1. 暁の脱走
《ネタバレ》 黒澤明は、映画の鬼である。 「一番美しく」で国策映画を撮った黒澤は、 この作品では一転、日本軍を悪者として、そこから脱出する兵士に感情移入するような映画を創っている。 どうして、こう器用なのか? それは面白い映画を創りたい!もうただこの一心なのだ。 時代がこれが悪となれば、たちどころに、それを悪として話を創り上げてしまう。 そのプロ根性には、脱帽である。 言っておくが、私は黒澤大好きである。 反骨な骨太な映画こそ、彼の本領発揮であろう。 彼のアイデンティティは、反権力、徹底して逞しく生きる庶民目線なのかもしれない。 それでも地位を確立するまでは、プロに徹する。 見事だと思う。 本作の山口淑子は、戦争中、李香蘭という中国人女優として、人気があった人だ。 戦後、本名の山口淑子として活躍、本作が戦後5本目になる。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-03-25 21:48:38) |
2. 長崎の鐘
《ネタバレ》 「邦画ベスト100」で検索したサイトで、知った映画。 そのサイトの運営者の身上を知ると、この映画の主人公の身上に重ね合わされたのであろう・・ 重い気持ちになった。 この映画は、原子学を研究してる人が、キューリー夫人たちみたいに、 やはり自身が原子病に侵されてしまうという映画。 物理学はよく知らないのだが(これでも小生、高校時代は元理系・・(笑))、 原子学の研究してる人が、戦中、原爆を受け、どこまでも原子力の人なのだな、と 運命の過酷さを感じさせられました。 ※原爆の原子力と、放射線の原子力って、違うのかな?分からない・・お恥ずかしい(照) それにしても、厳しい歴史を背負った浦上という地域・・ [ビデオ(邦画)] 7点(2025-03-20 23:51:51) |
3. 狂った果実(1956)
《ネタバレ》 石原慎太郎原作。 彼の女性観がわかる。 昭和の女性の、小悪魔的イメージ。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-03-15 01:02:23) |
4. 挽歌(1957)
《ネタバレ》 白黒のきれいな映像で、洋画並みの音楽でのぞんだ、五所監督のロマン派映画。 当時、無名だった地方同人誌の作家の作品を映画化したのが、本作。 しかし、日本人の不倫は、どんなにきれいな音楽で飾ったところで、 鑑賞してて、ううむ?と思わざるを得ないにゃ~。 不倫を壮大なラブストーリーにしよったって、そりゃ無理がありますぜ、五所監督。 体に傷のあるレイコは、心に傷のある人を見ると愛さずにはいられない。 不倫されてる旦那を愛し、自分が旦那を奪ったその妻を愛し、 こりゃアニエスヴァルダの名作「幸福」だよ~ しかし、五所さんの本作の方が先に制作されてた! ううむ、当時の日本映画おそるべし。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-03-08 00:56:12) |
5. 黄色いからす
《ネタバレ》 五所の映画は、子どもの家出が多い。 「朝の波紋」もそうだし、本作もそう。 これは、五所監督の子ども時代に関係がありそうだ。 五所は、芸者の母を持つが、その生母と引き離され、本家の母親に育てられた。 生母から「もうお母さんと言ってはいけません」と言われた子ども時代をもつ。 その後、家族会議の場で家から飛び出したそうだ。 彼の孤独な子ども時代を、この子役に演じさせたのかもしれない。 タイトルの「黄色いからす」とは、少年の描いた絵のことだ。 黄色とは、孤独の色らしい。心理学のことは知らないが、当時はそういう知識があって、この映画となった。 ちなみにカラー映画であるため、効果は最高で、この映画は当時、アカデミー賞についで権威のある、 ハリウッド外人記者協会のゴールデングローブ賞の昭和32年度の最優秀撮影技術賞を受賞している。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-03-01 21:43:17) |
