61. 盗まれた欲情
《ネタバレ》 最初から今村昌平は『イマヘイ』だったんだな、という事が良く分かる1958年のデビュー作。20~30代の私は彼の初期~中期、それこそ「人間蒸発(’67年)」「神々の深き欲望('68年)」くらいまでの作品が大好きで『社会理念や常識を吹っ飛ばす人間の生命力』を徹底して描き上げるスタイルに惹かれていた。だいたい助監督が浦山桐郎で周りが西村晃/小沢昭一/仲谷昇/菅井きん/高原駿雄って時点でもう今村節全開。ヒロインが春川ますみとか沖山秀子だったらもっとエロエロなんだろうなぁという煩悩まで起こってしまった。後期の今村ならバッドエンドもしくは人生のほろ苦さを感じさせて終わらせるのだろうけど、Show Must Go Onで明るさを感じさせる終幕にしたのも(原作未読なので原作がそうなのかもしれないが)新人監督らしいみずみずしさに溢れているのでこの点数。先に「豚と軍艦(’61)」「にっぽん昆虫記(’63)」を見て、気に入ればかな。機会があれば。 [映画館(邦画)] 6点(2020-01-04 10:32:33) |
62. 死霊の盆踊り
《ネタバレ》 おっす!おらNbu2!おらもレビュアー仲間にいれてくれよな!(野沢雅子さんの声で) という訳で今年最後の映画鑑賞、アラフィフおじさんがこの度32年ぶりのスクリーンリバイバル・HDリマスターを劇場で見ましたよ。もう何と言うのか...劇場で映画を鑑賞して「2001年宇宙の旅」「アラビアのロレンス」「燃えよドラゴン」を見たのと同等の衝撃=何にも感慨が起こらないという衝撃、虚無の感情が脳内を駆け巡った90分。 自分はこれまでワースト映画は見てきたつもり、だった。「デビルマン」=怒り:漫画史上空前絶後の傑作台無し、「北斗の拳」=哀しみ:バツが悪そうに演技する鷲尾いさ子や真剣に吹替えしてる神谷明、「シベ超」:驚き=情熱に対する映画の面白さがここまで反比例している実例、そして「北京原人」:おぱーい。...悪いなら悪いなりに感情感想を抱くし、込められるだろう。がこの作品、怒り哀しみ驚きおぱーいといった歴代のワースト作品に対して感じた要素がてんこ盛りにも関わらず、なんにも感じない。あるのはただ「他になにか有益な時間の使い方があったのでは」「何故俺は、劇場まで来てこの映画を見ているのだろうか」という禅問答。ラスト救助隊が助けに来た時、マジで「助かった~!」って思ったよ。巻き戻し早送り、ストップ出来ねーんだから。 で思ったんだ、これは映画ファンにとっての予防接種のようなもの、新井選手にとっての護摩行そのものだって。この先どんなにつらい映画ライフを送ろうとも「俺は『盆踊り』を劇場でお金を払って90分時間をかけて、鑑賞したんだ」って。心の苦しみ、全てオーケー。映画製作者や関係者にも希望の一本かもしれない。「下には下がある」と(それはそれで困ったことだが)。フェリーニ「道」でリチャード・ベースハートがジュリエッタ・マシーナにも言うてたやないか、「どんなものにも意味がある、この石ころにだって」。だから映画の内容はともかく1点を献上する。んじゃ、またな! でもこの映画が人生最後に見た映画だとしたら...絶望だな。 [映画館(字幕)] 1点(2019-12-30 18:43:39)(笑:2票) |
63. 雲ながるる果てに(1953)
