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人間、生きていくからには嫌な事も山ほどあるが、普通はそこを何とかして乗り越えていくものである。しかし中には生きる事に不器用で、上手く世間を渡れない人間もいる。真面目で正直者が損をするのが世の中の風潮ならば、この物語の主人公などはまさにその典型例だと言える。事の発端は妻との別離で、それ以来何をやっても上手くいかない(と思い込んでいる)彼は、彼女とさえヨリを戻せば全てが上手くいくと考えているフシがある。なんと単純な男だろうか。上手くいかない本当の理由は彼女との結婚生活以前のハナシであり、何ごとにも真面目すぎる反面、ネガティブな考え方しか出来ない彼自身の性格がそうさせているのだ。彼には会社の上司や同僚、あるいは親しい友人、そして何かと救いの手を差しのべてくれる兄の存在があり、決して孤独ではないはずだ。しかし彼は自分の殻に閉じこもるばかりで誰にも心を開けようとはしない。妻もそんな彼にきっと嫌気がさしたのだろう。男は唯一気持ちの拠り所として心酔するレナード・バーンスタインに、遣り場のない心の叫びを聞かせる。この世の中で信じられるものは自分とバーンスタインであって、それ以外は憎むべき対象でしかないのである。そして処世術に長けた者に対するヒガミ根性が、やがて彼を行き着くところまで行かせてしまう。しかし、本来最も身近な憎むべき人物すら殺せない小心者の行く末は、押して知るべしである。確かにこの被害妄想の塊のような男に同情の余地は無く、むしろ不快を感じるほどだが、映画的に良く出来ている事とは別の次元の話。クライマックスへ至るまでの細かい描写の積み重ねは、主人公の人物像にリアリティと説得力を生み出し、人生に行き詰まった男を演ずるS・ペンは、デ・ニーロをも凌駕するほどの凄味を魅せる。 実話をベースにしているだけに、妙に納得してしまう作品だ。
【ドラえもん】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-07-07 18:20:38)
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