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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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41.  リアル・スティール 《ネタバレ》 
本作では「ロッキー」を連想される方が多いようですが、それに加えて私は「オーバー・ザ・トップ」も思い出しました。つまりこの映画、本質的にはスタローンイズムに溢れたB級素材なのです。しかも舞台は「ローラー・ボール」を思わせる未来のハイテクスポーツで、こちらもまた、いかにもなB級設定。特に「ロボット格闘技」なんて面白いと思いますか?格闘技を含めたスポーツ全般は、神から与えられた肉体という制約条件の中にあって人間がいかに身体能力を向上させるかが、その面白さの原点であるわけです。設計次第でスペックをいかんともできるロボットにスポーツをさせたところで、それが面白いわけがありません。そんなこんなでこの映画は絶対につまらないだろうと踏んでいたのですが、見て驚きました。文句の付けどころがないほど面白いではありませんか!脚本・演出・演技という映画の基本的要素が非常に安定していたおかげで、この企画は奇跡的なまでに化けたようです。主人公は息子の存在すら忘れているほどのダメ親父なのですが、同時に適度な愛嬌があるため観客から嫌われるギリギリのところで味のあるキャラクターとなっています。その息子もまた、父親に向かって悪態をつくクソガキなのですが、ウザくなる一歩手前でこれを個性としているきわどいバランス感覚はお見事でした。役者のハマり具合も完璧で、憎たらしさと可愛げの絶妙なバランスを見せた子役のダコタ・ゴヨの演技には目を見張りました。。。 そして素晴らしいのがロボット格闘技の場面で、前述の不安が帳消しにされてお釣りがくるほど燃えましたとも。スポーツ映画としての本作の構成は抜群に優れています。まず前半で主人公が所有するロボット2台に負け戦をやらせるのですが、足を飛ばされ、首をもがれるという容赦のないやられっぷりを観客に見せておくことで、その2台よりも華奢なATOMのバトルの緊張感を高めています。最後には勝つとわかっていても、ATOMも同じ目に遭わされるのではないかと冷や冷やさせられるのです。やられてやられていよいよ反撃に出る場面では、スポーツ映画らしいカタルシスを存分に味わえます。最強のハイテクロボvs職人気質のローテクロボというありがちな対比も存分に映画に貢献しており、ここまで熱くなれる映画は久しぶりでした。ま、この構図は「ロッキーⅣ」そのものなんですけどね。やっぱりこの映画はスタローンイズムの塊なのです。
[映画館(字幕)] 9点(2011-12-16 16:14:30)(良:1票)
42.  ワイルド・バレット
各々思惑を胸に秘めた悪人達が多数入り乱れるサスペンスアクションはよく見かけるジャンルですが、本作の面白さはその中でも群を抜いています。タランティーノやガイ・リッチー作品にも比肩するほどよく出来た脚本に加え、トニー・スコット風のかっこいい画面作り、ノンストップのスピード感、ハマりまくりの俳優陣(ポール・ウォーカーかっこよすぎ!ヴェラ・ファーミガ美人過ぎ!)、もはや文句のつけようのない仕上がりです。ヤクザ同士の権力闘争に加え、DVや児童ポルノなどネタにしていいのか微妙な題材にまで臆することなく手を付けたおかげで、本作は独自性を打ち出すことに成功しています。話が桁外れに陰惨なのです。陰惨ではあるが、救いがないわけではない。バイオレントな落とし前はきっちり付けるため、後味は妙に爽やか。その辺のバランスの取り方も最高です。この監督、「トゥルー・ロマンス」や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」といったタランティーノ自身が監督していないタランティーノ作品の大ファンと見ました。
[DVD(吹替)] 9点(2011-05-29 19:55:08)(良:2票)
43.  アンストッパブル
味付けについて自由度の高いラーメンには名店も多くありますが、例えばそうめんで客を唸らせる味を作ってみろと言われれば、これはとんでもない難題です。映画の世界でそんな難題に挑み、奇跡的に満足できる商品を作ってしまったのが本作。しばしば「スピード」との類似点が指摘されますが、テロリストとの駆け引きがあり、さまざまなトラップや見せ場を準備することができた「スピード」と比較すると、無人で暴走する列車を止めるだけというシンプルな本作は遥かに難儀な代物だったと思います。シンプルだからこそ監督の手腕がモロに問われ、逃げも隠れもできない素材。私はロン・ハワードのような堅実なタイプの監督に任せるべきで、ビジュアルばかりが先行するトニー・スコットは適任ではないと思っていました。が、観終わればそれは大きな間違いだったことに気付かされます。スコットは驚異的な演出力を披露し、難儀な企画を燃える傑作に変えてしまっているのです。いつものビジュアルセンスはもちろん健在で、他の監督が撮っていれば単調になったであろう本作の見せ場も、スコットの手腕によってかっこいい場面の連続に。列車を追うヘリやありえない台数のパトカーの並走など、乗り物を撮らせるとスコットは相変わらず良い仕事をします。クライマックスに向けて計ったように盛り上がっていくテンポ作りも見事で、どんどんエスカレートしていく物語には手に汗握りっぱなしなのでした。そして、今回のスコットが凄いのはここから。見せ場とドラマのバランスがほぼパーフェクトであり、神がかった職人芸を見ることができます。本作のメインはもちろんアクションでありドラマは添え物という扱いなのですが、映画のテンポを邪魔することなくアクションの高揚感に貢献させるという、アクション映画にあるべきドラマ作りが完璧になされています。ドラマを挿入するタイミングやその分量が本当に絶妙で、スコット兄やスピルバーグですらここまで巧くはできないでしょう。30年ものキャリアにおいてひたすらアクション映画を撮り続け、主要な映画賞へのノミネート経験が一度もないというアクションバカがついに辿り着いた究極の作品。それが本作なのです。。。強いて苦言を言うならば、カタカナにすると語感の悪いこの邦題、作品の趣旨から外れたヘタレな宣伝文句は何とかならなかったのでしょうか。
