121. ある子供
《ネタバレ》 この映画は、若者とよばれる子供たちが主人公である。彼ら・彼女らは、生まれた赤ん坊をもてあましながら、この世界の中で生き抜いていくためにいろいろな新しいことを背負っていくことにある。その背負うということを端的に描いた作品になっている。 この世の中で生き抜いていくために必要なこと。それは責任ではないかと思う。ブリュノは自首することによって、初めて自分の行いに責任をとった。そして、最後にソニアと二人で手を取り合って流す涙は、責任をとるという道を歩みはじめたことの大変さを、もう後戻りは出来ないということを思って流した涙のように思えてならない。 [DVD(字幕)] 6点(2006-10-01 18:20:16) |
122. アカルイミライ
この映画は、若い人のための青春映画というよりも、大人のための作品だと感じた。この作品に出てくる2つの大人像の対比がとても秀逸だからである。1つ目のタイプはおしぼり工場の社長。もう1つのタイプはもちろん有田の父親。前者は「真面目に働き、家庭も円満な成功者」ではあるが、致命的に「節度がない」。本人は「仲良くしたい」、「物分りのいい人」のつもりでやっていることが、その「節度のなさ」故に人に暑苦しさ、ウザさを与えるタイプの人間である。一方、後者は「仕事も微妙、家庭もバラバラ、自分に自信がない」存在として描かれる。彼の善性は、我を忘れて金庫を開けようと暴れる仁村にたいして説教した自分自身に対して、「言い過ぎちゃったよ。口が滑っちゃったよ」と言わしめたシーンに端的に現れている。彼のような態度こそ、自由を確保しながら品格を保って生きていくために人間が通らねばならない狭き道なのではないかと思う。オダギリジョーの怪演も見物です。 [DVD(字幕)] 9点(2006-08-30 00:53:54) |
123. スーパーマン リターンズ
《ネタバレ》 素直に面白いです。「スーパーマン」の続編としてだけでなく、そもそもこの「リターンズ」自体が「スーパーマン」第一作のパロディとしてよく出来ています。レックス・ルーサーが親に言われた不動産にちなんだ話や、飛行機からロイスを救出するときの台詞や、「父は息子となり、息子は父となる」も、第一作でちゃんと出てきてますよ! という訳で、「リターンズ」を観る前に必ず第一作を観ることをお勧めします。デイリー・プラネット社のオフィスの様子も、タイプライターからパソコンへ、5年以上は確実に過ぎ去ってますけど…。シリーズ続編も期待を抱かせるいい作品でした。 [映画館(字幕)] 8点(2006-08-28 00:01:27) |
124. ランド・オブ・プレンティ
《ネタバレ》 ラスト、叔父と姪が見たグラウンド・ゼロはただの瓦礫の山だった。物質に意味を与えるのは人間の想像力である。むしろ、グラウンド・ゼロをみて「なにか感じなくてはいけない」という強迫観念のほうが危険なのではないかと思う。それは、大きな力が起こした出来事に対して正面から取っ組み合うこと自体が、一人の人間がもつ判断能力を超えてしまっているからだ。原爆について描いたもっとも痛切な映画が「黒い雨」であるように、9.11についてもこの映画が参照されつづけることは間違いない。奇妙なことにどちらの映画も、「大きな危機」を乗り越えた人たちの「その後」を描いている。一方、ハリウッドでもそろそろ9.11を描いた映画が製作されているようだ。ハリウッド映画では、「大きな危機」そのものが中心的に描かれれ、「被害者」であるという印象を誇示するタイプの映画になるのだろう。でも僕たちが本当に聴き入るべきなのは、「被害者」として物質に過大な意味を負わせて「死者を代弁する」人々の声ではなく、「生き残った人」として「死んだ人の体験には届き得ない」ことを知りながらも「死者の声に耳を澄ます」ひとたちの言葉なのだと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2006-08-20 13:07:24) |
125. ゲド戦記
映画監督の小栗康平さんがおっしゃっていることだが、「アニメーションには実存がいないという致命的な点がある」ということがまさに当てはまる作品だったと思う。「ゲド戦記」は題材として、人間の内面が非常に強く関わっている。人間の内面を描くには様々な手法があるけれど、僕らが日常的に特に多く用いているのが「顔の表情」ではないだろうか。アニメーションの限界は、「表情」の複雑さが表現しにくいという点にある。「モナリザ」とかはなんかありげだけど。今までのジブリの作品は、確かに難しくて複雑なテーマを扱ってきた。でも過去のジブリ作品で複雑さを担保するのは、キャラクターの顔ではなく、世界構造の複雑さだったのではないか。紅の豚ので、なぜ「豚」なのか考えると、まさに世界構造の複雑さを生み出していくアイデアだとしか思えない。そこでゲド戦記を見てみるとと、もっとも複雑なのは、ゲドを原点とした世界構造であるはずなのに、あえてアレンとテルーの物語にしたことで、世界構造の奥行きがあさくなり、しかも、最後の砦である若い二人の表情がアニメでは複雑に表現できないのであるから、この作品は無謀であるといわざるを得ない。でも、分かってそうしているなら、今後がんばって欲しい。その意味の期待感をこめてすこし甘めに6点。 [映画館(字幕)] 6点(2006-08-20 12:44:03) |
