1. 赤い河
西部劇の名作といえば言わずと知れた「駅馬車」ですが、この「赤い河」も、それに匹敵するほどの傑作西部劇であることが言えます。とにかく、上映時間が2時間以上あるにも拘らずすべてにおいて充実しておりまたテンポ良く話が進んでいくために全く飽きを感じさせません。その点においてやはり今の話題性ばかりが先走りして中身が置いてけぼりを食らっているそこらのハリウッド製エンターテイメントとは質、内容量共に次元が違いすぎます。圧巻はやはり中盤の1万頭にも及ぶ牛の大暴走。もうコレは「この先1年くらいは牛見なくてもいいや」と思うくらい大迫力ですし、後半部に差し掛かる頃の盗賊団との撃ち合いなど痛快な描写満載です。そうかと思えば中盤、壮年期に差し掛かったジョン・ウェイン扮するダンソンが銃を取り落とす場面では、「駅馬車」の勇姿がフラッシュバックしてきて今の彼が哀れに思えてくるなど、人間描写の方も手を抜いていなkところが素晴らしい。やっぱり、外人が日本の侍に憧れを感じるのと同様に、日本人もアメリカのカウボーイに憧れるんですよね。テキサスから1400キロも離れたミズーリに牛を運ぶ旅の最初に、次々に「イェェァハァーーー!!!」と叫ぶ場面では「これぞカウボーイの生き様!」と心の奥から躍動を感じました。またラストも今で言えば安直な終り方ですが、それが帰って彼らの陽気なライフ・スタイル(現実にはより過酷なんですが)を反映しており、これぞ娯楽の王道!と言わんばかりの爽快感を味わえます。これは駅馬車と並んで西部劇の傑作です。 9点(2004-08-16 16:21:11) |
2. 我が道を往く
《ネタバレ》 既にこの作品については↓の皆様がありったけの賛美の言葉をお贈りになっておられるので、もう僕のようなボンクラが付け加えるような事も無いんですが、ここはあえて失礼して…こんなに信仰厚き人が沢山登場するのに、偽善だとか、そう云うことを全く感じない。自己流のやり方で教会復興に、司教区の人々に奉仕するオマリー神父、最初は彼のやり方に不満をもち、まるで子供のようなことをやるのが妙に可愛いフィッツギボン神父。この一見全くタイプの違う2人の神父が、徐々に心を通わせていく、その全く不自然さを感じさせない展開の上手さ!随所に挿入される歌の数々…そして、長年の夢であった、フィッツギボン神父と母との再会、そしてそれを窓の外から眺め、静かな余韻を残してマオリー神父が去っていく、物静かながら、心にいつまでも残るようなラスト…もう言う事はありません、これは間違いなく、映画史に永遠に残る不朽の名作です。 [DVD(字幕)] 9点(2004-06-20 03:39:51)(良:2票) |
3. 素晴らしき哉、人生!(1946)
確かに個人という存在は世界から見れば小さいのかもしれない。でも、歯車の一つでも欠ければ時計が機能しないのと同じように、たった一人欠けるだけでも世界は大きく変わってしまうかもしれない。大きく変わらないにしても、一人が欠ける事によって誰かの人生が変わるということは大いにありうる。自分とは決して一つの“存在”なんかじゃない。誰かを支え、また支えられて生きている。そのことをこの映画は教えてくれた。嗚呼何と素晴らしき哉、この人生! [DVD(字幕)] 9点(2004-01-13 02:58:14)(良:2票) |
4. 悪魔の往く町
《ネタバレ》 見せ物興行一座の一団員だった男が、千里眼の秘技(トリック)を身につけ、成功を収めていくが、結局破滅していく。 書くと「それだけ?」という感じですが、これがとても面白い。 詐欺師なので「そんなのあるわけないじゃん(笑)」というスタンスながら、タロット占いの不吉な占いは彼の末路を見事に的中させ、「見えない力」が働いているかのごとく主人公に降りかかる。 そしてついに失墜し、再び戻った見せ物一座。彼が得た職は「狼男(ギーク)」人間なのか、獣なのか?という、口上で一座の中でも最下層に位置するであろう扱いを受けている。そんな冒頭の口上が思い起こさせるラストというか主人公の末路は滑稽であり残酷でもあるものだと思いました。 「すべてはあなたの精神状態が作り出した妄想、簡単にいうとすべては悪夢なのよ」という痛烈なセリフがとにかく印象的。原題の「悪夢小路」がなんともぴったりだなと思いました。 [DVD(字幕)] 8点(2022-02-27 03:18:49) |