6. 朝の波紋
《ネタバレ》 何てことないドラマだと思って見てたが、 大企業の嫌がらせに悩む小さな会社の女性秘書を高峰秀子が、 その大企業の社員を池部良が演じている。 そこに中学生くらいの戦争で父親を亡くし、母親が働きに出てて、 寂しい思いをしてる子どもを配したのがいい。 観終わって、いやぁ五所平之助、いいなぁと思った。 「人生のお荷物」も好きだったが、子どもと大人がいいバランス。 子どもが二人のキューピッドになるという、今ではよく使われる話運びも こういう映画から学んだんだろうなぁ・・ 前のレビュワーさんに捕捉だが、高峰秀子はストリッパー役を演じた「カルメン~」のあとに パリで一人暮らしをする。やっぱ、役どころが女性心に面白くなかったんだろうかね。 そのフランスからの帰国第一作が本作。 [ビデオ(邦画)] 8点(2025-02-26 21:53:28) |
7. 米
《ネタバレ》 カラーフィルムを使って、映画セットではなく、 霞ケ浦付近の農村を舞台に、農民たちの生活を描いている。 民具などの小道具や風習、農作業の様子など、民俗学に興味ある人なら、貴重な映画となるだろう。 面白いのは、この後に創られた「キクとイサム」が白黒であり、 今井の中で、白黒の良さ、カラーの良さを模索していた感じがある。 あと、方言がすごい。ここにもリアルに映画を残したいという今井の思いがあるようだ。 今井の代表作「ひめゆりの塔」が、沖縄弁じゃないのは、多分、方言がすごすぎて、 字幕でもつけなきゃ理解不能と思ったからであろう。 本作の茨城弁は、埼玉生まれの今井には、まだ理解しやすかったからではないか? などと思ったりした。 自分には、全然、何を言ってるか分からなかったが・・(笑) [DVD(邦画)] 7点(2025-02-22 15:01:35) |
8. ひめゆりの塔(1953)
《ネタバレ》 有名な結末を知っているだけに、 彼女らの歌う歌の音を聞いてると、グッとくるものがある。 ただ米兵の姿は、最後まで出しませんでした。 銃を撃ってくる何者かがいる、という描写で、米兵のリアルな姿は出しませんでした。 これは、彼女らがか弱い女性なので、彼女らを容赦なく殺す人間像が 生身の俳優では演じきれないからでしょう。 今井正の演出に、感じるものがあります。 自決する手りゅう弾を渡され、青酸カリの取り合いにジャンケンし、 最後の夜に彼女らが歌って踊るシーンに、女性とはこういうものなのかなぁと思いました。 少なくとも、発狂する女性は一人もいない。 自然の中で育った女性は強いのかもしれないですね。 [DVD(邦画)] 7点(2025-02-16 20:25:43) |
9. 東京キッド
《ネタバレ》 チャップリンのキッド・・子役の光る映画だが、その日本版である。 美空ひばりが、あの映画よろしく、ハンチング帽をかぶった男の子に扮する。 どっちのキッドも最高である。 ここまでの「キッド」を創った日本もやるなぁと思う、マジで。 エノケンや花菱アチャコまで引っ張り出して、日本総力で挑んだ作品かもしれないですね。 令和の「キッド」は、どんなんだろう。だれか創ってくれまいか(笑) ひばり級の天才子役、なかなか出てきませんね。 最近で思い出すのは「舞妓はレディ」で、上白石が頑張ってましたが・・ ネット上には、子供が歌って踊る動画が多いのだが、 やっぱり戦後の暗い日本に光をもたらした美空ひばりは、 国民が待ち望んでいた歌声だった。 奇跡にも近い。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-02-14 21:45:45) |
10. 駅前旅館