[映画館(字幕)] 9点(2011-01-16 23:31:49)(良:1票)
44.  3時10分、決断のとき 《ネタバレ》 
多額の借金を抱えた上に長引く干ばつによってその返済の目途も立たない、さらには鉄道会社に大事な土地を奪われそうな状態にあり、身体的には戦争で足を不自由にし、長男からは腰抜け、嫁からは負け犬と思われていて、おまけに次男は重病持ち、、、主人公ダンの境遇はいくらなんでも酷過ぎるでしょう(笑)。そんな切羽詰まったお父さんが、家族を幸せにするため多額の報酬を得られる囚人護送に参加する物語なのですが、家族のためならお父さんはいくらでも泥にまみれるし、身の危険だって厭わない、無口なダンの背中から漂うそんな思いにはグっときました。お父さんというのは奥さんや子供が思っている以上に家族の幸せを願い、もし家族が幸せでなければ自分を責め、そして家族の幸せのためならいつでもわが身を危険に晒すことができる健気な生き物なのです。そんなお父さんの律儀な思いがこの映画では十分に表現されていて、それだけで涙が出そうになるくらいに感動します。毎年父の日には、日曜洋画劇場でこの映画を放送して欲しいと思ったほどです。また、凶悪犯ウェイドを目の当たりにして危険な仕事であることを認識したダンの奥さんが、旦那に対して「護送団からは降りるべきよ」と言う場面も妙にリアルでした。毎日仕事でボロボロになって帰ってくる旦那に向かって「そんな辛い仕事なら辞めちゃえば」と言うアレです。家族を養うというのは、身近にいる奥さんですら想像できないくらいに大変なことなんですね。。。カッコ悪くても家族のために必死で仕事をするお父さんと、派手に生き、金と自由を謳歌するアウトローとの対比が前半で描かれるのですが、後半になると映画は男と男の物語にシフトします。牧場には念願の雨が降り、さらには護送を完了しなくても200ドルやるという提案までなされ、ダンがこの仕事に命をかける理由がなくなります。家庭人であれば、このまま金を受け取って帰ってしまえばいいのです。しかし、ダンは男として息子に情けない姿を見せたくない、そして自分自身のプライドを取り戻したい、自分は負け犬ではないことを証明したいという思いから、この大仕事を最後までやり遂げようとします。その思いに乗ったウェイドとともに大勢の敵が待ち構える駅へ走り出す様は男泣き必死の名場面で、盛り上がるドラマ、高鳴る音楽、腹に響く銃声、良い映画を見たな~という気分を存分に味わうことができます。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2010-09-18 20:40:29)(良:1票)
45.  スター・ウォーズ/帝国の逆襲
EPⅣは映画史上において重要な作品だと思うのですが、製作から30年以上を経た現在の目で鑑賞するとビジュアル的にもストーリー的にも不十分な点がいくつかあって、時代性を差し引いて評価せねばならない作品だと言えます。一方続編である本作の面白さは圧倒的で、現在の娯楽作と比較しても遜色のない仕上がりとなっています。起承転結の「起」と「結」は前後作にお任せし、本作は頭からお尻までフルスロットル。当時の作品として、ここまでの密度とテンションを保った作品は他になかったと思います(翌年の「レイダース」も担当した脚本家のローレンス・カスダンの手腕でしょうか)。ビジュアルの進化も著しいものがあります。EPⅣのVFXは当時としては画期的だったとは言え、現在の目で見るとスピード感に欠けており、空中戦の場面であってもゆっくりとした動きが気になる部分がありました。しかし本作ではその欠点が解消されていて、新3部作と比較しても見劣りしないほどビジュアルが完成されています。また空中戦のイメージの強かった「スター・ウォーズ」において雪上での戦闘を映画の冒頭に持ってきたことは、サーガの世界観を広げるために効果的でした。迫りくる巨大歩行ロボットから走って逃げる歩兵の図というものは見たことがありませんが、戦争映画としての側面を突き詰めると当然行き着く結論であり、これをきっちり見せたことでスター・ウォーズという作品の深化を図ることに成功しています。この場面はメカデザインもVFXも演出もシリーズ中最高峰であり、本作製作時にはルーカスもスタッフも絶好調だったことが伺えます。。。ホスの戦いが象徴するように、単純明快な冒険活劇だったEPⅣから一転して物語は戦争の過酷な面が強調され、またガンコな師匠の登場や悲劇的な恋愛要素の追加でドラマもアダルトなものに。これは、ドキュメンタリー出身のアービン・カーシュナーを監督に、ハワード・ホークスのお抱えだったリイ・ブラケットを脚本家(初稿を書き上げた直後に死亡したため、仕上げたのは新人のローレンス・カスダン)に起用したことの成果ですが、スター・ウォーズの続編としてハード路線への転向を決定したルーカスはさすがの慧眼でした(ただし公開当時は不評で、EPⅥではソフトな面を強調するためイウォーク族が登場することに)。本作がEPⅣの延長に過ぎなければ、シリーズの熱狂的なファンなどは現れなかったはずですから。
[DVD(吹替)] 9点(2010-09-05 00:36:42)(良:2票)
46.  スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐
