521. ダンケルク(1964)
《ネタバレ》 これも最初は洋画劇場で見たのですが、カットされていたためかあまりいいとは思いませんでした。その後BSで見直したら、ユーモアを含みながらも辛口の戦争映画だと感じました。今回再見ですが、ユーモアよりもシニカルさが目につきます。マイヤと仲間との会話に、それが強く感じられます。ほかにもイギリス船に乗り込む一連のエピソードは、ある種運命的なものを感じさせます。まるで戦争という大きな船にみんなで乗せられて、その船の行くままに流されるしかないような。それが、戦争から逃れようとしたらあっけなく最期をとげてしまうラストに象徴されているようです。この船は一度乗ったら降りることは許されないのだと。それによって戦争の悲しさ・残酷さをよく表していると思います。あと、モーリス・ジャールの音楽はとてもすばらしい。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-06-10 13:11:48) |
522. 死刑台のエレベーター(1958)
《ネタバレ》 若いカップルの行動あたりが「ヌーベルバーグ」らしいところでしょうか。『勝手にしやがれ』と似たようなパターンですし。映像的にも音楽面でも、それなりにいいのですが、やはり当時は斬新だったのだろうぐらいにしか思えません。ミステリーとしては、「ある事件の容疑が晴れたら、別の事件の犯人と特定される」というアイデアはいいのですが、そこへ持っていくのに無理をしすぎ。もはや力業を通り越してムチャクチャ。ではラスト・シーンに象徴されるような「男女の機微」を描いた作かというと、それも物足りない。どちらにしろ中途半端なんですね。まあ「ヌーベルバーグ」だから、話なんかどうでもいいのかもしれませんが。おそらく、どうでもいいから後世まで語り継がれる映画になったのでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-06-09 11:07:35) |
523. 雲の上団五郎一座
《ネタバレ》 これはすごいなぁ。一時代を画した(であろう)喜劇俳優が大挙出演し、名人芸を披露してくれます。それだけでも一見の価値はあるでしょう。特におかしかったのはフランキー堺の「勧進帳」と、三木のり平の「切られ与三」ですが、それ以外の演目も楽しい。最後の「カルメン」だけは派手派手しく幕を閉じるために用意したのでしょうが、お笑い芸という点ではやや物足りなかった。本作では団五郎一座の舞台の合間に物語が進むような案配で、お話はあまり重要視されていないようです。そのためか序盤のドタバタはいまいち面白くなかったのが残念。あと、フランキー堺は最初口からでまかせを言っているのかと思いましたが(なにしろフランキー堺だから)、どうやら本物だったようですね。 このメンツでの芸が見られるという歴史価値を加えれば満点でしょうが、そういう評価をするわけにもいかないので、この点数。時間は短いですが十分見ごたえがありました。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-06-08 20:41:21) |
524. 社長三代記
《ネタバレ》 社長シリーズは初めて見たのですが、社長が森繁久彌だけにちょっとちゃらんぽらん。しかしそれもまた楽しめます。恐妻家のくせに彼女が2人もいるというのも、よりコメディ色を強めています。とはいえ本作は社長ひとりだけでなく、まわりの社員も含めたアンサンブルが一番の魅力でしょう。特に真面目型の加東大介が、いいアクセントになっています。女優陣も豪華でいろいろと魅せてくれます。社長交代劇は、ややあわただしい感じがしました。「三等重役」が人情喜劇だったのに比べると、こちらは人情の要素が薄れてドタバタになっていますが、おそらくその方が時代に合っていたのでしょう。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-06-07 20:57:33) |
525. 三等重役