《ネタバレ》 GHQの占領統治が終結、これが1953年=その前後から各メディアへの情報統制/規制も解除されつつあり、それは映画界にも影響を及ぼした。メジャー会社より独立した「独立プロダクション」の隆盛もこの頃から。山本薩夫/新藤兼人/今井正などが有名だが、家城巳代治もその一人。...すみません、説明が長かったですね。で現在でもよく上映される「太平洋戦争における特攻作戦」の先駆けになったのがこの作品。私も久方ぶりに映画館で見て印象をもったのは、軍上層部の特攻兵に対する見方=徹底して「兵器」としての感覚で表現している、その点にありました。平成~令和の戦争映画はその点、まだ人間としてあつかわれてる気がします。とうちゃんかあちゃんと号泣した特攻兵が国のためにと飛び立っていったその後で、更なる「兵器」の投入を示唆する軍上層部の非情さ。 あとは鶴田浩二。19歳で徴兵され海軍航空隊に所属していた彼は整備兵として、間近で特攻隊を見続けた体験をしております。私財を投じ戦没者の遺骨を収集し続け、戦争に対する講演活動をその俳優人生において積極的に行っていた彼にとってこの作品はたぶん忘れられない一本であったでしょう。そういった点を考慮してこの点数。 [映画館(邦画)] 7点(2019-08-11 07:51:41) |
64. ひろしま(1953)
《ネタバレ》 世の中には「総合芸術たる映画」とは違った、作家監督が「自分達の主張を何とかして伝えたい・伝わって欲しい」という側面で作られた作品がある。 同年の「原爆の子(新藤兼人)」は鑑賞済であったが、恥ずかしながらこの作品は最近まで知らなかった。戦後8年経った広島。「原爆について学んでなかった・忘れようとしていた」風潮の中で人々はあの日の悪夢を思い浮かべる。この作品のポイントはやっぱり原爆の惨劇をとことん映し出した前半の群衆シーン、そこに尽きるのだと思う。正直このシーンだけで疲労感は極限に達した。...映画において「イデオロギーを声高に主張する」という方法は作家の押し付けがましさが過度に出がちな感があり、個人的な感想としては「原爆の子」「ゴジラ(’54)」には及ばない。そしてこの点(「ドイツではなく日本に原爆が落とされたのは、日本人が有色人種だからだ」台詞=松竹は「反米的」と判断)が全国上映の扉を閉じ、幻の映画となってしまったのだろう... 以上が初見時の感想(2017年)。 がこの度リマスター化したフィルムを劇場で見る機会があり、私は映画としての良し悪しとは別にこの作品に携わった関係者キャストの想い、特に「絶対に戦争を起こさない+この悲劇を風化させない」という気持ちをなんとか皆様に伝えたく、点を+2にすることにした。被爆者が語る「一番自分が経験した事を身近に感じさせるフィルム」「(実際にエキストラとして映画に参加した被爆者の証言)現実から比べたらとてもじゃないが、あんなものではない、と私たちから言えば思いますけどその体験をした人がどんどん少なくなっている現在だからこそ、何かの形で伝えていく事は絶対に必要な事なのではないかと」(ETV特集×NHK1.5chより) [DVD(邦画)] 8点(2019-08-07 13:06:02)(良:2票) |
65. あした晴れるか
《ネタバレ》 「芦川いづみの魅力は『憂い顔』(風船/洲崎パラダイス・赤信号/陽の当たる坂道)だ」と小生は言う。友は「笑顔が素晴らしい(乳母車)」「大人の魅力(嵐を呼ぶ男【渡哲也版】/若草物語)」「幸薄い美少女も素敵(佳人)」そしてここに「ツンデレ」コメディエンヌも継ぎ足そう。話に齟齬があるというのは野暮ってもの、これはアイドル映画なのだからキャラクターに魅力があればそれで十分なのだ。久しぶりにスクリーンで鑑賞したが今回改めて強く感じたのは、この様な小品に渡辺美佐子/中原早苗/高野由美といった他社作品なら主演級の若手俳優を惜しげもなく助演として投入し、三島雅夫/東野英治郎/殿山泰司という多くのベテランで脇を固めている→「日活」という会社の当時の勢い=映画が流行の最先端であり発信地であった事実そのものでありました。もちろん監督中平康の映像テクニックが、この映画の魅力に貢献しているのは間違いない。生きてるうちに中平+芦川いづみの「結婚相談(’65)」見てみたいなぁ...。 [映画館(邦画)] 7点(2019-04-12 07:29:56) |