EPⅠⅡと実に惨い仕上がりでしたが、本作はそれらの続きとは思えないほど突出してよく出来ています。いよいよクローン戦争が本格化し、全宇宙が戦場に。全世界のファンが「ジェダイの復讐」以来待ち続けたのはこれでした。続々と登場するかっこいいメカの数々に、ジムの如く局地戦仕様に改造されたクローントルーパー、クローントルーパーの大群を率いてバトルドロイド軍団へ突進するジェダイ達。男子悶絶の映像が続きます。やればできるじゃないか、ルーカス!そして、このシリーズは毎回悪役が良いのですが、本作のグリーヴァス将軍も意表を突くデザイン、ユーモラスな性格付けで強烈な印象を残します。。。パルパティーンがついに本性を現し、アナキンがダークサイドに落ちると、物語はさらに加速。ジェダイや共和国の理念は破れ、アナキンはダースベイダーになるという結末はわかっているものの、それでも心をぐいぐい掴む強力な物語が展開されます。弟子を育て損ねたオビワンの苦悩、愛する旦那が宇宙一のワルとなり、おまけにその男の子供を妊娠しているパドメの苦悩が描かれるのですが、スター・ウォーズにおいてここまで深い人間ドラマが見られるとは思いませんでした。ラストのバトルにおいて、アナキンへの思いを叫ぶオビワンと、オビワンへの怒りを叫ぶアナキンの熱いやりとりは必見です。後半のドラマについては、期待を完全に超えるものとなっています。それに付随する描写も実に気合いが入ったもので、EPⅠⅡと残酷描写について腰が引けているのが気になったのですが、本作においては必要な場面をきっちり見せてきます。ジェダイが惨殺される場面や、両手両足を失い、さらには火だるまになるというアナキンの衝撃的な最後に至るまで躊躇がなく、ルーカスが腹を決めて本作を作っていることが分かります(EPⅠ公開の時点で、EPⅢは悲惨な内容になるため観客に拒絶されるかもしれないとルーカスは語っていました)。また、人類史において時折登場する悪の帝国とは一体何だったのかという考察も交えており、「今、自由は死んだ。万雷の拍手の中で」という名セリフは本シリーズがついにおとぎ話を超えたことを象徴しています。。。ファンの頭の中でパンパンに膨らんでいた以上のクライマックスを準備し、これまで水と油だった新シリーズと旧シリーズを見事につないでしまったのですから、本作の完成度は驚異的と評価するしかないでしょう。
[映画館(字幕)] 9点(2010-09-02 00:19:39)(良:1票)
47.  戦場のピアニスト
本作は必然的に「シンドラーのリスト」との比較にさらされる作品ですが、スピルバーグお得意の映像的ショックが鑑賞後の印象のほとんどを占め、ラストはベタベタの人情劇に終わってしまった「シンドラーのリスト」と比較すると、本作の方が映画としての完成度は上だと思います。「シンドラーのリスト」はホロコーストにおける凄惨なイベントを数珠つなぎにして披露する作品でしたが(これはこれで、ホロコーストの非人道性を伝えるためには有効な表現でした)、一方で本作においては、ホロコースト真っただ中の生活が克明に描かれます。特徴的なのが死の表現方法で、スピルバーグが「殺される過程」を見せることにこだわったのに対し、本作は「街に転がる死体」によってこれを描いており、このことからも、両者のアプローチが根本的に異なっていることがわかります。また、本作はゲットー内で利益を得ていたユダヤ人や、同胞を裏切ってドイツ人の側に付くことで自己保身を図っていたユダヤ人が少なからずいたことも暴露してしまいます。この視点には驚いたし、ここまで思いきった内容にできたのは、自身がホロコーストの経験者でもあるポランスキーならでは。言い方は悪いのですが、同じユダヤ人であってもアメリカでぬくぬくと育ったスピルバーグでは手の出せない領域だったと思います。さらには、主人公とドイツ軍将校との関わり合いの中で、滅びゆく者の憐れまでを描いている守備範囲の広さ。本当にすごい映画だと思います。。。そして最も印象に残ったのが、シュピルマンがドイツ人将校の前で演奏を披露した後、声を出して涙するシーンです(ほんの数秒のカットだったので、気付かれていない方もいらっしゃると思いますが)。安全な隠れ場所と食糧を探すことのみに集中し、もはや人とは言えない状態にまで自己を追いこんでいた彼が、ピアノを弾くことによって人格を取り戻し、長い間押し殺してきた家族や同胞への思いが一気に噴出したのか?それとも、いつも空想の中でのみ演奏していたピアノをようやく弾くことができたが、その念願の演奏は、よりによってドイツ人のために披露したものだった。芸術家としての最後のプライドまでを自己のサバイバルの道具としてしまった自分が許せなかったのか?なかなか解釈が難しいのですが、たったワンシーンにおいても解釈に幅を持たせたことも、この作品の奥の深さ、懐の広さのひとつの証明だと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2010-06-27 19:27:51)(良:1票)
48.  96時間
普段はセガールがやってるアクションを演技派のリーアム・ニーソンにやらせたという、本当にそれだけの映画なのですが、この意外な組み合わせが実に良い味を出しています。物語は直球勝負で何の捻りもなく、セガール辺りが主演していれば誰からも見向きもされない程度の話です。主人公の思惑通りに話がぽんぽんと進む、ご都合主義の塊のようなアクション映画なのですが、これを演技派俳優にやらせることで映画全体に妙な説得力が漂い、話の弱点がうまくカバーされています。アクション映画がある種の説得力を持てば、もう怖いものなしです。見ているこちらは、ひたすら突き進む主人公を応援し、悪人をバタバタとなぎ倒していく様に拍手喝采していればよし。かなり熱くなりながら見入ってしまいました。ここまでシンプルに燃えさせるアクション映画は久しぶりです。この脚本にこの俳優、ベッソンのヒットメーカーとしての慧眼には脱帽なのです。。。ベッソンは話を複雑にしすぎることもせず、ニーソンを得たからといってドラマを過多にすることもなく、派手すぎる見せ場も加えず、この手の物語に調度良い温度感を保っています。この判断力も、実は凄いのではないでしょうか。振り返ってみれば、本作は枝葉をつけようと思えばいくらでも付けられる話でした。ニーソンの親子関係然り、警察とヤクザの癒着関係然り。しかしそういった「おいしい部分」にはわき目もふらず、ひたすらにエモーショナルなアクションを追求した本作の禁欲的な姿勢も、大いに評価すべきでしょう。とにかく、アクション映画が好きな方には絶対におすすめの一本です。ここ数年で最高のアクション映画でした。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2010-06-10 21:50:52)(良:4票)
