1. バルカン超特急(1938)
《ネタバレ》 謎めいた話の展開にマジックなどの小道具や伏線の張り方の巧みさ、スリルにユーモアやラブロマンスまで盛り込んで面白くてよくできてると思います。 話のトリックはなんとなく想像できましたが、なぜ老婦人が狙われるのかというのは明かされてなるほど、と分かるまで謎めいてました。「お茶の時間だ。イギリス人はみな食堂車にいる」とか野球よりクリケットなどイギリス人を茶化すようなセリフが楽しくて愛情を感じますが、このイギリスを強調するようなところが案外意味深のような気も、、、 以下時局を感じての私見ですが。。。途中列車に乗り込んでくる軍人がナチみたいでした。製作年の1938年というと大戦前年のきな臭い頃で、架空の小国バンドリカというのがヒトラーのドイツを念頭においたような感じがする。 すると最後に食堂車のイギリス人が一致団結・協力して戦うというあのシーンもイギリスの当時の心意気を表してると考えると分かりやすい。老婦人の役割や狙われる危険性も納得、ということで時代背景と絡めて見るといっそう興味深かったりします。 8点(2005-01-27 21:30:22) |
2. ジキル博士とハイド氏(1931)
いくつかある中で私が見たのは本作だけなんですがなかなか面白いです。 やはり印象的なのは善と悪の二重人格を行ったり来たりするジキルとハイドの変身シーン。映像マジックで何でもできてしまう今なら何てことはないけど、32年の作品でワンカットでハンサムから醜いサル顔へと変わっていくのを見せるのは大したことだったんじゃないでしょうか。 特にラストの撃たれたハイドがジキルに戻るところが一番滑らかな感じでよかった。 人間の悪なるもののハイド氏の顔がいかにもの凶悪相ではないので恐くはないけど、この悪が醜いというのや殺人場面で殺す場面を直に見せないというところにこの時代の節度とセンスの良さを感じる。 7点(2004-11-16 21:56:12)(良:1票) |
3. 少年の町
イエイエ、私も妥当なご意見だと思います。二人並べたクレジットの大きさ、多分それは錯覚です(笑)。並べた場合左手(トレーシー)の方が格上なんでしょうけど、そう言われて今見ると確かに大きな扱いですね。 これはネブラスカに実在した神父の実話ですが、行動的でヒューマンなフラナガン神父をトレーシーが熱演してアカデミー賞受賞というので映画史に残る作品です。 神父は不良少年や恵まれない環境から道をそれてしまう子供達を救うため、数人の子供と共に始めた小さな家から段々規模を広げ、とうとう郊外に数百人規模の広大な少年の町を作ってしまう。この町というのが学校や郵便局や床屋まであって、少年達の自主運営で営まれ自治権まで持っている。 「誰も悪い子なんかいない」という信念の神父は子供達を信頼し、町には塀もないし監視するものもいないが誰も逃げ出したりしない。町の市長もみなの選挙で選ばれるというのが民主的でいかにもアメリカらしい話。 話の中心はホワイティという悪童がイロイロあって心を入れ替えいい子になるという、まぁ甘いといえば甘い道徳的な泣かせる話仕立て、というのはこの時代にありがちなんでともかく、これが戦前の実話というところですごいなぁと感心させられてしまいます。 子供たちの福祉施設とすれば理想的な話で、今でも参考になるところがあるんじゃないかと思ったりします。 7点(2004-10-20 16:47:10) |
4. ゴールデン・ボーイ(1939)
これはホールデンの主演で事実上のデビュー作とされているらしい作品。 時に面影は見えるものの50年代の最盛期の見慣れた中年の彼とはイメージが違い、ちぢれ毛の初々しいホールデンが可愛くて別人のように見える。 自分の進む道を試行錯誤する青年と父との愛情ものだが、精神的豊かさが物質的豊かさに勝るということをバイオリンとボクシングで象徴してるような感じ。 この一家には母親がいないがピアノを弾く姉とその夫が同居している。姉弟の演奏を幸せそうに聞く父という団欒が貧しくても精神的豊かさのある家庭をうかがわせる。 もう一つはこの一家がイタリア系ということで。ボクシングの興行で儲け話に乗ろうと1人のイタリア系マフィアがジョーに近づく。同じイタリア系移民で地道に暮らす一家とマフィアという対比。ここからも金銭より貧しくとも正しい生き方をという、理想主義的なメッセージが見えるような気もする。 リー・J・コップの父親がひたすら息子を心配する親心がいじらしい。 7点(2004-10-04 18:37:17) |
5. 人生は四十二から
