1. 歌行燈(1943)
今は殆ど失われてしまった日本の伝統的な文化を伝えてくれる、あまりに貴重な映像に、思わず姿勢を正して見ました。(といっても、心の中だけですが、、、えへへ)・・・・・まず宿場の街角で喜多八のひく、三味線、小唄の風情があること、、、。それに能の所作などの折り目正しいこと、、、。そして、人を間接的にしても殺めてしまったという理由で、父が子を勘当し、一切うたいを口にしてはいけないという厳しい処断を下し、子がそれを守るという姿。、、、、西洋風の家族、特にアメリカやイタリアの家族では全く考えられないと思われます。、、、、、伝統的な芸の世界に生まれながら、未熟さ故に親から勘当され世間を放浪するという構図は、溝口『残菊物語』と成瀬『歌行燈』は同じです。映画としての美しさや、人間模様という点では『残菊』、芸や日本の文化の記録としては『歌行燈』なのでしょうか。、、、、ただ『残菊』は、現代の世界にもどこか通じるところがあるようにも思いますが、『歌行燈』の世界は、今とは異質な世界を再現してくれているようで、その点で、強く想像力を刺激されました。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2005-09-13 15:17:11) |
2. わが谷は緑なりき
最初に見たのは十代半ば、テレビの深夜映画ででした。字幕で見ると、ナレーションはけっこう勇ましい感じですが、吹き替えでは、久米明さんです。これが何とも言えない、いい味わいなんです。特に久米さんが最後にいう「あの頃の渓はなんて緑だったのだろう」というあたり、、、。そんなかんだで、10代の頃、一番好きな映画は、この映画でした。、、、、、今見てみると、父親を描いた映画でした。ジョンフォードは、「怒りの葡萄」では母を描いていましたが、この映画では、父を描いたということでしょうか。どっちが説得力があり、興味深いかというと、私は、「谷」の父親を推したい。、、、、ああそうか、ヨーロッパやアメリカの人たちは、父親に対して、こういう情感を抱いているのか、ということがよく伝わりますね。、、、、それと映像としては、坂の両側に社宅が拡がっている炭坑の情景がすごいです。それと、落盤のあと、引き上げられるエレベーターの人々の造形が絵画的で美事でした。 [DVD(字幕)] 9点(2005-08-21 14:26:40) |
3. 怒りの葡萄
《ネタバレ》 アメリカ文化の一端を知る資料として貴重だと思います。、、、、特に、広大で荒涼とした大自然、そして産業化が進展する社会にあって、家族しか支えはないのだという感覚は強い説得力をもって伝わります。(→特にトラックの運転席で肩を寄せ合うシーンが度々映し出され、広い社会の中で家族が肩を寄せ合うイメージが鮮明に焼き付きます)、、、、、、そして、5セントのキャンディを1セントと偽り子どもに与えたり、その善意を見て釣り銭を受け取らない別の客などの見知らぬ者同士が支え合うささやかな善意。、、、、社会の仕組みを変えようと言う強い意志。、、、、、、、一台のトラクターによって農民が土地を追われたのは、機械化の進展と、それに伴う産業構造の変化のためでした。西漸運動によりフロンティアに拡がった多くの農民たちは、工農の製品価格差と農業機械化などのために3%以下に淘汰され、貧民として都市に流入する。産業の構造変化がいつの時代にもあるものならば、これは、この時代のアメリカに限られたことではありません。、、、、、コンビニと100円ショップのために町中の文房具屋は店をたたみ、警察のシステム変化で、試験場の周りの代書屋は廃業し、いずれ民営化される郵便局員の中には転職を余儀なくされる人も少なくないに違いありません。そう考えると、60年をすぎても、なお通用するテーマを扱う作品だとも思いました。 [DVD(字幕)] 10点(2005-08-21 14:05:24)(良:1票) |
4. 野良犬(1949)
私たちの両親、あるいは祖父母たちが生きた戦争直後の記録として、、、、善と悪のあまりにわずかな分岐点の記述として、、、、、、日本の夏の暑さの映像として、、、、高円寺や大原の情景の記録として、、、、、、深く心に残りました。、、、最後の木村功の叫びも。 [DVD(字幕)] 10点(2005-06-30 12:03:11) |
5. わが青春に悔なし
とにかく、亡夫の農家に戻り、畑仕事をする原節子の姿が凄い。、、、泥に汚れ、日に焼け、汗を流し、エネルギッシュに動く原節子のこんな姿は他では見たことがありません。また亡夫の農家に対して、誹謗中傷を加え、白い目で見る、農民たちの表情を、短いカットでつなげてゆくところとか、リズム感とリアリティがあります。、、、、、、しかし、話全体としては、あまりに単純な構図になっているように思う。戦時中に節を曲げなかった野毛一人が英雄だ、みたいで。、、、、、特に、八木原が京大に戻った時の、学生を前にしたスピーチで、「一番残念なのは、ここに野毛君がいないこと云々」というくだりは最低。、、、戦場で死んでいった多くの学生よりも、野毛一人の方が評価できるのだろうか。そういう英雄主義、エリート主義が、映画全体を貫いているように思えた。 [DVD(字幕)] 6点(2005-06-30 11:15:10) |
