Menu
 > レビュワー
 > イニシャルK さんの口コミ一覧
イニシャルKさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1489
性別
ブログのURL https://www.jtnews.jp/blog/22718/

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
【製作年 : 1950年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
評価順1234567
投稿日付順1234567
変更日付順1234567
>> カレンダー表示
>> 通常表示
1.  西鶴一代女 《ネタバレ》 
溝口健二監督の映画もかなり久しぶりに見る気がする。そんな本作は溝口監督が一躍国際的に名が知られるきっかけとなった名作として知られているが、始まって早々に溝口監督らしい力強い長回しに一気に引き込まれた。田中絹代演じる主人公 お春がお経の声に導かれるようにして羅漢堂に入っていく最初のシーンからもうすでにただならぬ雰囲気を感じるし、もちろん、溝口監督ならではの映像美もこの冒頭からよく出ている。物語はこのお春の転落人生を描いているわけだが、溝口監督は一切の妥協を許さずにこのお春という女の人生を描き切っているし、それに見事に応えた田中絹代のすごさ。ここにこの名コンビの真骨頂があるのではと思えてならない。お春の人生の転落ぶりは最初の高貴な身分から最後は夜鷹までと凄まじいものがあるのだが、そこに描かれているのは封建主義の理不尽さとそれに立ち向かう女の強さだ。冒頭の勝之介(三船敏郎、溝口映画にも出てたんだ。)との身分違いの恋からお春の怒涛の人生は始まっているが、これをはじめとしてお春の人生にはこの封建的な世の中の空気というものがついてまわっていたように思う。とくに輿入れした松平家でのエピソードにそれがよく出ており、あれだけ苦労して探した(この嫁探しのシーンがユーモラスに描かれていて笑える。)嫁であるお春を世継ぎが生まれたらもういらないとばかりに実家に帰したりするのは理解できないし、その子が殿様になるころにまたお春を呼び戻すのも虫が良すぎる感じ。そしてクライマックス、目の前を通り過ぎる殿様になった我が子を「私はあの子の母親です。」と後を追おうとするお春の姿は演じているのが田中絹代とあって思わず「陸軍」のラストシーンがオーバーラップしてしまうが、こちらもやはり切なかった。そんなお春が年を取るごとに美しくなっていくように見えるのだが、やはり溝口監督はお春の強さを美しさと比例させて描いているのだろうか。とくに下の方も書かれているように回想を終えたお春が倒れるシーンの田中絹代の美しさは尋常ではないものがあり、すごく印象的だった。最初に書いたように久しぶりに見る溝口監督の映画だったのだが、間違いなく映画史に残る名画であり、素直に見て、いや、出会えて良かったと思えるような映画だった。
[DVD(邦画)] 9点(2020-05-11 01:08:42)
2.  戦艦大和 《ネタバレ》 
「男たちの大和」などで参考文献としてクレジットされている吉田満の「戦艦大和ノ最期」を映画化した新東宝の映画。戦後八年という時期に製作されていて、大和を扱った映画としてはおそらくこれが最初の作品になるのだろう。実際に大和の副長だった人物が関わっていて、それだけで重みを感じるし、艦内の様子や雰囲気などもリアルに再現できているのではと想像できる。前半は出撃前の乗組員たちの人間模様を描いた群像劇になっているが、やはりそれも大和を扱った後年のほかの作品では意外とあまり見ないような感じで、少し違う印象を残している。それぞれのエピソードを深く掘り下げているわけではないのだが、やはり胸に迫るものがある。とくに、アメリカ出身の乗組員がいたことには驚かされた。彼の境遇を考えるとなにかやりきれない気持ちになってしまうのだが、彼にかけられる「たまたま生まれた場所がそうだっただけ」という言葉に救いを感じる。出航シーンなどの乗組員たちの落ち着いてどこか達観したような様子も実際はこうだったのかもと思えるもので、かえってリアルだ。大和のセットなどは明らかに書割と分かる部分もあって、今から見るとしょぼいの一言なのだが、後半の沈没に至るまでの特撮はけっこうがんばっているように感じた。