66. 風と女と旅鴉
《ネタバレ》 三國連太郎の起用/ドーランを使わず全役者はスッピン/同時録音の実施と、監督加藤の作歴上始めて?の股旅映画は50年代東映チャンバラに、「リアリズム」を組み入れるという試み溢れる意欲作。ただ率直に言えば主役二人以外の人物造形/脚色は東映チャンバラ映画のファンタジー世界そのままなので、(千両箱を置いて逃げ出す殿山泰司とか長谷川+丘+錦之助の三角関係、もしくはコメディ悪役の造形?と思われる進藤英太郎)その半端感がマイナスポイント。 それでも最後まで見る事ができたのは監督加藤のワイドスクリーンを存分に活用したローアングル+クロースアップの使い方、そして画面上の人物配置に工夫を凝らしたショットの素晴らしさと役者錦之助の演技=明暗含めた感情の出し方が抜群に上手い、という点にあるのだろう。...でこの作品がなぜ未だDVD化されてないのですかね?がんばれ東映ビデオ! [映画館(邦画)] 7点(2019-04-08 22:04:57) |
67. 恐怖の報酬(1977)
《ネタバレ》 この度2018年11月にデジタルリマスター化した【オリジナル完全版:121分】がスクリーンで上映されたので早速行ってきましたよ。私は監督フリードキンの、くどさというのか余計なショット・演出の羅列が好みでないので「フレンチ・コネクション」も「エクソシスト」も正直苦手。但この作品についてはそのくどさがまさにジャストフィットで、彼の最高傑作という世評もわからなくはない。特に物語佳境の有名な「ブランブランな吊り橋をニトロ積んだトラックでわたる」あのシーンはもう笑うしかない。オリジナルであるクルーゾーの「恐怖の報酬(53年)」の方が好みなのでそれとの差別化、という事でこのレビュー点数にしたが、意外と楽しめたという意味ではもう+1点でもいいくらい。印象的だったのは3つ。1. 53年版オリジナルにおけるラストの「あちゃぁ~」的流れよりもこのリメイク版のラストの方がより良い、という意見には100%同意。2. 原題が53年オリジナルは「THE WAGES OF FEAR(LE SALAIRE DE LA PEUR)」=文字通り直訳/恐怖の報酬なのだがこのリメイクは「SORCERER(ソーサラー)」=魔術師/呪術師なんですよね。ジャングルの熱/呪術に演者・観客も呑みこまれてゆくのか。3. 音楽。これこそまさに「ダサかっこいい」。53年オリジナルを先に見てからの方がいいかも。 [映画館(字幕)] 7点(2018-11-24 19:56:12)(良:1票) |
68. あしたのジョー2
《ネタバレ》 2018年5月に4Kデジタル・リマスターのブルーレイが発売されたのだが、「日本の映画会社もやればできんじゃん!」というくらいの物凄いクオリティ。但し今回の点数はこの画質に対してのものであり、出崎統/杉野昭夫コンビの作品を堪能するのなら絶対TV版を見ていただきたい。ポイントは2点。①TV版では登場人物各位がそれぞれ彼らなりに「真っ白に燃え尽きる」事を模索している人間群像劇である点が物凄く丁寧に描写されていて印象深い。それはマンモス西/ウルフ金串やオリジナルキャラであるルポライター須賀清、また統一戦を戦うレオン・スマイリー。白木葉子も彼女なりに、ボクシングに惹かれた者として責任を全うする矢吹丈の「同士」として描かれているのは気のせいか。②よくアニメ映画で聞かれる『声優か俳優か』という課題、私はこう答える「キャラクターに合ってれば、どっちでも良い」。あおい輝彦と藤岡重慶のコンビは俳優がアニメ作品の声優として携わった最高峰のクオリティと、考えてます。後は下記レビュアー皆様のご意見にまったく同意。という事でこのテレビ版のリマスターも、宜しくね。 [ブルーレイ(邦画)] 5点(2018-06-27 18:31:31) |
