861. 飢餓海峡
《ネタバレ》 W106方式という撮影技法のためか、映像が荒く製作年よりも古い作品に見える。 この方式の影響か解らないけど、軽快で躍動感があるカメラワークが面白い。 トラックが到着して、そこから警官隊がワラワラ降りてきて、そのまま舟に乗り込んで出港までを勢いよく撮り流す。 東京の下町の人混み。そこで客引きをして働く八重。警官が捕物を始め、逃げるタチンボ達。柱に隠れてやり過ごす八重。飲み屋街に逃げる頃にはカメラは屋根の上。後ろを振り返りながら逃げる八重、ゴミゴミした飲み屋街…ここまでワンカット。 こんななめらかに動きのある映像、当時どうやって撮ったんだろう? イタコの話は訛りが強くてよく解らないけど「(三途の川を渡ってしまえば)我が戻る道は一筋もござらい」のように言っている。八重のマネ「戻る道無いぞ~、帰る道無いぞ~」。イタコを知らない多吉は、その言葉を自分の運命と重ねたんだろう。多吉にとって津軽海峡が三途の川。 共犯の二人は多吉が殺したんだと思う。 帰り際「今度いつ来るの?」と言う八重、戻る道がない多吉。お代の50円とは別に渡した34,000円は、殺した二人への供養の意味もあったと思う。犯した罪を善行で償おうとしたんだろう。その後も善行を重ね続ける。臆病だから罪を認める勇気もない。 樽見と名を変え、自分なりに罪を償って、余生を過ごしていたところに八重が来る。この時の樽見の落ち着き具合は、見ていて多吉とは別人じゃないかと錯覚させる。忘れたい過去の自分を10年も探していた女。衝動的な殺人。 10年前の自供は、もしものときのために前々から用意していた筋書きだろう。 何とか助かる道を模索する樽見に弓坂が見せる舟の灰。善行で罪を償ったつもりでいた自分を、10年も追ってきた人間がここにもいた。 「戻る道無いぞ~、帰る道無いぞ~」 八重殺しを自供することも、隠し通すこともしない、出来ない。 現世でも地獄でもない三途の川、津軽海峡に身を投げる多吉。臆病な善人らしい最後かもしれない。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2021-05-28 11:13:29)(良:1票) |
862. ウォー・ゲーム(1983)
《ネタバレ》 ~WarGames~最後“s”がつく。ジョシュアにとって、チェスも三目並べも全面核戦争も、たくさんあるゲームの一つに過ぎない。 オープニングからいきなり始まる全面核戦争のシミュレーション。ミサイル基地の扉の分厚さが核の恐ろしさを物語る。 デビッド、Fの子をAにするのはマズいだろう。まだコンピューターが普及してない時代だから、先生たちも成績を手書きで控えてる可能性大だぞ。 でもこんな当時から、マイコンオタクの仲間がデブとガリなのが面白い。あと“ユーザーアカウント”って言葉、こんな昔からあったんだ。 核司令基地の見学ツアー。本当にありそうな“そのボタンじゃない!”ジョーク。突然の核攻撃の緊張感と、あくまでゲームなデビッドの対比が面白くて怖い。 一般の人には馴染みのない地味なマイコン画面を垂れ流すのでなく、ブラウン管モニターには操作するデビッドが映り込む。これ特撮だと思うけど、どうだろう?画面上で起きていることと、デビッドの感情も伝わる上手な演出。 あとジョシュアの声。デビッドの部屋のスピーカーからしか聞えないハズだけど、基地でも同じ声で話す。これも、見る人にわかり易くする上手な演出。 三目並べから核戦争に勝敗が着かないことを学ぶジョシュア。モニターに映される核戦争の映像が無機質で怖い。あぁ日本にも落ちてきた。 「奇妙なゲームです。唯一の勝つ手段が、ゲームをしないことです。もっと面白いゲーム、チェスをやりませんか?」 これが今の時代だったら、遥かに進化したコンピュータが人間に余計な気を使って、適度に盛り上がる演出を加えて、核戦争を始めるかもしれない。 [地上波(吹替)] 7点(2021-05-27 16:28:53) |
863. 続名探偵ホームズ2/ドーバーの白い崖