これはもう表情や仕草などチャールズ・ロートンがとっても魅力的で大好きな作品。はじめイギリス貴族の召使としての立場を何の疑念もなく守っていたラグルズは、アメリカ人の新主人と同じテーブルに座ることさえ身分が違うからとためらう。 人は平等だと身分などに頓着しない主人は彼を大佐と呼んで友人のように振舞うので、 彼も次第に自由の楽しさを味わうようになる。(この主人の妻は身えっ張りなのだが、彼は妻に下品と嫌われても自分好みのチェックのスーツにこだわったりするのが可笑しい) 居酒屋でリンカーンの演説を知らないかという話になった時、アメリカ人の客に次々尋ねても誰も知らないというのに本で学んでいたラグルズが平等、自由、理想を説いた「人民の人民による人民のための国家」という有名な演説を見事に暗誦するシーンが圧巻。紆余曲折を経て得意の料理、サービスでレストランを開いて新しい人生をはじめたラグルズを、新旧主人や大勢の客が「彼はいい奴だ、誰もが褒めてる♪」と歌いながらエンディングになるシーンではいつも感動して胸が熱くなる。 リンカーンの演説のように、誰にも平等にチャンスがあり自由に生きることができるというアメリカの理想を描いているが、これぞかつてのアメリカの良心そのもの。他にも彼と親しくなる未亡人が「夜明け前は暗いものよ、苦あれば楽ありよ」など励ます言葉も優しく、こうした全篇に漂う暖かさがなんとも心地よい。 9点(2004-09-26 22:00:42)(良:1票) |
6. フットライト・パレード
ギャング映画の印象が強いJ・ギャグニーがタップを踊ったり歌ったりします。 映画がトーキーに変わって、映画の前座のミニショーを企画・演出するのが彼の役どころ。それだけじゃなく仕事を受注するしたりプライベートでゴタゴタしたりと大忙し。そんな話も悪くないのですが、それより素晴らしいのは最後に上演する3本のショーの見事さです。 それぞれ面白いのですが、やはり2本目のプールが最高です。 これは水ものレビューで滝やプールまで作ったセットも大掛かりで巨大なもの。そこで繰り広げられる水中ショーはバズビー・バークレーお得意の万華鏡シーンが満載です。 ここだけなら10点以上つけてもいいくらいです。「百聞は一見にしかず」でこれはもう言葉を尽くしても語りきれません。 3本目は上海リリー。ギャグニーが予定外のアクシデントで舞台に立ちタップと歌を披露、マスゲームのような集団演技があります。1本目は「ハニームーン・ホテル」しゃれた演出や映像が見られます。 いずれも運動場のように広い舞台で、大勢の美女軍団がにっこりと微笑みながらショーを見せてくれます。 これが舞台で、しかも何箇所も移動公演するといういうのは無理な話だと思いますが、あくまでも映画でのお話。 30年代ミュージカルのスケールの大きさや華やかさにびっくりしますよ。 8点(2004-08-01 18:32:34)(良:1票) |
7. 我は海の子
お金持ちの我がまま息子が初めて甘えの許されない厳しい生活を経験し、数ヶ月老漁師と過ごし心を通わせたことで傲慢な性格が治るというのは、いささかイージーな気もするけど、昔は今より単純素直に感動的ならOKだったんでしょう。スペンサー・トレーシーの演じた素朴で暖かいマニュエルという漁師がとても印象深い。 子供もそんな彼を慕うが、彼もこの子を可愛がり深い絆がうまれる。話は感動を誘うように悲劇的に終わるのがこれまたクサイ気がするが、トレーシーの説得力でついホロリときたりする。彼はこれでアカデミー主演男優賞受賞。翌年も連続受賞した記録は90年代のトム・ハンクスと2人だけ。老漁師トレーシーを見るだけでも価値ありかと思う。 7点(2004-07-30 18:52:27) |
8. 新婚道中記
アイリーン・ダンの笑顔って大好きです。このコメディエンヌぶりは見てるほうも思わずにっこりとなってしまうほど魅力的。 歌って踊ってというサービスもあるしね。あ、もちろんグランドのコメディアン振りはこの頃からすでに堂に入ってます。 お話はちょっとした夫婦喧嘩から離婚話に発展して、、というたわいないものですが、セリフがしゃれててクスリとさせられるのや犬のスミスの芸達者ぶりなどが楽しい。 他にも帽子とかハト時計とかちょっとしたところに気が利いてるのがおしゃれ。 でもA・ダンの帽子とか衣装はなんか大胆に奇抜でした。。。 夫は妻の音楽会に乗り込んで騒動を起こすし、妻は夫の婚約者の家でわざとひんしゅくを買うような下品な行動をとりと、お互い喧嘩してても未練たっぷりという可愛らしさ。 30年代ロマコメって喧嘩話でも浮世離れしてて夢が一杯ってところが単純でほほえましい。 7点(2004-06-12 23:52:16)(良:1票) |