この後半では、前半で乗組員たちの人間模様をたっぷりと見ていたおかげで、彼ら(とくに学徒兵を中心に。)がいかに死んでいったかが丹念に描写されている分、やはり悲壮感を感じずにはいられない。全体としてはドキュメンタリータッチの印象が強いものの、やはり、ドラマとしてよく出来ているからこそこの後半の壮絶さが活きているのだと感じることができる。製作当時(同時期には「原爆の子」なども作られていた。)は、大和の資料も少なかったと聞くが、その中で作られた本作はそれだけで意味がある作品だと思うし、やはり、原作者である吉田満(実際に大和に乗っていた人で、本作に登場する吉村少尉のモデル。)はじめ、本作に関わった全員に大和の悲劇を後世に伝えようという気持ちがあったことがひしひしと伝わってくる。今から見れば地味な映画かもしれないが、やはり、歴史的に考えると貴重な一本だ。
[DVD(邦画)] 7点(2019-11-23 17:58:29)(良:1票)
3.  森と湖のまつり 《ネタバレ》 
かなり久しぶりに見る内田吐夢監督の映画で、しかも現代劇は初めてだったのだが、アイヌ民族の理想と現実、そして運命というものを真っ向から描いた社会派映画の力作になっていて、かなり見ごたえのある映画だった。自分が純血のアイヌであることに誇りを持っている主人公の青年 一太郎(高倉健)と、アイヌであることを隠して生きてきた家の息子 猛(三国連太郎)という二人の男が登場するが、それぞれの立場や考え方もよく分かり、見ていてつらいものがあるし、テーマとしてはやっぱり重みがあるのだが、同時にやはり考えさせられるものがある。東京からやってきた女流画家(香川京子)に一太郎の姉(藤里まゆみ)が過去を打ち明ける回想シーンも、アイヌの人々の宿命や悲しみといったものが丁寧に描かれていて、ここにも内田監督の本作に込めたメッセージ性の高さを感じることができた。純血のアイヌと信じていた一太郎が先生(加藤嘉)から実は混血だと聞かされるのは衝撃的だし、その時の先生がアイヌは滅びゆく運命だと言うのもアイヌの宿命の重さを感じずにはいられなかった。クライマックスは一太郎と猛の対決が描かれているが、祭りの歌と踊りをカットバックに描いたこのクライマックスの対決はアイヌの誇りや葛藤といった本作で描かれたドラマが集約されていると感じると同時にどこかもの悲しく映った。先生に真実を告げられても信じようとしなかった一太郎が猛にも同じことを言われ、すべてを悟ったように舟を漕ぎ出すラストシーンの余韻がものすごく、思わず一太郎はこのあとどうなってしまったのだろうと考えてしまった。一太郎を演じる高倉健はまだデビュー間もない頃で、見ていてすごく若々しく、初々しく見えるのがちょっと新鮮だった。また、高倉健といえば北海道など北国を舞台にした映画に出ているイメージが世間一般にも強いと思うのだが、ひょっとしたら本作が高倉健が出演した最初の北海道が舞台の映画なのかもしれない。
[DVD(邦画)] 7点(2019-06-22 17:55:48)
4.  明治天皇と日露大戦争 《ネタバレ》 
明治天皇を主役に日露戦争を描いた新東宝初のカラーかつシネスコの大作映画。(日本映画全体でもシネスコ映画は2作目だったとか。)先週に「二百三高地」を見たので本作もとりあえず見てみた。「南極物語」や「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」と同じく日本映画史上空前の大ヒット作だそうだが、戦後12年しか経っていない時期というのは、まだまだ戦争の記憶が生々しかったころだと思うのでこの映画がそういう大ヒットを飛ばしたというのはやはり少し不思議な感じがするのだが、勝ち戦を描いた映画を見て暗い時代を忘れようという人が多かったのではないかと感じる。俳優が演じる天皇が初めて映画に登場するというのも大きかったのだろう。アラカン演じる明治天皇は「二百三高地」で三船が演じる明治天皇と比べると、三船の明治天皇があくまで俳優その人だったのに対し、本作の明治天皇は俳優その人ではなく、ちゃんと役としてその偉大さを感じることができるし、戦場の兵士たちを思って夏でも冬服を着ていたなんてエピソードなども、かなり美化されているのかもしれないが、人間味のある描き方をされていたのが印象的だったし、もちろんアラカンもハマっている。