《ネタバレ》 ~『ミセス・ハドソン人質事件』のつづき~ こちらもハドソン夫人が主役。これはちょっと評価落ちます。 名探偵ホームズはイタリア国営放送との契約で、まず6話分が作られたそうです。 『青い紅玉』『海底の財宝』『小さな依頼人』『ソベリン金貨の行方』『ミセス・ハドソン人質事件』『ドーバーの白い崖』だったと思います。順不同ですが全部TV版で放送されてます。 今回はハドソン夫人特集という意味で2作品が選ばれたと思いますが、劇場未公開の『小さな~』や『ソベリン~』の方が、原作のイメージが強く、ホームズの推理が事件解決の糸口になっていて、面白かった記憶があります。(…といっても小学生当時の感想、うろ覚えですが) 本作はアクション面が強く、動きの大きさは面白いんだけど、今ひとつホームズである必要性が感じられない。 過去3作の“犬なんだけど大人で人間臭い登場人物”感が若干薄れ、“擬人化動物の当時の流行りモノのアニメ”臭が出てる。 最後の方のマリーが拳銃を回すところとか、モリアーティたちが爆発して飛んでいくところとか、今までとちょっと異なる感じ。 ウィキを見ると、この回には近藤喜文が関わっていません。 『海底の財宝』も近藤さん抜きですが、あちらは宮崎監督の個性が存分に発揮された印象が強く、他作品では宮崎&近藤の強力タッグで面白く出来たんじゃないかなぁ?と。勝手に思ってます。 [映画館(邦画)] 5点(2021-05-27 11:56:05) |
864. 続名探偵ホームズ1/ミセス・ハドソン人質事件
《ネタバレ》 ラピュタの同時上映で鑑賞。TV版はそれより前に放送していたんだな。忘れてる。 こちらのレビューも併映された『ドーバーの白い崖』とは別作品扱い。今回はモリアーティ教授一味とハドソン夫人が主役。 モリアーティが空気穴を気にする台詞を入れるとか「私の殺人は成功したことがないんだ」とか、銀行襲撃の妄想とか、キャラクターの魅力を引き出すのが上手いなぁ。 レストレード警部、犬らしく手紙の匂いから犯人を割り出すけど、美術館でホームズやモリアーティの雑な変装を見破れないとか、「原作読んでないのか!」なんてセリフも優秀なんだか無能なんだか、上手にいい加減で笑える。 前2作に続いて高いクオリティなので、出来ればエリソン夫人、モロアッチ教授バージョンで観たかった。 ~『ドーバーの白い崖』につづく~ [映画館(邦画)] 7点(2021-05-27 11:55:23) |
865. 予期せぬ出来事
《ネタバレ》 ~The V.I.P.s~重要人物たち。…としか解釈できず、豪華キャストを考えると、これまた思い切ったタイトルだなって思ってしまう。 オープニングのゴージャスさから、何かもう序盤でお腹いっぱいになりそうなところ、良い意味で関心を持たせる、良い邦題だと思う。 空港に集まった主要人物、そこに至る簡単な経緯。これぞメロドラマって感じの出だしだけど、霧のせいで先行きが悪い方向に向かうなか、深夜から翌朝にかけて、霧とともにスカッと晴れ上がる展開が心地良い。 ミス・リードの献身的な捨て身の活躍。失意の中、彼女の話をしっかり聞いてポンと小切手を切るアンドロスの格好良さったら無いね。マングラム社長と一緒に飛び跳ねたくなる。 元ネタがありそうなブーダ監督とグロリアの偽装結婚。興奮剤、鎮静剤、ブランデー、眠気覚まし…死んじゃダメだ公爵夫人。 適当に順調な人生のシャンセル。フランセスを本当に愛してたなら、今回の失恋が彼の人生に大きな成長を与えるだろう。 主役は愛の逃避行のフランセスだけど、序盤にシャンセルに言う「あなたの言う一生って、長いのかしら?」何かもうこの時点で、彼女のやりたかったことが達成してる感があった。ポールと一生を共にする決意を固めるフランセス。良かった、良かった。 影の主役は、毎日こんな要人たちをおもてなしする空港職員たちだろう。破産した公爵夫人を要人として扱い、種痘証明探してあげたり、最後は伝達のない要人プープーをしっかりエスコート。グランドホテル形式の映画らしい締め方。 そんな要人が集う空港カウンターに、一際目立つ、日本航空の鶴のマークが誇らしい。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-05-27 10:00:59) |
866. 時をかける少女(2006)