5. らせん階段(1945)
《ネタバレ》 一応サスペンスの部類になっていますがその演出は紛れもなくホラー。 冒頭の殺人鬼の眼球のアップ映像から、雷鳴轟く屋敷、印象的な螺旋階段、風にゆらめく蝋燭、終盤の暗闇で繰り広げられる殺人描写。 障害を持つものを殺していくというある種タブーのような内容と、その狂気に取り憑かれた犯人心理などは現代のサイコホラーのそれ。 直接的な描写はなくとも十分恐怖を感じられる演出。 題名んあるほどらせん階段がキーになるかといえばそうでもないのですが、穿った見方をすれば、螺旋構造(遺伝子)とかけているのかな、というのは原題的な解釈なのでしょうか。 ともあれ、今見ても十分趣のある、面白い作品でした。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-02-04 20:18:28) |
6. 幸福の設計
《ネタバレ》 前半は大してハマらずに、向かいの店のエロ親父のことが気になってしょうがなかったのですが(笑)、中盤以降、当選した宝くじをなくしてしまうくだりから俄然面白くなってきました。 前半の本のくだりが何気なく伏線になっているあたり難いなと思いました。 同じような題材で「ル・ミリオン」みたいな感じかな、と思っていたのですが、市政の人々の何気ない暮らしと、くじの行方を探すハラハラの両方を味わえるとても面白い作品でした。 [DVD(字幕)] 8点(2021-08-11 19:36:30)(良:1票) |
7. 若草物語(1949)
実に落ち着いていると言うか、暖かい映画でした。ジャネット・リーとリズ・テイラーは、マリオンとクレオパトラの印象が結構強いんですが、結構なはまり役。町の景色や家の内装、服装などから“古きよきアメリカ”を感じさせてくれますし、展開も無駄がなくテンポ良く進んでいきます。また、邦題の付けかた、良いですね。「若草物語」って(原作の方がそうだからかもしれませんが)。今じゃ殆どカタカナ題名だけど、昔のこうした素晴らしい邦題を持つ名画って、やっぱり良いですね。 8点(2005-03-20 23:12:19) |
8. 第三の男
《ネタバレ》 他の方々も仰ってますがとにかく光と影のコントラストが素晴らしい!建物の形状や人間の構造をすべて熟知しているかのごとく美しい。それにやはりここまで素晴らしいのはモノクロの映像という点。無駄な色がない分余計に光の当たり具合、影の付き具合が美しい。勿論それを捕えるカメラのアングルもまた素晴らしい。また誰もが一度は耳にしたことがあるであろうテーマ曲や、徐々に深まる謎、そしてラストのオーソン・ウェルズの息をも吐かせぬ逃走劇、映画の娯楽性と芸術性が見事に共存している映画です。 8点(2004-08-04 20:31:23) |
9. チャップリンの独裁者
一見喜劇映画ながら実はナチス統治下の社会を強烈に風刺してるってのが凄いです。特にラストの(映画史に名を残すといっても過言ではない)名演説シーン。これがもし今だったら、と考えると、ただ奇麗事を並べてるだけに思えますが。この時代(1940年)というように考えると、これは映画という枠を超えチャップリンが心の丈をぶつけた全身全霊の言葉だということは想像に難くないでしょう。今も尚衰える事を知らぬ、底知れぬパワーをもった作品です。 8点(2004-03-20 20:47:15) |
10. わが谷は緑なりき
恥ずかしながら未だに僕はフォード監督の作品は【駅馬車】しか見たことがないんですが、それでも彼の才能の素晴らしさを垣間見るには充分だったと思ってます。何しろ普通の娯楽作品ながらあれにはちゃんとした人間ドラマが丁寧に描かれているし、映画というものを心得ている人なんだなと思いました。そして今回は【わが谷は緑なりき】前者と違い、なまじっけな娯楽作品ではないけれど、笑うシーンや愉快なシーンなどがありこれもまた娯楽映画とは違った面白さがあります。これを見て思った事は、幸せってなんだろう?お金じゃなくて、ひもじいながら楽しく生活する事なんだと思います。それが前半の、頑固親父や肝っ玉母ちゃんのいる家庭の描写、そして後半の不本意な結婚をしたアンハードの描写等でよくわかります。どんなに辛く苦しい事があっても美しい思い出はいつも心の中にある。私のの谷は…緑だった! 8点(2004-02-12 19:25:51) |
