2. 白痴(1951)
原作の「白痴」自体は未読。「カラマーゾフの兄弟」「罪と罰」「悪霊」その他の小品は読んだ。その前提でレヴューを書かせていただきます。まずドストエフスキー作品の雰囲気はかなり忠実に再現されていると思う。荒涼とした雪景色の中、人間の欲望と狂気が交錯する様が異常なまでの緊張感で描かれている。悪魔的なまでに幻想的なスケートのシーンがいかにも黒澤らしい。ストーリーのショートカットも原作を知らないとそれほど気にならない。しかし途中で説明を入れないと、さすがにこの長い話を描ききることはできないのであろう。キャストは皆上手い。原節子の迫力には圧倒される。那須妙子という名前が笑える。そしてクライマックスの三船敏郎はもう圧巻の一言である。目が完全にイッてしまっており、赤間の狂気を余すところ無く演じきっている。その演技だけでも作品を観る価値があると思う。単なるアクション俳優ではないという事実に初めて気付かされる。しかし本作を観て思うのは、作品よりも黒澤自身の映画に対する執念自体が、一番ドストエフスキー的ではないか、ということである。 [映画館(字幕)] 9点(2005-08-16 23:52:11) |