《ネタバレ》 これ、地方の(その地では)有名企業と設定したのが利いていますね。東京など大都市圏の会社では、こうはいかないかも。サラリーマンものというよりも人情喜劇で、もちろん小市民的味わいもありますが、部下を思いやる社長の心意気がよく表れています。賞与を与えるのに奥方と社員の両方に配慮したり、出張所長の月下氷人を務めたりと、社長として上に立ちつつ社員のことをきちんと考えてやるところはたしかに魅力的ですし、理想の上司像でしょう。硬軟の使い分けがおみごとで、バランスがとれています。もっともそれも、代理社長という立場、時代や地方が舞台という要素が大きくものをいっていると思います。このあと高度成長期を迎えて、このような社長が次第に姿を消すであろうということは想像に難くありません。それだけに貴重だと思います。あくまで「代理社長」なのにこれだけ誠実ということで、よけいにその思いを強くします。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-06-06 14:52:42) |
526. 知りすぎていた男
《ネタバレ》 以前洋画劇場で見て、その時は話がよくわからない部分もあったのですが、おそらくカットされていたからでしょう。序盤のホテルで母子が歌うシーンなんて、見た覚えがありません。クライマックスの伏線なのに。今回ノーカットで見たら、かなり面白かった。 なんといってもユーモアとサスペンスの組み合わせ、これが絶妙です。そこから一種の余裕が出て、こちらもゆったりと楽しめます。本作では音楽というか「歌」がポイントになっていますが、教会で賛美歌に合わせて会話するあたりは最高におかしかった。あれってミュージカルのパロディ(皮肉?)かもしれませんね。また、いかにも怪しそうな人物・怪しくなさそうな人物をうまく組み合わせていると思います。単純ですが効果を上げています。コンサートホールでは、比較的長い曲を丸ごと演奏していて、ダレがちになりそうですが、そこで間を保たせる演出にヒッチコックの自負が見て取れました。 サスペンスですが、終始子供を思う親の心が基本となっていて、物語の牽引役にもなっています。終盤ドリス・デイが泣きそうな顔で歌うところは、こちらも泣きそうになってしまいました。最後も気が利いています。こうしたユーモアがあるから、あくまで「フィクションの娯楽」として素直に楽しめますし、そうしたジャンルとして傑作に仕上がったと思います。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2013-06-05 07:56:21)(良:1票) |
527. ミクロの決死圏
かなり好きな作品。人体という「内なる宇宙」を旅するというアイデアがすばらしい。その「体内巡り」が眼目なわけで、ストーリーについてあまりあれこれ言うのはヤボってもんでしょう。音楽も現代音楽風でそれらしい。スパイがらみのお話になっているあたりが、時代をしのばせます。今作るとしたら映像表現はもちろん、ストーリーの根幹そのものが変わってくると思います。 ところで、車ごと地下に降りたり、ミクロ化するプロセスをじっくり見せるあたりが『サンダーバード』風だと思ったら、あちらがイギリスで放送された翌年にこの映画が封切られたようです。さて影響はあるのか、どうでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-06-04 09:43:30)(良:2票) |
528. やじきた道中 てれすこ
なかなか楽しめました。メイン3人の関係がいい。特に弥次さんとお喜乃は、互いの微妙な思いがうまく表現されていて絶妙でした。そういう点では、大人向けの貴重な佳作ですね。コメディとしても、元ネタの落語は知りませんが、楽しめました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-06-03 10:33:36) |
529. ある公爵夫人の生涯
18世紀後半のイギリスが舞台ですが、お話は昼メロ級の惚れたはれたに終始しています。これはこれで面白く見ましたが、話の展開が早いためか、人物の心情変化が唐突に感じるところがあり、そこをじっくり描いてこそ話が生きるのではと思います。しかし男女が相手に求めるものの違いや親と子の情愛など、現代に通じる部分もあったのはよかった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-06-01 19:45:54) |
530. マーニー