《ネタバレ》 ルールも勝敗もないから、永遠に終わりのない3人野球。 真琴の、いつまでも3人で、ずっとこのままが良いって気持ちが凄く伝わる。 それがいつまでも続くとは思っていない功介。続かないことが解っている千昭。 真琴が同じ時間を何度も繰り返すことによって、徐々に3人の気持ちが先に進み出す描き方が上手い。 過去に行けるというトンデモナイ能力を、あんなどうでも良いことに使えてしまう真琴がとても良かった。 バカなことばっかりの真琴が、意を決して友梨に、千昭が好きなことを告白するシーン。好きな人の突飛な話を信じられる真剣さ。行動力。アニメの声優は初のようだけど、ドラマで目にする仲里依紗がビックリするくらい上手に演じていた。 可愛い絵柄でドギツイ内容のアニメ、心を抉り取られるような鬱展開のアニメが増えた中、パンツも見えない、キスシーンすらない、カラッと真っ直ぐな高校生たちの物語は、逆に新鮮だった。 後輩3人もまた、毎日が楽しそうで、悩み多くて大変そうで良いね。功介に告白するとき、メガネしてないのは何でだろう?コンタクトにした?功介がクッキリ見えるのが怖いから? 魔女おばさん。単に超常現象に理解がある人だと思っていたけど、芳山和子だったんだな。1983年版をもう一度観なくては。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2021-05-26 23:18:05)(良:1票) |
867. 翔んだカップル オリジナル版
《ネタバレ》 昨年夏以来、二度目の鑑賞…だけどストーリーの起伏が少なく、この映画の盛り上がりドコロが掴めなかった。 勇介と圭が喧嘩して、仲良くなって、また喧嘩する。その間の、例えば勇介が反省して謝るとか、穴埋めをして許されるとか、仲直りと言うか二人が距離を縮める努力的なものが見えず、単にほとぼりが冷めた、時間が解決したかのように思えてしまう。 原作はきっと、この辺も丁寧に描かれているのかもしれないが、映画だとダイジェスト的にしか伝わってこなかった。 二人の同棲(学校的には単に同居じゃないか?)について、かなり後半に親友のハズの中山に同棲していることを伝えたが、序盤に先輩が圭を覗きに来たり、一緒に住んだりしてたので、中山や杉村さんには、とっくに同棲を伝えてるものだと思って観てしまったから… 杉村のマンションに圭が乗り込んできて、クシャクシャにした紙(試合までの注意)を渡すシーンとか、かなりの修羅場で緊張感が出ていた。勇介と圭とは対象的に、杉村のオトナな対応も凄くイイ。 坂を下る自転車、勢いそのままに激突。交差点で突然落語を始める中山。クジラのアドバルーン。序盤の薬師丸ひろ子の幼いパジャマ姿と、最後の方の「私、きれい?」の大人びた(背伸びした)スリップ姿のギャップ。最後の延々続くもぐら叩き。杉村から圭に受け継がれる集中のポーズ。印象的なシーンが結構あるが、一番グッと来たのはスナックで勇介と絵里(かな?)が酔っ払って“ケンポン”するところ。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2021-05-26 22:30:26) |
868. おとうと(2009)
《ネタバレ》 嫌な予感しかしない披露宴。小春の見事な二度見。鉄郎のスピーチは切るところを間違えなければ案外いい話。 コテコテすぎる予想通りの大失態を考えると、鉄郎には別室に退場してもらって、席には熊ちゃんのぬいぐるみを置いておくべきだった。 ヒロインが怒った時、ふすまに衣類が挟まるの、市川監督っぽい。 ちょっとズラす“大工の嘘”の話は、おとうとの存在に絡んでくるのかと思ったけど、そうでもなかった…ように思う。 お金を下ろしに郵便局に行くときのホームビデオ感。あれはどんな演出だったのか。 小春に怒られ逆ギレする鉄郎に“ダメだけど良い人”の可能性を全否定させられ、同情の気持ちは消え失せてしまった。 緑の家の素晴らしさはよく伝わった。 鉄郎と同室のおじさん、足を擦ってあげたり、鍋焼きうどんを玄関で待ってあげたりと良い人。 鉄郎の最後の苦しそうなピースサイン。鶴瓶師匠いい演技をされる。 小宮山施設長の突然の写メ…さりげないけど、医療施設じゃないから、検視に掛けないための証拠写真だろうか。 多くの人を看取った経験から「もう楽にしていいのよ」と声を掛ける小宮山さん(石田ゆり子)、天使すぎる。 …あれ?小日向さんと石田ゆり子、夫婦役なのか?夫婦か… 鉄郎の部屋の窓、すぐ真横に電線のガイジ。電磁波は体に悪いというが、鉄郎はそのせいで…とかそういう意図か? なにか東京編と大阪編とで味付けが突然変わったように思えて、どっち付かずな印象になってしまった。 ただ近年の作品で、今作の吉永小百合が綺麗だなって思えた。何でだろ?未亡人役だから? [CS・衛星(邦画)] 4点(2021-05-23 02:17:50) |
869. 若草物語(1949)