69. 質屋
《ネタバレ》 シドニー・ルメット監督の初期作品として映画評論家の町山智浩氏が「トラウマ映画館」で取り上げられたこの作品がようやくDVD化=販売/レンタルされたので、何十年ぶりかに鑑賞。ニューヨークの貧民街で質屋を営むユダヤ人、もともと大学教授で幸せな家庭を持っていた彼だがホロコーストによって人生が一変する。お金のみが生きる糧。自分を慕ってくれる者はいるものの人々の優しさに触れる度に思い浮かぶ過去の辛い経験。町山氏曰く「ユダヤ系が中心のアメリカ映画界が始めてホロコースト(によるPTSD)を題材にした作品」であり、「アメリカ映倫が始めて女性の裸を映し出すことを認めた」映画であるそうな。という事で今の映像表現に慣れている我々からすればもっと刺激的な、刹那的なインパクトが足りないとは思うが戦争終結から20年経ってようやく取り上げた事を考えれば、その傷の重さがわかろうというもの。演出的には過去のフラッシュバック情景が増長すぎる気がするが、監督ルメットの特長である手持ちカメラでとらえたニューヨークの風景(名カメラマン=ボリス・カウフマンの撮影)+クインシー・ジョーンズの音楽も相まって雰囲気抜群。そしてロッド・スタイガー。「夜の大捜査線」の警察署長と同一人物であるとは思えないでしょ、素晴らしい。 最後に一言。今回のDVD化は嬉しいが、字幕はちょっと物足りない。約30年ほど前のソニー・ビデオライブラリー版/wowowの「トラウマ映画館」で見た際には言及あったユダヤ系・黒人ヒスパニックに対する蔑称が省かれている。「作品の意図を尊重する」という意味でもう少し考慮しましょうね、映画会社の皆様。という事で機会があれば(解説資料があればなおOK)。 [ビデオ(字幕)] 8点(2018-05-13 10:16:32)(良:1票) |
70. クリスティーン
《ネタバレ》 この作品に関しては私は映画関係者に、ふざけるなと言ってしまいたい。私は初期キング作品のファンで「ペット・セメタリー(83)」位までは原本と辞書を照らし合わせて読んでいたほどである。この作品については映画化が先に来て翻訳/文庫化(87年)は後だったので、最初見た時は「車が殺意を持って人に襲い掛かる」という点と58年型プリマス・フューリーの造形、車が自然に治ってゆく描写のみ印象に残った程度であった。で原作小説を読んでみる...なんじゃぁ~こりゃぁぁぁぁああああ!(松田優作風に)まずこの作品はホラーの体を装った素晴らしい青春小説である事、そしてクリスティーンの殺意の根本は、元の持ち主であったローランド・ルベイ(作中では車をアーニーに売り飛ばした後、直ぐ死んでしまう)=青春時代~老年に至るまで何一つ幸せの無い(と思いこんでいた)男の怨念→「あいつら良い気になりやがって」という恨み節というポイントがまるっきり抜け落ちてるじゃないか。名翻訳家深町眞理子氏がこの作品の翻訳をしていることもこの原作を愛している理由なのだが、彼女も翻訳あとがきでこの映画化に関して「そりゃないよ」と述べているくらいなのだから本当、なんて改悪をしてしまっただよなんですよこれ。「クリスティーン」「クージョ」「ファイアスターター(炎の少女チャーリー)」については映画じゃなくて原作を読んでいただきたい。と思いきやこれらみな絶版扱い。トホホ。 [ビデオ(字幕)] 3点(2018-05-08 21:37:10) |
71. 雌牛
