1361. ボルサリーノ
オールスター・キャストだった『パリは燃えているか』を除くと、後にも先にも唯一のドロンとベルモンドの共演です。ドロンはこの作品あたりから製作にも手を出しているので、けっこうベルモンドを立てたストーリーですよね。いろいろ出てくる綺麗どころはみんなベルモンドにまわして、自分に絡む女性はママだけなんですから(笑)。でもさすがにドロンのファッションはバッチし決まっておりまして、もうあの『ダーバン』のCM(これが判る人は相当なお歳です)の世界でございました。 監督はこの後ドロン映画御用達になるジャック・ドレーなんですが、はっきり言ってこの人は監督としての手腕は平凡です。そう考えると本作は彼の作品の中ではマシな方でしょう。アラン・ドロンがプロデューサーで主役の映画を監督するのはけっこう大変だっただろうなと想像いたします。 まあこの映画を観る愉しみは、しつこいぐらい劇中流れる有名なメインテーマを堪能することでしょう。 [映画館(字幕)] 6点(2014-04-28 23:50:46)(良:1票) |
1362. グレートレース
たしか中学生の時だったと記憶していますがリバイバル上映で観ました。観客には大受けで爆笑の渦でしたが、いま見直してみますと大して笑えませんよね。何と言うか、ブレーク・エドワースの喜劇ってちょっとくど過ぎるんですよね。でもトニー・カーチスとジャック・レモンという『お熱いのがお好き』の黄金コンビの復活だけでも観る価値は十分です。ペーソスが持ち味のレモンにしては珍しいドタバタ演技ですけどあのけたたましいまでの笑い声はもうド迫力で、さすが名優です。カーチスのキラッと光る歯がこれまたベタですけど可笑しいんですよね。ナタリー・ウッドもこの頃がキャリアの頂点で、その美しさは輝きに満ち溢れています。そしてヘンリー・マンシーニの名曲中の名曲“The Sweetheart Tree”、もうこの曲を聴くだけで幸せな気分になります。 こういう雰囲気の映画は60年代以降には廃れてしまったみたいで、もう絶滅したジャンルと言えるでしょう。 [映画館(字幕)] 6点(2014-04-26 21:47:52) |
1363. グリフターズ/詐欺師たち
《ネタバレ》 ジョン・キューザックのイカサマ手口のせこいことには笑わせていただきました。あんな細かい商いしてて額縁の裏がいっぱいになるほどカネがたまるもんでしょうかね。そう、この邦題は間違ってますね、正しくは『イカサマ師たち』でしょう。アネット・ベニングにいたっては、もうあれはイカサマでもありません、単に肉体を使って稼いでいるだけじゃないですか。彼女が昔ばなしする詐欺話(これが『スティング』と同じ仕掛けというところからして怪しい)にしたって、もう嘘八百であるのはミエミエですからね。 というせこい三人のドロドロの人間模様なんですが、もうアンジェリカ・ヒューストンの鬼婆ぶりが突出してます。彼女の芸歴の中でもこれはベスト・アクトじゃないでしょうか。とは言え、決して後味が良い映画じゃないことは確かです。音楽はエルマー・バーンスタイン、けっこう良い仕事してます。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-04-24 20:56:25) |
1364. J・エドガー
《ネタバレ》 アメリカ現代史の闇を暴く社会派ドラマだと思いきや、実は男同士のラブ・ストーリーでした。ディカプリオ、アーミー・ハマー、ナオミ・ワッツ、主なキャスト三人の老けメイク合戦ですけど、やはりディカプリオのフーバー激似ぶりは圧巻、あとの二人はまあこんなもんかなという感じでした。頭のおかしい人を演じさせたらやはりディカプリオは最高です。ハンカチで神経質そうに手をふくところなんかは、彼がかつて演じたハワード・ヒューズを思い出してしまいました。出番は少なめでしたけど、フーバーに40年以上も仕えたナオミ・ワッツも抑えたいい演技を見せてくれ、フーバーの陰の共犯者みたいな人生を送って最後に秘密ファイルをシュレッダーで闇に葬る、けっこう謎の女って感じがしました。しかしフーバーという人はやってたことの悪どさではベリヤやヒムラーと比べてもいい勝負で、この三人が20世紀が生んだ三大秘密警察長官なのかもしれません。 あまり見せ場もなく淡々とした作品ですが、ラストのフーバーの死のシーンでは泣かせてくれます。このフーバーとクライド・トルソンの関係を見てると、イーストウッドとモーガン・フリーマンを見てる様な錯覚しちゃいました(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-04-22 21:04:18) |