《ネタバレ》 ~Little Women~お父さんが娘たちを呼ぶ時の呼び名“小さなご婦人”とか。GirlでなくWoman。 でも“若草物語”良いタイトルじゃないか。邦題に魂が宿ってる。 4姉妹ものの原点。原作未読で映像作品としても初。 クリスマスのお小遣い。貧しいけど豪華な朝食。ベスのピアノ。ジョーの髪の毛と、ほっこり温まるエピソードが続く。 ハスキーボイスのジョー。ジューン・アリソンだけ、他の三姉妹女優(22歳、17歳、12歳)より年齢が離れた32歳。不思議なキャスティング。 それでも、ローリーとの全力疾走の追い駆けっこが早い早い。 マーチ叔母さん「ふしだらなマネは許しません」からのメグ即結婚はテンポが良くて面白かったが、ここらからすっごく駆け足になった気がする。 ずっと家の周りの話かと思ったけどジョーはニューヨークに行くし、エイミーは叔母さんとヨーロッパに行くしで、展開が駆け足。 時系列的に、ベスが不治の病でジョーが看病のために家に戻ってきている間に、エイミーは旅先でローリーと付き合い、その間にベスが死に、その前後にエイミーたちは結婚しているように見えた。当時の距離の問題があるから、旅行を中止して帰っては来れないだろうけど、割とマメに手紙で連絡を取り合っていたようなのに、原作ではどうだったのか気になった。 ベスの「長生きできない気がしていたの」は、マーガレット・オブライエンのか細さと相まって、可愛そうで涙が出てくる。 キャストはハマってると思うし、最後の虹の掛かるマーチ家も“これがセット、これこそ大道具”って感じで素晴らしい。 後半の駆け足部分をじっくり、倍の尺くらいで観たかった気がする。 あとウィルクス歯科の動く看板に驚いた。150年くらい前の世界にあんな無意味でインパクトのあるものが! ベア教授「自分の心に響かない文章は一行も書いてはいけない」………すみません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-05-22 11:25:12) |
870. 海街diary
《ネタバレ》 原作未読。4姉妹もの。 みんなタイプの違う美人で、あまり顔が似てないから、実はみんな異母姉妹とか裏設定があるのかと思ったけど、そういうのは無いみたい。 3人座るとき、長女・幸は正座。次女・佳乃は女の子座り。三女・千佳はあぐらときた。 絶対末っ子すずも座り方変えてくるなと思ったら、食卓を囲むときは正座だけど、普段は体育座りしてるようだ。 千佳は(夏帆自身がそうだけど)左利き。きっとズボラな母親は利き手を直す気がなかったんだろう。 電話が来たとき、幸は佳乃に出ろと。佳乃は千佳に出ろと。で、すずには振らず自分で出る。細かいけど末っ子と一人っ子の差が描けてるかなと思った。 家では一番しっかりしてそうな幸が、不倫という一番世間に顔向けできない事をしてるのがリアルだし、普段はだらしない佳乃が、上司と外回りで食堂に行った際、私情を出さずにきちんと敬語で話す姿もリアル。 札幌に住む母親(大竹しのぶ)の三姉妹のお土産が、包み紙から札幌三越デパートかな。 すずには、六花亭セットとマルセイ・バターサンド。北海道のものだけど、案外どこでも手に入るので、急遽空港で用意したと思われる。 そんなに高いものじゃないし、そもそもすずのために買ったのかも怪しい。三姉妹と値段の差を埋めるために2つにしたのかな?とか、そんなところもリアル。 あと広瀬すずは本当にサッカーが上手いんだな。素人の動きじゃない。 イベントと言えば葬式と法事ばっかりの映画だけど、極端に暗くならず、大喧嘩とか大事件も起こらず、案外ずっと見ていられる映画だった。 ~Our Little Sister~という洋題?サブタイ?が付けられている。若草物語(Little Women)を連想させつつ、意味は“私たちの末っ子”。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2021-05-21 15:01:34) |
871. 探偵物語(1983)