《ネタバレ》 先日ご逝去された高畑勲監督の功績として、数多くの作品を生み出した事もさることながらスタジオジブリの責任者として世界の優れたアートアニメーション作家の紹介と配給に努められた点も忘れてはならない。ガラスペインティングを使用したロシアの作家アレクサンドル・ペトロフも最新作「春のめざめ」がジブリで提供され上映されているが、第一作となるこの作品はドフトエフスキーの短編を大学の卒業制作として制作したもの。にもかかわらずアカデミー賞にノミネートされ、広島国際アニメーションフェスでグランプリを取った事実から、発表当時相当のインパクトを観客に与えたことだろう。作品は農家一家にいる少年と雌牛の物語。雌牛が子牛を生むが、両親はお金に換える為直ぐに子牛を引き離し売りとばしてしまう。雌牛はめっきり元気を失くし心配する少年。それからしばらくして... たぶんこの作品が伝えたかったのは少年の目を通じて見た、「初めて感じた様々な愛のかたち+その豊穣感」にあるのだと思う。この作品と「おかしな男の夢」「マーメイド」が入っているペトロフ監督の作品集DVDは手に入りづらくなったが「春のめざめ」「老人と海」が好きならこの作品集、持ってて損はありませんぜ。機会が有ればぜひ。 [DVD(字幕)] 7点(2018-04-20 11:15:06) |
72. ミュージックボックス
《ネタバレ》 世の中にはまだDVD化されていない名作が多いのだが、このコスタ=ガブラス監督の一本もまたしかり。戦争犯罪を犯したとされる父親の為に弁護士の娘が無実を証明すべく立ち上がり、周囲の協力を経て裁判で勝利しそうなところまでもってゆく。が、証拠を集めれば集めるほど彼女には疑念がわいてくる...作品における前半~中盤に至る法廷サスペンス劇も内容の重さに気が重くなりそうなのだが、本当の衝撃は後半、彼女が戦争犯罪の現場となるハンガリーへの旅で見つけた事実と証拠品=ミュージックボックス(オルゴール)の出現によってやってくる。そして最後に彼女がとった決断。被害者がいる以上「犯罪」には結局、時効という概念は無いのだという観点もわかりつつ、「改心」という余地を全面否定してもよいものなのか、戦争犯罪の責任は国家/個人どこまで及ぶものなのか(この父親役アーミン・ミューラー=スタールの演技が上手すぎる)...まぁこのピーチクパーチク述べている私の感想の意味は、本作を見てからどうぞ皆様、ご判断下さい。「Z」「戒厳令」「告白」といった初期監督作に比べればわかりやすい+初見時の衝撃=高校生の自分に与えたインパクトを考えて+1点追加。TSUTAYAでも紀伊国屋書店でもジュネス企画でもどこでもいいから、ちゃんとソフト化してください。お願いだから。【2021年追記:とレビューを書いてはや3年。この度TSUTAYAの「良品発掘コーナー」にて待望のDVD化。この調子で「Z」「戒厳令」「告白」のDVDレンタル化も、宜しくおねがいしま~す】 [映画館(字幕)] 8点(2018-04-12 00:39:46) |
73. じゃりン子チエ
《ネタバレ》 先に述べておく。極・私的高畑勲監督の劇場映画最高傑作は「火垂るの墓」でもなく「平成狸合戦ぽんぽこ」でもなく、(「パンダコパンダ」には傾きそうになるが)この作品である。...思い起こせば映画好きの友達と激論を交わした。友曰く、漫画+TVアニメと雰囲気が違う/ヒラメちゃんが出てこない/いきなり「ゴジラの息子」映像の挿入はそぐわない/吉本芸能の大御所を使った声優陣がうっとおしいなど。...いやいやその観点が可笑しいのだ、わからずやめ。この劇場版での高畑監督の意図は「(原作とは異なる)1960年代後半の大阪を舞台としたじゃりン子チエ」物語・ファンタジーの創出であり、はるき悦巳原作の完璧な再現であったTV版とは違うのだよ。