《ネタバレ》 マーニーが泥棒を成功させる序盤から、ラトランド社で再犯するまではなかなか面白い。会社の人たちもいい味を出しています。しかし、犯行がばれて半強制的に結婚させられてからは、急速に魅力が薄れてきます。ラトランド役にショーン・コネリーを配したのが失敗でしょうか。どうもこの人が「愛してる」と言っても、本当に愛しているのかどうか、見ているこちらは確信が持てません。したがってその行動も説得力に欠けます。また、マーニーとの会話は心理学論議にまで発展しそうで理屈っぽく、面白味に欠けます。テーマがテーマだけに真面目になりがちで、ヒッチコックが得意なはずのユーモアも影を潜めてしまいます。また、最後の謎の解決では親子の情愛を感じさせますが、これも結果的にはマイナス。親子の情か男女の愛情か、見終わってみればどっちつかずという印象が残ってしまいました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-05-28 21:45:34) |
531. グレン・ミラー物語
《ネタバレ》 基本的にジャズは聞きませんが、ビッグバンドは別。というか私にとっては、この2つは異なるジャンルの音楽です。ということで興味深く見たのですが、内容的には典型的な「アメリカン・ドリーム」のお話で、その点安定感があります。しかし、ジェームズ・スチュワートはあまり音楽家というタイプではありませんね。途中からメガネをかけて、ようやくそれらしくなりました。トロンボーンを吹く前に口をモグモグさせたりと、細かい芝居はうまいと思います。本作ではむしろ、妻役のジューン・アリソンがたいへんな好演でした。かんじんのミラー氏は、序盤での無意味に自信過剰で、ヘレンにかまわず勝手にことを運ぶあたりで好感が持てず、どうしても夫人に肩入れしてしまいます。終盤の展開も含め、彼女が実質的な主人公と言えるのではないでしょうか。そう考えると、夫に好感が持てなくても評価を高くしてあげたくなります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-05-27 19:40:22) |
532. めがね
《ネタバレ》 今まで見た荻上監督作品では、『かもめ食堂』よりは上で『トイレット』よりは下。とりあえず特に何も起こらないのに、こちらを画面に引きつける手腕はおみごとだと思います。しかし、序盤のタエコさんは何のためにハマダに行ったのか、なぜあんなにイライラしてうろたえているのか、そのあたりがよくわかりません。そのあたりが弱かったかな。しかし本当に何もないのではなく、トランクを現実世界の象徴として扱うあたり、常套手段ではありますが効果的だったと思います。帰るときにめがねが飛ぶのは、再び来るということの伏線か、あるいはめがねをかけていては見えていなかったものが見えたということか、さて……。あと、薬師丸ひろ子の役が「めがねの友達」ていうのが面白い。あのホテルでやっていることは、方向性は真逆ですが根本的にはハマダとたいして変わらない。だから友達。あっちの方もちょっと楽しそうかなぁと思ったりもします。 ぶっちゃけ現実逃避映画、ハマダは実際の世界とは違う、ほとんど異世界として描かれているわけですが、2時間足らずの間異世界に遊ぶのも、悪くはないでしょう。それもまた、映画の効用ということで。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-05-26 10:47:45) |
533. 我が道を往く
《ネタバレ》 これもお気に入りの一本。幼なじみが有名な歌手になっていたとか、音楽出版社と知り合いだったとか、ご都合主義なところもあるのですが、やはり音楽のすばらしさを描いているところが好きです。初めてハーモーにした時の子どもたちの楽しそうな顔は、音楽をするうえでの原点でしょう。あの場面だけでも嬉しくなります。うまく行き過ぎなところが、音楽で中和されているのかもしれません。あと、オマリー神父の人なつっこい性格も大きなポイントです。一見すると押しが弱そうですが、いつのまにか相手を自分の懐の中に入れてしまうところは、なかなかのもの。これはシナリオだけでなく、ビング・クロスビーの性格とか雰囲気も関係しているのかもしれません。まさに適役・はまり役だと思います。この神父のキャラクターから来る優しさや暖かさがクッションになって、見ているこちらもほのぼのとしてきます。そのため自然と作品に感情移入できるようになっているのは、うまい作りですね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-05-19 17:19:21) |