《ネタバレ》 赤川次郎の原作自体が、薬師丸ひろ子をイメージした作品だって聞いた記憶があるが、このタイトルからして、相手役は松田優作をイメージしていたんだろうか? 探偵事務所に所属しているけど単独行動・孤立無援な辻山は、個人事務所だけど仲間とワイワイな工藤ちゃんとは、人物像が真逆と言うか… 本で見るとナルホドってなるかもだけど、実際画で見るとかなり無理があるトリック殺人。ものすごい偶然が重なってたどり着く推理。都合よく置いてあるペンダント。ゆるく楽しむのが正しい観方なんだろう。 事件解決からが見応えがあって、辻山の部屋での長回しが素晴らしい。というか、ここから先だけでも良いんじゃないか?って思ったりする。 今まで直美を“調査対象の子ども”として、一歩引いた距離で扱ってきたが、ホテルの話を聞き、落胆の表情を見せる辻山。 「ずっと一人で寂しかった!」「…一人で居て寂しくないやつなんていないよ」直美を大人としてみて本心を話す。 「帰ります」と2回。背中に向けて投げ捨てるような告白の言葉。そんな事解ってるから振り向きもしない辻山。 アイドル映画の告白シーンなのに、重苦しく物哀しい。切ないテーマソングの入り方もイイ感じ。 空港での別れのシーン。エスカレーター逆走から手を重ねて無言のキス。 キスの後も名残惜しそうにしがみつき、胸に頭をくっつける薬師丸ひろ子の演技は素晴らしい。 …ただディープキスにしたのはどうだ? 欧米の映画に比べて日本の映画界が劣っていると考えている松田優作が、ちょっとやり過ぎてしまったんじゃないかと思うんだけど。どうだろう。 普通のキスで良かったんじゃないかな。話題作りにはなったと思うけど。 もう一回ちょんとキスして、小さく手を降り去っていく直美。しばらく後に小さく手を振り返す辻山。 棒立ちの松田優作と、ディープキスのあとだけにホンワカした音楽がちょっとシュール。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2021-05-21 11:04:34) |
872. スケアクロウ
《ネタバレ》 ~Scarecrow~カカシ。カラス(crow)を怖がらせる(scare)からスケアクロウ。あと、みすぼらしい人って意味も。 姉が学校からLDを借りて来て観たのが最初。淡々としたロードムービーだけど、気持ちの描写が深い。 フランシスの過去に何があったのか判らない。陽気で人を楽しませる才のあるフランシス。 彼はマックスと友だちになり、ライオンと呼ばれるようになる。 フランシスは生まれ変わって、人生をやり直そうとしていたのかもしれない。 ライオンが大事に抱える赤いリボンの白い箱。性別もわからない子供へのプレゼントのランプ。 デトロイトまで行って、散髪して正装して、アニーに電話。 アニーが会わないのは解るが、なぜ子供は死んだと言ったのか?それも生まれる前に流産。天国にも行けないなんて。 意味も解らず泣く母を見上げる子供。ライオンそっくり。 マックスにバンザイして「男の子だった!」と喜ぶライオン。車の上に置きっぱなしのプレゼント。 何も言わないけど、ライオンが倒れたとき「アニーに何を言われた?」と気がついてるマックス。 枕の下に隠すくらい大事なマックスの靴。カカトにはちょっとした隠し財産。 10ドルだろうか?何かワケがって、使ってはいけないお金だったんだと思う。 それを使ってまでピッツバーグの往復チケットを買う。片道なら靴のお金がなくても行けた。 ピッツバーグの銀行には大金があるはずだから、向こうでもう片道を買っても良い。 そうしなかったのは、友達のために大事な財産を使って、いつか帰ってくるという決意。 最後のマッチ一本を惜しげもなくくれた友達。 このデトロイトまでの片道チケットが、これからのマックスの大事なお守りになるんだろう。 [レーザーディスク(字幕)] 8点(2021-05-20 14:19:13) |
873. ビッグ・リボウスキ
《ネタバレ》 ~The Big Lebowski~登場人物の大富豪のあだ名。 大昔にビデオで借りて観て、今では中身を全然覚えて無くて、何が面白いかって説明できないんだけど、とてもツボにハマった映画。 ボーリングしてるのと、ドニーの呆気ない最後、灰を撒く、灰を被る。ここだけしか覚えてないけど、自分の中では何故か神格化された存在だった。 以降なかなか見る機会がなく、この度近所で中古DVDを安く手に入れ、久しぶりに鑑賞。 面白かったけど、こんな映画だったか?ってのが第一印象。 部屋でくつろぐような格好のまま、外をブラブラする、見たまんま無職のデュード。危ない親友。邪険にされてるようで大事にされてる友達。あぁ、こういう友達関係良いな。幼馴染だから許される間柄と言うか。 本人にしか解らないカーペットのこだわりとか、何故かそれを理解して(ダシにして騒ぎたいだけ?)一緒に動くとか。なんか良い。 ジーザスの意味不明な格好良さ。