吉本芸人に求められてるのは関西社会の雰囲気であり演技ではない。そしてチエちゃん一家の生きる活力=明るさにフォーカスをおいた原作よりも、人生の浮沈盛衰=現実感ある市井の生活に視点をおけば悲哀感が出てくるのは当然。そこがいいんじゃないか。(家族旅行が原作では金閣寺→遊園地に変更されたのも印象的。映画表現においては「遊園地=不安の隠喩(メタファー)」でもある) こんな議論も最後は「世界名作劇場の高畑作品最高」→「『ハイジ』は別格として『母をたずねて~』と『アン』、どっちが好きか」になってゆくのでした...。高畑監督ご冥福をお祈りします、そして有難うございました。 [ビデオ(邦画)] 8点(2018-04-06 10:31:13)(良:3票) |
74. キクとイサム
《ネタバレ》 今井監督映画のテーマにいつも古臭さを感じてしまう私。この作品にも時代との乖離を感じるが、役者の演技力で見せきってしまうからすごい。宮口精二に東野英治郎、滝沢修や三國連太郎といった演者の登場には驚かされたが、やっぱり北林谷栄の凄さ。(約30年後「となりのトトロ」における「メイちゃーん」という呼びかけ、あのまんま。御理解いただけるだろうか)物語の終わり方も「頑張って生きてゆくんだ」と予定調和的なものになっているが彼女が演じたからこそあの説得力が生まれたのだと思う。子役の二人も好印象。これは機会があれば。 [映画館(邦画)] 7点(2018-01-21 20:33:12) |
75. 昇天峠
《ネタバレ》 ブニュエルの「脱力系」ロード・ムービー。但しコメディを期待すると現代の観客には合わない気がする。そんな私の琴線に引っかかるのは「筋金入りの無神論者」と自身を称し、後年キリスト教を風刺する作品を取り続けた監督ブニュエルがこの作品でも「祈りを捧げたからといって物事は上手くいくとは限らない」「理想から程遠い結果に落ち着く人生」をキリスト教の挿話を暗示させる映像表現で示している点にある。激しい風雨の中を突き進むバスはまさにゴルゴダの丘を登るキリストの比喩であり、リンゴ(禁断の果実)を食べながら主人公を誘惑する女、バスに乗り込んでくる山羊(聖書における悪魔の化身)。道中主人公が体験する様々なトラブルは「七つの大罪」の暗喩。親想いの主人公は最後色欲に負けて聖者になり切れず、親の死に目に会えないというしっぺ返しをくらう。ラストもハッピーエンドに見えがちだけど、それは主人公が奸計を使っての事であり「人をだます事を覚えた」暗い心の発露感は否めない。オープニングが結婚式/ラストは葬式、バスの往路に出産/帰路に葬列というのも印象深い。万人におすすめとは言えないが興味があれば。 [ビデオ(字幕)] 7点(2018-01-03 10:29:57) |
76. ワイルド・ブリット
《ネタバレ》 私にとってのジョン・ウー最高傑作はこれ。ところが彼の作歴上この作品は「ディア・ハンター」どころか「天国の門」ばりの失敗作で、香港人の友達曰く、一時香港映画界における『期待外れ』の代名詞だったそうな。(その珍名声はすぐウォン・カーウェイ「楽園の瑕」にとって代わられた、らしいけど)確かにこの映画はジョン・ウーにありがちな「爽快さ」から程遠い陰惨な話でラスト30分のガンファイトは、カタルシスというよりは友情の破綻・青春の輝きの終結そして人生の破滅を意図している、と観客に思わせるほどの悲壮感溢れたものになっている。ただこの作品はだからこそ一部観客に強い印象を残し、香港映画史に残る一本になり得たのだと思う。更にキャスティングが良い。レイ・チーホン、サイモン・ヤムやファニー・ユンも良いがやはりトニー・レオンとジャッキー・チュンに尽きる。チョウ・ユンファではトニーの悲しみに満ちた佇まいは演じられなかっただろうし、歌手として名の知れたジャッキー・チュンにこんな役者としてのポテンシャルがあったとは。因みに日本語吹替え版=トニー/井上和彦、ジャッキー/石丸博也、レイ/曽我部和恭、サイモン/安原義人も素晴らしい。ちょっと書きすぎたが機会が有れば。 [映画館(字幕)] 8点(2017-12-09 18:48:11) |