天皇の描写以外はひたすら日露戦争の顛末に終始していて、戦場に駆り出される兵士たちのドラマが描かれないのはちょっと物足りなくもなく、前半の旅順での戦闘シーンがダイジェストのように見えてしまうのは「二百三高地」を見たばかりといのもあるのだろうなあ。逆に終盤の日本海大海戦のシーンのほうがスペクタクルとしては見ごたえがあった。このシーンで「軍艦マーチ」が流れて古澤憲吾監督の映画みたいだと思っていると、古澤監督は本作を手掛けた渡辺邦男監督の助監督を過去していたことがあると分かり、なるほどと感じる。「二百三高地」は公開当時、戦争賛美の右翼映画という論評もあったみたいだが、その傾向は「二百三高地」よりも20年以上前の作品である本作のほうが感じられるような気がする。とくに「勝った!勝った!」と浮かれたまま終わるエンディングは敗戦国の映画とは思えず、愕然とさせられた。なので、あまり高い評価はできない。「二百三高地」にも出演していた丹波哲郎と天知茂が本作にも出演しているのが面白いが、おそらく偶然だろう。
[DVD(邦画)] 5点(2019-01-10 00:52:46)
5.  めし 《ネタバレ》 
倦怠期の夫婦を描いた成瀬巳喜男監督のいわゆる「夫婦三部作」の最初の作品で、戦後それまで低迷していた成瀬監督がふたたび評価されるきっかけとなった代表作の一本でもある。成瀬作品をかなり久しぶりに見たのだが、成瀬監督らしい味わい深い映画になっていて面白かったし、それだけではなく、ちゃんと人間が生活しているという空気感も大切に、そして丁寧に演出されているところが良く、そういうところに成瀬監督のうまさを感じずにはいられない。結婚五年目の倦怠期を迎えた夫婦を原節子演じる妻の視点から描いているが、その心理描写もうまく、改めて成瀬監督は女性を描くのが本当に上手い監督だと感じさせられる。その原節子も平凡な夫との暮らしに何かしらの不満を抱いている所帯じみた主婦を演じていて、カリカリ、ピリピリした表情も見せるなど、小津安二郎監督の映画での彼女とは違った印象が残り、それが本作の中で効果的に使われているところなど、作風が似ていると言われる成瀬監督と小津監督の作風の違いもこの原節子の違いを見れば分かる。個人的には本作で原節子が演じた三千代という人物は今まで見た原節子が演じた役の中でも見ていていちばん親近感がわいたし、一般的に小津作品でその魅力が語られることの多い女優なのだが、成瀬監督もやはりそれとは別の魅力を引き出している。夫を演じる上原謙のダメ男ぶりもハマリ役で、こういう役が十八番のようなイメージの森雅之とはまた違ったタイプのダメ男を見事に演じていて、間違いなく本作は上原謙にとっても代表作と言っていいだろう。東京から家出してくる主人公夫婦の姪を島崎雪子が演じているが、彼女の芸名は「青い山脈」の原節子の役名をそのまま使ったもので、この二人の共演も見どころのひとつ。それにしても本作の主人公夫婦のような状況は現代でもじゅうぶんにあり得ることだと考えると夫婦というものはいつの時代もあまり変わらないものだと思わされるところもあった。「めし」というタイトルのつけ方も絶妙。
[DVD(邦画)] 8点(2017-02-11 18:33:39)
6.  お役者文七捕物暦 蜘蛛の巣屋敷
沢島忠監督による錦之助主演の推理もの時代劇で、原作は横溝正史。横溝正史というとなんといっても金田一シリーズであり、それ以外の作品の存在を知らないのでなかなか興味深かったし、沢島監督と錦之助のコンビ作のせいか、おどろおどろしさがありながらもカラッとした娯楽作で、金田一ものとは違う面白さのある映画になっていてなかなか楽しめた。東映の時代劇ではよく共演している錦之助と中村賀津雄に加えて錦之助の実兄や実父もそのまま主人公の兄と父役で出演するというかなり豪華な仕様で、劇中に歌舞伎公演のシーンまで出てくる。この歌舞伎のシーンがちょっと長く感じるのが不満ではあるものの、沢島監督はやはり錦之助のお茶目でコミカルな部分を引き出すのがうまく、「宮本武蔵」シリーズなどで見せる重厚な演技とはまた違う錦之助の魅力を感じることができるし、後半に披露される錦之助の役者という設定を生かした数々の変装も面白い。結末も金田一のような後をひくような感じではなくて本当にめでたしめでたしという感じの終わり方で後味も良い。片岡千恵蔵演じる大岡越前がいいところ全部もっていくのもなんだか許せてしまう。シリーズ化していてもよさげな気もするのだけど、続編は作られていないっぽいのがちょっと残念。