49.  マンダレイ 《ネタバレ》 
素晴らしい作品でした。セットらしいセットがなく、役者も必要最低限の人数に絞り込まれ、物語と人間以外の要素をすべて削ぎ落とした体裁を取りつつも、アメリカという国家や人間社会の普遍的な真理という大きな題材を面白く、かつわかりやすく表現しています。本作の(表面上の)テーマは人種問題なのですが、「黒人はかわいそうでした」と結論付けるだけの短絡的な物語ではありません。支配のシステムを受け入れることで支配される側も救われていたのではないか?そして、虐げられてかわいそうに見える人間が、必ずしも善人とは限らないという真理を突いています。この題材において、マンダレイがアメリカの人種問題を象徴する集落であると同時に、主人公グレースもまた、薄っぺらな善意と強大な力を持つ国アメリカを象徴しています。黒人奴隷達を見たグレースは、自身が差別の当事者ではないにも関わらず「申し訳ないことをしました」と奴隷達に謝罪しますが、この謝罪の薄っぺらなこと。自身を「反省できる人間」という高みに置いてマンダレイを眺め、自分は差別を忌み嫌う善人であるとアピールしているだけにしか見えません。そんな彼女は、薄っぺらな正義感と無知から、マンダレイという社会を成り立たせていた秩序を勝手に破壊し始めますが、これは現在アメリカ合衆国がイラクやアフガンで行っていることです。フセインは軍事独裁政権であるという理由で、タリバンはテロ支援国家にして女性差別の権化として断罪され、排除されましたが、イラク社会やアフガン社会は、彼らの存在によって成り立っていました。これらの国々は、最終的には自由と民主主義を勝ち取らねばならないにしても、現時点では「早すぎた」のです。グレースが「授業」と称して黒人奴隷達に民主主義を押し付けるも根付かず苛立つ様は、まさに私達が見ているアメリカそのものでした。。。そしてこの映画の凄いのはラストで、底意地の悪いオチをビシっと決めてきます。グレースはアフリカの王族出身という黒人ティモシーに恋心を抱きますが、実は王族どころか賤しい身分の出身であったことを知るや、「裏切られた」という怒りから彼に制裁を加えます。結局、彼女も黒人を差別していた人間と大差ないことが証明されてしまうのです。また、時計の時間までを民主的に多数決で決めてしまったことから、彼女は元の生活に戻る術を失ってしまいます。この構成の巧さには驚きました。
[DVD(吹替)] 9点(2010-06-01 11:24:11)(良:1票)
50.  容疑者Xの献身
「HERO」は酷評し、「踊る大捜査線THE MOVIE」はレビューする気にもなれないほど大嫌いで、フジテレビ製作の映画には不信感しか持っていないのですが、本作の出来の良さには完全にやられました。謎の提示やネタばらしのタイミングが絶妙でサスペンス映画としてレベルの高い脚本だし、淡々としながらも激情を孕んだドラマには心を千切られるような思いがします。この映画の脚本は、日本映画界にありがちな、ただ原作を映画版に手直しただけの代物とは訳が違います。「映画として成立させるにはどうすればいいのか?」という工夫が見て取れるのです。原作は石神の心理描写が克明であり、それがサスペンスやドラマを大いに盛り上げていたのですが、一方映画版では無口な石神の感情をどう表現するかが大きな問題でした。ブツブツと独り言を言わせるのはヘンだし、かと言ってすべてナレーションで説明してしまうわけにもいかない。そこで映画版は、ガリレオこと湯川との対比によって石神が抱える人生への深い絶望と「献身」の重みを表現し、さらに石神と同類である湯川に彼の感情を代弁させることで、この問題を乗り切りました。ここでポイントだったのが堤真一というキャスティングで、原作ではハゲで小太りの醜男だった石神をいわゆるイケメンの部類に入る堤に演じさせたことは大きな改変でした。しかし、原作者が佐野史郎をイメージしていた湯川を福山雅治が演じたことでその人物像が変化したことに合わせ、石神も原作に準拠するのではなく、映像版「ガリレオ」に合わせた形に変更する必要がありました。湯川が石神の代弁者となるためには彼と紙一重の人物像であることが重要であり、人を惹き付ける魅力が偶然備わっていた湯川は幸福な人生を送り、根は同じであっても魅力に欠けた石神は日陰の人生を歩んでいる(冒頭、福山雅治が「愛など下らん」とキザに言う場面は、実はかなり重要)、そのためには堤である必要があったのです。さらに、蛇足と言われている雪山の場面にも意味が感じられます。二人が顔を合わせてホンネを語りあう特殊なシチュエーションとして雪山という舞台は必然性があるし、石神は真相に気付いている湯川を殺すつもりで雪山に誘い出したにも関わらず彼の命を助け、湯川は自分が殺されるかもしれないことを知りながらこの誘いに乗った。性根でつながっている二人の特殊な関係性を描くために、この場面は必要だったと思います。
[地上波(邦画)] 9点(2010-05-28 21:38:43)
51.  ミスティック・リバー 《ネタバレ》 
