981. 人生スイッチ
《ネタバレ》 ふとしたきっかけで人生の落とし穴に落ちてしまった人たち。前を走るポンコツ車の運転手へと追い抜きざまに罵声を浴びせた男、偶然客としてやってきた父親の敵へと復讐しようともがく深夜のファミレスのウェイトレス、駐禁を取られたことに怒り心頭な建築技師は当局の窓口で不満をぶちまける。息子の轢き逃げを金の力で揉み消そうと画策するブルジョアは逆に追い詰められ、結婚式の最中に夫の浮気を知った花嫁は悪女と化す。それはまるで人生を破滅へと導く禁断の〝スイッチ〟を押してしまったかのように――。不条理な事態に追い込まれ、自滅していく人々をブラックかつシニカルに描いたオムニバス作品。スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが制作を務め、アカデミー外国語映画賞の候補にもなったということで今回鑑賞してみました。確かに個々のお話は短いながらもそれぞれにキレがあり、独特のカメラワークや悪意に満ちたストーリーテリングの妙もあって、普通に面白いとは思ます。特に一番はじめの飛行機の話と、2人の男が些細なことから言い争いをはじめ次第に殺し合いにまで発展する第3話はけっこう惹き込まれました。女の壮絶なバトルが繰り広げられる最後の花嫁の話など、いかにもアルモドバルが好きそうなブラック・ユーモアに満ち満ちていて楽しい。とはいえ、1本の映画として評価するならば正直微妙。個々のお話に全く繋がりがなく全体の統一感が希薄なせいで、一つの作品としてみるとさすがに散漫さが否めません。例えばこれに同一のキャラクターが複数のお話にまたがって登場するだとか、あるいはお話の舞台がリンクするだとか、そういった工夫が欲しかったところ。それぞれのエピソードのクオリティは――程度の差はあれ――なかなか高かっただけに惜しい。 [DVD(字幕)] 5点(2017-01-11 22:08:36) |
982. 完全なるチェックメイト
《ネタバレ》 東西冷戦が激化し始めた1970年代、プロチェスプレイヤーのボビー・フィッシャーはその類稀な才能でもって輝かしい戦績を挙げていた。だが、極めて偏屈で自己中心的な性格からその私生活はかなり破天荒なものだった。スタッフに到底不可能な要求を何度も繰り返し、見るに堪えない悪態など日常茶飯事、気に食わないことがあれば試合会場にすら現れない…。それでもひとたびチェス盤に向かえば、天才的なひらめきと緻密に考え抜かれた戦略でもって相手を翻弄する。天才の名をほしいままにする彼が当時の世界王者、ソ連のスパスキーと対戦することになった。世界中から注目を浴びた彼らの対戦は、いつしかアメリカとソ連の代理戦争の様相を呈してくる。すると、ただでさえ細いワイヤーの上を歩くように張り詰められていた彼の精神は、ますます崩壊へと向かうのだった――。実在した天才チェスプレイヤーの破滅的な生涯を、世界王者スパスキーとの今や伝説となった対戦を軸に描き出す社会派ドラマ。監督は、社会性に富んだエンタメ・アクションを得意とするエドワード・ズウィック。病的な性格で回りを翻弄するボビー・フィッシャー役には、まさにはまり役とも言えるトビー・マグワイヤ。もうこれだけで映画として一定の水準は保証されたようなもの。その期待に違わず、ズウィック監督のストーリーテリングは手堅く纏められ、狂人一歩手前のボビー・フィッシャーというこの人物の生きざまが濃厚に伝わってくる佳品となっていた。数奇な運命を歩んだ彼の人生を、その生涯の中でも最高の対局と評されるスパスキーとの第6局へと収斂させる流れも巧い。特に、精神が崩壊寸前まで追い詰められたボビーを鬼気迫るように演じたT・マグワイヤはなかなかのものだった。これまで馴染みのなかったチェスという世界の凄みを充分味合わせてもらった。だが、正直何か物足らないものを感じてしまったのも事実。例えば、同じようにプレッシャーから狂気へと捉われるプリマを描いたアロノフスキー監督の傑作『ブラックスワン』などと比べると、その狂気の迫力が幾分か劣るように感じてしまうのだ。これは監督の資質の問題だろう。ズウィック監督の才能はこのような個人の精神世界を描くのにはいまいち向いていないように思う。あと、この対戦の後にまるで世捨て人のように世界中を放浪した彼の人生を自分はもっと見たかった。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-08 21:26:47) |