《ネタバレ》 面白い!渥美清レベルの俳優が、こんなにいたのかと驚いた。 森繁久彌とフランキー堺。 僕らの世代にとっては、年を取った彼らしか知らなかったから、 こんなに活き活きとした二人を観ると、なるほど有名な人はやはり凄いとしか言いようがない。 時代とともに、活き活き働いてる人たちをリストラしていく旅館。 現代でも当てはまりそうだ。 話は、冗長だが、一場面一場面、とにかく楽しい。 映画を見る楽しみとは、こういうものだったのかもしれない。 追伸)藤子不二雄の漫画「21エモン」は、駅前シリーズが元ネタだったのかと発見。 [ビデオ(邦画)] 7点(2025-02-11 12:42:44) |
11. 浪花の恋の物語
《ネタバレ》 「冥途の飛脚」、つまり飛脚の物語なのだ。 有名な題だが、やっとその意味が分かった。 小生、一時期、郵便配達をしていたことがあったが、 その研修で現金書留に手をつけると犯罪と、何度も教えられたが、 江戸のころの、飛脚にもこんなリスクがあったと、改めてびっくり。 この映画のユニークなとこは、心中物で有名な近松門左衛門が、 この事件を見聞きし、新作のネタにしようとする点。 ラストが決まらない近松は、二人をなんとか幸せにしたいと考える。 そこで、運送途中のお金で、芸者を身請けして、逃走途中、 故郷に立ち寄り、父親がせめて自分の見えないところで捕まってくれと言い、 二人は逃げるというラストにしている。 これは、元の話では、男が捕まって、幕らしいが、 浄瑠璃や歌舞伎で、この話は何回も再構成、上演されることにより、 ラストが、逃げて終わりとか、捕まって終わりとか、いろんなバージョンができたらしい。 面白い!ただ近松を映画化するだけじゃなく、 近松がラストをどうするかというスリリングな要素を付け加えている内田監督の 力技に脱帽! [DVD(邦画)] 8点(2025-02-05 00:10:40) |
12. 東京物語
《ネタバレ》 この映画、若いころに何度か観たが、 小津さんのサイレントやトーキー初期の作品を最近、よく観てて、 それで改めて、本作を見返したら、色々発見があった。 やはり思うのは、小津さんの「一人息子」があっての「東京物語」だろうということ。 「一人息子」のほうは、母親が上京してきて、競争社会の東京に失望を覚えた息子を母親が 𠮟り飛ばす話なのだが、それでも息子には人情があって、それが何よりもの親孝行だという話である。 本作「東京物語」は逆だ。それなりに東京で生活をしている子どもたちの、 いつしか親のことを事務的にこなす子供の変貌ぶりに、父親の笠智衆が落胆する話だ。 「一人息子」とは真逆だ。 この話の続き(京子と父親の話)が「晩春」になるのだろう。 小津さんの中で、映画で描いた家族は、現役時代、ずっと生きていたのだろう。 [DVD(邦画)] 7点(2025-01-26 22:44:15) |
13. ヴェラクルス
《ネタバレ》 舞台が西部ではない西部劇。 二人のカーボーイが、メキシコの内戦に参戦する。 友情も感じつつ、油断ならない関係の二人。 そこに陛下側と革命側のどちらかにつくかのやりとりが交差する。 そしてそれぞれの思惑を持つ女たち。 設定はこれだけである。 あとは、めまぐるしい状況の中で、男たちがどう動くか・・ そういう男の映画である。 珍品の西部劇である。 バー十ランカスターの男臭が、映画を引き締めている。 [DVD(字幕)] 7点(2025-01-21 09:56:20) |
14. ミラノの奇蹟
《ネタバレ》 ま、あれだろうな・・ 前作2作が「自転車泥棒」と「ウンベルトD」だもん。 世の中、悲惨だよねっていう映画をいくら撮ったところで、 世の中、一向によくならない。 ならば、いっそ奇蹟でも起きねえかなっという内容。 こんな映画でも観なきゃやりきれねぇ!という叫びでしょ。 [DVD(字幕)] 7点(2025-01-15 23:53:06) |
15. 裁きは終りぬ
《ネタバレ》 ルメットの「十二人の怒れる男」が1957年なので、明らかにこの映画が元ネタと思われる。 陪審員の群像劇で、様々な陪審員の生活が、最後の評決への発言とつながる仕組みだ。 フランスらしく、サロン文化の地であるだけに、軽快なおしゃべりが楽しい。 ただ、7人の陪審員の生活が描かれるので、ちょっとごちゃごちゃしてくる。 しかし、この時代に、この良作がすでに撮られてたことは驚きで、 映画の成熟は、映写機の出現から、かなり早い時期に到達していたと思われる。 映画文化に法廷ドラマというジャンルを作り出した、映画黎明期の作品。 [DVD(字幕)] 7点(2025-01-13 19:53:31) |
