161. 輪舞(1950)
《ネタバレ》 娼婦に始まって娼婦に終わる物語そのものが輪舞となっている構成。端正な語り口はコリン・ファースのようで、人生を達観している眼差しはジェームズ・メイソンのようなアントン・ウォルブルックの狂言回しが絶品。唇を重ねる、肌を合わせるに到る各人の恋心は深みが何も無く明日にでも忘れそうなものの、上質な音楽並びに居並ぶ大スターのこれぞ「おフランス」と言うべき華麗な味わいを楽しめる逸品。 [DVD(字幕)] 7点(2018-10-13 21:24:44) |
162. 或る殺人
《ネタバレ》 1時間が経過してお目当てジョージ・C・スコットが検事として登場してからの裁判劇に眠気が吹き飛びました。ハリウッドの良心、ジェームズ・スチュワートとの丁々発止のやりとりもさることながら、二人の間に入ってユーモアをも交えながら裁判を的確にコントロールする判事が絶品。鑑賞史上最高の判事を演じた人が、ジョセフ・マッカーシーと対決して「・・君には品位というものがないのかね・・」とやりこめたジョセフ・ウェルチという弁護士と知って驚きと共に納得。評決が下るシーンのドキドキ感は、バルセロナ五輪決勝戦古賀選手の判定を見守った時が甦るものでした。観る者に判断を委ねる結末で、私は、妻の浮気に逆上して間男を撃ち殺した第一級殺人で有罪とみました。若きベン・ギャザラの存在感が印象に残ります。「タブー? 関係ないね」と言わんばかりの監督の意欲を感じた作品。最初のモタモタが惜しいところ。 [DVD(字幕)] 7点(2018-10-09 01:12:19) |
163. 五本の指
《ネタバレ》 スパイ・サスペンス映画の最高傑作。殺害・格闘シーンは無く、金庫の国家機密書類をカメラで撮影する手口で至極アッサリしているにもかかわらず、実話ものというのも相まって、全編が痺れる緊張感に満ち満ちる。特筆すべきは主人公ディエロの人物像。欲望にしがみつく手(5本の指)というタイトルそのままの「これから絞首刑になる人間にロープの太さを教えたところで何になる?」が示すドイツへの愛でもイギリスへの憎しみでもない、貧しい出自の彼の憧れである紳士の地位と高嶺の花 Anna を買う金の為だけの売国行為。淀みのない話しぶりと落ち着きはらった物腰で窮地をすり抜ける姿に、「こんなはずでは」と思った矢先のどんでん返しにディエロ同様絶句する。poor Diello を体現するラストシーンはジェームズ・メイソン名場面集の暫定1位であり脳裏に焼き付く絶品演技に胸が締め付けられる。 [DVD(字幕)] 9点(2018-09-30 00:59:00) |
164. 拳銃王
《ネタバレ》 お目当てカール・マルデンは酒場の主人を彼らしい実直さで好演。モッサリした邦題からグレゴリー・ペックの大暴れを想像していましたが、真逆の静謐な人間ドラマでした。「お前だけ幸せに暮らせると思うなよ」声なき声が聞こえてくる最期が切なくて堪りません。傑作西部劇にして忘れじの逸品。 [DVD(字幕)] 9点(2018-09-07 17:33:06) |
165. 地獄の戦場
《ネタバレ》 ガダルカナル島の戦い後のソロモン諸島(詳細な場所は不明)での日米戦が描かれています。最前線の死と隣り合わせの戦闘模様は息を詰めて観るものの、物語としては平板で盛り上がらない。お目当てカール・マルデンの唐突な退場並びに最後の遺言のとってつけた感に違和感を。日本兵の描写も微妙。 [DVD(字幕)] 4点(2018-09-02 00:12:00) |
166. 楽園に帰る
《ネタバレ》 サモア島で6か月のロケが敢行されたという事で作り物でない風景に魅入ります。白人宣教師コベットの独善的な管理に盲従する島民達が、流れ着いたモーガンの活躍で立ち上がる姿と、モーガンとミーヴァのロマンス、モーガンと娘のドラマが描かれています。心変わりしたコベットが印象深いもののその理由が曖昧なのが物足りません。ゲイリー・クーパーの一本調子の台詞回しに気持ちが盛り上がりませんが結末にはさすがにグッときました。ロブソン監督作としては地味な一品。 [DVD(字幕)] 7点(2018-08-30 02:31:05) |
167. 私は告白する