気持ち悪いけどカッコイイ。 ジュリアン・ムーアが裸で空を飛ぶとか、彼女のそんな役見たことなかったので驚いた。かなりインパクトがあるのに覚えてないのは、当時ジュリアン・ムーアを知らなかったんだろう。 デュードが薬を盛られて見る幻覚がまた楽しそう。CGの無い時代、結構お金の掛かった幻覚だ。 巻き込まれ型のミステリ犯罪。変化球のハードボイルド。事件の解明はなかなかの説得力でストンと落ちた。 しかし、大金のために足の小指を切るなんて…って、その小指切ったのがエイミー・マンだ。ちょい役とはいえ映画に出てたなんて知らなかった。 当時この映画の何がそんなにツボだったのか、今回観ても解らなかったけど、面白かった。 コーエン兄弟の別作品で、ビデオで大爆笑して、DVDでイマイチだった作品があった。 字幕の細部が違うだけで、なんか面白さがパワーダウンしてたんだよ。今回もしかしたら、それかもしれない。 出来るなら当時のビデオの字幕版で、もう一度見たいものだ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2021-05-20 13:38:38) |
874. 七年目の浮気
《ネタバレ》 ~The Seven Year Itch~七年目のかゆみ。意味は観てると出てきます。 『ビリー・ワイルダーの映画は不倫してるヤツばっかだな…』なんて予備知識無しで観てたら、超有名な地下鉄スカートが出てきて『おぉ、コレが!!』って嬉しくなった。 当時このセクシー・シーンはどう受け止められたのか?「マリリン・モンローのアレ、観たか?…見えたか?」なんて話題になったんだろうか? 私の世代だと、シャロン・ストーンの氷の微笑のあのシーン?そういう、一場面見たさに映画館に足を運ぶ映画って、最近聞かないな。 七年も浮気をしなかった男。誘惑に負けじと頑張るリチャード。見栄っ張りだけど心配性な様子、心の葛藤、気の弱さが丁寧に描かれていたと思う。それでいて行動は素早かったり…妄想と戦う姿が後のジム・キャリーみたいだ。 美女に役名はない。マリリンの、男の理想とするセックス・シンボルを前面に出した映画だからか、ありえないけど身近で屈託がなく、開かずの扉を自ら開けて降りてくる姿は、ある意味神秘的。その気になればいつでもイケそうな誘惑。「マリリン・モンローかもな!」って台詞がちょっとビックリ。 キラキラした存在の美女だが、扇風機の返品に悩む姿が何とも身近に感じられてキュートだった。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2021-05-20 11:06:53) |
875. アルプスの若大将
《ネタバレ》 初めて見るシリーズ。 本当にスイスで撮ってるんだスゴイ。って思ったらイタリア行ってしまった。そして大半は日本が舞台。 「ぼんど、じぇーむず・ぼんど」歴代ボンド意外でこのセリフを言った映画俳優って、りき婆ちゃん入れて数人も居ないだろう。 シリーズ共通設定だろうけど、りきさん、フランス娘のリシェンヌに屈託なく接する様子とか、一番上等な牛スキを振る舞うとか、日本人らしいおもてなしと、理想とする順応っぷりがとても可愛らしい。 対象的に久太郎の外国人客への苦手意識や失礼な態度。東京オリンピック後に日本の国際社会化に向けて、ちょっとしたマナーの勉強になってる。 思いっきり道交法違反なカーチェイスが予想外に楽しいのに対し、メインのスキー大会が冗長に思える。 冬季五輪に向けて関心を高める意味合いもあったんだろうか?この年、札幌冬季五輪の誘致に成功しているそうだ。 海外旅行に石山のオープンカー、雄一の広い部屋、スキー合宿、コンパと歌と美男美女。まさに上流階級ブルジョアな暮らしっぷり。 きっとこのシリーズはどの作品も同じ様な構成だとは思うけど、なんか良いな。 映画ってこういう、庶民には手の届かないものを見せて、芸能人に憧れを抱かせる。映画の田沼雄一=加山雄三って見せ方、魅せ方。 若大将カッコイイ!青大将面白い!澄子ちゃん可愛い!マドンナ綺麗!なんか、それだけってのが逆に良いなぁ。 観てるだけで幸せだなぁ… 今の時代、芸能人を見下して笑いものにするのばかりでなく、テレビやネットのドラマでなく、こういう、ただ楽しいだけの中身のない映画、撮ってくれないかなぁ… [CS・衛星(邦画)] 5点(2021-05-20 09:56:09) |
876. マンマ・ミーア!