126. メゾン・ド・ヒミコ
男の僕がいうのも何ではあるが、オデギリジョーのワイシャツとぴったりとしたパンツ姿は、美しいシルエットだと思う。これは描き方というよりキャスティングの勝利。僕もつい、自分のなで肩を呪う。対照的に、柴咲コウの描き方はとても素朴な印象。通常の映画だと、誰か一人ぐらいはイメージ化された、超越的なキャラクターがいるものだけれど(というのは、基本的主人公の内面の描写には時間がさかれるから観客にとっても不思議ではないけど、内面まで描かれないけど重要なキャラクターは必定超越的、神秘的な様相を帯びるから)、この映画にはそういったキャラがいない。みんなが暗と明、傷と歓びの中間でゆれる人生を生きていることがちょっとしたシーンでも描かれている。その意味で、この映画は分かりやすい映画になっているにもかかわらず、映画だからこそ超越的なキャラに慣れている人にとっては楽しめない映画だと思う。僕自身は前者の方がより次数の高い考え方だと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2006-08-20 12:20:05)(良:1票) |
127. M:i:III
ドキドキするアクション映画として十分に楽しめた。いつのまにかこのシリーズがスパイ映画からアクション映画のカテゴリーに入っているのが少し寂しいけれど、これはこれでいいという気がする。結構だましてくれたし。最近気になるのが主人公の真面目な恋愛話を絡めたアクション映画がおおいってことかなぁ。スパイダーマンあたりからなんとなくそんな気がしてます。インディー・ジョーンズとかの時代は恋愛話は余興というかむしろ笑いの要素として扱われていた気がするのだが…。 [映画館(字幕)] 7点(2006-07-27 22:07:05) |
128. 運命じゃない人
とても面白かったです。骨組みの設定だけでなく、細かい台詞にもこだわりがある感じで、よく練られた作品だと感じました。個人的には同じ出来事の意味合いが、主人公を変えて描写しなおすことで変化していくのがとても面白かったです。そういえば、日常生活のなかでも、いつもと同じことをやっているのに、ふといつもと違う意味をもっているように感じられることがあります。それは僕が変わったせいだったり、世界が変わったせいだったりしますが、とにもかくにもとても快い瞬間です。きっとこの映画はそういった「同じことのはずなのに意味がかわって再認識されること」が持っている快さをうまく掬い取っているのだろうと思います。僕も、相手にいつも違う意味で捉えてもらえるよう、変化を続けていきたいと思いました。 [DVD(字幕)] 8点(2006-07-27 21:53:41)(良:1票) |
129. タイヨウのうた
ストーリーなんかどうでもいい。ここまでの密度でドラマを描いたことに脱帽です。登場人物の奥行きがとてもしっかり描かれている。はじめのころのあんまり会話が弾まないときの二人のシーンとかやられました。純粋というよりは骨太にリアルな映画だと思った。いい。 [映画館(字幕)] 9点(2006-07-07 01:47:59)(良:1票) |
130. カーズ
いままでのピクサーアニメとの一番の違いは、登場するキャラクターに人間がいないこと。「トイストーリー」でも、「モンスターズインク」でも「ニモ」でも主人公は擬人化されたなにかだけど、その空想世界にはかならず「人間」がいた。でも「カーズ」には人間が果たす役割はない。レースを観戦するのも車だ。人間で言うなら陸上競技大会ということになるのか? キャラクターが車だけであることで、結局やってることは陳腐な若者成長ドラマだ。キャラが車であることが生かされているのがレースシーンのみというのでは、今までのピクサー作品に比べて深みが足りなくなるのは必定。映像がすごいといわれても、すでにねた切れ感が漂う。妙に田舎町への郷愁が・讃美感が誇張されているのも気になる。ブッシュ大統領を当選させちゃったのは、クールに分析する都市部のインテリではなく、あんまりもの考えない純情一直線の田舎町野郎どもだったことを考えると、田舎讃美も単純に鵜呑みに出来ない。 [映画館(字幕)] 5点(2006-07-07 01:34:28)(良:1票) |
131. ブリスター!