534. 秋のソナタ
いや~、怖いなぁ。「女は怖い」と言っても、特に怒られませんよね? 父と息子では、ここまで恐ろしくならないでしょう。ベルイマンとは相性が悪いのか、引き込まれましたが、ほめたくなるほどではありませんでした。最後まで来るとキリスト教的な思想が背景にあるようですが、それもよくわかりませんでしたし。しかしデジタル・リマスター版を劇場で見る機会がありそうなので、足を運んでみましょう。とりあえず、主演2人の芝居はおみごとでした。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-05-04 17:10:08) |
535. 舟を編む
《ネタバレ》 一冊の辞書ができるまでのお話。それ以上でもそれ以下でもありません。あえて言うなら「ちょっと変人でも大丈夫だよ」ということもあるのでしょうが、どうも最後にとってつけたような感じになってしまいました。中盤での香具矢さんの「なにが普通かわかんないけど」というセリフは重要だと思いますが。それ以外、夫婦の話も松本先生との話も、最終的には「辞書を作る」という大枠内にとどまっていて、はみ出すところがない。それが本作の長所であり短所でもあると思います。お話としてはまるでプロジェクト某の映画版のよう。実際、実はそうだった(実話が元になっている)と言ったら、信じる人が多そうです。後半での掲載漏れをめぐる一連のエピソードも、あざといほどセオリー通り。そういった点ではよくできていると思いますが、面白味には欠けます。製作にテレビ局や新聞社がずいぶんとかんでいるようですが、この安全運転ぶりはそこから来るのでしょうか。もうちょっと「変人映画」でもよかったかもしれません。 ところで、異動前に馬締くんは熱心に何を読んでいたのでしょう。それが一番気になったりして。 [映画館(邦画)] 7点(2013-05-03 10:49:04)(良:1票) |
536. カルテット!人生のオペラハウス
《ネタバレ》 いやはや、みごとに外れてました。高齢者の元オペラ歌手4人をめぐるお話なのですが、過去にすばらしい歌手だったということが、こちらに実感できない。演じている俳優はベテラン揃いで存在感があるのですが、作中人物にはありません。それでもスケベジジイのウィルフととぼけたシシーは面白いキャラでがんばっていますが、主役であるはずの元夫婦2人は新聞紙よりも薄っぺらい人間にしか描かれていません。離婚した理由が最後にならないと明かされないので、レジーがあれほど嫌がるというのも理解できないし、途中で宗旨替えして四重唱をやろうと誘うのはもっと理解できない。ジーンにしても、年をとって思うように歌えなくなったとしても、あれほど四重唱を拒否するというのは、よくわかりません。要するに、人物の心理がほとんどすっ飛ばされているのです。 ただ本作の場合、日本語字幕にもちょっと問題がありそうです。会話がどうつながっているのかよくわからないところが何ヶ所かありましたし、拙いわたしの英語力でも、「ちょっとそれはおかしいんじゃないか」という表現もありました。というわけで、できれば違った字幕か日本語吹き替えでもう一度見てみたいところですが、とりあえず今回の上映では低く評価するしかありません。いい俳優さんや元演奏家をそろえているのに、もったいない話です。 [映画館(字幕)] 5点(2013-05-02 11:14:07) |
537. 狐の呉れた赤ん坊(1945)
《ネタバレ》 これまた正統派の人情喜劇ですが、シナリオがかなりうまい。伏線の使い方が巧み。特に終盤の「もう一度死ね!」は、すばらしいと思います。入れ墨の一件も嬉しくなります。ラストでおときちゃんは照れて喜んでいますが、それは善太の母親代わりになりたかったわけではなく、純粋に寅のことが好きだったということです。それでよけいに、さわやかな気分になるということ。賀太野山が事情を知っていたというのはちょっとうますぎるかもしれませんが、それも小さな疵でしょう。阪妻はじめ出演者は役にはまっているし、小道具をうまく使った演出もよかった。ある種優等生的なところはありますが、非常によくできた映画でしょう。とはいえ、それと個人の好みとはまた別なので、この点数です。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-04-30 21:23:34)(良:1票) |