983. ヴィクトリア(2015)
《ネタバレ》 真夜中を少し過ぎたばかりのベルリン。クラブで夜通し踊り続けてきた若い女性が家路を急いでいる。街の小さなカフェで働く彼女の名はヴィクトリア。まだスペインから越してきたばかりでドイツ語も分からない。そんな彼女に、会ったこともない4人の青年が声をかけてくる。見るからにガラの悪い不良たちだったが、異国の地で孤独に喘いでいたヴィクトリアは彼らと思わず意気投合するのだった。特に、リーダー格の青年ゾンネにヴィクトリアは強く惹かれていく。夜も更けたころ、ヴィクトリアは彼からあるお願いをされる。それは明らかに犯罪がらみだったが、ゾンネの為に彼女は思わず首を縦に振ってしまう。その選択が自らの運命を大きく変えてしまうことも知らずに――。孤独な女の子が経験する破滅的な一夜の冒険を、2時間20分全編ワンカットという画期的な手法で描いたクライム・サスペンス。ストーリー自体は極めてオーソドックスなものなのなのだが、やはり特筆すべきなのはその驚くべき撮影スタイルだろう。映画が始まってからエンドロールを迎えるまでの2時間強、本当に編集ナシのワンカットでひたすら続いてゆくのだ。例えばこれがCGでそう見えるように処理しているだとか、雰囲気のみのアートな感じでお茶を濁しているだとかならさして珍しくもない。だが本作がそれら凡作と一線を画しているのはちゃんと因果律のあるドラマがそこに成立しているからだ。ちゃんと考えられたストーリーがあり、それに応じて舞台も路上からビルの屋上、銀行にクラブ、多くの住民が暮らす公営住宅と目まぐるしく移ってゆく。登場するキャラクターも多岐にわたり、それぞれに個性が割り振られている。これは驚異的と言うほかない。よく途中で破綻しなかったものだ。最後の方のシーンを撮っている時など、監督も役者もスタッフもドキドキしっ放しだっただろう。ただ、肝心の内容の方なのだが、ワンカットに拘るあまりところどころに明らかな無理が生じてしまっているのが残念だった。特に主人公ヴィクトリアがいとも簡単に犯罪行為に手を染めてしまうばかりか、不良たちのボス・ゾンネにあそこまで付き従うのはさすがに説得力に欠ける。ここら辺をもう少し何とかしてほしかった。とはいえ、到底不可能と思われた手法に果敢に挑み、それを見事に成しえたこの監督の手腕は大したものだ。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-05 00:38:15) |
984. スーサイド・スクワッド
《ネタバレ》 近年稀にみるくちょ映画。特に脚本がダメダメ子ちゃん。ハーレクインのハミ尻に+1点! [DVD(字幕)] 3点(2017-01-02 02:35:36) |
985. わたしに会うまでの1600キロ
《ネタバレ》 冒頭、何の説明もなされないまま、とある一人の女性が荒れ果てた荒野をザクザクと歩くシーンから始まる。同行者は誰も居ない。たった一人、いかにも重そうなリュックを背負い、見渡す限りの荒れ地をただひたすら歩いてゆく。聞こえてくるのは彼女の荒い息遣いと風の音のみ。日が暮れればテントを張りリュックの中から取り出した自炊用具でまずそうなお粥を作り腹を満たす。朝日が昇ればまた彼女は旅を再開する。来る日も来る日もひたすら歩き続ける。途中途中でチェックポイントのようなものがあり、どうやらこれが何らかの競技であることが分かってくる。そんな彼女の孤独な旅路に過去の辛い記憶がフラッシュバックされてゆくのだった。最愛の人の死、寂しさを満たすためだけのセックス、離婚、そしてヘロインへと溺れた最悪の日々。いったい彼女は何のために歩き続けるのか――。答えは、メキシコ国境からカナダにかけて徒歩で走破するパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)という競技。本作は無謀にもそんな過酷な競技へと挑んだ一人の女性の苦難と再生を描いたロード・ムービー。