パックンみーっつけた! 最近熱血野郎が気になっている僕にはそれなりに楽しめた作品でした。すこし、テンポがだるいけどね。。。 [ビデオ(字幕)] 5点(2006-06-25 19:40:35) |
132. Laundry ランドリー
《ネタバレ》 最初の雰囲気はよい。台詞もまるで現代文学だ。いろいろ起こり始めるとつらい。もしある時間を経て自分がものすごく変わった時、相手が変わらずにいたとしたらその相手の変わらなさに好意を抱くこともありうるだろう。でも、それは相対的な話。もし、自分があまり変わらなかったら、すげー変わったやつにこそ好意を抱くものなのではないかと思う。テルは間違いなく、ずっと変わらずにいるはずだ。問題はずっと変わらない相手と一緒にいたときの変わらなさに人間は耐えられるのかってこと。その意味でこの映画の結末から、本当の物語が始まるのだと思う。 [ビデオ(字幕)] 6点(2006-06-25 19:36:33) |
133. 終わりで始まりの4日間
やさしい映画。自分ではどうしようもないもののせいで、なんだかうまくいかない人たちのための映画。そういう、何かを抱えながら生きていかなくてはならない人たちって、なんでかものすごい優しいのだ。おまけになんだかやたらと話が面白いのだ。ナタリーがそのへんてこでコケティッシュな魅力を十分に見せている作品。ストーリにはこれといってヒネリはないけど、鑑賞後の後味は良い。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-06-25 19:27:44) |
134. ヨーロッパ
トリアーはこの作品以後、執拗に「アメリカ」をテーマにした作品を取り続けていくわけだけど、そのことを念頭において見てみると、アメリカに移住したドイツ系移民である主人公が終戦直後のドイツに戻って寝台車の車掌になるところから始まるこの映画もアメリカとヨーロッパの違いを強く意識していることは疑い得ない。靴を磨いたかどうかを靴の裏のチョークのしるしで判断する乗客と、靴が磨かれているかぐらい靴を見ればわかるだろという主人公の台詞が面白い。言葉を重視するドイツ。事実を重視するアメリカ。トリアーがどちらの見方を支持するのかは定かではないが、ナチ体制を許したドイツ人の思考を痛烈に皮肉っていることは確かだ。事実を見ればナチなんてどこからどう見てもおかしかったはずなのだと。この台詞のやり取りだけで十分7点。あとのロマンスやサスペンスはこの題名において評価の対象とはなりえない。そう思う。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-06-25 19:17:29) |
135. ジャケット
《ネタバレ》 この映画のもっとも恐ろしいところは、「結局主人公がそのために格闘した未来は本当に真実だったのかどうか」という疑問が残るところ。あらゆる細部にリアリティーが感じられてもなお、目の前の世界がフェイクであるという可能性はぬぐえない。もし、全てが主人公の脳みそのなかで起こった出来事にすぎないとしたら、それを見ている僕達はどう反応したらよいのだろうか。傍から見るとそれは壮絶なまでに滑稽な事態ではないのだろうか。主人公にとってのリアリティーを観客として追体験すればそれでいいのだろうか。 全てを見通すものが最も大きな悲しみを背負う。その悲しみが伝わってくるがゆえにこの映画はそれなりに評価したい。ただ、もう少し洗練させたほうが良い。鋭さは磨くことによって生じる。 [映画館(字幕)] 7点(2006-05-27 15:22:44)(良:1票) |
136. Vフォー・ヴェンデッタ
《ネタバレ》 たのしいと同時に寒気のする作品。展開も早く、ハリウッド映画には珍しいテイストは十分に楽しめる。その一方、「またかよ~」と突っ込みたくなるダメダメな部分も散見される。独裁政治=一人の政治家の顔が国のあちらこちらに露出している状況だとすれば、ラストの一見力強いVの仮面をつけた群集の姿も、実は根本が同じなのではないかと思わざるを得ない。民衆が意図した「革命」以後の世界を僕らは生きていて、それらの「革命」がなぜか凶暴性を持った「テロ」に変質してしまったことを僕らは知っている。だから、この映画が皮肉を意図しているのでなければ、僕は素直にはうなずけない。単純にいって、たくさんの人が同じ仮面をつけて集まるって、かっこいいよりは気持ち悪いという感覚のほうが普通だと思うけれど…。その辺は人によるのかもしれない。 [映画館(字幕)] 6点(2006-05-07 21:12:17) |