1365. 好色一代男
《ネタバレ》 市川雷蔵はイイですね~、眠狂四郎やってる人と同一人物とはとても思えない明るい演技です。長大な井原西鶴の原作を上手に脚色してあり、勘当された世之助が女を漁って日本をひとめぐりすると言うゴージャスさです。ほとんど江戸時代のポルノグラフィと呼べる西鶴オリジナルに、武士に抑圧される町人の悲哀を織り交ぜてくるところは、監督が増村保造ならではです。ホンワカしたテーマ音楽と雷蔵のしゃべくりが見事にマッチしておりまして、世之助が愛した女子がみな死んだり殺されたりしちゃうのに不思議と観終わって爽やかさが残ります。女優はいろいろ出ていますが、やっぱり若尾文子が飛び抜けて輝いていました。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-04-19 23:57:39) |
1366. ダーティハリー2
《ネタバレ》 明らかにシリーズ化を考慮していなかった第一作だったので、脚本やプロットは仕切り直しみたいな自由度があったはず。その結果が、“お汚れハリー”vs“街の処刑人”というお話しになったと言うのはまあ納得がゆくところです。ハリー・キャラハンのキャラ付けが違いすぎるんじゃないかとの意見もありますが、私はハリーの人物像に一本筋を通したように思えて賛成です。でも人類の味方になったゴジラやガメラみたいに感じる違和感も理解できます(笑)。 本作がシリーズ五作品の中で最長の上映時間なんですが、緊張感がない描写が多くてとにかく冗長です。監督が、『猿の惑星』の続編を撮ってオリジナルを粉々に打ち砕いたテッド・ポストなんだからあきらめるしかないのでしょう。ジョン・ミリアスが脚本書いただけあって銃撃戦やガン・アクションはさすがに迫力がありました。でも初めて観たとき、白バイ警官デイビスがなんで海に落ちただけで死んじゃったんだろうと不思議だった想い出があります。ここら辺がいかにも70年代の映画っていう感じですね。 [映画館(字幕)] 5点(2014-04-18 00:14:22)(良:1票) |
1367. 脱出(1972)
《ネタバレ》 冒頭の有名な“デュアリング・バンジョー”の迫力は時代を経てもまったく色あせない、もうここだけで観るのを終わりにしてもいいんじゃないの(おっと)。このギター弾きドリュー役はこれが映画デビューのロニー・コックス、『トータル・リコール』のコーヘイゲン長官なんです。それにしても20年足らずでえらく老けたもんですよね。本作で見せてくれた奇妙奇天烈なポーズの死体姿、たしかに財津一郎ですね(笑)。 ジョン・ブアマンが見せてくれるもう悪夢のようなストーリー、その中にも彼らしい観るものを惑わすフェイクが散りばめられています。まずドリューの実に奇妙な死に方、バート・レイノルズは崖の上から狙撃されるのを見たと主張して仲間を震え上がらせますが、どう見ても銃で撃たれた様な映像ではないですよね。そしてジョン・ボイトが殺したのは果たしてあの“歯無しの男”だったのか、劇中でもボイトは真っ先に死体の口を開けて歯を確認しますが、前歯が取り外し出来る指し歯になっていて良く判らない。もうこの描写なんかはブアマンの確信的なストーリー・テリングですが、どうも違う人間のように観客には観えます(IMDbで確認すると、俳優自体は同一人物みたいでしたが)。そういう風にこの映画を捉えると、マッチョに見えるレイノルズが実はいちばん臆病で、彼の幻視がジョン・ボイトの人生を狂わせていったと言えるでしょう。中盤からレイノルズが死んだも同然状態でストーリーに絡まなくなるのも象徴的です。と、言うわけで色々な観方が出来ますが、70年代としては強烈なホモチックな作品なのは確かです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-04-16 21:39:10) |
1368. ブルー・マックス