極めてシンプルかつ地味な映画でしたが、これがなかなか惹き込まれる佳品に仕上がっておりました。やはりそれは主役を演じたリーズ・ウィザースプーンの説得力ある熱演の成せる技でしょう。ほぼ全編を通して彼女の一人芝居が続くのだけど、その旅路が本当に辛そうで、実際に何か月もの旅路を追ったドキュメンタリーに見えるほどリアル。アカデミー賞の候補となったのも納得です。そして、その旅路にフラッシュバックされる過去の出来事も壮絶なもので、僕は彼女のそんな人生やり直し旅に思わず共感せずにはいられませんでした。そう、人生何もかもリセットして一休みしなきゃいけない時期ってきっとあるんですよね、誰にだって。厳しい雪道や途中で出会う男たちの卑しい目にも耐え、ただひたすらゴールを目指す彼女。心優しい仲間たちにも出会い、旅が終わりに近づくにつれそれまでのやさぐれた表情からどんどんと自然な笑顔となっていくのが本当に魅力的でした。でも、映画はそんな彼女のゴールまでを追ったりはしません。困難な人生はいつまでも続くということを表しているのでしょう。切ない余韻に満ちた美しいラストシーンでした。「コンドルは飛んでゆく」の哀愁に満ちた調べも作品にとてもマッチしていて印象的。地味ではあるけれど、なかなか良作と言っていい。 [DVD(字幕)] 7点(2017-01-01 18:26:26) |
986. ヘイトフル・エイト
《ネタバレ》 舞台は南北戦争終結から数年後、ワイオミングのとある雪山。かつてないほどの猛吹雪が吹き荒れる中、一軒の寂れた山小屋に4人の男女が逃げ込んでくる。3人の指名手配犯の死体を街へと運んでいた黒人の賞金稼ぎ、マーキス。捕まえた女指名手配犯を生きたまま連行していたのは、通称首吊人と呼ばれる賞金稼ぎの大物、ジョン。そんな彼に手錠で繋がれ、所かまわず悪態をつくのは女犯罪者、ドメルグ。偶然、彼らと同行していたいかにも小物の自称次期保安官クリス。そんな彼らを迎えるのは、この山小屋の所有者から留守を預かっていると主張するメキシコ人、ボブだ。一方、彼らより先に山小屋を訪れていた先客が3人いる。英国紳士風の装いをしている絞首刑執行人のオズワルド。小屋の片隅で自らの物語の執筆に夢中になっているカウボーイのジョー。暖炉の前で我関せずとチェスに明け暮れるのは、かつての南北戦争の英雄だが今や老いさらばえたスミザーズ将軍。一癖も二癖もありそうなそんな〝ロクデナシ8人〟がともに一夜を過ごすことになったのだから、当然、無事に朝日を拝めるわけはなかった。騙し合いに腹の探り合い、主導権争いに明け暮れているうちに、突発的に密室殺人が行われるのだった――。犯人は誰か?その真の動機とは?そして、この凄惨な争いを生き抜き、無事に朝日を拝めるのはどの〝ロクデナシ〟なのか?タランティーノ監督が新たに仕掛けるのは、いかにも彼らしいそんな息詰まるような緊張感に満ちた密室劇でした。唯一無二の彼の才能はもはや円熟の域に達しているといっても過言ではなく、個性的でアクの強いキャラクター、脱線に次ぐ脱線で時に暴走する饒舌な会話劇、下世話でエネルギッシュなエピソードの数々、全編を彩る軽快でノリのいい音楽……。デビュー作である『レザボア・ドックス』からぶれることなく、自らの世界を発展・進化させた彼の一つの完成形がここにはある。自分は存分楽しませてもらいました。アカデミー賞受賞も納得。ただ、難点が一つあるとすれば、それは自らの世界を追求するあまり、映画としていささか予定調和に終わったように感じるところでしょうか。もう少し彼の新たな世界を見たかった気がしなくもない。とはいえ、円熟期を迎えたであろうタランティーノの中期を代表する佳品として記憶に残ることは間違いない。 [DVD(字幕)] 7点(2016-12-27 00:50:33) |
987. 黄金のアデーレ 名画の帰還