《ネタバレ》 告解は「人殺ししました」であっても絶対他言しない。神父の掟を守り抜こうとするローガンが濡れ衣を着せられて追い詰められてゆくのを固唾を呑んで見守る。恩を仇で返す犬畜生にも劣るケラーのお蔭で、鑑賞翌日歯が浮いてしまって困った事に。ケラーとその妻とルースの告白を聞くローガンの胸の内をモンゴメリー・クリフトが魅せてくれる。タイトルの「私は」はケラーの妻を指しているように思えるもので、そのシーンに堪らず大泣き。何時もの洒脱さが影を潜める監督らしからぬ、それでいて見応えある秀作。 [DVD(字幕)] 8点(2018-08-26 01:07:46) |
168. 地底探険
童心に帰らせてくれた傑作。探険前、いざ探険。全てにハラハラドキドキさせられ一瞬も目が離せない。スタッフが用意した極上の舞台で一本気なリンデンブロック教授を演ずるジェームズ・メイソン。屈折していない彼(存在しないと思っていた)もまた格別で、ロマンに駆り立てられた冒険模様と晴れやかなラストシーンが脳裏に焼き付けられました。孫と一緒に観たい作品リスト入りで購入手続きを済ませました。 [DVD(字幕)] 9点(2018-08-20 13:59:36) |
169. 太陽は光り輝く
プリースト判事。冴えない見た目の飲んだくれが人を裁けるのか、やたらと陽気な音楽、ハズレだったかと思いました。しかし、「人間の尊厳は肌の色や職業に関係ない」譲れない思いは何があっても譲らない二つのシーンにひれ伏しました。とりわけ後のシーンの演出は鳥肌もので、将軍の胸中を想像すると泣けてきそうになりました。「怒りの葡萄」「わが谷は緑なりき」「周遊する蒸気船」に続く鑑賞となった本作も監督特有の骨太さに感じ入った傑作です。 [DVD(字幕)] 9点(2018-08-17 09:23:24) |
170. 巨象の道
《ネタバレ》 ピーター・フィンチとダナ・アンドリュースの狭間で揺れるエリザベス・テイラー。死者の威光が支配する館。ワクワクしたのですが。 お粗末な展開の中での三人の無機質な芝居に白けて睡魔が押し寄せてきたところへの象の大群。シャキッとなりイライラも解消させてくれた象さんの大暴れに加点。アニマルパニックものにしょうもないドラマをくっつけた愚作。名優の無駄遣いに腹が立ってしようがない。 [DVD(字幕)] 3点(2018-08-15 13:20:28) |
171. パンドラ
映像に、ストーリーに、ジェームズ・メイソンとエヴァ・ガードナーに。幽玄の世界を堪能させてもらえました。これ以上言葉に出来ません。 [DVD(字幕)] 10点(2018-07-17 00:34:54) |
172. 殴られる男
《ネタバレ》 真相を知ったトロが吐き出したマウスピースを口に戻そうとして力尽きる姿にジーンときました。目の当たりにしたエディは金に転んだ自身を恥じたのだろうか、何を思ったのだろうか。ニックの寄生虫ぶりに上がり続けた不快指数がマックスに達した時にエディも袂を分かつ。そこからエンディングまでエディとトロの無事を握り拳で祈り続けました。ラストショットのタイプの文面の日本語訳に「えっ? 何で?」観直して誤訳を確認しました。特筆ものの失態です。遺作に相応しいボギーの持ち味溢れる姿に見惚れ、神経を逆なでされ続けたロッド・スタイガーの熱演に釘づけになった逸品。 [DVD(字幕)] 9点(2018-06-23 22:13:41) |
173. トコリの橋
《ネタバレ》 二人の息子が戦死して妻と息子の嫁の精神と一家が崩壊した提督、出撃前夜のブルーベイカー大尉の怯え、もうダメかもわからないけど何とか助からないものかとの願いが叶わない大尉の最期、ラストショットの提督。反戦を強く感じる作品。発艦、帰艦、空中戦の特筆もののリアルさに命を懸けて他人の命を奪う仕事の無情さを味わう。重厚なフレデリック・マーチ、精悍なウィリアム・ホールデンにそぐわない珍妙な日本描写が残念。 [DVD(字幕)] 7点(2018-06-16 22:07:07) |
174. グレンとグレンダ
服装倒錯者に理解をというテーマは当時として衝撃的だったのだろうか。何でもかんでも語っちゃうナレーションと何しに出てきたん?のベラ・ルゴシ。下手くそな見せ方がもうね・・・アホらしさと眠気に耐える苦痛のひと時だった。 [DVD(字幕)] 1点(2018-06-10 13:40:30) |
175. プラン9・フロム・アウター・スペース