《ネタバレ》 ~Mamma Mia!~なんてこったい!。 他人の結婚式のホームビデオほどどうでも良いものは無い。 結婚式はその空気感とか一体感とか感じるものがあるけど、それをいざホームビデオにされてしまうと、何故か空気感も一体感も失われてしまう。見せられる内容によっては拷問だ。 舞台のミュージカルならきっと臨場感とか遺憾なく発揮されたと思う。けどこの映画は敢えて、そのホームビデオ感を全面に出してきたんじゃないだろうか? 拷問にならないよう、超有名なABBAのナンバーと、美しいエーゲ海の島が、歌の素人っぽさを中和してくれる。ストーリーなんて飾りだ。 パーティでのドナと友達の熱唱。お金の掛かった余興の域を出ない内容で、ロージーが自分の振り付けが間違ってないかチラチラ確認するのとか、素人っぽさを出す演出だと思う。 エンディングのステージは、アンコールまで入れてノリノリのギラッギラだ。 やってる側と見てる側の温度差を感じさせつつ、でもすっごく楽しそうって思わせてくれる。 そんなホームビデオ感を出したと思いきや、序盤の『ダンシング・クイーン』は映像と歌とダンスが素敵すぎて、観て良かったって思ってしまった。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2021-05-18 01:37:08) |
877. オズの魔法使
《ネタバレ》 Ozは、金属の単位のオンスから来てるとか… 白黒と言うか、セピア色のカンザスの風景から、ドアを開けると色の洪水…第二次世界大戦の直前に、こんな魔法のような映像が見られたなんて、当時の人々も驚いたに違いない。 ハンク/案山子男「アタマを使うんだよドロシー」 ジーク/ライオン「ガルチなんて勇気があれば怖くないさ」 ヒッコリー/ブリキ男「俺の銅像が立つぞ」 占い師マーヴェル/オズ「私と遠くに行くんだろう?」 前フリもきちんとして、二度目の鑑賞時にはクスリとさせられる。家庭用ビデオデッキのない1939年にだ。 たぶん映画全てがセット撮影で、ミニチュアと合成が使われているが、台風の表現はなかなかのもの。揺れる家、吹き飛ぶ扉、倒れる柵。 ドロシーは頭を打って夢の世界へ…つい先程体験した些細な出来事で世界が構築されている。人が覚えてる夢ってそんなものらしい。 いきなり死んでる強敵・東の魔女。直後もっと悪い西の魔女登場のサクサク展開。南の魔女が出ないのも想像を膨らませる。 マイケル・ジャクソンのゼロ・グラビティの原型がこんなところで。 威勢を張るライオンをペチン!からのギャン泣きの完璧なタイミング。 襲いかかるサル軍団の華麗なワイヤーアクション。 『グッドモーニング・ベトナム』で聞いた「オーイーオ・ホーーチミン!」の原型はコレだったか。 魔女の兵隊に背後から襲われたのに、絶対不利な状況でなぜか勝つ3人組。 殺すつもりがないのに悪い魔女2人も殺すドロシー強い。 Toto・・・・・・・・・・TOTO (※エンディングのCAST) 娯楽映画の醍醐味。そのほとんどが、こんな大昔の映画に詰まっていた。ほんとビックリした。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2021-05-17 22:48:23)(良:1票) |
878. 愛と青春の旅だち
《ネタバレ》 ~An Officer And A Gentleman~紳士及び士官に…。意味は『ザ・シネマ』というサイトのコラムに詳しく書かれています。 フォーリーがメイヨのコインは右側に入れるのに、次のデラ・セラのコインは左側なのは何でだろう?って思ったけど、その説明もコラムに書いてあって、そうだったんだ!!と、とても参考になったので、興味があれば探して見てください。 メイヨは親が親だけに、愛とか面倒で、女性に対する付き合い方がアッサリしているのも解るが、ウォーリーはスーザンという婚約者が居て(…とは言え死んだ兄の元カノという複雑な関係だが)、訓練期間中の遊びでリネットと付き合う。 妊娠を機に海軍を辞めるけど、家系と子供のためで、リネットのためではない。妊娠が嘘とわかっても結婚を申し込むが、愛というか、自分に退路が無くなったからにも見えた。 リネットは、士官のお嫁さんになって世界中を回る夢があるから、アッサリとプロポーズを断る。