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《ネタバレ》 いや、ほんと、そうなんですよ。人生において、いろんな人と逢ったり別れたりってのを繰り返すんですけれども、何か妙なクサレ縁みたいなのがあって、ふと気が付くと、何だか知らんがコイツとの付き合いって、かれこれ長いよなあ、ってなヤツがいたりする。何度離れても、なぜかまた出会って、つかず離れず、まさか、こんな長い付き合いになるとは。。。
長門裕之演じる「ムネさん」の視線から描かれる、戦前の軍隊時代からの友人・ヤマショー。これって、友人って言って、いいのかな。とにかく、クサレ縁です。そのヤマショーを、渥美清が演じていて、キャラ的にも、寅さんの原型のような。 しかし寅さんほどには「都合よく」デフォルメされたキャラではなく、もっと普通に庶民的。普通に純粋。ただそれが、いささか度を超しているもんで、いろいろと騒動を起こすのですが、二年兵になれば「普通に」初年兵をイビるし、「普通に」女郎買いもするし、盗みですらノホホンとやらかしてしまう。しかもそれを「徴発だ」などと澄まして言ってのけたり(そのヤマショーに対して、日本人が「日本人に対して」やるのはけしからん、と怒るムネさんもまた、庶民的なのだけど)、その庶民的であるが故の罪深さ、みたいなものも背負った存在として、ヤマショーは描かれています。 衣食住に困らないというただそれだけの理由で、理不尽な軍隊生活を耐え、いやそれどころか離れたがらず、そして、かつて世話になった上官への思慕を抱き続け、天皇陛下を敬い続ける、純朴な男。戦争が終わり、世の中が変わって、日本人が変わっていっても、この男は変わらない。 こういう国民の純朴さを利用して、当時の日本という国は、無謀な戦争に突入したのではなかったか、、、などと言うと、「国民は被害者でした」で済むのかよ、という声も出るのかも知れませんが、ただ純朴であることの罪深さと、その純朴さを利用する罪深さとは、ともに忘れちゃいけないんだと思う。しかし、多かれ少なかれ、それらは忘れ去られてしまう。「忘れる」ということの罪深さ。ヤマショーはニコニコしながら、しかし「変わらない」ことで、「忘れる」ということを暗に批判する存在ともなっています。 時代が変わり場所が変われど、当たり前のように再会できるヤマショー。しかしある日突然、二度と会えなくなる存在になってしまう。このまま彼を忘れていいのか、戦争を忘れていいのか、というラスト。コミカルでありつつシニカルであったこの作品が、最後に見せる哀しみです。 【鱗歌】さん [インターネット(邦画)] 8点(2024-09-29 17:47:14)
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