137. 火垂
《ネタバレ》 冒頭の東大寺お水取りのシーンで、この映画の「視線」に心打たれる。この世界には物事を美しく捉えることができる人間がいるんだという確信を得ることができる。ストーリーが動き始めるまでがとても長いけれど、緊張に満ちた構図とアングルはとても魅力的である。ストーリーが動き出したあとは、この監督の作品にしては珍しくストレートな展開を見せる。それもまた一興。ラストのお水取りのシーンで、この映画は「市民ケーン」と一緒なのだと思い至る。美しきワン・アイデア・映画。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-05-07 20:55:51) |
138. 私の頭の中の消しゴム
《ネタバレ》 なにか、もうれつに「悲しみたい」人にとってのみ勧められる映画だと思う。その他、例えば肉体的な死と精神的な死についてなど、ある程度ものについて考えこんでしまったことのある人間にとっては、当り前すぎる内容。「その先が肝心なのに…」と突っ込んでしまう。平たく言えば、この映画は「悲しい」とばかり言うので、そのまま一生「悲しい」ばっかり言いつづけるんですか?とおおいに疑問。僕個人としては、悲しみをどう克服するか、それがどう描かれるかに興味があったのに…。前半の美しいラブストーリーはちゃんと見れるけれど、出会いのきっかけまでもが後々の病気の伏線(物忘れ)であることも興ざめ。「病気になる前の人を好きになってしまったら、病気になってしまった」という展開ではなく、「病気になりかけの人を好きになってしまった」のが最初の前提ならば、どうぞそのまま頑張ってくださいと言うしかない。 [映画館(字幕)] 5点(2006-05-07 11:35:03) |
139. リアリティ・バイツ
よく誤解されているけど、この映画は「現実の壁にぶち当たった若者たち」を描いているのではない。「現実をくだらなくて、つまらないものにしか感じれない若者たち」を描いているのだと僕は思う。「現実」にそっぽを向いて、自分のやりたいことをやる若者に対して、現実は厳しい仕打ちをすることがある。だからREALITY BITESなんだと思う。たしかにこの映画の主人公たちは「おじょうちゃん、おぼっちゃん」かもしれない。経済的に自立してもいない。でも「自分の好きに生きる」ためには自分でお金を稼ぐ必要があって、それは「働く」という形で「現実に沿った生き方」をすることに他ならない。「自分の好きに生きる=自由」であるために「現実に従う」のは、なんかおかしい。だから彼らは「現実に沿わずに、自分の思いのままに生きる」ことで、「限られた自由」を得て決着をつけようとしている。そう考えてみると、この映画、決して悪くないと思う。 [ビデオ(字幕)] 8点(2006-03-13 23:21:18)(良:1票) |
140. シムソンズ
いつのまにかこういう直球内角高めな映画が好きになってきています。カーリング、面白い。ギャグ満載という感じではないけど、コミカルかつ「くさい」一歩手前ぐらいの熱いやり取りが胸を打ちます。個人的には「流氷ソーダ」と「Cafeしゃべりたい」にやられました。ばかばかしいまでの一生懸命が、いつのまにかみんなの認めるところになります。この「ばか」と「立派」の境界線は微妙なんだけど、これも「結果」が全てなんだろうなと。周りの人間とはかくも現金なものなのです。辛い時でも、結果が出ないときも仲間や家族と痛みを分かち合えるってすばらしい。そういう当り前なことを、奇をてらわずにしっかりと見せてくれる映画です。着実なのにおもしろいという稀有な映画になってます。 [映画館(字幕)] 9点(2006-03-05 21:34:05)(良:1票) |