538. 有りがたうさん
《ネタバレ》 実にのんびりしたお話で、時代がよく表れていると思います。バスの停車場で毎回一服というのも、今では考えられません。バスの車内でもタバコを吸っていましたし(笑)。しかしそのため、途中でちょっとだれてしまったのは残念。 お話としては、売られてゆく娘を中心にすえつつ、色々なエピソードで楽しめました。特に桑野通子と石山龍嗣の応酬が楽しい。しかしその桑野通子も、最後の語りで、ああこの人はもう帰ってこないんだろうなと思わせる。売られずにすんだ娘との対比も生きて、なかなか重みのある結末でした。重みといえば、コメディタッチで笑わせながら、要所要所で問題意識を投げかけるあたりもバランスがよくてけっこうでした。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-04-29 17:55:36) |
539. 刑事コロンボ/二枚のドガの絵<TVM>
《ネタバレ》 これ、評価が難しいんですよね。たしかに「刑事の指紋が証拠」というラストは面白い。しかしそれ以上に重要だと思うのは、「犯人の計画が最後まで完結しない」というところです。これまでのシリーズでは、犯人の計画は終了して、以降コロンボとの対決に集中するわけですが、本作ではそれが平行して描かれます。さらにその計画が、視聴者には明らかにされていない。途中で「犯人はコレクションを相続できない」ということがわかり、見ているこちらに一旦しょい投げを食わせたうえで、叔母に罪をなすりつけるという計画を明確にさせるのは、効果的です。 ただそれにしては、構成に破綻があります。コロンボの指紋がつくプロセスが、うまくいきすぎてご都合主義に思えます。そもそもコロンボが犯人宅に入れたのは、うまく鍵を取り上げた結果ですが、これは犯人がコロンボに乗せられすぎという印象を持ちました。最後の家宅捜索も同様。コロンボのもくろみが当たりすぎて面白味が少ない。ドガの絵を盗んだのも、もともとエドナに罪を着せるつもりだったと思うのですが、あの展開ではコロンボに「絵が出てこないことにはなんともならない」と言われて、あわてて発見させたようで、絵を盗んだ目的が曖昧になってしまっています。繰り返しますが、犯人がコロンボの思うように動きすぎてご都合主義の展開に思えますし、犯人としても魅力が感じられません。話のアイデアとしてはいいと思うのですが、あまりうまく生かせなかったと思います。けっこうユーモアの要素があったのはよかったです。そのためキム・ハンターの大げさな演技も浮いていません。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-27 08:38:42) |
540. 警察日記
《ネタバレ》 人情喜劇として楽しく見ました。貧しさゆえに起こる事件や騒動、それに対し厳しくも暖かく対応する警官たち。あの時代の地方ならではと思える作品です。しかも単なる人情劇に終わっていない。たとえば万引き・無銭飲食をした母子は父親と再会できましたが、このあと暮らしが成り立っていくという保証などない。幼い姉弟を一旦捨てた母親も、きちんと生活費を稼げるのかどうか、心許ないところがあります。このように、結局肝心なところは解決していない、警察の限界を描いているところが正直でよかったと思います。また、この母親や岩太くんは、町を出て都会(東京)に出て行きます。一見希望がもてそうですが、田舎町には将来がない、都会にしか希望がないということを暗示しているようです。これが将来的に過疎につながっていくのでしょう。そういえば、役所の間での縄張り争いを揶揄するようなところもあり、笑いを交えて皮肉に描いています。単なる人情劇にとどまらず、こうした社会的な視線をも持ち合わせているところが鋭いです。 演出としては、細かいカット割りで人物の心情をうまく表していてうまい。特に子供の扱いがすぐれていました。それと出演者がとにかく豪華で、その若かりし日を見ているだけでも楽しめます。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-04-21 22:09:28) |