《ネタバレ》 1998年、ロサンゼルス。長年この地で小さなお店を営んできた平凡な老婦人マリア・アルトマンが、オーストリアという国を相手にある訴えを起こす。それはこの国で長い間国宝として大事にされてきたクリムトの名画『黄金のアデーレ』が第二次大戦中ナチスによって不当に奪取されたもので、本当の所有者である自分に速やかに返還すべきだというもの。まだ駆け出しの弁護士を専属で雇い、巨大な国家権力を相手に無謀ともいえるそんな戦いを挑んだマリア。それでも彼女には決して負けられない理由があった――。幼い時に亡くなった彼女の叔母アデーレこそがその名画のモデルだったからだ。つらい過去を忘れるためにずっと足を踏み入れたことのなかった祖国の地にまで足を運び、マリアは煩雑な手続きの壁に立ち向かってゆく。同時に、それはナチスに蹂躙された彼女の激動の半生をも甦らせてゆくのだった……。世界的な名画の裏に隠された、時代の荒波に翻弄され続けたとある女性の真実を描いた大河ドラマ。興味深い題材ではあるし、主役である老婦人を気品豊かに演じたヘレン・ミレンの魅力も相俟って、なかなか堅実に創られた歴史ものとして最後まで面白く観ることが出来ました。時代考証もしっかりしていたし、ドラマとして過不足なく演出出来ていたと思います。なのだけど、正直に自分の感想を述べさせてもらえれば、「何かが足りない」。全てに対して何処か踏み込みが甘いような気がしてしまうのです。クリムトの名画に隠された真実、国家権力に戦いを挑んだ市井の一市民、ナチスに蹂躙された家族の物語と、どの題材も魅力的であるのにそのどれに対しても表面的なアプローチしかなされていない。なので、本作は結果的に薄味な印象を観客に与えてしまう。題材が良いだけに、「惜しい」と言わざるを得ません。監督には、破綻を恐れずもっと踏み込んだアプローチをしてほしかった。そうすれば、より多くの観客の心に残る「名画」となれたであろうに。 [DVD(字幕)] 6点(2016-12-23 22:30:53) |
988. ナイトクローラー
《ネタバレ》 生まれもっての偏屈な性格とプライドの高さから周囲の者とうまく馴染めず、社会の底辺を這いずりまわるような生活を送っていたコソ泥、ルイス・ブルーム。学歴も特殊な技能もなくまともに面接すら受けられなかった彼は、ある日、事故現場の凄惨な映像をカメラに収め、テレビ局に高値で売り捌く報道カメラマンという仕事と出会う。血まみれで横たわる被害者、銃を振り回す犯罪者、嘆き悲しむ家族たち…。人々の歪んだ好奇心を満たすために、瞬く間に消費されてゆくカメラの向こうの赤の他人たち。直感的に自分に向いていると感じた彼は、次の日にはカメラを買い求め、刺激的な〝画〟を撮るために夜の街を彷徨い歩くようになるのだった。持ち前の執念深さと冷徹な性格から着実に実績を上げてゆくルイス。新たに助手も雇い、厳しい視聴率競争に明け暮れるテレビ・ディレクターという顧客も確保した彼は、さらなる飛躍を図るため、人として踏み越えてはいけない一線を易々と越えてしまう――。人の不幸を食い物にして金を稼ぐそんなパパラッチたちの世界を描いているのだが、いやはや、これが実に面白い。ぎょろりとした目で訥々と持論を述べる気持ちの悪い主人公(ジェイク・ギレンホールがまさにはまり役!)に、最初は嫌悪感しか湧いてこない。だが、彼のそのプロに徹した仕事ぶりに、観客である僕たちももっと刺激的な画を求めてしまうようになるのだ。人の不幸は蜜の味とはよく言ったもの。最後など、彼の違法すれすれの計画がうまくいくようにと思わず応援してしまうほどだ。表向きは嫌悪感をあらわにしながらも、それでも本音では刺激を求めてしまう。人間とは罪深い生き物だとつくづく考えさせられてしまう。最後、この主人公に当然のように正義の鉄槌が下されると信じていた観客の期待を軽々と裏切る、後味の悪い展開も巧い。誰もが心に抱えているだろう闇を巧妙に突く、高度に考え抜かれた完成度の高い脚本だ。なかなか刺激的な映画体験をさせてもらった。この監督の次回作も期待して待ちたいと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2016-12-21 22:59:14)(良:1票) |
989. スティーブ・ジョブズ(2015)