《ネタバレ》 『レマゲン鉄橋』もあるし、ジョン・ギラーミンは戦争映画を撮らせると上手い監督です。もっとも本作の場合は、製作総指揮のエルモ・ウィリアムズの功績が大だと思うのですが。泥まみれで地面を這いまわる歩兵から、既に時代錯誤になっている騎士道精神が幅を利かす貴族的な航空隊に転属してきたジョージ・ペパード。始めから終りまで嫌われ者として描かれますが、良く考えると最初のうちは戦果をあげて早く勲章が欲しいと奮闘しているけど、協調性が皆無の性格が災いして軍人貴族の同僚たちから白眼視されているだけの様な感じもします。でもそういう観方も同僚ウィリーの戦果を横取りしたときからは崩れてしまい、後は破滅するまで暴走は止まらない。死ぬ間際になってやっと貰えたプール・ル・メリット勲章(ブルー・マックス)が、首にかけられるときに大写しになるカットが無常感に満ちていました。 使われる両軍の航空機はレプリカながらもすべて実機を飛ばして撮っており、文句なしの迫力です。まだ制空権という概念が生まれる前のことですから、物語の前半は地上戦の推移とは関係なく勝手に空中戦をやっている感じです。それがドイツ軍最後の攻勢作戦“カイザー・シュラハト”が始まると地上掃射が重要な任務になってくる、ここら辺は時代考証が行き届いています。地上戦も予算をかけて緻密に再現されており、地上掃射のシーンの迫力は空中戦シーンを凌ぐほどです。名優ジェームズ・メイスンの狡猾で非情な将軍も印象に残りましたが、何と言ってもほとんどニンフォマニアみたいなウルスラ・アンドレスの伯爵夫人、フェロモンの放出が強烈でした。 [映画館(字幕)] 8点(2014-04-14 22:15:58) |
1369. 斬る(1962)
《ネタバレ》 三年や二十年があっという間に経過する驚くべきスピーディーな映画。上映時間71分ではまあ致し方ないでしょうが、その分様式美に凝りまくった映像に集中出来て良かったかと思います。「人間が縦に真っ二つ」という衝撃シーンがあります、といううたい文句ですが、遠景でしかも一瞬のカットですからなんてことはない。流麗な雷蔵の殺陣が見どころなのに、このシーンだけは妙に浮いてしまっているので監督の意図はちょっと?ではあります。三隅研次は後年に『子連れ狼』シリーズで人体破壊殺陣をさんざんやっているので、もうこれは彼の趣味の問題としか言いようがないでしょう。この当時はすでに黒澤明が殺陣に斬撃音をとりいれていましたが、こういう斬撃音のないチャンバラはかえって新鮮な感じがするのが不思議です。どっちがリアルなんでしょうかね。 [DVD(邦画)] 7点(2014-04-12 19:33:39) |
1370. 処刑人
《ネタバレ》 もうゲップが出るほど観てきた“街の掃除屋”ものなんですが、これはちょっと衝撃的でしたね。だってこの映画、ほとんどコメディじゃないですか。ウィレム・デファーをあそこまで怪演させて挙句の果てには女装まで披露するんですから、もうこれは反則技です(笑)。デフォーが次元移動して犯行模様を再現してくれるののはもう大笑いでしたが、なるほどあれは『プラトーン』のパロディなんですね。それに主要登場人物に女性が皆無でそこはかとなく漂うホモチックな雰囲気、たしかに腐女子が喜びそうですね。好き嫌いが分かれそうな作風ですが、タランティーノとガイ・リッチーを足して2で割った様な中途半端なところがけっこう自分にはツボでした。続編があるみたいで、この次は絶対にデフォーがメインを乗っ取ってチャールズ・ブロンソンのポール・カージーみたいになるぞと確信してましたが、『Ⅱ』には出演すらしてないそうです。でも『Ⅲ』があったらきっと出てくるぞ(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-04-09 19:49:54) |
1371. 殺しの分け前/ポイント・ブランク
《ネタバレ》 ファーストネームのない男ウォーカー、こいつは生きている復讐の鬼なのか死してもなおこの世をさまよう亡霊なのか、謎は深まるばかりです。『81/2』や『2001年』なんか眼じゃない60年代に撮られた中でも屈指の難解さです。最近ではこの映画を、ウォーカーが死に瀕してみた夢なんだと解釈するのが流行りみたいです。 裏切り者のペンションに侵入するシークエンスでは、良く観てると警備のボディガードたちにはウォーカーの姿が目に見えていない様にも感じられ、やっぱり彼は亡霊なのかなと思えます。面白いことにウォーカーの女クリスにはファミリーネームがなく、これは何を暗示しているのか首を捻りますが、彼女もやはりこの世の人ではないということでしょうか。ジョイスやプルーストの小説テーマの『意識の流れ』をそのままクライム・ミステリーに導入した様な脚本は、とても先鋭的で時代を超越しています。 個人的には、リー・マーヴィン主演映画の中では本作がベスト、彼のカッコよさも頂点に達していると思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-04-06 23:05:44) |
1372. ジュラシック・パーク