「許されざる者」と同様、正義など曖昧でいい加減なものだということでしょう。家の中でも一番かわいがっていた娘を殺された父親の怒りや喪失感から物語はスタートしますが(幸せだった日常と、突然それが壊された衝撃を見事に描写したイーストウッドとショーン・ペンの実力には脱帽なのです)、見ている私たちはここでジミーに目いっぱい感情移入し、「必ず犯人を殺してやる」と娘の遺体に誓う父親の決意に賛同します。しかし彼は誤った相手に復讐をしてしまう、しかもそれはかつての親友であり、家族ぐるみの付き合いをするデイブだったという絶望的な展開を迎えます。では、ジミーは間違っていたのか?最愛の娘を殺した相手への復讐心は、親であれば誰もが持ちうるものです。また、犯人に対してジミーが何をするのかをわかった上で、デイブの妻は「うちの夫が犯人です」と告白し、さらにデイブは警察からマークされ、問い詰めると意味不明なことを言い出す状態。少なくともあの夜、あの場で、デイブを犯人だと決め付けたジミーの判断は妥当なものだったといえます。しかし結果としてジミーはとんでもない判断ミスを犯してしまった。人間は神様ではないから、わかった気でいても真実のすべてを知り得ないし、そんな脆弱な認識を基礎に人の生死を決めると、いつか取り返しのつかないことをやってしまう。いかに正当な理由を持つ者であっても、過ちは犯してしまう。人が人を裁くこと、善と悪を区別することがいかに難しく、不確かなものであるかをこの映画は説きます。監督もまた、物語の登場人物に善悪の色づけをすることなく、すべての生きざまを淡々と描いていきます。。。と、ここまでは「許されざる者」と同一の主張なのですが、さらに無情感を押し出したのがラストのパレードです。自分の誤解が原因で夫を失いながら、その現実を受け止めきれずに人ごみの中に夫を探す哀れなデイブの妻。一方、事件が解決し、家族と共に新たな生活をはじめようとするジミーと、夫婦の絆を取り戻したショーンは、そんな痛ましい姿が目に入ることを意図的に避けようとします。恐ろしく冷酷でありながら、人間というものを鋭く描いた場面ですが、ここで唯一デイブの妻と目を合わせるのがジミーの妻です。夫の過ちを受け入れ、kジミーを後悔から立ち直らせた彼女は、夫を信じ切れなかったデイブの妻に対して勝者のまなざしを向けます。ここは本当に怖かったですね。
[DVD(吹替)] 9点(2009-12-22 20:40:07)(良:3票)
52.  スパイ・ゲーム(2001) 《ネタバレ》 
公開時にはブラッド・ピット主演のアクション大作として宣伝されたため誤解を受けましたが、これは硬派で知的なサスペンスです(だからこそ、アクション大作への出演を嫌がるブラピもこの企画には参加したのでしょう)。「スパイ・ゲーム」は逆説的なタイトルで、これは鮮やかに敵を倒す痛快なアクション映画ではなく、神経を擦り減らすような死と背中合わせの駆け引きを描く作品です。よって派手なアクションはほとんどなく(終盤の救出作戦すら、地味な撃ち合いで終わる)、スパイという世界が持つ極限の緊迫感や、命をかけた「ゲーム」であることから生じる痛みを作品の核としています。序盤のベトナム以外にブラピが銃を撃つ場面はなく、カーチェイスも格闘もなし、敵と顔を合わせることもなし。現地の協力者を口説き、彼らを戦場に送り込む駆け引きがひたすら描かれます。作戦が敵に漏れていたため協力者を置き去りにして逃げたり、作戦の手はずを間違えて死なせてしまったりという痛みのドラマをきちんと描いており、スパイ映画としてはジェイソン・ボーン以上に誠実に作り込まれた作品だと言えます。。。と、このように硬派な作風であり、なおかつ過去の回想と現在の救出作戦が並行して語られるという厄介な構成をとるため、作りの誠実さの代償として娯楽性という意味では問題のある脚本だと言えるのですが、これがスコットの手腕により十分面白く作られていることには驚きます。派手な見せ場は少ないものの、美しいビジュアルにかっこいい音楽、キレのある編集により、勢いのあるアクションを見たような高揚感を味わえます。脚本にあったと思われる泥臭さは調度いい具合に抑えられており、必要以上に重い作品にしていません。ラスト、作戦名を聞いて師匠の仕業だと知るブラピと、ポルシェで颯爽と退場するレッドフォード、この締めはまさに痛快でした。話の交通整理もうまいもので、ややこしい構造の作品でありながら、特に混乱することがありません。困難な企画にあって、水準レベルのアクションは寝てても撮ることができ、プラスαの工夫に頭を使う余裕のあるトニー・スコットを引っ張って来られたことは幸運でした。そこいらの監督に任せていたら、観客の頭を混乱させるだけの映画になっていたことでしょう。頭空っぽの映画ばかり撮る監督だと思っていたトニー・スコットの見方が変わった一作です。
[DVD(吹替)] 9点(2009-08-14 10:52:10)(良:1票)
53.  ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー 《ネタバレ》 
マッハで終了した劇場公開を見逃してしまったためイギリス版のブルーレイで鑑賞しましたが、これは映画館で観とけばよかったと大後悔の傑作。弾け切れてないと不評の「1」も私は好きなのですが、これは「1」の良さをそっくり受け継ぎつつ、超特盛りのパワーアップをした素晴らしい第二作。「1」からおなじみのヘルボーイとエイブの名コンビぶり、FBIとの掛け合い、リズとの恋愛と、悪魔の子なのに正義の味方で、人類を滅ぼす存在なのに人間臭く、いかついルックスなのに愛嬌があるという、いかにもマンガなキャラクター達のドラマの面白さはそのままに、前作では「よく出来てるね」止まりだった見せ場が超ハイテンション化。無数の妖精の襲撃から、豆から生まれた大怪獣の大暴れまでモンスターは大小揃える充実ぶり。ミスターウィンクvsヘルボーイのプロレスのようなガチンコ対決に、ヌアダ王子の殺陣に、ゴールデンアーミー再起動にと見せ場の嵐です。しかも、そこいらのハムナプトラのようなただ撮ってるだけの代物とは訳が違い、監督の美的センスがすべての場面で炸裂。アドレナリン大放出の娯楽作でありながら、芸術品のような映像美が全編を貫いています。滅びゆくものの悲しさと、人間とは別次元の荘厳さ・美しさを併せ持ったエルフ界や死の天使の場面は特に注目。彼らの姿を見せるだけで、重ねてきた歴史やこれからの運命を示唆する監督の手腕は、もはやギリアムやジャクソンをも超えているのではと思います。また監督自身が書いた脚本もよく練られており、コミカルな描写と緊張感を煽るべきパートのバランスが絶妙。遊びを入れつつ、締めるべきところはきちんと締まっています。足を引っ張るキャラが思わぬ大活躍というマンガでお馴染みの展開もきれいに決まった大娯楽ぶりの一方で、大怪獣に留めを刺すシーンの悲しさ、異形の者の孤独などもよく描かれており、ただの娯楽作に終わっていない見事な脚本になっています。愛する者の命と世界の運命の選択を迫られる展開もこの手の作品ではありがちですが、本作ではヘルボーイとリズ、エイブとヌアラ王女の双方に選択を迫り、それぞれ別の結論を出したのも面白いところ。この選択で次回えらいことになるかもよという伏線も期待を煽ります。ダークナイトに押されてアメリカでもいまひとつ影が薄かったようですが、純粋なアメコミの実写化としては史上最高の作品ではないでしょうか。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2009-02-24 22:14:00)(良:1票)