《ネタバレ》 スティーブ・ジョブズ――。IT業界黎明期において革新的な製品を幾つも世に送り出してきたものの、その偏屈で傲慢な性格からいまだ毀誉褒貶の激しい彼の人生を、時代時代における三つの重要なプレゼンテーションの舞台裏を切り取ることによってスタイリッシュに描いた伝記ドラマ。その無駄を大胆に切り落とした野心的な構成(60年にわたるジョブズの人生を描くのに実質3日分しか描いていない!)はいかにもダニー・ボイルらしい見事なもので、なのにちゃんと彼の性格や人生を過不足なく表現しているのはさすがという他ない。これを並みの監督が安易に挑戦したりすれば、多くの場合もう目も当てられないものにしあがってしまうことだろう。流れるように展開されるスピーディーでスタイリッシュな映像、軽快でノリのいいその音楽センス、実力派の役者陣が織りなすパワフルな演技バトル。エンドロールが流れるまでの2時間弱の間、僕は映画の世界にどっぷりと浸かって見入ってしまった。なかなか完成度の高い作品であったと言っていいだろう。ただ、このジョブズという人のことはもちろん知ってはいたけれどそれほど興味もなく、またアップルの製品ともほとんど関わらずに生きてきた僕のような人間には、いまいち興味を持ち辛いテーマであったのでそこまで高評価というわけにはいかなかった。これは相性の問題だろう。 [DVD(字幕)] 6点(2016-12-03 00:43:52)(良:1票) |
990. ジョン・ウィック
《ネタバレ》 キアヌ・リーブス演じる凄腕の元殺し屋が、犬を殺した悪党どもに徹底的な復讐を遂げるエンタメ・アクション映画。なんすか、この中学生が休み時間に考えたようなぬるーい脚本は。この手の作品に突っ込むのは野暮だと分かってはいるけど、さすがにこれはテキトー過ぎるっしょ。 [DVD(字幕)] 4点(2016-11-27 22:49:49) |
991. ディーパンの闘い
《ネタバレ》 戦火を逃れ、故郷であるバングラディシュから難民としてフランスへとやってきたディーパン一家。郊外のマンションの管理人となり貧しいながらも家族水入らずの平穏な暮らしを手に入れた彼ら。だがその正体は、出国寸前に難民として認めてもらうため即席で一緒になった疑似家族だった。そう、彼らはそれまで口を利いたこともない全くの他人同士だったのだ――。イギリスに住む従妹の元へと向かいたい〝妻〟と何も知らずにただ連れてこられた9歳の〝娘〟とともに、ディーパンは強制送還させられないために偽りの家族生活を続けていた。そんな折、同じマンションに住む麻薬密売人たちの間で抗争が勃発する。平穏な暮らしの中で微かな絆のようなものを感じ始めていたディーパンたちの生活に再び、暴力の影が差してくるのだった……。難民問題に揺れるフランスを舞台に、そんな過酷な運命に翻弄されるとある疑似家族を淡々と描いたヒューマン・ドラマ。カンヌでパルムドールを取ったということで今回鑑賞してみたのだが、残念ながら、自分には何がいいのかさっぱり分からない作品だった。とにかく演出が一本調子で、主人公であるディーパンも魅力に乏しく、一本の映画として退屈極まりない。ドラマがようやく動き出すことになる終盤まで、僕は終始眠気と戦いながらの鑑賞となってしまった。映像もとても計算されて撮られたとは思えないほど粗悪なもので、これは本当にプロの仕事なのかと疑ってしまうくらいだ。無駄としか思えないシーンが幾つもあるのに、僕が本当に観たいと思ったシーンはバッサリとカット。編集もいちいち繋がりが悪く、場面場面がぶつ切りにされるので終始イライラさせられる。最近、カンヌがらみの作品を何作か観てきたのだが、どれもこれも残念なものばかりで、一時に比べ相当レベルが落ちていると言わざるを得ない。同じくヨーロッパの難民問題を扱った、巨匠ベルナルド・ベルトルッチの佳品『シャンドライの恋』における芸術性の高さを少しは見習ってほしい。 [DVD(字幕)] 3点(2016-11-27 22:40:51) |
992. サウルの息子
《ネタバレ》 ナチスのユダヤ人強制収容所を舞台に、無念の死を遂げた息子を埋葬しようと奔走する父親の物語。特徴的なのは、映画の大部分を主人公の背中からのバックショットのみで描き出しているところだろう。常にピントが主人公に合わせているため、収容所内部の悲惨な情景がぼやかせて描写されているのだ。残念ながら、自分にはそうする意図が全くつかめなかった。ストーリーもほとんど分からないし、具体的な情景が全く頭に入ってこない。どうしてこんな手法を使ったのかはなはだ疑問だ。こんな奇を衒っただけのものでホロコーストの真実を描き出したと思っているだろう監督の薄っぺらさに、自分は怒りすら感じた。 [DVD(字幕)] 4点(2016-11-20 23:09:56) |