16. 浮草
《ネタバレ》 いや~どうなんだろう? 「浮草物語」を最初に観て、面白いストーリーだと感激したのだが・・ 思うに、京マチ子と中村鴈治郎じゃ生臭くて、主人公の身勝手さが強く鼻に残るようになっている。 思うに、サイレントって、喜劇が主だよね。 だから、この「浮草」のストーリーも人間喜劇扱いだと、ラストもそれほどイヤらしくなくなるのだね。 あと、本作は子役が活きてないのも、その理由か・・ 小津さんも、この話、好きだったんだろうね。 だから、2度も創っている。 京マチ子が嫌らしい女と可愛い女が両立してるキャラを巧く演じている。 良作♪ [ビデオ(邦画)] 8点(2024-12-21 01:00:07) |
17. 白鯨
《ネタバレ》 神をも恐れぬ西洋人らしい映画。 神々しい白鯨をしとめようなんて、あまりにも恐ろしい・・ でも今は近代的な捕鯨船の前では、モビーディックもやられたかもなぁ・・ 捕鯨反対運動は、地球環境問題とも根っこが似てて、人間のやり過ぎに対する抗議なんだろうなぁ・・ アクションシーンが少なく、話が引き締まってて、面白い。 「老人と海」とは違う展開なんだね。 やはり古典は観ないと・・ 勉強になる。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-16 00:41:23) |
18. 田舎司祭の日記
《ネタバレ》 「へっ、今度の司祭、青二才じゃねえかよ」 「説教なんて聞いてらんねぇ」 赴任した田舎の教会で、冷たい視線の中、 この若い司祭は、可哀そうな夫人の魂の救済をやってのける。 それを目撃した若い女性からの、審判の対応がなされる。 やがて、そこにいられなくなった司祭は、のたれ死に・・・ ラストの言葉 「それがどうした。すべては神の思し召し。」 圧巻、巨匠ブレッソンの見事な落ち。 いつか、俗物の老司祭が、女性の魂の救済をやってのけ、 女性たちから審判の対応にさらされ、最後にどんな言葉を残すか?なんて 映画も観てみたい。 [DVD(字幕)] 10点(2024-10-13 15:52:48) |
19. 新・平家物語
《ネタバレ》 「新源氏物語」の川口松太郎が、企画に加わった本作。 やはり同様に最初の部分を丁寧に描いて、終わっている。 武士の時代の始まりが理解できる。 ストーリーは、平清盛の出生の謎を加え、彼の青春時代を、ドラマチックに描いてる。 寝殿造りの建物が、地味に現代的なつくりなんですね。勉強になります。 巨匠溝口健二だから、時代考証も手抜きなしでしょうね、きっと。 これを観て、山田尚子のアニメ「平家物語」を観ると、さらに勉強になりますね。 [DVD(邦画)] 7点(2024-09-28 21:15:30) |
20. 抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より
《ネタバレ》 とある囚人が脱獄をするため、 綿密に計画するが・・!という話。 ラストは言いません。 あの坂本龍一教授の本「坂本図書」の最初に取り上げられてる監督、 ロベールブレッソン先生の名作であるから! 皆さん、ネットを駆使して、観ましょう! 坂本教授がブレッソンを挙げたのには意味がある。 この映画を観れば、分かるのだが、極力、近代の映画演出を排して、 リュミエール兄弟の映画(自分もあまり分からないのだが・・汗)の原点に近づくことで、 映画表現の本質に戻ろうとしている。 坂本教授も、音楽表現の原点回帰に、この監督の姿勢に共感するとこが多かったのだ。 脱獄ものと言えば、イーストウッドの「アルカトラズ」から「ショーシャンク」まで 色々ありますが、それでも本作は面白い! 是非、ご鑑賞を! [ビデオ(字幕)] 8点(2024-08-07 00:12:45)(良:1票) |