[DVD(邦画)] 7点(2016-12-03 17:14:16)
7.  明日の太陽(1959) 《ネタバレ》 
松竹に入社したばかりの新人俳優を紹介する10分に満たない短編。十朱幸代を案内役に松竹期待の新人が次々と紹介されていき、全員が小芝居を披露するというもの。「愛と希望の街」で本格デビューする直前の大島渚監督が手掛けているのが驚くが、「愛と希望の街」や「青春残酷物語」など初期から衝撃的な映画を手掛けていた大島監督もいちばん最初はこういうあからさまな頼まれ仕事をやっていたんだなと感じられる作品になっている。大島監督のこの初期二本で印象的だった富永ユキや桑野みゆき、川津祐介も紹介されているが、後になって見ると大島監督とはこの時から縁があったのかと思える。最後に日活から移籍してきた津川雅彦が紹介されるが、ほかの人に比べて紹介のされ方がハデで、最初からスターとして松竹に迎えられたのがよく分かるシーンとなっている。「これから映画の中で暴れまわるんだ。」と言っているのだが、やはり津川雅彦は松竹よりも日活や東映のほうが合っている気がする。
[DVD(邦画)] 5点(2016-07-31 15:10:00)
8.  太平洋の鷲 《ネタバレ》 
本多猪四郎監督と円谷英二監督が初めてコンビを組んで手掛けた戦後初の東宝戦記映画。真珠湾攻撃から山本五十六の戦死までを描いているが、多少大作らしい大味さはあるものの、戦争はいけないというストレートなメッセージが感じられる作品になっていて、先週「ハワイ・マレー沖海戦」を見たせいか、戦後になってこういう映画が自由に作れるようになったんだなという妙な感慨深さを感じた。山本五十六を演じる大河内伝次郎は重厚な演技で戦争反対の立場でありながら、連合艦隊司令長官となり、戦争の火ぶたを切ることになる五十六の苦悩をうまく演じていて、彼は「ハワイ・マレー沖海戦」にも軍人役で出演していたが、それとは違う印象を与えるのも戦中と戦後の映画の違いかもしれない。脇の出演者も豪華で、本多監督の映画の常連俳優の一人である志村喬が冒頭にちょい役で出演しているほか、小林桂樹や三國連太郎といった本多監督の映画には珍しい俳優陣の好演が光っている。中でも珍しいと思うのは三船敏郎が脇役ながら本多監督の映画に出演していること。これがかなり新鮮で、例えるなら黒澤明監督がゴジラ映画を手掛けるような感じか。円谷監督による特撮シーンも一部「ハワイ・マレー沖海戦」の流用っぽいシーンがあるが、迫力満点で見ごたえじゅうぶん。ドラマとしては翌年に本多監督と円谷監督が手掛ける「さらばラバウル」のほうが好きだが、戦争の無意味さや悲しさがひしひしと伝わってくる映画で、これが山本五十六没後10年、戦後8年というまだ戦争の記憶が生々しい時代に製作されているというのも意味を持ったことだと思う。そして本作をリアルタイムで見た人は果たしてどう感じたのだろうと気になるところではある。
[DVD(邦画)] 7点(2016-04-22 22:17:33)(良:1票)
9.  薄桜記 《ネタバレ》 
雷蔵と勝新が共演する忠臣蔵の番外編的映画。大映オールスターキャストの「忠臣蔵」をひと月半ほど前に見ていたので勢いで本作も見た。あまり期待はしていなかったのだが、当時既に人気スターだった雷蔵とまだ売り出し中の頃だった勝新がほぼ同格の扱いで共演しているのが最大のみどころ。物語は赤穂浪士の討ち入りを背景に、丹下左膳がモチーフと思われる雷蔵演じる丹下典膳と、勝新演じる赤穂浪士の一人である中山(堀部)安兵衛を中心に展開していくが、重くシリアスでドラマとしてはまずまずといったところでそんなに悪くないし、思ったよりは楽しめた。中でもクライマックスの片手片足の丹下が寝たまま複数の敵と斬り合うというシーンは今まで見たことのないような立ち回りシーンで、インパクトはあるし、印象にも残る。しかし、美術セットが大映にしてはなんだかしょぼく、比べてはいけないが「忠臣蔵」とは差がありすぎるし、回想形式で主要人物三人のモノローグが多く、一部ダイジェスト的に感じる部分があるのは話の性質上、仕方ないが、ちょっと残念に感じた。森一生監督の作品で、その手堅い演出自体には不満はないのだが、脚本を書いた伊藤大輔監督の演出でも見てみたかった気がする。