993. ブリッジ・オブ・スパイ
《ネタバレ》 中盤までは緊迫感もありけっこう面白かったのだけど、舞台が東ドイツに移ってからがなんともつまらない。 [DVD(字幕)] 5点(2016-11-20 00:04:04) |
994. 誘拐の掟
《ネタバレ》 娘を殺したらお前も殺す――。1999年、ニューヨーク。酒に溺れ刑事の職を失った、私立探偵マット。以来酒を断ち、都会の片隅で細々と食いつないでいる彼の元に、ある日、とある依頼が舞い込んでくる。依頼主は、表向きは不動産業だが裏で麻薬を売り捌き、一代で財を成した密売人だ。しかもその依頼とは、自分の妻を誘拐し暴行の末に殺したうえ、それでも飽き足らず遺体をバラバラにした誘拐犯を生きたまま連れてこいというもの。明らかに危険な臭いを感じ、当初は断ろうとしたマットだったが、犯人たちのあまりにも残虐な手口に彼は依頼を受けることを決意する。かつての刑事としての勘を活かし、図書館で知り合った謎めいた黒人の少年とともに少しずつ犯人たちへと迫っていくマット。すると、麻薬密売人の妻ばかりを狙った連続猟奇殺人犯の狂った手口が浮かび上がってくるのだった。そんな折、新たに麻薬密売人の14歳の娘が誘拐されてしまう。警察に通報するわけにはいかない。マットは自ら交渉人となって謎の犯人たちへと迫っていくのだが…。暗い過去を背負った孤独な男と裏社会で暗躍する卑劣な誘拐犯との息詰まるような攻防を描いたサスペンス。そんないかにもリーアム・ニーソンンらしい渋い内容に今回鑑賞してみたのだが、きっと原作となった小説は幾つものエピソードや伏線が張り巡らせてある重厚な作品なのでしょうね。残念ながら、その手の映画にありがちな弱点が幾つか目についてしまいます。例えば、2時間弱の映画なのにやたらと登場人物が多く、彼らのエピソードがことあるごとに挿入されるものだから、映画全体の印象を極めて散漫なものにしてしまっているのです。過去のトラウマに苦しむ主人公、妻を惨殺された売人、難病を患う黒人少年、歪んだ性癖を持つ猟奇殺人犯、主人公に付き纏う麻薬捜査官、新たに誘拐される14歳の少女…。これらのエピソードが一向に纏まっていかないのです。なので、主人公と犯人が直接対決するクライマックスがいまいち盛り上がらない。さらに、そこで唐突に挿入される断酒会の演説が全く意味を成しておらず、せっかくの見せ場を極めて間延びしたものにしてしまっている。これは致命的な欠点と言っていいでしょう。映画全体を覆う陰鬱でダークな雰囲気はすこぶる良かっただけに残念です。 [DVD(字幕)] 5点(2016-11-17 23:44:37)(良:2票) |
995. ラスト・ナイツ
《ネタバレ》 いつの時代のどこにあるのかすらも分からないとある国。辺境の地を治める君主に絶対の忠誠を誓った騎士ライデンは、仲間からの信頼も篤い誇り高き男だ。ある日、彼の主君が皇帝陛下の執政により賄賂を収めるよう強要される。それに反発した主君が最後まで抵抗した結果、執政の策略により死罪を言い渡されるのだった。しかもその執政により、ライデンは主君の刑の執行人に任命される。苦渋の思いで主君の首を刎ねたライデン。騎士としての地位も剝奪され、さらには愛する故郷の地が皇帝の兵士によって蹂躙されるのを目の当たりにするのだった――。一年後、失意の末に酒に溺れ自暴自棄へと陥ったライデン。だが、そんな彼をよそに以前の仲間たちは密かに復讐の計画を練っていたのだったが……。忠臣蔵を基に、日本人監督がハリウッド俳優を多数起用して制作したという本作は、そんなストイックなまでの騎士道物語だ。あまりいい評判を聞かないこの監督の作品を観るのは今回が初めてなのだが、確かにエンタメ映画のセオリーをことごとく外した演出はどうかと思う。例えば冒頭、主人公のライデンたち騎士がよくわからない敵と戦うシーンから始まるのだが、これが映画の本筋とほとんど関係がない。やはりここはモーガン・フリーマン演じる主君にどうしてそこまでの信頼を寄せるようになったのか、そのエピソードをまず描くべきだろう。それがないため、主人公の行動に説得力が感じられず、見せ場であるはずの処刑シーンもいまいち心に迫るものがない。