6. 酔いどれ天使
とにかく三船に驚いた。、、、、美しい、、、、、、、、、。この三船を見て、黒澤が、羅生門や七人の侍で何を描きたかったのかに合点がいった気がした。(歌舞伎の所作などに染まっていない、無垢な三船を時代劇で使う、という囚われない斬新さ)、、、、、、それと黒澤のリアリズムのありかが、少しわかった気がした。、、、、、口で理想的な生を語ることは容易だが、実際にそれを送ることは難しい。様々に現実との格闘を必要とする。つまり理想は、現実との格闘を経て鍛えられてゆく。、、、、だから、黒澤は、理想に対して、これでもか、これでもかという程に現実(リアルなもの)を対比させてゆく。、、、、この映画では、久我美子が純粋な理想を象徴しているだけで、あとは、大なり小なり、理想と現実の間を格闘している。志村喬は、医術に殉じるのではなく、酔いどれるという現実を抱え、三船は、病を治し、足を洗うという理想には全く届かない。、、、、、、、映画全体として、理想の姿はかぼそいが、ラストの久我、千石とのコントラストは、微かであっても、理想の姿を追うのだという黒澤の固い決意を見た思いがした。 [DVD(字幕)] 10点(2005-06-28 12:48:50)(良:1票) |
7. 一番美しく
冒頭、志村喬の国粋主義的なアジ演説に接して、、、、、戦争を鼓舞し、人々を戦地に導く映画は、映像的に優れていればいるほど、非難に値するべきと思って見ました。、、、、しかし、見終えて、果たしてこの映画は、戦時中の国策映画に値したのだろうかという疑問が起きました。、、、、最初の勇ましさは、実は、映画製作を認可されるための目くらましのようなもので、映画の真意は、姿三四郎でテーマとした、人としての美しい生き方、あるいは、家族からの自立について描くことではなかったかと。、、、、、、仮に、純粋な戦争鼓舞映画であれば、先生の入江たか子にもっと、戦争賛美の言葉を、様々に語らせるはずでしょう。国策映画の中での教師の役回りは、通常は、政府の言葉の伝達役だからです。しかし、入江たか子は、そういう言葉を全くといって良いほど語っていません。、、、、、また男でなく、女の世界を題材としている点も、注意すべきかもしれません。男を描けば、戦場に行く、行かない、死ぬ、死なないということを必ず入れねばなりませんが、女を描けば、そういう必要はないからです。、、、、、全体として、リズム感があるし、また女子工員が集まって笑ったり、話したりする構図とか、良くできていると思います。また戦時中の勤労奉仕などの様子を伝える記録映画としても貴重ではないでしょうか。 [DVD(字幕)] 8点(2005-06-28 12:22:44) |
8. 姿三四郎(1943)
独立した一つの映画としては、確かに、通俗的で面白いものには思えないかもしれません。しかし、黒澤作品という連鎖の最初の輪として見ると、非常に興味深い作品だと思います。、、、、、個人的には、ずっと黒澤映画には、どこか違和感を感じていたのですが、この姿三四郎を見て、黒澤監督の根底的なモチーフが素直に了解できたような気がして、その違和感がかなり解消しました。、、、、理想的な生き方とは何か、そしてそれを阻むものは何か、という問題意識が黒澤監督の出発点であり、その問題をいろいろと考えて行くとき、悪、狂気、生の躍動性といったテーマが次々と現れだのではないかと。、、、、、、、映画としては、最後の右京が原の決闘がしびれますね。村井某の部屋のシーンから風の音がずっと続き、腰よりも高い草が風に揺れる丘、一人三四郎が風に立ち向かう。 [DVD(字幕)] 10点(2005-06-24 02:34:25)(良:1票) |
9. 天井桟敷の人々
わたしが大切にしたいと思う価値観、感情がこの映画には散りばめられています。、、、、、、最初、映画館で見たときは、長くて腰が痛くなりましたし、特に深い感動もありませんでした。アルレッティはおばさんだし、ジャンルイバローのパントはあまりにゆったりとしているし、画面は白黒で衣装や装置の細部は不確かだし、、、、。ただ、その後、ビデオを購入し、何度か見るうちに、じわじわと虜になり、最愛の映画になりました。どうしてなのだろう???、、、、、、、そう考えてきて今、わかりました。わたしが大切にしたい価値観がここには溢れていると。、、、、、ルメートルのように全てを天職に傾けたいという感情、ラスネールのように斜に構えたい心情、バチストのように昔の感情を爆発させたい気持ち、、、、、飲んだくれてラスネールに気前よく振る舞い、また決闘にまで臨んでしまう軽はずみ加減、、自分の中の嫉妬心を客体視して「これでオテロがわかった」とする前向きさ、、垣根を設けず乞食の演技にも瞠目するバチスト、、、、、、などなどなど。、、、ただ一点、人生とは、カーニバルのようなもので、そこでは、人の大きな流れに囲まれ、自分の位置を定めることができないものなのかどうか、これから考えて行くつもりです。 10点(2004-06-03 11:43:13) |