11. 鉄格子の彼方
《ネタバレ》 中年期に差しかかったジャン・ギャバンの演技が光る恋愛もの、というか親子もの? 殺人の罪で逃亡中の男がイタリアで下船し給仕の女性と恋に落ちる。男の正体を知った娘は彼と距離を取ろうとするが嫌いにはなれず、迫りくる警察の追手をなんとか知らせようとチョークでメッセージを残すが、結局捕まってしまう。 あれだけ警戒していたのに愛ゆえに盲目になりメッセージを見落としたりという失態や「これでいいんだ」と逮捕される件は決してハッピーエンドではないけれど、静かな余韻があってよかったですし、戦後間もないイタリアの庶民たちの貧しくもありそれでも助け合って生きていく姿に人間的な力強さを感じました。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-28 00:11:48) |
12. 緋色の街/スカーレット・ストリート
《ネタバレ》 ルノワールの「牝犬」のリメイクだそうで。 前半は人のいいおじさんから金を騙し取ろうとする若いカップルのやり取りなどはちょっとサスペンス風でもありコメディのようでもあり、しかし後半以降から一気に複雑になってきてどんどん面白くなってきました。 偽の作者に仕立てて絵画を売り捌いていたくだりや日頃から彼女に暴言暴力を振るっていたくだりが後半の殺人の証言のための伏線になっていたりして良かったですし、それで終わりではなく、ずっと頭の中に声が響いて死ぬことも許されないという業を背負う羽目になるラストは皮肉というか恐ろしかったです。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-10 01:30:26) |
13. 怒りの日(1943)
《ネタバレ》 魔女狩りの横行する時代における男女のあれやこれや。陰影の使い方だったり、主人公の危うい美しさだったりとかはとても素晴らしいです。 ただストーリーなどで見て楽しいかと言われるとそうでもありません。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2022-08-29 00:13:48) |
14. パルムの僧院
《ネタバレ》 スタンダールの小説が元ということですが未読。クリスチャン・ジャックに作品はこれの他に「花咲ける騎士道」を観ましたが、あちらが軽快な剣戟アクションなのに対しこちらはとにかく重厚感たっぷり。 パルム公国を舞台に、政治的策略や革命の動き、ドロドロの恋愛模様がうまく溶け合って、、、いるかどうかは怪しい設定。序盤に一気に出てくる人がどーんと出てくるので誰が中心人物か、メインヒロインかを把握するのが大変でした。 結構ストーリーの方も、ほとんどが三角関係というかドロドロの人間関係と策略の応報でややこしさ極まりなく、「貴族」という身分が家名を守っていかなければならないので仕方ないんですが、主人公ファブリスを含め大公や警視総監はじめほとんどの連中が私利私欲のために動いているろくでもない連中ばかりなので、なかなか感情移入さうることは難しかったです。 ただ、なんだかんだ言って、冒頭の1枚の金貨がしっかり後半の伏線になったり、少ないながらも剣戟アクションや脱獄のシーン、終盤の革命シーンやカメラワークがなかなか凝っているシーンもあったので、3時間近くの長さもそれほど感じませんでした。 [DVD(字幕)] 7点(2021-12-29 16:27:39) |
15. 悪魔が夜来る