54.  フィクサー(2007)
本作は人生の岐路に立たされた男の物語であり、訴訟絡みは彼の人生を変えるイベントにすぎません。宣伝文句を期待して観た人はガッカリしたと思います。しかしドラマとしては超一流。人生の半分ですべてに行き詰った男の姿がリアルに描かれます。弁護士とはいえ名門大学出身ではないため、華々しい法廷ではなく裏のフィクサーとして生きるクレイトン。汚れ仕事しか知らない自分には明るいキャリアなどない、おまけに事業に失敗し借金を抱え、家族もいない、自分には何も残っていない。でもこんなはずじゃなかった。人より努力して弁護士になったのは、金銭面でもステータス面でも満たされ、人が羨む人生を送るため。でも今の自分はブルーカラーの弟にすら嫌味を言われ、別れた妻は気の弱そうな普通の男と再婚。こいつらより偉くなるはずじゃなかったのか?-そんな彼の折れそうな心を表現する印象的なシーンがふたつあります。ひとつは、借金を返すアテがなく、やむなく上司にお願いに行くシーン。彼は会社のためにフィクサーとなり、そのせいで自分のキャリアは潰れたと主張しますが、これは序盤、同じく汚れ仕事担当であるアーサーに対して彼自身がいった言葉の裏返し。「俺たちは自分で選んでフィクサーになったんだろ」。クレイトンはわかっているのです。でも、環境が悪かったから、会社が悪かったからと自分に言い訳しないとやってられない、この人生に納得いかない。それに対する上司の一言が突き刺さります。「お前が思うほど昔のお前は優秀じゃなかったかも」。もうひとつは、彼の経営するレストランの雇われ店長が、店を潰したことを謝りに来るシーン。彼を無視したクレイトンは、この様子を見てしまった幼い息子に「お前はあいつのような人間とは違う。お前は自分が思ってる以上に強い男なんだ。だからあいつみたいには絶対にならない」と自分自身に言い聞かせるように話しますが、この時の彼の弱さには胸が苦しくなりました。人生の中でもがき苦しむクレイトンは鏡ごしの私たちであり、矢のように鋭いセリフは私たちを貫きます。30代後半で脚本家に転向するもボーン・アイデンティティまでの10年は代表作のなかったギルロイ、15年に渡る下積みを経験したクルーニー、デビュー作が賞賛されるもその後は不遇の10年を送ったソダーバーグ、彼らの人生訓が込められたかのような、本当に重く素晴らしい作品でした。
[DVD(吹替)] 9点(2009-01-14 00:05:44)(良:3票)
55.  キング・コング(2005)
ピーター・ジャクソン作品におけるVFXは他の監督のものとは異質な印象を受けます。作り物の映像をいかにリアルに見せるかがVFXの勝負所ですが、この人の作品のVFXはCG&ミニチュア丸出し。カメラは巨大建造物をすり抜け、恐竜の肩越しに人間を見下ろし、自由に空を飛びますが、この見せ方では絶対にリアルに見えません(エアフォース・ワンの飛行機大破シーンにおいて、カメラがありえない動きをしたためにCG丸出しになったのと同じ理屈)。とはいえVFXに精通している監督さんですから、恐らく意図的にこれをやっているはず。つまりハナからリアルに見せる気がないのです。ではこの人の映画がダメなのかと言うとその逆で、CGのひとつの使い道を実践しているように思います。CGはリアルな映像を作ることがひとつの使い道ですが、同時に監督の脳内にある映像を自由にビジュアル化するツールでもあるはず。指輪物語では本の挿絵や読者の脳内にしかなかったイメージを見事に映像化しました。決してリアルには見えませんでしたが、イメージの映像化という意味では完璧でした。そしてキングコングでは、伝統的な特撮の魅力を復活させています。昔ながらの特撮映画は、いかにも作り物な映像が味だったりします。ストップモーションのモンスターはチラチラとぎこちない動きでリアリティのかけらもありませんが、そんなキャラが人間臭い動きをすることに愛着を覚え、ミニチュア丸出しであっても大破壊に興奮しました。それは「良いものを見せてもらった」というサービス精神に対する感動も多かったように思います。ピーター・ジャクソンはCGを本物っぽく見せることではなく、怪獣映画に必要なイメージをどう伝えるかに重きを置きました。JJ・エイブラムスがクローバーフィールドにおいて絶対に避けた「神の視点(現実的にありえない俯瞰ショット)」をあえて選択しているのです。怪獣映画においてはリアルに見えることは決して重要ではなく、大量破壊をもっとも見えやすい場所から見せるサービス精神の方が大事だとわかっているようです。また、コングの仕草や表情、巨大昆虫達のいやらしい動きなど、モンスターに味のある動作をさせることで独特の存在感を与えている点もストップモーションの良さを継承しています。本流の大作映画の作りではないため批判的な意見もあるようですが、伝統的なモンスター映画の継承者という意味では完璧な作品だったと思います。
[映画館(字幕)] 9点(2009-01-03 19:00:18)(良:3票)
56.  ノーカントリー 《ネタバレ》 