9. 結婚の夜
ポーランド移民の娘、マーニャと執筆ができず田舎に来た小説家が惹かれあっておこる悲劇。ポーランド移民家族は素朴で善良で働き者だが女性の立ち場は弱い。好きでもない男との結婚を強いられているマーニャだが、妻のいる小説家とではどだい結ばれるのは難しい。二人が密かに惹かれあう過程や、お互いの家庭事情、一時的に別居状態にある妻が彼女に嫉妬する気持ちなど愛憎や葛藤もうまく描かれていて見事なドラマになっている。私はトニーが身勝手な妻より控えめで弱い立場のマーニャに惹かれる気持ちが分かる。トニーも勝手な男かもしれないけどクーパーがやってるのであんまり嫌な男には見えないし、火も熾せないような不器用がマーニャの母性本能を刺激するような感じ。マーニャ役のアンナ・ステンはグレタ・ガルボという感じではないが、ここではとても綺麗に撮れている。そしてクーパーもまたとっても美しくて素敵! 8点(2004-05-18 22:07:42)(良:1票) |
10. 踊らん哉
ロシア人バレエダンサーのアステアがフライパンの上の煎り豆のようにはじけたタップで登場する。踊りはホテルで、ローラースケートで、ロジャー仮面をつけたものとどれも軽快で楽しく、ロングショットでじっくり見せてくれる。改めていうまでもないが素晴らしい。音楽はガーシュインだがこれが完成して間もなく亡くなっているので最晩年の作品らしい。話はアステアが一方的にロジャースに恋して、、とおなじみのたわいないものだが、おかしなロシアなまりのとぼけたアステアやおなじみの三枚目の脇役たちもおかしくて結構楽しめる。最後の踊りはロジャー仮面だらけの中で「本物のロジャーはどこ?」といった振り付け。ロジャー人形といい仮面も見事に本物そっくり。見た内のアステア・ロジャースコンビではかなり好きな作品です。 7点(2004-03-30 22:54:43) |
11. 有頂天時代
アステアとロジャースのダンスだけで言えば見事というしかない。軽やかで身ごなしの優雅でしなやかなこと!このダンスコンビ以上のカップルは他には思いつかない。アステアが影と踊ったり、タップからボールダンスまでいろんな踊りが堪能できる。ただ、ストーリー運びはアステアの婚約者やロジャースを愛する婚約者をあっさり都合よく片付けて、主役達のハッピーエンドというイージーさが今ひとつというところだった。 7点(2004-03-15 19:10:24) |
12. 暖流(1939)
病院が舞台と聞けば、ドロドロした古臭いメロドラマかと思うが昼メロのような嫌らしさはない。それはひとえに病院長令嬢の毅然とした描き方にある。暮らしの変化にも柔軟に対応し、男に泣かされる女の立場に理解を示し毅然とした態度をとる。極めつけは自らの恋心を抑えてまでもいちずな女心に身を引く。これが戦前の家長制度・男尊女卑のS14年の作品だと思えば、当時としてはかなり主体性のある珍しい女性像ではないだろうか。4人の男女の織り成す恋愛模様という話だが、この令嬢の潔さにはちょっと感心してしまった。 7点(2004-02-17 23:09:05) |
13. 上海特急
北京から上海への特急列車に乗り合わせた人たちのドラマが、政府軍、革命軍入り乱れる混乱の中国を背景に描かれる。一種の群像劇のような作りだがメインは昔愛し合った男女の恋愛ドラマ。惚れられる軍医だが、革命軍に捕らえられ開放されるが、この時上海リリーがなぜ心変わりするのか気がつかない。誰だって察しがつきそうなところなのに、このぼんくらぶりが間抜けっぽい。リリーがわが身に変えても守りぬく、というほどの人物に思えないのが苦しい。でもまぁ、デートリッヒが美しく魅力的で引き立つのだからそれで十分。 7点(2004-02-01 17:17:00) |
14. 間諜X27
将校未亡人のデートリッヒが娼婦になっていて、いとも簡単にスパイにスカウトされ大活躍、ロシアスパイとの恋、って話は奇想天外だがデートリッヒを堪能するなら十分満足する。スパイらしく変装、、というシーンがあるが、ひっつめ髪で田舎娘風になるとまるで別人のように見える。もちろん演技力でもある。たびたび弾くピアノがたたきつけるように激しいのも彼女らしい。STING大好きさんが言うように、この作品でなんと言っても素晴らしいのはラストシーン、叫ぶ中尉を見る彼女の表情(素晴らしく美しく魅力的)、とった行動、まさにデートリッヒならでは。 7点(2004-02-01 16:56:10)(良:1票) |
15. 大いなる幻影(1937)