《ネタバレ》 思えば90年代はスピルバーグがもっとも油が乗っていた黄金時代だったですよね。本作に『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』と映画史を変える業績を残し、この10年間でオスカー監督賞を2度も受賞するという偉業を成し遂げたんですから。またこの頃の彼は映画表現の革新にどん欲にチャレンジしていて、現在のCG全盛は『ジュラシック・パーク』の成功が扉を開けたのは間違いないところでしょう。やりたいことをやり尽くしたのかもしれませんが、21世紀になってからのスピルバーグはどうも保守的になってきた感じがするのは気になるところです。 「男の子はみんな恐竜ファン」というのが私の勝手な持論ですが、この映画を初めて観たときには30年ぶりに眠っていた恐竜熱が甦りましたよ。“恐竜は温血動物だった”なんていう学説は耳にしてましたが、こうやってリアルに動き回る映像を見ると説得力があります。あのピンと張った尻尾こそが私たちの教えられていた恐竜像を粉々に打ち砕いてくれました。島で初めて恐竜に出会ったときのサム・ニールとローラ・ダーンの子供に帰った様な表情はもう最高です。映画を観ているかつての男の子たちも、きっと同じ様な眼をしてたんだろうなと思います。 この映画のちょっと残念なところは、科学者三人の描き方が類型的でちょっと薄っぺらなところですかな。サム・ニールの子供嫌いなんかもいかにも作りものですっていう感じのキャラで、彼らのバックボーンなどをもっと掘り下げて欲しかったところです。もっともこの子供嫌いというのは、スピルバーグの本性を投影させているのじゃないかと思いますが(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-04-04 20:56:14)(良:2票) |
1373. リリー
《ネタバレ》 いかにも大作ミュージカルという風情の『巴里のアメリカ人』の後でこんな可愛らしい小品も創っていたなんて、さすが全盛期のMGMだけのことはあります。この映画はミュージカルと呼ばれていますが、使われている楽曲は有名な『ハイ・リリー・ハイ・ロー』だけと言ってしまえるほどのシンプルさ。オスカーを受賞していますが、ミュージカル映画音楽賞ではなく劇・喜劇映画音楽賞だったというのも納得です。 この映画自体がレスリー・キャロンのための企画みたいなもので、その彼女の輝きっぷりはもう胸キュンものです。ラストのバレエ・ダンスも良いんですが、やっぱり人形と『ハイ・リリー・ハイ・ロー』を歌うシーンの可憐さはこれからも語り継がれてゆくことでしょう。 DVD化されたのは良いんですが古いプリントのまんまでカラーが完全に変色してました。どこかデジタル・リマスター版をリリースしてくれませんかね。それだけの価値はある作品ですよ。 [DVD(字幕)] 8点(2014-04-01 21:22:29) |
1374. コールガール(1971)
《ネタバレ》 この映画、半分以上のシーンが夜の屋外と灯りの点いていない部屋の中で、ほとんど真っ暗というカットも幾つかあります。でも撮影監督が名手ゴードン・ウィリスなのでその深い闇が実に鮮やかに眼に残ります。デジタル・リマスター版で観れたのは幸いで、痛んだ古いプリントやビデオだとたぶん怒り狂うことになるでしょうね。『ゴッドファーザー』は言うまでもなく、コッポラやウディ・アレンに信頼されカメラを任されてきた名カメラマンなんですが、二回ノミネートされただけでオスカー撮影賞を受賞していないことは実に意外です。 この映画でのジェーン・フォンダの演技は、たしかに上手いけど主人公の性格付けがジェーン本人のキャラとほとんど同じ様な気がして、個人的にはあまり評価してません。70年代になってから彼女の演じるキャラはだいたい同じパターンの繰り返しみたいになってしまい、この年齢のときに『バーバレラ』みたいな殻を破ったキャラを演じて欲しかったと感じます。 ラストの結末に当時の女性観客からブーイングを喰らったそうですが、あそこで別れたらそれこそ凡百の映画と同パターンになっちゃうじゃないですか。ドナルド・サザーランドに着いていったからこそ、そこに良い味わいの余韻が残るんですよ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-03-30 21:28:56) |
1375. バルカン超特急(1938)