どちらもお互いを愛していた訳じゃなかったんだな。 フォーリーに人間性を批判されてシゴかれて、徐々に人間らしい行動を取るメイヨ。ペリマンにピカピカのバックルをプレゼントするところがいい。 ポーラは生まれてすぐに海軍の実父を亡くしていて、それで士官の彼氏に憧れがあるのか。自分の中の理想が高め。朝食のときに花を置いて 『見て見て、お花よ。こういう女、憧れるでしょ?』ってやるのが可愛い。 純白の制服姿で工場に行き、ポーラをお姫様抱っこで連れて行くメイヨ。 『君が憧れる士官になったぞ、みんな見てるぞ、こういうの、憧れるだろ?(オレは恥ずかしいけど)』ってお返し。 淑女の理想を叶えることが『紳士及び士官に相応しい行為』だから。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-05-15 14:22:36)(良:1票) |
879. 街の灯(1931)
《ネタバレ》 Lightsを灯(ひ)って言うのが良いね。 1931年の街の夜はきっと、今より暗がりが多かったと思う。その代わり一つ一つの灯りが意味や役割を持っていた。 ぽつりと立つガス灯は安心感を与え、窓から漏れる部屋の灯りからは生活の温かみが感じられたことだろう。 盲目の娘にとって、手で触れることがものを見る方法。街の灯りは見えないが、ただ純粋に生きてきたんだろう。 目が治って、娘は“人の視線”というものも知ったはずだ。人が自分をどう見るか、自分が人をどう見るか。 客観的に見ると、娘は魅力的な容姿をしていて、男たちから…まぁ、好意的な視線を向けられていたことを知る。 人から好かれる事は、大きな自信に繫がり、娘は街角の花売から、花屋を持つまでに成功した。 浮浪者も自分に視線を向ける。純粋な娘は浮浪者の視線を嫌がるでもなく、新しい花と硬貨を与える。 浮浪者はずっと、娘の目を見ている。今、見えるようになった娘の目。 普段の男たちの、自分の容姿に向けられる好意的な視線と、自分の目を見ている浮浪者の視線の違いが解らない娘。 手の感触で浮浪者があの時の男だと知るとき、よく見てほしい娘の目はどこも見ていない。手が、娘の目になっているから。 ~“You can see now?”~(目が)見えるんですね? ~“Yes, I can see now”~はい、(手で触れた今、あなたが)見えます。 灯は人の気持ち、温かい心。それを見る方法は、なにも目だけじゃない。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2021-05-15 12:15:36)(良:1票) |
880. ブラック・スワン
《ネタバレ》 ~Black Swan~黒い白鳥。現実には存在しないもの。日本の白いカラスみたいなの。『そんなの、黒い白鳥を探すようなもの(=無駄な努力)だよ』ってことわざ。 痛いシーンが多い。つま先痛い!爪割れ痛い!逆剥け剥がすの痛い!他人に爪切られるの痛い!くっついた足の指剥がすの痛い!背中からなんか生えてるのズルズル抜くの痛い!ガラスの破片痛い!観てて指さきがギューってなる。 真新しいトウシューズの中敷きを引きずり出し、厚い部分を切り落とし、縫い合わせ、叩きつけ、靴底に傷をつける。 清らかな少女ニナが一流のダンサーとして周りから変えられ、そして自ら変わっていく様は、まるでこのトウシューズのようだ。 ほぼ全ての場面で、鏡やガラスに映ったショットを多用しているのは、自分が常に観られている、他人にどう観られているか気になるという彼女の気持ちの現われで、彼女自身もまた、現実逃避的に自分を客観的に見ているんだろう。 鏡のないトイレの個室で、プリマに選ばれた喜びを携帯で母に伝えるシーンは、この映画で数少ない彼女の心からの喜びのシーンだったと思う。 鏡が多いのにカメラが映らないのは、当然なんだけど技術的に凄い。鏡張りの練習シーンでトマの後ろから鏡越しにニナを写すシーン。トマも映ってる。でも当然カメラは写ってないんだけど“じゃあコレは誰の視点?”って考えると、気持ち悪くなってきた。常にユラユラしてるカメラも気持ち悪い。 でも電車のオヤジが一番キモい。『口でイヤらしい音を出すセクハラオヤジの映画を観た』記憶だけあったけど…この映画だったか。 [映画館(字幕)] 7点(2021-05-15 09:45:15) |