"No Country for Old Men"...「年寄りの住める国はなくなった」?世も末だとボヤくベル保安官は、極めつけの事件に遭遇していよいよ愛想尽かし、保安官を引退します。しかし本当に世の中は悪くなったのか?祖父の代に保安官補をやっていた老人は、自分の叔父が殺された時の話をします。1909年、強盗に家を襲われ家族の前で叔父は殺されました。また、ベルは昨日みた夢の話をします。登場するのは彼と彼の父親で、父は若くして死んだから息子の自分の方が老けていたと言います。つまりベルは父親よりも長生きしているのです。本当に社会は昔よりも悪くなったのか?今も酷いが昔だって酷かった。タイトルは「年寄りが懐かしむ古き良き社会などなかった」ということでしょうか。ではその社会の本質とは何か?それは殺し屋シガーが象徴する理不尽で絶対的な力。同じ標的を追う同業者、親切にしてくれた一般人、さらには雇い主まで殺してしまう彼の行動には理屈も合理性もありませんが、人の運命とはそういうもの。立派な人でも事故や病気で命を奪われるし、長生きする悪人もいる。運命の前で人の考える理屈やモラルなど取るに足らぬもので、その無目的さゆえ、それはコインの裏表のようにシンプルである。コイントスで自覚のないまま生きる道を得たおやじに、シガーは「この幸運を大事にしろ。みんなこれを分かっていない」と言います。運命とは予告もなくやってくるため、これを回避しても多くの人はその幸運に気付きません。しかし何十年も何事もなく生きていることが不運に捕まらなかった証なのだから、それを大事にしろとシガーは言うのです。そんなシガーに追われるモスは、幸運に対して無自覚な私達の代表。目撃者なしで大金を拾う幸運を一旦は掴むものの、その偶然性の分からないモスは現場に戻るミスを犯し、素性を知られてしまいます。また、シガーに追い付かれる寸前で発信器に気付き、待ち伏せする機会を得て襲撃から生き延びますが、またしても彼は幸運を認識できず、自分の力で切り抜けたと勘違いして対決姿勢を強め、それが自分だけでなく妻の命も奪う結果となります。一見頭の弱そうなモスの妻は、シガーと対峙した瞬間に運命を理解し、取り乱すことなくこれを受け入れました。シガーはその帰り道で交通事故に遭い、無敵の殺し屋は呆気なく重傷を負います。運命の前に人の能力など意味を持たないと言わんばかりに。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2008-12-21 00:42:08)(良:4票)
57.  イースタン・プロミス 《ネタバレ》 
バイオレンスを自称する他のすべての作品に対して「あんたら、本当の暴力をわかってないな」と言えるほどの強烈なバイオレンス作品。これに比べれば、スカーフェイスやグッドフェローズすら甘く感じられます。直接的なバイオレンスシーンはサウナでの死闘のみなのですが、暴力的でギラギラとしたオーラを作品全体が放っており、100分間すべてがバイオレンスシーンと言える状態となっています。コッポラやマイケル・マンが美学をもって描く闇の組織像もここにはなく、平然とモラルを侵し、人の不幸の上で生活する理不尽な縦社会がこれでもかと映し出されます。家族を大事にし孫をかわいがる一方で、10代の少女たちを売春宿に閉じ込めるセミヨンの憎々しさといったらありませんが、これがヨーロッパや、もしかしたら日本でも現実に起こっていることなのですから恐ろしい。監督と脚本家にはマフィアを糾弾したいという意思もあったようですが、現実社会の問題がよく物語に昇華しており、製作者たちがアンナやニコライに託した怒りに私たちも自然と共感できる形となっています。カタギからヤクザの世界を垣間見るアンナが私たちの視点となりますが、彼女の行動原理や直面する事態への反応が非常に自然なので、話に違和感がありません。口数の少ないニコライの人柄を僅かな行動や言葉からきちんと描けているのも見事。キリルから強要されたSEXのあと、情けなさと絶望感から泣くこともできない売春婦の少女に「まだ死ぬなよ」と声をかけるくだりは、作品の世界や彼の人柄を端的に示していました。また、本作の特徴である過激な暴力描写も決して露悪的ではなく、重みと必然性と作り手の責任感が伝わってきます。監督の手腕は神業の域に達していて、オリバー・ストーンあたりだと3時間以上かけそうな情報量を100分程度で無理なく片づけています。物語の進行と登場人物の感情が必ず同時に描かれ一切のムダが省かれており、駆け足も間延びもなく観客のバイオリズムにピタリと一致した構成となっています。テーマから逆算して描くべきものとそうでないものの取捨選択も的確に為されており、例えばFSB絡みの展開はいくらでも膨らませそうなものの、テーマの上では重要でない為触れる程度となっています。この監督は変な映画ばかり作ってるイメージがありましたが、いざシンプルなものを作らせても並の監督ではマネできないレベルにするのですから大したものです。
[DVD(字幕)] 9点(2008-12-19 01:11:27)(良:1票)
58.  ターミネーター 《ネタバレ》 
小学1年の時に日曜洋画劇場で見て以来、現在に至るまで私を映画にどっぷりハマらせるきっかけとなった作品です。普段見るテレビとはまるで違う世界、ターミネーターがものすごく怖くて、アクションの凄まじさに驚いて、ラブシーンに気まずくなって、とにかく圧倒的に面白くて、まったく目が離せない感覚を人生ではじめて味わったのがこの時でした。以来数えきれないほど見ていますが、いま見てもやっぱり面白い。キャメロンの映画作りのセンスはあらためてズバ抜けています。舞台は真夜中で、出てくるのはゴミだらけで人気のない路地裏ばかり。同年の作品と比較してもアクションは派手な部類には入らないのですが、冒頭のテロップひとつで「これは人類の存亡を賭けた戦いだ」という史上空前のハッタリをかましてみせます。アクションにはさほどお金をかけない一方で(シュワ氏の存在感からとんでもない破壊者を見たような気になるものの、物を壊したり爆破したりの場面はかなり少ない)、ターミネーター絡みの特撮や彼が持つ銃火器には徹底したこだわりがあり、「ここを作り込めばあとは何とかなる」という判断が的確に為されています。最初から大手と契約してたスピやルーカスとは違い、ロジャー・コーマンの元で修業した苦労人キャメロンならではの強みでしょうか。脚本の出来も上々。例えばカイルがサラにこの戦いの背景を話すシーン。