《ネタバレ》 足止めを喰らって旅館で過ごす一夜のシークエンスがどうもモタモタし過ぎている感じがします。この作品は登場人物が多いのですが、どうもそれぞれのキャラが有機的にストーリーに活かされていないところが難点です。どうもヒッチコックは群像劇のようなタイプの映画を演出するのはあまり得手ではなかったみたいですね。列車を舞台にしているところなんかはアガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』に便乗した感じが強いけど、この映画の脚本は本格ミステリーに良くある「まずトリックありき」という不自然さが目立ち過ぎています。あんな老婦人一人を始末するのにあそこまで手の込んだ仕掛けが必要なのかが意味不明。ハラハラドキドキ感は薄いし、種明かししてからの展開もちょっと強引過ぎる気がします。まあ“消えた乗客”というプロット自体は偉大なオリジナルで、この後色んな映画で模倣されてるくらいだから評価すべきところでしょう。 そう言えばヒッチコック先生はどのシーンでカメオ出演してたんでしょうか、全然判りませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-03-27 23:37:26)(良:1票) |
1376. ハードコアの夜
《ネタバレ》 もし父親が熱心なカルヴァン派キリスト教徒でしかもジョージ・C・スコットだったら、たぶん自分も耐えられずに逃げ出したと思います(笑)。お話は『96時間』の元ネタと言ってよいほど同じですが、リーアム・二―ソンじゃないんで銃をぶっ放して暴れる様な爽快さは皆無です。この親父のイタイところは周囲の人間や観ている私たちですらうすうす勘付いているのに、ただ一人娘が誘拐されてブルー・フィルムに出演させられたと思いこんでいるところでしょう。そこそこ有能な私立探偵もクビにして単身で西海岸に乗り込んでピンク街で聞き込みを始めるなんて、やってることもかなり無茶です。スーツにネクタイ姿じゃかえって怪しまれ、場数に踏むにつれてどんどん服装がラフになってきて、ニセ広告を出して男優を面接するところではカツラに付け髭で変装しちゃう、この映画で唯一笑わせていただいたシーンでした。 この親父の嫌なところは、とにかく信仰と娘のことしか頭の中にないところでしょう。途中で娘と一緒にブルー・フィルムに出演していた女と知り合いますが、彼女が下品な女なりにスコットと心を通わせようとしても全然受け付けない。少女娼婦を救うために体を張った『タクシードライバー』のトラヴィスの方が、はるかに立派な人間に思えてきます。 ジョージ・C・スコットの熱演は魅せてくれますが、ラストはなんのカタルシスもない想像通りの展開でした。登場人物が誰も人間的に成長しない、70年代のポール・シュレイダーらしい一本です。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2014-03-25 20:40:17) |
1377. キングコング対ゴジラ
《ネタバレ》 東宝創立30周年記念映画として7年の眠りについていたゴジラを引っ張り出し、なんとキングコングをぶつけるという高度成長期に入った世相に相応しい作品で、いまで言うと『エイリアンvsプレデター』『ジェイソンvsフレディー』といった感じでしょうか。ユニヴァーサルからキングコングの版権をとるのに苦労したそうですが、この映画のキングコングの不細工さは東宝特撮の中でも最悪の部類です、ユニヴァーサルから文句が来なかったんですかね? 対するゴジラは逆三角形の体型であるコングと対照する意図もあって頭が小さく下半身がどっしりしたスタイルで、ファンからは“キンゴジ”と呼ばれ数あるゴジラ・スーツの中でも人気NO.1を誇っています。また本作からゴジラ映画もカラー化されてこの映画の色合いが後の作品にも引き継がれてゆきます。■実は本作は「怪獣ブラック・コメディ」というジャンルを開拓した偉大な功績があるんです。軽い作風の関沢新一の脚本の中でも屈指の面白さで、それが重厚な本田猪四郎の撮り方と見事にマッチングしています。まだTV放送が始まったばかりの時代に、TVとその本質であるコマーシャリズムのえげつなさをブラックな笑いに昇華させてるからもう脱帽するしかありません。有島一郎の宣伝部長の抱腹絶倒ぶりは、同じ東宝の『社長シリーズ』なんか目じゃありません。ゴジラもコングも彼の商魂に乗せられてプロレスしてる様なもので、ラストで観光施設として建てられた熱海城を仲良くぶっ壊すところなんか痛烈な皮肉になってます。■コングが東京に侵入するシークエンスは、オリジナルへのオマージュが感じられます。浜美枝のスクリーミング・クィーンぶりも堂々たるもので、彼女の悲鳴はほとんど泣き声に近く真に迫ってました(吹き替えじゃないと思いますが)。ただエンパイア・ステート・ビルのオマージュとして国会議事堂に登らせるとは、ちょっとみみっち過ぎました。なんで東京タワーにしなかったんでしょうかね、前年に『モスラ』でぶっ壊しちゃったからかな(笑)。 [映画館(邦画)] 8点(2014-03-22 20:07:06)(良:3票) |
