81. エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
マルチバース設定がなければ、舞台はほぼコインランドリーと税務署だけで構成されています。それらのシーンこそが主筋であり、他はすべて主人公たちの妄想や誇張された現実と捉えればややこしい内容ではありません。この映画がアカデミー賞を受賞したのは移民の家族劇・世代間の価値観の相克という物語が主筋としてあり、そこがぶれていないからでしょう。いわばこの映画は現代版のゴッドファーザーと言ってもいい作品です。イタリア人=マフィア、中国人=カンフーのようなステレオタイプを踏襲しているのも共通しています。SF要素や下品な下ネタはいわばゴッドファーザーにおける馬の首や殺人シーンのようなものです。そこだけ切り取ると単純な娯楽作品と変わりませんが、作品のテーマは別のところにあるので評価には影響しないということです。しかし、私個人としてあまり評価する気になれないのもそこが原因なのです。設定だけがSFでありふれたテーマを扱った作品よりは、SFにしか扱えないようなテーマの作品が評価された時にこそ初めてアカデミー賞は変化したと言えるでしょう。この映画ではマルチバースを地動説になぞらえていますが、私にはマルチバースなる概念(現実の物理学というよりフィクションで扱われるそれ)こそ現実を正確に表現していないただ人間の妄想=天動説でしかないと思います。 [映画館(字幕)] 5点(2023-03-20 23:08:43) |
82. THE BATMAN-ザ・バットマン-
ベン・アフレックのバットマン最高だったじゃないですか…なんで無かったことにしちゃうんですか…、ほんと最近のDCの迷走っぷりは勘弁してほしいです。まあその辺はさておいても、正直つまんない映画でした。とにかくこの映画は今までのバットマンシリーズと比較すると圧倒的にリアリズムを追及しています。追及しすぎて逆にだんだんバットマンがバットマンのコスプレした変なおっさんに見えてきます。実際警察からは割とかわいそうな人を見る目で見られてます。ウィングスーツでの滑空シーンも全然カッコよく着地できません。頑張れおっさん、無茶すんな…いつの間にかそんな気持ちになってきます。ヒーローものなのでアクションを期待するのですが、どちらかと言うとミステリー寄りです。バットモービルのエンジン点火ぐらいしか派手な見せ場はありません、カタルシスなさすぎです。この地味さで3時間はきついです。そもそも既にジョーカーがヒットした世界で真面目にバットマンを観るのはある種のバカバカしさが付きまとうと思います。 [DVD(字幕)] 2点(2023-03-17 21:45:20)(良:1票) |
83. アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド
ドイツ映画といえば国際的に評価されてるような作品はたいていナチス・戦争たまに東独という感じですが、この映画はそのどれでもなくジャンル分けするならSFとラブコメです。そう表現するとキワモノっぽい印象を受けますが、むしろこういう題材が完全に大人のドラマとして成立する時代になったんだなあと感慨深くなります。自分の理想と願望を充足させてくれる存在とは自分自身に他ならない、他者はどこまで必要な存在なのか?私はラストの言葉で示された結論の方に賛成ですが、言葉ではない領域でこの映画はもう一つの結論を提示しており、こういう演出は映画的と言えます。 [DVD(字幕)] 7点(2023-03-16 20:39:14) |
84. フェイブルマンズ
映画愛などほとんど語られないのはいいことです、偉大な映画史などという大風呂敷を広げず、あくまで個人の実体験をベースに描いている慎ましさはこの映画の美点です。理想的な昔の家族や学校生活という描き方でもなく登場人物はみな弱さを持った人間として描き、安易なノスタルジーや一方的な断罪に陥らないバランス感覚も持ち合わせている。悪い映画ではないのですが、かといって斬新な視点もありません。結局は老人の昔話といえばそれまでです。自身を史上最高の映画監督の薫陶を受けた存在として描けるのはスティーヴン・スピルバーグの特権ではありますが、地平線がどうのこうのというアドバイスが現代において何らかの意味があるとも思えません。個人的な体験の域から出ていないのはこの映画の弱点でもあります。撮影はいつも通りのヤヌス・カミンスキーだなあとややうんざりしました。初心に戻るような内容ですのでキャストだけでなくスタッフも新鮮な顔触れを用意するぐらいでちょうどよかったのではないでしょうか。 [映画館(字幕)] 6点(2023-03-12 22:49:02) |
85. バビロン(2022)
監督デミアン・チャゼルは1985年生まれ、バック・トゥ・ザ・フューチャーが公開された年である。当然この映画で描かれた時代を実際に経験したわけではない。ファースト・マンのような映画ではあくまで客観的に史実の再現に注力していたから良かったものの、この映画はまるで死んだ人間の意見を勝手に代弁しているかのようである。そしてその意見すらもはや時代錯誤でしかない。劇中ブラッド・ピットの語る演劇に対する対抗心など果して今の映画関係者にどれだけ残っているのやら。映画はもう今では学も金もない人間の娯楽じゃない、既に芸術として認められており権威を振りかざす立場ですらある。もしそうでなければデミアン・チャゼル自身がこんな映画を作ることが許されたわけがない。それで出来上がったのは若者の年寄りごっこ、金持ちの貧乏人ごっこ、インテリの不良ごっこ。あるいは白人の黒人・メキシコ人ごっこ、男の女ごっこを加えてもいい。経験に裏打ちされていない捏造された思い出に何の価値があるというのだろう。愛国心はならず者の最後の砦というが、これでは映画愛も似たようなものである。 [映画館(字幕)] 0点(2023-03-04 22:19:40)(良:2票) |
86. アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
やたら家族の絆だの、父親としての役割だの語るジェイクですが、肝心のサリー家はバラバラです。養女のキリは実の母親に執着、次男ロアクは仲間外れにされた者同士クジラ(トゥルクン)と仲良くなり、人間の子スパイダーはクオリッチ大佐と疑似?親子関係を築きます。海の民メトカイナ族はよそものをいじめるし、この映画なぜかナヴィ間よりむしろその外側との親密性が丁寧に描かれてるわけですが、別にそれが作品のテーマとなっているようでもなくどうもチグハグな構成です。一方人間側のクオリッチ大佐は前作の単純なマッチョキャラから一転ナヴィの文化にあっさり順応するところを見せ、スパイダーとの関係はジェイクが見せる保守的な家族像に比べて複雑かつ人間味を感じさせる描写で感情移入しやすいものです。前作では人間以上に魅力的な存在として描かれたナヴィですが、なぜか今回はクオリッチ大佐の一人勝ちです。ジェームズ・キャメロンはクオリッチ大佐主役のファンムービーでも作りたかったのでしょうか?(笑)まあそれはさておき真面目に読み解くと、このシリーズが現時点で試みているのは19世紀のアメリカの物語の語り直しです。前作は西部劇でしたが今作はハーマン・メルヴィル著の白鯨が下敷きになっております。この調子だと次作以降では黒人奴隷や南北戦争を想起させるようなストーリー展開になるかもしれないといろいろ期待できるわけでして、これからの展開が楽しみなシリーズではあります。 [3D(字幕)] 5点(2023-03-03 23:27:25)(良:1票) |