ようやく名画の呼び声高いこの作品を見ましたらなんと、「大脱走」「第17捕虜収容所」「アルカトラズからの脱出」などの捕虜・脱走ものを思わせる「おおもと」だったんですね。第1次大戦中のお話ですが、作られたのは37年という第二次大戦前のきな臭い時代。反戦のメッセージが強く伝わってきます。捕虜収容所での紳士的な扱いややり取りは信じられないようなのどかな感じだし、脱走した二人をかくまうドイツ婦人との描き方も甘い感じがする。それでもドイツ貴族のシュトロハイムのたたずまい、フランス貴族との友情の描き方、この時代に作られた意義、後の作品に与えた影響の数々など諸々の敬意を加えて9点。 9点(2003-12-25 15:06:34)(良:1票) |
16. M(1931)
《ネタバレ》 実話を脚色したそうなので「子供から目を離さないように」と最後に警告メッセージがある。当時はこういう事件が多かったんでしょうか、一種の犯罪から子供を守る啓蒙映画。子供を狙う姿なき殺人者の捜査の過程で巷の犯罪者も次々検挙されるので、警察と犯罪集団の双方が犯人を追うことになる。倉庫に追い詰められた犯人を私刑にするが、そこでの犯人の告白があり、なんと弁護人がまともな弁護をするのが驚き。このシーンが見もの。トーキーになった頃で、犯人が分かるのが盲人で口笛から、、と言うのが面白い。 7点(2003-12-06 17:02:48) |
17. 大人の見る絵本 生れてはみたけれど
家ではえらいと思っていたお父さんが、実は会社では上役にへいこらしているというのを知ってしまった子供たち。「なんだ、お父さんも偉くなればいいじゃないか」と子供は面白くない。子供の目が垣間見た大人の世界と、子供の世界をユーモアで描いて楽しい。この時代の子供がなかなかいいし興味深い。お父さんの斉藤達雄がフィルムの中でおかしなマイムや表情を見せるのがユーモラスでおもしろい。 7点(2003-12-05 23:14:50) |
18. キング・コング(1933)
今からちょうど70年前の作品ですよね。う~ん、もうびっくりを通り越して感嘆するばかり、、CGもなく46センチのミニチュアモデルの人形と張りぼてで、これだけの映像が作られたというのがすごい!まさに映像マジック!!ドクロ島での各種恐竜との戦いはジュラシックパークにも引けをとらないリアルさ。クネクネ動く恐竜のしっぽなんぞとても人形とは思えない。翼竜まで登場するこの映画は一連のスピルバーグの恐竜映画の元になっているに違いない。それだけじゃなく、たいていの怪獣、ゴジラなどのおおもとがこれなんでしょう。コングの表情が非常に良くできていて、美女を見てにやりと嬉しそうだったり、怒る顔、エンパイアステートビルのてっぺんで飛行機に攻撃され負傷して悲しそうに傷を見たりと、とても人間くさかったりして面白い。恐竜をやっつけて、死んだかな?と首をゆすってみたり口を開けてみたりと芸が細かく愛嬌もあっておかしい。今見ても驚くのに、当時リアルタイムでこれを見た人々の驚きはどれほど凄かったことだろう。コングは確かに大暴れして悪役だが、だいたい孤島に暮らしていたコングをニューヨークにつれてきて、金儲けの道具にしようなんて考えるからこんな大騒ぎになったんで、コングの最後は哀れにも思う。今もこのコングはユニバーサルスタジオにあるそうです。 10点(2003-11-30 15:58:26)(良:1票) |
19. 三十九夜
後の有名作品に勝るとも劣らず、というくらい面白いです。最初より後半にかけてのほうがスリルとサスペンスが盛り上がってきます。手錠でつながれた男女が逃走する、この設定自体面白いが、宿屋で女性がストッキングを脱ぐのを男の手がついていく、というのが面白かった。手錠のままの脱獄の男同士とは違う面白さ。なかなか手の込んだストーリーを緊張感を持続したままラストの劇場のオチまで持っていくが、うまい。ところで原題の「39階段」がどうして「39夜」になったんでしょうか、、 8点(2003-11-29 19:21:57) |
20. 人情紙風船
なんとも言えないような寂しさ・悲しさを感じるラストシーン。長屋の住人たちは、今まで見たどんな時代劇の人物たちより江戸に生きてる「人間」そのものを見るようだった。浪人の海野も商人もやくざも、みんな人間くさいのに一人、海野の妻だけは武士の魂というか誇りを持って希望のない人生にきりをつけた。明るい話ではないのに、前進座の俳優陣の面々の名演といい素晴らしい時代劇になっている。しかし監督の山中貞雄は「これが遺作ではチトサビシイ・・」と言って出征して帰らぬ人になった。惜しい、、、本当に惜しい、、生きていればこれ以上の素晴らしい作品を見られただろうに・・・ 10点(2003-11-29 15:53:21)(良:1票) |