《ネタバレ》 「エド・ウッド」鑑賞済み。監督の亡きベラ・ルゴシへの愛は感じるものの、引っ張り出してきた資料映像のベラ・ルゴシには魅力を感じられない。幼稚で滅茶苦茶な脚本、哀れみを誘うジョージ・スティールの姿、ボールベアリング円盤に代表される薄ら寒いセット。映画への愛情は今作では独り善がりなもので生み出された作品は見るも無残なものだった。こんなので金を得ようとした事に不快さもさることながら残念さで一杯。 [DVD(字幕)] 0点(2018-06-08 14:18:03) |
176. 六番目の幸福
気の強さに鼻白む事があるイングリッド・バーグマンですが、本作での強さは何があっても信念を曲げず自分で困難な道を進む勇敢さと他者への思いやりも持ち合わせるものでひれ伏しました。ジェナイにとっての6番目の幸福とは逃げ出さない事に思えます。そんな彼女にジワジワと惹かれてゆくリン大佐の心模様もさることながら、滋味深い県長が絶品で彼女との別れのシーンでの万感胸に迫る姿に涙が溢れました。作品公開を待たず53歳で他界したロバート・ドーナットのラストパフォーマンスをこの先忘れる事はないでしょう。 [DVD(字幕)] 8点(2018-06-03 00:33:35)(良:1票) |
177. 怪物の花嫁
『エド・ウッド』でのタコとジョージ・スティールの記憶が僅かに残る本作。起承転結がキチンとあり、怨念を糧に生きてきたマッドサイエンティストを演ずるベラ・ルゴシに惹きつけられた「なかなか面白い作品」で嬉しい驚きです。『海底二万哩』の巨額の費用をかけ28人がかりで操作したイカと本作のタコ。ビジュアルでは天地の差があるものの映画に対する愛情の大きさは一緒だと感じました。 [DVD(字幕)] 7点(2018-05-30 16:41:44) |
178. 渚にて
『海底二万哩』からアドベンチャー要素を取り除きロマンス仕立てにした作品。グレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステア、アンソニー・パーキンスといったしっとりとした俳優達がそれなりに雰囲気を醸し出すものの、こじんまり感が否めず、街の終末模様の虚しさや終末を迎える街の緊迫感が何も響いてこないのが残念。製作費がかけられなかったのだろうか? [DVD(字幕)] 5点(2018-05-27 16:00:59) |
179. ジュリアス・シーザー (1953)
本作の主人公はブルータスであり、最初から最後まで思い迷っていた青臭い理想主義者を演ずるジェームズ・メイソンの実直な演技に魅入るものの心揺さぶられる事は無かった。一方で謀反の首謀者にして権力欲の塊カシウスを演ずるジョン・ギールグッドの飢えた狼のような眼差しが絶品。彼が現れる度に画面が不穏な空気に包まれ、ジェームズ・メイソンをも凌ぐ気迫に圧倒されました。もっと長い尺で登場人物の心の内を見せてもらいたかった。 movie legends 同士のツーショットのお宝映像に大感激で購入したDVDは私の大切なたからものになりました。 [DVD(字幕)] 8点(2018-05-18 01:45:12) |
180. ゼンダ城の虜(1952)
《ネタバレ》 ルリタニア王国ルドルフ国王が戴冠式間近に、王位と王妃との結婚を狙う異母兄マイケルの陰謀で毒酒を飲まされ倒れる。英国から休暇に訪れた国王と瓜二つのルドルフ・ラッセンディルが身代わりで戴冠式に臨む。王妃は優しさ溢れるラッセンディルに惚れる。マイケルの腹心ヘンツォ伯爵によってゼンダ城に囚われた国王救出に向かうラッセンディル。という物語。 ジェームズ・メイソン演ずるヘンツォ伯爵は鑑賞史上最高の悪役で、まさに「華麗なる悪」のバイブルと呼べる存在。 ハンス・グルーバー(アラン・リックマン) フランツ・フォン・ヴァルトハイム大佐(ポール・スコフィールド) エミール・ビュイッソン(ジャン・ルイ・トランティニャン) 永遠に変わる事がないと思われた順位が一つずつ繰り下がる事になりました。 超絶オトコマエのルックス、紫の軍服の完璧な着こなしと身のこなし、ベルベット・ボイスで放たれる一言一句のクレバーさと腹黒さとふてぶてしさ、マイケルの愛人を口説きにかかる色気、主人マイケルを一突きで瞬殺する残忍さ。堪りません。 ノックアウト状態なのに更に繰り広げられたラッセンディルとの5分弱にも亘る剣での一騎打ちに完全にとどめを刺されました。 ヘンツォ伯爵判定勝ちの決着が-0.001点 ルリタニアン・ロマンスの語源となった傑作であり、現時点での best of James Mason に酔いしれた絶品。 [DVD(字幕)] 9点(2018-05-15 02:31:54) |