悪役である執政との因縁の描き方も弱く、どうしてそこまでライデンに怯えて過ごすことになるのかもしっくり入ってこない。だいいち、これは忠臣蔵をある程度知っているという前提ありきの作品であって、原典を知らない人に全てを理解するのは難しいのではなかろうか。ただ、そんな弱点ばかりが目につく本作ではあるが、誉めるべき点が一つだけある。それは映像で名を成してきた監督だけあって、その細部にまで拘ったであろう美しい映像だ。特に後半、夜の城を舞台に繰り広げられるアクションシーンはスタイリッシュでなかなか見応えがあった。細かな雪が舞い散る中、名誉を懸けて無言で剣を振るう男たちの姿は熱い。監督が日本人で、日本的美意識に貫かれた古典を基にしていることもあり、そこに日本的もののあはれのようなものを感じたのは自分だけだろうか。我ながら少々言い過ぎのような気がしなくもないが、多少甘めに6点としておこう。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-17 14:14:39) |
996. メイズ・ランナー
《ネタバレ》 ここは天高く聳え立つ巨大な壁に囲まれた荒地。ある日、そこに記憶をなくした少年が古い昇降機に載せられて運ばれてくる。そこには先にやってきた何人もの少年たちが独自のコミュニティを形成している。「三日も経てば君も名前を思い出せるよ」。先輩たちのそんな言葉通り、自らの名前を思い出した少年トーマス。彼はその地が巨大な迷路に囲まれていることを知るのだった。しかも迷路は日に日にその行路を変え、さらには夜になると恐ろしい怪物たちが徘徊し、少年たちを狩りはじめるという。仲間たちとともに新たな生活へとなじんでゆくトーマスはやがて迷路からの脱出を図る〝メイズ・ランナー〟となり、仲間たちからも信頼を得ていく。そんな中、これまで少年しか運んでこなかった昇降機が初めて少女を運んでくる。彼女の手には「これで最後だ」というメモが握られ、さらにはトーマスのことも知っていたのだった……。果たして彼女は何者なのか?迷路はいったい誰が築き、誰が操作しているのか?そして、トーマスたちは無事に迷路を攻略し、外の世界へと脱出することが出来るのか?ティーン向けのジェブナイル・ノベルを原作に、最新のCG技術を駆使して描いた脱出型SFアクション。というよくある設定勝負のワンアイデア映画なのだけど、迷路内や蜘蛛のような怪物たちの造形が意外にしっかりしていたり、脚本がそこそこ練られていたりでけっこう面白いじゃないですか、これ。『ハンガー・ゲーム』や『ダイバージェント』といった同系統の作品で散々失望させられていた僕としては意外にも楽しめました。まあ同ジャンルの名作『キューブ』をお金をかけてただスケールを大きくしただけと言われればそれまでなんですけどね。隔離された少年たちが迷路の謎を巡って「脱出派」と「現状維持派」に分かれて対立するなんて、『蠅の王』や『漂流教室』のテイストもちょっと混ざってますかね。と、いろいろベタではあるけれども、エンタメ映画としては別に問題ナシ。最後、「脱出派」の少年たちが自由を求めて危険な迷路を疾走してゆくとこなんかけっこう格好良かったですし。ただ…、最後に明かされることの真相があまりにも無理があり過ぎたのが僕的にはちょっと残念でした。まぁこのシチュエーションではこういう強引なオチを持ってくるしかないのは分からなくもないけれど、さすがにこれは話を大きくしすぎちゃいますか。次作を観るかどうかは悩むところですね。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-13 02:10:10)(良:1票) |
997. X-MEN:ファースト・ジェネレーション
《ネタバレ》 正直、このシリーズには何の思い入れもなかったのだけど、最近観た『キングスメン』というスパイ映画がすこぶる面白かったので、同監督がメガホンを取った本作をあらためて鑑賞してみました。うーん、確かに面白かったのだけど、やはりこのシリーズを好きかそうでもないかで評価が分かれると思います。僕は後者なので、評価は若干厳しめです。やはりマシュー・ヴォーンの才能はこういう真面目なヒーローものより、もっとぶっ飛んだ悪乗り系の作品の方が映えるんじゃないでしょうか。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-13 01:10:42) |