1378. ABC・オブ・デス
《ネタバレ》 若手というか安い映画作家たちにアルファベットの一文字と5千ドルを与えて死をテーマに撮らせたのアンソロジー。大部分の作品が5千ドルじゃ足らずに監督の持ち出しになっただろうという作品が多い中で、どう見ても5千ドルを使いきらずに私腹を肥やしたなと思われる作品がふたつばかりありました。とくにひどいと言うのがGの『重力』で、これほとんどカネ使ってないんじゃないですか?それで面白けりゃ文句は言いませんけどね。ひどいと言えばFの『おなら』でございまして、撮ったのが井口昇じゃしょうがないや、と文句をつける気も起りませんでした(本人いわく、東日本大震災と原発事故へのオマージュなんですって)。山口雄大のJ『時代劇』が三人の日本人作品の中でいちばんマシかなと思いますけど、介錯役の侍があまりに川谷拓三に似ているので驚いたら何とご子息の仁科貴でした(笑)。 自分の感性に合わないというか理解不能な作品が多かったですが、ベストを選ぶならやはりDの『ドッグファイト』、次点はⅩ『ダブルエックスエル』でしょうかね。なんかパート2も製作されているみたいですが、たぶん観ないです(笑)。 [DVD(字幕)] 4点(2014-03-19 23:06:01) |
1379. 胎動期 私たちは天使じゃない
《ネタバレ》 いきなり「推選 日本労働組合総評議会 協賛 日本医療労働組合協議会」の字幕が大写しにされると、次に流れるのは古き良き時代のローマ字表記の新東宝マーク。つまりこの作品は大蔵貢が会社を投げ出した新東宝が倒産するまで61年に製作した21本の映画のひとつだったというわけです。総評がスポンサーの企画を映画化するなんて、そりゃ大蔵貢時代には絶対あり得ないことですからね。 脚本はなんと新藤兼人、中身は病院付属の看護学校を舞台にしたプロレタリア演劇になりますかね。色んなところから支援を受けて撮られたみたいで、主役の看護学生たちはほとんど俳優座の女優たちです。新東宝の女優陣からは池内淳子や三原葉子などが出ていますが、みんなチョイ役か悪役ばかりです。三原葉子ももちろんナース役で、彼女のナース服姿というレアな映像が拝めます。婦長に平手打ちを喰らわしたり辞めてストリッパーに転職したり、キャラ自体はいつもの三原葉子でした(笑)。 しょせんはプロレタリア演劇なので、「看護学生=善」「学校体制=悪」というと綺麗に色分けされています。教官や先輩ナースたちは生徒たちが自治会を作ろうととするのを徹底的に邪魔するわけですが、あまりに学校側に感情移入させないように持ってゆく脚本は、ちょっと強引過ぎる感じがします。 こうやって外部の血を入れて苦労した企画でも、肝心の監督が新東宝プロパーのヘボ監督じゃあ映画の出来はイマイチにしかなり様がありませんでした。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2014-03-16 23:45:20) |
1380. 何故彼女等はそうなったか
《ネタバレ》 エログロ路線に突入する直前の新東宝映画で、こんな良心的な佳作を製作していた会社があんな風になっちゃうなんて何とも皮肉としか言いようがないです。『しいのみ学園』の清水宏が再び香川京子を起用して撮った作品です。もうこの映画はひたすら香川京子を愛でるのが正しい観かたです。ストイックに生徒の少女たちに愛情を注ぐ先生というキャラは、もう彼女以外には考えられない当たり役です。更生施設で彼女の愛情に守られてきた少女たちが出所するやいなや厳しい家庭環境から悲惨な運命に翻弄される、清水宏の脚本はエミール・ゾラの小説を思わせる冷徹さです。いったん世間に戻ってしまった少女たちの現実にはなんの助けも差し伸べられない無力な存在として香川京子を描く視点は、この映画を単なるヒューマニズム賛歌にすることなく余韻を残してくれます。 まだ辞書に“人権”という言葉が載ってなかったかの様な時代ですから、出所した少女たちに対する家族や世間の偏見がひどいことと言ったら無残なものです。昭和30年代は牧歌的な時代だったという幻想をふりまくのが最近の流行りですが、現実にはこういう残酷な世相の貧しい時代だったというのが正しいところでしょう。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-03-14 00:00:26) |