[DVD(邦画)] 6点(2016-04-09 19:16:33)
10.  忠臣蔵(1958) 《ネタバレ》 
大映オールスターによる忠臣蔵映画。これで忠臣蔵映画見るの三本目だけど、大映だけあって出演者はもちろん、セットも豪華で凝っていてこれぞ大映!という感じの映画になっていて数ある忠臣蔵映画の中でも特に名作とされているのもうなずける。次から次に出てくる豪華な俳優陣の中でもやはりのちにNHK大河ドラマ「赤穂浪士」でも同じ役を演じる長谷川一夫の大石と滝沢修の吉良が見事なはまりぶり。それに群像劇のようにエピソードてんこ盛りで描いているが、166分間、決してだれることなく見せきっているのはうまい。そのエピソード群は泣かせるものが多いが、とくに時間を割かれている鶴田浩二演じる岡野と若尾文子演じる大工の娘との恋のエピソードがやっぱり印象に残り、吉良邸の絵図面を手に入れるために最初から自分に近づいたのかと問う若尾文子に対し、鶴田浩二が本気で惚れていると告げるシーンは良いし、ふたりの別れのシーンも良かった。川崎敬三と志村喬のエピソードも泣ける。すべてのエピソードが史実とは限らないのだが、忠臣蔵はこのように浪士ひとりひとりの物語として見ても面白いものなのだとあらためて気づかされたし、これがこの物語の人気の理由のひとつなんだなと思う。男優陣だけではなく、先ほど書いた若尾文子をはじめ、京マチ子や山本富士子など女優陣も魅力的に描かれていてその点でも満足できた。冒頭に登場する浅野役の雷蔵もうまく、むしろこういう出番の少ない役なのは勿体ない気がするが、それもオールスター映画の贅沢なところ。それにもし、雷蔵がもっと長生きしていれば彼の大石役が見られたかもとつい思った。勝新演じる赤垣源蔵の別れのエピソードもいいのだが、やはり勝新はもっと後年のほうが好きだな。なにはともあれ、大映時代劇自体をかなり久しぶりに見た気がするのだが、じゅうぶんに大映らしさを堪能できる娯楽大作で、最後まで楽しめた。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2016-02-18 00:21:01)(良:1票)
11.  恋山彦 《ネタバレ》 
マキノ雅弘監督による大川橋蔵主演の時代劇。仇討を描いたマキノ監督らしい娯楽映画でそこそこ面白いし、橋蔵が二役を演じているが、一方がもう一方を助けるために命を捨てるという展開もベタはベタだが、良かった。主人公を匿う絵師の男を演じる伊藤雄之助はやっぱり出てくるだけで印象に残る。マキノ監督の映画ではどちらかと言えば平均的な作品でやや物足りない部分もあったが、久々に見た東映時代劇で最初から最後まで安心して見ることができた。
[DVD(邦画)] 6点(2015-12-26 08:17:28)
12.  本日休診 《ネタバレ》 
冒頭からテンポが早く、コメディタッチなのだが、反面、シリアスな社会派作品でもあり、戦後の貧しさや傷跡といったものが痛切に描かれている。医者である三雲先生は本日休診の札をかけて休もうとしているが、そういう貧しい人たちを放ってはおけず診察に応じる。この三雲先生のキャラクターがなんとも飄々としていて魅力があり、演じる柳永二郎といえば「座頭市物語」などで悪役のイメージがあるだけにこのギャップはすごいが、こういう善人役もうまく演じられるのはやはり名優の証拠で、主演で見るのはもちろん初めてだが、本作は彼の代表作といっていいのではないだろうか。出演者クレジットのトップは柳永二郎ではなく鶴田浩二なのだが、指を詰めるのが痛いからと麻酔を打ちに来る若いヤクザ役というのが後年の東映任侠映画での彼を知っているとものすごく笑える。でも、まだ若すぎて貫ろくは足らない。本作で戦争の傷跡をいちばん感じさせるのが三國連太郎演じる気のふれた男で、コミカルに描写されてはいるが、重く、戦争の愚かさについて考えさせられるし、この男の敬礼の下、雁をみんなで見守るラストシーンも、戦後の復興に向けた力強いメッセージのようなものを感じられ、とても印象に残る。しかし、渋谷実監督の演出はコメディとシリアスのバランスもよく、この監督の映画を見るのは初めてだったが、雰囲気としては川島雄三監督の映画に近いものがあり、もっと渋谷監督の映画は見てみたいと思った。それにしてもこの映画、作られた時代の空気というものがよく出ているのも良い。それはこの時代だから出せるものであって、後の時代では決して出せるものではない。そういうのを見るのも昔の日本映画を見る醍醐味である。