998. PAN/ネバーランド、夢のはじまり
《ネタバレ》 名作童話『ピーターパン』のその知られざる誕生秘話を最新のCG技術を駆使して描いたファンタジー大作。まあまあこんなもんじゃなかろうか、といった感じの作品でした。可もなく不可もなく、そこそこ楽しめる万人向けのエンタメ映画としては充分合格点。こんなごりごりのファンタジー作品で、まさかニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を聴けるとは夢にも思いませんでした。あのシーンは何回も観たいくらい好き。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-13 00:59:07) |
999. ザ・ウォーク
《ネタバレ》 1974年、ニューヨーク。完成間近の世界貿易センタービル、通称ツインタワー。当時世界最高の高さを誇ったこのビルで、誰にも成しえない偉業を達成した男がいる。男の名は、フィリップ・プティ。自称・世界最高の綱渡り師だ。そう、彼はその2つの超高層ビルの屋上にワイヤーを張り、命綱なしで横断することに成功したのだ。本作は、彼とその仲間たちによる狂気と紙一重のそんな無謀な挑戦をスリリングな映像で描いた超一級のエンタメ映画だ。ストーリーは極めてシンプル。エンドロールを迎えるまでの2時間強、この世界最高の危険な綱渡りを彼が如何にして成功させたのか、そこにどんなドラマがあったのか、ただその一点のみを描いている。偉業と言えば聞こえがいいが、彼らがやっていることは完全に犯罪行為。成功したからよかったものの、もし仮に彼が転落したりワイヤーが切れて窓硝子を割ったりでもしたら下手をすれば死人だって出たかもしれない。ただでさえ忙しい警察の業務を妨害したことも当事者にとってはたまったものじゃないだろう。でも、僕はそれでも彼らに成功してほしいと応援せずにはいられなかった。決行当日、様々な困難に出遭い一時は失敗を覚悟しながらも不屈の闘志でもって2つのビルにワイヤーをかけようとする彼らに、「それだけの情熱があるなら、もっと社会にとって有意義なことに活かせよ!!」という突っ込みなどまるで風に流される青空の白い雲のように霞んでしまう。ただ自分を待ってくれている人に心の底から楽しんでもらえたらそれでいい――。彼の無謀な情熱は、どこか映画作りのそれと似ていないだろうか。一人の男の馬鹿げた挑戦を最新の映像技術を駆使して何ヶ月、時には何年もかけて一本の映画に仕上げてしまうスタッフ及び監督の情熱とそれは根本的なところで繋がっている。フィリップと、稀代のエンターテイナーとして常にハリウッドの第一線を走ってきたロバート・ゼメキスの思いがオーバーラップするからこそ、観客である自分は思わず心揺さぶられてしまうのだ。クライマックス、ビルとビルの屋上にかけられた1本の弱々しいワイヤーの上へとフィリップが最初の一歩を踏み出すときの緊張感は、きっと映画が公開される直前の監督の緊張感と通じている。まさに、エンターテイメント・ショー。お金を払って観に来てくれた観客に最高の時間を過ごしてもらいたい、そんなゼメキス監督の表現者としての矜持に僕は最大限の賛辞を贈りたいと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2016-11-04 01:09:06) |
1000. ミケランジェロ・プロジェクト
《ネタバレ》 「オーシャンズ11」+「プライベート・ライアン」みたいな感じですかね。「プライベート~」では救いに来られた二等兵を演じたマット・デイモンが、逆に今回救いに行くのはナチスに奪われた貴重な芸術作品たち。まあやりたいことは分かるし、面白いとは思うのだけど、やはり引っ掛かるのはこの軽さ。それが意図されたものとはいえ、個人的にこの軽さは受け入れられなかったです。これはもう好みの問題なので、どうしようもないですね。5点っす。 [DVD(字幕)] 5点(2016-10-29 22:11:46)(良:1票) |