《ネタバレ》 前半はメロドラマチックで退屈だなーとか思ってたのですが、中盤以降にジュール・ベリ扮する悪魔がデデーンと出てきたあたりから俄然エンジンがかかってきて面白くなりました。 確かに他の方の解説で「ナチスの隠喩」というのを読んで、確かに、と思いました。 上部は上品だけどその実は傍若無人、万能の力を持っていても大事なものは持っていない、そして、石に変えながらも彼らの心までは支配できず、地団駄を踏みながらも消えていく滑稽さが素晴らしかったです。 そのほかにも、悪魔の力を表現する特殊効果もアナログながらなかなか凝っていて見応えがあり、良かったです。 [DVD(字幕)] 7点(2021-12-12 16:47:15) |
16. 情婦マノン
《ネタバレ》 うっかり恋をしてしまったのが男を手玉にとる情婦。さっさと若sれればいいのに、とか思いながら結局最後は2人の行末を案じてしまう。 そしてマノンの方もロベールに心を惹かれ、しかし苦渋の別れ。でも実の兄を殺した彼の元に戻っていく。 純愛とは違うけどこれもまた一つの愛の形。マノンの死体に語りかけながら最後の時を待つシーンはなかなか印象深い終わり方だった。 [DVD(字幕)] 7点(2021-10-23 18:48:14) |
17. 美女と野獣(1946)
《ネタバレ》 他の人も指摘していますが、ベルの周りの(父親除く)連中のクズっぷりとそれに対比するような野獣の紳士っぷりが非常に印象的な作品。 コクトーの作品しては随分ストレートかな、という感じではありますが、舞台装置的な演出や野獣の造形はなかなか素晴らしく、他の「美女と野獣」関連作と比べてもファンタジックというより少しおどろおどろしさがある分個人的にこちらの方が好きです。 確かに、ベルが野獣に心惹かれる過程がちょっと不明瞭だったり、ジャン・マレー扮する王子が突如空を飛んだりと色々と「なんで?」と思うシーンもあるのですが、冒頭のテロップにもある通り、童心にかえって作品を楽しむ、という意味ではこれもありなのかな、という感じでした。 [DVD(字幕)] 7点(2021-09-23 16:02:45) |
18. 悪魔の美しさ
《ネタバレ》 ゲーテの「ファウスト」を下地にした作品ですが、遅おそらく全然違うのでしょう。ですが、メフィストフェレスのひょうきんとした立ち位置や道化師然とした振る舞い、ひょっこり「呼んだ〜?」といわんばかりにファウストのそばに現れる様は滑稽でありながら、人々を堕落させる悪魔という感じが出ていてよかったですし、彼のマスターに願いを乞う際の演出もなかなかハッタリが効いていてよかたです。 最後はまさかのうっかりで自滅、というあっけない最後、原作と違ってファウストが生き残るエンドですが、これはこれで面白かったです。 多分、自分の中でルネ・クレールの作品が一番肌に合うように感じるからかもしれません。 [DVD(字幕)] 7点(2021-08-30 23:46:36) |
19. 双頭の鷲
《ネタバレ》 コクトーの戯曲が元だそうで、展開というか設定や台詞回しなどがどことなく舞台劇っぽい感じを受け、刺客が亡き国王に瓜二つでそこから発展する恋の行方、という普通ならありえない展開もなんとなく納得。女王が少ししゃべりすぎでそれほど威厳がないのでは?とか思ってしまいましたが、王室内のあれこれに恋の行方などが合わさって退屈しないで観ることができかした。 [DVD(字幕)] 7点(2021-07-23 02:00:11) |
20. 罪の天使たち
《ネタバレ》 ブレッソンの最初期の作品、ということからか、後の「田舎司祭の日記」や「少女ムシェット」よりも幾分かは暗くないように感じました。 世間知らず、というか、信仰と理想の塊のような主人公アンヌ・マリーと、俗世間の辛さを一心に引き受けているようなテレーズの対比、アンヌ・マリーの理想と高潔さに馴染めずに異物扱いしてしまう他の修道女のやりとりなどはなかなかハラハラさせられ、最後まで見入ってしまいました。 信仰とは、という内容が濃いですが、前半の脱獄のシーンや、顔馴染みに復讐するシークエンスなどはサラッとしていながら逆に品のある演出で、作品の「動」部分でありながら、雰囲気を崩さない程度の演出でとてもよかったです。 臨終って割には途中走ったりして元気じゃん(笑)、と野暮なことを思ってしまいましたが、誓いの言葉をテレーズが継ぐ件からのラストなど、非常に印象深いシーンが多くある作品でした。 [DVD(字幕)] 7点(2021-07-11 16:57:16) |