[DVD(邦画)] 7点(2015-10-24 14:34:42)
13.  夕やけ雲 《ネタバレ》 
木下恵介監督が自身の妹でもある楠田芳子の脚本を得て手がけた青春映画。主人公の青年が数年前の出来事を回想する形式で、青年の過ぎ去りし日の思い出を描いているが、いかにも木下監督らしい抒情にあふれた佳作となっている。父(東野英治郎)の死や親戚の家にもらわれていく妹、そして望遠鏡でのぞいていた少女や親友ら主人公の大切な周囲の人々との別れや、夢を持ちながらもそれをあきらめ家業の魚屋を継ぐ青年の姿が切々と描かれており、人間が生きていくためにはいろんな別れや時としては自分の夢も捨てなければいけないという人生の厳しさ、そういうものがリアリティーを持ってこちらの胸に迫ってくるのだ。中でも妹との別れのシーンで、いったん帰りかけた青年が引き返し、「必ず迎えにいくからな!」という言葉をかけるところは思わず泣かされた。青年の姉(久我美子)の夫の電話に出た後に倒れた父親の死ぬシーンを直接的には描いていないのもいい。北海道に旅立っていく親友との別れも二人の友情の深さを感じられるような丁寧な演出が良かった。この二人の関係を同性愛的な描き方と評しているものもあるようなのだが、そうは感じなかった。出演者に目をやると青年を演じる田中晋二と彼が望遠鏡でのぞく先にいる病弱な少女役の有田紀子は未見だが木下監督の代表作の一本である「野菊の如き君なりき」の主演コンビというある意味ではお遊び的なキャスティング、それに「女の園」で高峰秀子の恋人役として出演していた田村高廣が本作ではその共演者のひとりである久我美子の恋人役というのが面白い。それにしても木下監督は自身で脚本も手掛けることのほうが多い監督だが、新藤兼人監督が脚本を手がけた「お嬢さん乾杯」しかり、ほかの脚本家から提供を受けた作品でもきちんと良作を作れる監督なんだとこれを見て思う。そういえば本作は監督と脚本に加え、音楽(木下忠司)も撮影(楠田芳子の夫である楠田浩之)も木下監督の親類縁者だ。
[DVD(邦画)] 7点(2015-08-07 01:01:25)
14.  遠い雲
木下恵介監督が「二十四の瞳」の次回作として手がけた恋愛映画。高峰秀子扮する未亡人と彼女を想う義弟(佐田啓二)、そして未亡人のかつての恋人(田村高廣)との関係というともすればドロドロの恋愛劇になってしまいそうなところをそうはせずに逆に味わい深く描いているのが木下監督らしい。ただ、「二十四の瞳」という名作の次回作ということもあるのか、話そのものは平凡な印象で、映画としても凡作という感じ。でも、ラストシーンはけっこう良かった。ヒロインを演じる高峰秀子は先週見た「名もなく貧しく美しく」でも素晴らしい演技を見せていたが、こういう役を演じていても見事にハマっていて、やはりものすごい名女優であると感じさせてくれる。そういう意味で本作は高峰秀子を見るための映画なのだと思う。木下監督と共に脚本としてクレジットされている松山善三と高峰秀子はこの年に結婚した。この二人はこの後、脚本家と女優としても、監督と女優としても数々の映画でコンビを組んでいくことになるのだなあ。
[DVD(邦画)] 6点(2015-07-31 20:34:14)
15.  あの手この手(1952) 《ネタバレ》 
まだ東宝に在籍していた市川崑監督が大映に出向いて手がけた作品で、事実上、市川監督の大映での第1作となる。夫婦が突然家出してきた姪に振り回されるさまを描いているが、森雅之と久我美子ということでのちに川島雄三監督が東宝で手がけた「女であること」を思い出すが、印象としては小津安二郎監督の「淑女は何を忘れたか」に近いコメディタッチの映画で、それには及ばないものの、気軽に楽しむことができた。なんといってもアコちゃんのキャラクターが強烈かつコミカルで、それでいて可愛らしく、とても魅力的で、演じる久我美子はいつもは少しきつめのイメージのある女優なのだが、それをまったく感じさせておらず、こんな娘なら自分が振り回されてもいいかと思えるほどだ。彼女の恐妻家のおじを演じる森雅之もどこか茶目っ気があり、とくに妻を呼ぶときの「奥さん、奥さん」というセリフが可愛らしく、それがまた笑える部分でもあり、こんな芝居も違和感なく演じてしまうところに名優らしさが感じられる。久我美子のヒット作である「また逢う日まで」のパロディーシーンはまだ本家の作品を見ていないながら楽しく、このシーンには市川監督の余裕さも感じられた。ところで、森雅之はのちに出演した市川作品である「こころ」や「おとうと」でも作家の役だったが、父親が有島武郎であることからキャスティングされたのかなと想像してみたりできて面白い。