77. 男たちの挽歌II
《ネタバレ》 「キン...お前は行っていい」この最後のルンさんの一言を聞くためだけに何回見ただろうか。初見は香港の映画館で見たリバイバルロードショーだったので、想い出補正も含めてこの点数。いちいち細かいこたぁ、気にしない!(ちなみに日本刀に対して?の声あるみたいですがテレビの時代劇=京劇/剣劇からキャリアをスタートさせたティ・ロンなので刀はしごくもっともなアイテム。香港の観客はドッカンドッカンですわ) [映画館(字幕)] 7点(2017-11-30 19:12:11) |
78. 冒険者たち(1967)
《ネタバレ》 鑑賞年齢によって印象が変わる作品。初見時10代後半~20代だった自分は幸せだった。おっさんになった今再見してみて感じたのはヒロインが海中に埋葬されたシーン(映画史に残る名シーン!)より後半、残された男2人が自分達の青春に折り合いをつけて生きてゆく情景・シーンの方がはるかにインパクトが有ったという点。特にリノ・ヴァンチュラが要塞島の近くに住居を構え、地元の子供に彼の趣味であった自動車エンジンの話をしているシーンは演技を越えた何かを感じる。マイナス点は唐突に表れる強盗団の存在だが、今ではそれすら「人生に起こりうる突然の不幸や暗い影」を表すメタファーだったのではないかと勝手に解釈している。そして最後に強調したいのだが、ヒロインがアラン・ドロンではなくリノ・ヴァンチュラを選んだ点で、この作品は観客に甘い想い出を残している事。そりゃぁ胴長短足禿げ一歩手前、20歳の私は大喜びでしたよ、「リノ・ヴァンチュラを目指せば良いのか!」って。全てが無理と悟るのにそう時間はかかりませんでした...。 [映画館(字幕)] 9点(2017-09-29 09:55:14) |
79. ガス人間第一号
《ネタバレ》 ガス人間の行動規範が「恋は盲目」なのでその点は印象は薄いのだが、この作品は八千草薫や左卜全等の「滅びの美学」があったからこそ邦画特撮史上の佳作となりえたのだと思う。合わせて東宝映画の名脇役・土屋嘉男にとっても記念すべき一本。本日訃報を受けてこのレビュー。ご冥福をお祈りします。 [映画館(邦画)] 6点(2017-09-06 10:15:24) |
80. ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章
《ネタバレ》 「魔少年ビーティー」からリアルタイムで荒木先生作品を追いかけている身分であり、劇場版「ファントムブラッド」まで見ているアラフィフ私としては今回の映画化について「デビルマン」級の破綻すら覚悟し鑑賞したが、(期待値を下げていたという事を抜きにしても)意外とちゃんとした作りで好感がもてた。①スタンド能力の実写化+そのバトルに中心を置いた展開に比重を置いた事(原作ジョジョ4部の面白さは杜王町での「奇妙な」事象がポイントと自分は考えている為)②諸悪の根源を全て吉良吉彰に集約したのは英断と思う(音石明=レッチリをスクリーンで見てみたかったが)③役者がちゃんと漫画の様な演技=荒木作品の再現を試みているところはよい。マイナス点は…そりゃあげたらきりがないけどこの後第ニ章への布石、としてはいいのではないか。 [映画館(邦画)] 6点(2017-08-05 16:40:18) |