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《ネタバレ》 自己犠牲というリスクを承知の上で海外とりわけ紛争地域へ赴き、困っている人々に手を差しのべると言う一つの生き方。本人にすればまるで生甲斐であるかのようだが、言い換えると、それは自らの居場所を模索する自分探しの旅でもある。しかし一つ間違えると、自らの意思に反して思いもかけない事態へと変転する危険性をも孕んでいる。実話をベースに、一人の女性の“その後”をドキュメント風に追い綴った本作は、人間社会の歪みから噴出する問題の一断面を抉り取っていく。この物語に登場する主人公は、普通の年頃の女性とは少しズレたところで行動を起こし、その結果として一般社会から見れば異端者いわば爪弾き者と見なされ、社会の規範や周囲の眼というものが彼女の生き方や考え方、或いは人格さえも否定してしまう。人々に救いの手を差しのべようとする者が、あたかも負け犬であるかの如く奇異の眼差しで見られ、そればかりか家族をも巻き込み、やがて崩壊させられていくという理不尽さ、そして真綿で締め付けられるような怖さは筆舌に尽くし難い。考え方に理解を示そうとする者さえも、批判の矢面に立たされるという観点から、かつての仲間は何処でどうしているのかという事までは語られない。映画はあくまでも一人の人間の意志と行動に焦点を充てて描き続けられる。その大人っぽさと子供っぽさとが共存しているかのような、不思議な存在感のある彼女の強固な意志は、ややもすると歪んだ形で表面化する。その典型的な例として、コンビニでの「おでん」に纏わる一連のエピソードで巧みに描写される。海辺にあるアパートの無機質さ。終始見られるどんよりとした空と澱んだ空気。寒々として暖かみというものが全く感じられないのは、単に季節が冬だからという理由だけではない。それら家族を取巻く環境は彼女の心象風景そのものであり、どこまでも虚無的で救いがない。自ら死を選択した父親の姿に、社会に圧殺された者の悲しみと憐れさを滲ませているが、その事が切欠となり、反発していた筈の義理の母親からの真の優しさと思い遣りに触れ、やがて心から向き合えた時、初めて見せる穏やかな表情こそ彼女本来の姿だろう。朝まだき仄暗い中、新たな旅立ちを迎え、遠くを見据える彼女の眼差しと表情は、更なる強い決意をもった大人の女の顔となっていた。本作は人間社会に於ける理解し合う事の大切さと難しさを問い正した秀作である。
【ドラえもん】さん [映画館(邦画)] 9点(2006-10-15 16:44:59)(良:2票)
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