[DVD(邦画)] 7点(2014-10-23 18:28:03)(良:1票)
16.  原爆の子 《ネタバレ》 
人類史上初めて原爆が落とされた街 広島。その広島出身の新藤兼人監督がGHQの日本占領終了直後に放った広島原爆をテーマとした反戦映画。原爆で家族を失い、今は瀬戸内海の小島で教師をしている主人公 石川孝子(乙羽信子)が、あの日原爆に遭って生き残った教え子たちを訪ね歩くというストーリーなのだが、まだあれから七年しか経っていない広島で実際にロケをしていることもあり、いくらか復興しているとはいえ、原爆の傷跡がまだまだ残る広島の街はここにあの日原爆が落ちたということをリアルに物語っていて生々しく、この街の風景を見るだけで考えさせられるし、つらい。孝子が訪問したその日に原爆症で死んでしまう教え子の父や、少女が教会でもはやいつ死んでもおかしくない状態で横たわっているシーンは原爆が投下直後だけでなく、その後何年にも渡って身体を蝕んでいくという恐ろしさが伝わってきて切なく、胸が締めつけられる思いがした。新藤監督は広島出身の作家としてどうしても原爆投下間もない広島の現状をこの映画で描きたかったんだと思うし、新藤監督の原爆や、戦争、そして故郷への思いが伝わってくる。真夏の太陽の下で元気に遊ぶ子供たちも印象に残るのだが、この子たちに未来を託すという新藤監督の強い願い、戦争のない平和な世の中への願いが込められている気がしてならない。それはこれからの未来を生きるすべての人たちへの普遍的なメッセージなのだと思う。そしてそれは戦後69年経ち、新藤監督自身が亡くなった現在でも決して変わることはないだろう。被爆して間もない広島が舞台ということでも歴史的価値のある映画だが、そんな監督の普遍的なメッセージを発信し続ける映画として、これから先もずっと残っていくべき映画なのだと思う。
[DVD(邦画)] 9点(2014-08-01 02:13:03)(良:2票)
17.  野火(1959) 《ネタバレ》 
第二次大戦末期のフィリピン戦線を舞台に敗残兵となった日本兵たちの末路を描いた市川崑監督による戦争映画。市川監督の戦争映画といえばこの映画の数年前に日活で手がけ、後年自身によってリメイクもされた「ビルマの竪琴」が知られていて、そこでも捕虜となった敗残兵が描かれていたのだが、どちらかと言えば謳歌的で情感たっぷりに描かれていたあちらとは対照的に、この映画はかなり生々しく、より戦場における敗残兵となった日本兵の過酷な状況がリアリティを持って描かれていて衝撃的であり、怖い。飢えに飢え、極限状態に陥った敗残兵たちが人間を殺してその肉を食べるということがこの映画の大きなテーマとなっているが、きっと実際の敗残兵たちも同じようなことをしていたのだろうと考えさせられるし、見ていて非常に重苦しいなんとも言えない気持ちになるのだが、一方で見ているうちにだんだんと引き込まれていき、目が離せなくなった。白黒の映像も効果的で、極限状態の人間の異常さ、恐ろしさといったものがこれでもか、これでもかと伝わってくる。そんな異様な状況の中でラスト、野火の上がる方向へ向かう主人公の「普通の暮らしをしている人間に会いたい。」というモノローグは、それでも人間らしく生きていたいという悲痛な叫びであり、ここに市川監督がこの映画にこめたメッセージというものを感じ取ることができた。主演の船越英二は撮影前に体重を減らして臨んだそうだが、一見すると船越英二とは分からないような風貌でまさに田村一等兵という役柄になりきって演じており、その鬼気迫るリアルな演技が見事で、彼の代表作と言われている映画だが、まさにその通りだと思う。また、「ビルマの竪琴」で描けなかった戦争の狂気的な部分を見事に描き切った傑作で、市川監督にとってもそれに並ぶ戦争映画の代表作だろう。あまり知られていないのは残念だが、是非とも2本セットでご覧になることをお勧めしたい。
