の歌かと思うと、なんか複雑な感情があることは否めないかな。出演者というか実質的にはどちらも主役である二組のカップルのキャスティングは地味と言うか華がない、往年のヒッチコックならもうちょっとビッグなスターが出ているもんだったから寂しいよな。ブルース・ダーンが演じたジョージ役にはアル・パチーノやエドワード・フォックス、ウィリアム・ディヴェインが演じたアダムソン役にはバート・レイノルズやロイ・シャイダー、カレン・ブラックのフランにはフェイ・ダナウェイやキャサリン・ロス、ブランチ役にはなんとゴールディ・ホーンが検討されていたとのこと。ハリウッド俳優ならヒッチコック御大からお声が掛かれば喜んで出演しそうなもんだけど、ハリウッド界隈のヒッチコックに対する冷遇ぶりが判っちゃいます、まあ単純に予算と言うかギャラの問題なのかもしれませんけど。それでもバーバラ・ハリスのインチキ霊能者ブランチは傑作でした、彼女のことは不覚にも全然知らなかったけど、受賞こそなかったけど本作も含めオスカーとゴールデン・グローブ賞に合わせて5回もノミネートされた名女優だったみたいです。あと音楽がジョン・ウィリアムズなのがヒッチコック作品にしては珍しい、なんかいつもと全然違う雰囲気がありました。 どちらも脛に傷持つ接点がない二組のカップルが、妙なきっかけで段々と交わるようになってゆく過程が、軽いタッチながらも適度なサスペンスを織り交ぜてちゃんとヒッチコック映画になっているところは高評価でしょう。ジョージ&ブランチのカップルの方はケチな詐欺師なので二人の掛け合いが面白いが、アダムソン&フランの方は殺人も含めてけっこうシビアな犯罪カップルなので対照的。でも一見成功して店を構える宝石商であるアダムソンが、なんで誘拐を生業としているのかが理解し難いところがあります、しかも身代金がキャッシュでなくてダイヤモンドですからね。これならレインバード夫人に自分が養子に出された甥であることを名乗り出て全財産を相続する権利を確保した方が割が良くないんじゃないですかね、まあそうしたら養父母が火事で焼死した件が蒸し返されてしまうかもしれないか… 恒例のヒッチコック御大のカメオ出演ですが今回はすりガラスに映った影でした、これが今生の別れだったかと思うと感慨深いものがあります。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-07-24 22:53:55) |