普通ならいったんここで話が停止状態になるのですが、本作ではなんとカーチェイス中の車内でこれを一気に説明させ、話を止めないのです。またこの車内ではパニックになるサラを「黙れ!僕が話していいと言うまで話すな!」とカイルが恫喝して話を聞かせるやりとりがありますが、このたった数十秒のシーンで、突如命を狙われることになったサラのリアルな反応を描き、一方でカイルが厳しい世界の住人であることをうかがわせます。本作はテンポの速いアクションですが、その中でも人間の生身のリアクションやドラマがきっちりと描けており、そのリアリティがSFとしての説得力をうまく補完しています。傷つくカイルを救おうとする中でサラに戦う強さが宿っていく過程は自然だったし、ラストではカイルの思い出を話をしている時に撮られた写真こそが、カイルがサラを愛するきっかけとなった写真でしたというオチ。SFや銃火器を好む一方で、最終的にはこういうセンチな話を好むあたりが、やはりキャメロンなのです。
[地上波(吹替)] 9点(2008-12-06 03:10:22)(良:1票)
59.  ボーン・アルティメイタム 《ネタバレ》 
観客を飽きさせないよう派手なアクションをやればやるほど「んなアホな」のスパイラルに陥る作品が多い中、本作は見せ場の連続なのにバカっぽくなく、そこにリアリティを感じさせる作りとなっています。特に素晴らしいのがロンドン駅での追っかけで、追っ手の配置や視界を先読みしながら対象を的確にナビゲートする様はあまり見たことのない珍しい見せ場。ボーンはただの強い殺し屋ではなく、状況判断やとっさの決断力にも長けた人間であることをちゃんと画で見せてきているのです。「陰謀のセオリー」「ロング・キス・グッドナイト」等、記憶を失った政府の殺し屋映画はいくつもあり、ボーンシリーズもネタ的にはありふれた作品なのですが、そんな中で新しさを発揮しているのは、世界を股にかけるエージェントに必要であろう知性を描いているためでしょう。目の前の危機を腕っぷしで乗り切るかつての主人公達とは違い、二手先三手先を読んで行動し、衝突はなるべく避けるという「当たり前」のことをきっちりやっているのです。またボーンが相手とするCIAも同様で、きちんとした官僚機構として描かれているので、悪役としての存在感を発揮しています。「CIAは巨大な官僚組織である」のは当たり前なのですが、これまでのアクション映画は見事なまでにこのおいしい部分をスルーし、その結果ボスと手下数人が勝手に暴走して主人公に倒されるという、何ともこじんまりとした組織となり下がっていました。そこにきて本シリーズは、個人の通話でも自由に盗聴できるハイテク機器を操り、世界中即座にエージェントを送りこむ豊かなネットワークを持ち、警察機構に指示を出すこともできる強大な権限を持った組織として描いています。そこに従事する人々も魅力的で、その切れる頭で出世したと思われるパメラ、現場の叩きあげで汚れ仕事をしているうちに感情も麻痺してしまったアボット、組織のためなら何でもやってしまう出世の鬼ヴォーゼンら、「官僚組織にいそうな人々」の熱いやりとりも見ごたえ十分です。賛否の分かれる細切れアクションについてですが、画面も話も「リアルに見えること」を意識した本作においては、その必要性があったように思います。アクションの中にリアリティを感じさせたい場合、「仮に現場に居合わせればこのように見えるだろう」という雰囲気を作り出せる手ぶれ映像や細切れの編集は、やはり威力を発揮しているのです。
[映画館(字幕)] 9点(2008-08-26 02:26:24)(良:4票)
60.  バンド・オブ・ブラザース<TVM> 《ネタバレ》 
1話1話が充実していて、1時間とは思えないボリュームを全話に渡って味わえます。また全10話を通した時のバランス感覚も見事で、訓練の第1話にはじまり、そこいらの戦争映画を軽く超える圧巻の戦闘シーンを見せる2~4話(戦場における戦車の圧倒的なパワーが描かれた『補充兵』は特に気に入ってます)、エピソードごとに主人公を変え、毎回違った切り口でドラマを見せる5~8話(無能な司令官に振り回される『雪原の死闘』にはサラリーマンとして共感を禁じえませんでした)、第二次大戦の悲劇をシリアスに描いた第9話、そして締めくくりの第10話。どのエピソードも素晴らしいのですが、最終回の第10話には特に意義を感じました。戦場における友情や英雄物語を描きたいのなら8話で終ればよかったし、第二次大戦の歴史を描くのであれば9話まででよかった。しかし戦争が終わって占領軍となったアメリカ兵達の姿を描いた10話を終わりに持ってきたことで、この作品は他にない奥行きを得たように思います。ナチスが残した高級品を「戦利品」と言って勝手に持ち帰り、敗戦国民に対して横暴に振る舞い、元ナチスと言われる老人(真偽は不明)を不確かな情報から射殺する、そんな姿を最終話できっちり見せてくるのです。そしてラスト、ウィンターズからE中隊に対して言われるべき言葉を、ナチスの将校に喋らせるという演出も見事。このシリーズに対しては「アメリカ万歳ではないか」という否定的な意見もあります。確かに第9話まではアメリカ兵の視点のみで描かれており、悪役であるドイツにとっては公平性に欠ける描写もあったように思いますが、この非常に冷静な締めくくりを持ってきたことで、普遍的な物語になったように思います。あえて難点を言えば、戦争ものの宿命として個人の判別が難しかったことでしょうか。10話見ても顔と名前が一致しない隊員が何名かおり、「で、いま死んだの誰だっけ?」ということが毎話あったのが残念。「これが登場人物ですよ。みなさんしっかり覚えてくださいね」という意味で第1話があったんだなと、10話全部見て気付きました。ま、この混乱を逆手にとれば1周目は圧巻の映像に驚き、2周目は緻密なドラマを発見する、そんな楽しみ方もできそうなわけで、これは何度も見返し、そのたびに新しい楽しみに気付く作品になりそうです。
[DVD(吹替)] 9点(2008-08-21 02:06:16)
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