[DVD(邦画)] 8点(2014-06-28 15:55:45)
18.  日本橋(1956) 《ネタバレ》 
市川崑監督の初のカラー映画となる泉鏡花原作の文芸映画。主人公の芸者 お考(淡島千景)の恋愛模様や、ライバルの芸者 清葉(山本富士子)とのバトルなどが描かれていて一見すると王道を行く女性映画なのだが、市川監督らしい変化球演出もある作品になっている。しかしそういった市川監督の演出と作品自体の世界観がうまくマッチしなかった印象が強く、映画としては正直イマイチ。冒頭に幽霊を出してホラー風味を加えるのはいいとしても、熊の毛皮を来た赤熊(柳永二郎)のウジをアップで撮っている意図がよく分からない。赤熊の異様さを表現したかったのかもしれないが、こういう表現をすると単なる変質者のストーカーにしか見えず逆効果だと思う。それに葛木だけでなく赤熊も柳永二郎のようなおじさんではなくもっと若々しい俳優のほうがよかったのではと思えてしまい、この時点で既に失敗しているような気がして、巡査役の船越英二と役柄が逆のほうが良かったと本当に思う。それからしっとりとした前半に対して後半がちょっと急展開すぎるのもバランスが悪い。本来市川監督はこういうジャンルは不得手という印象はないだけに本作はどこか空回りしているのが残念。ただ、お考と葛木が出会う夜の橋のシーンは良かった。ところで、本作は市川監督にとって「処刑の部屋」の次の作品で、主演だった川口浩がチョイ役で出演しているが、子供たちと一緒に若尾文子にちょっかいを出すガキ大将の役というのはギャグにしか思えない。
[DVD(邦画)] 5点(2014-06-12 18:05:27)
19.  処刑の部屋
石原慎太郎原作の太陽族映画というと日活の映画という印象があるが、本作は大映の映画で、日活から移籍してきたばかりの市川崑監督が手がけている。映画としては「狂った果実」よりも面白く見ることができたが、それでもやはり今見ると「狂った果実」と同じく古臭さを感じてしまう映画で、市川監督の演出もそれほどキレを感じない。(ただみなさんがおっしゃるように宮口精二と川口浩が口論をする隣の部屋で岸輝子が新聞漫画を読んでいるカットは市川監督らしさが感じられた。)主演の川口浩は不良らしさがよく出ていて、裕次郎よりもこういう役はハマっている気がする。しかし、「狂った果実」もそうなんだけど本作に登場する大学生たちはどこか幼稚な存在に描かれていて、太陽族ものってみんなそうなのかと思えてしまった。ヒロイン役は市川監督の映画には本作が初出演の若尾文子。この頃はまだ清純派で可愛らしい彼女がけっこうな体当たり演技を見せていて、(とはいえ、まだ本作ではだいぶおとなしいが。)本作に助監督として参加している増村保造監督とのその後のコンビ作での活躍を予感させていたのが印象に残る。
[DVD(邦画)] 6点(2014-06-05 17:06:57)
20.  野獣死すべし(1959) 《ネタバレ》 
仲代達矢が主人公 伊達邦彦を演じる東宝の「野獣死すべし」。やはり以前に見た松田優作主演の角川映画とは印象がだいぶ違うのだが、本作のほうがシンプルなつくりで、分かりやすく、かつ当時は日本映画ではまだ珍しいハードボイルド映画の雰囲気も角川版よりもあり、こちらのほうが自分としては好み。本作の伊達邦彦は角川版以上にギラギラしていて、演じる仲代達矢の癖の強さもあって、何を考えているか分からない怖さがよく出ている。それをいちばん感じるのは花売りの老婆(三好栄子)とのやり取り。伊達から強要されて踊り続ける老婆を見つめるあの眼の演技は仲代達矢ならではで、これだけで伊達邦彦という男の怖さや冷酷さをすごく感じられた。それにこのシーンはこれが最後の出演作となる三好栄子も迫真の演技を見せていてとても見ごたえがある。予告編で20代スタッフを中心に制作というのを強調していたが、まだデビュー間もない須川栄三監督は白黒画面をフルに活かしていて、さきほど書いた映画のハードボイルドな雰囲気をうまく映えさせているのがうまい。それに、犯罪映画としてだけではなく、刑事映画としての面白さもあると思う。ただラストが尻切れトンボのような感じになってしまっているのはちょっと残念だった。
[DVD(邦画)] 8点(2014-05-15 18:36:39)
全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS