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《ネタバレ》 この作品では、タイトルとは裏腹に、「飢餓」というものはあまり描かれていません。というのはつまり、三國連太郎演じる主人公・樽見の過去については必ずしも深く描かれてはいない、ということでして。もうひとりの主人公、左幸子演じる八重との出会いから、彼女を中心に描かれる戦後の描写は、貧しさはあるけれど、一種の自由さもあり(無論、犬飼から渡された大金のお陰ではあるものの)、その自由さは例えば東京の光景をどこまでもクレーン移動するカメラで拡がりをもって描く場面などからも感じられます。それに比べると、戦後10年以上たち、過去から決別し封印したはずの樽見が描かれる後半の、不自由さと圧迫感。貧しさイコール悪、とかいう単純な図式ではなく、暗い過去に閉じ込められた人間の姿そのものを、刑事との対決の中で描き(過去に閉じ込められた人間は樽見ばかりではない、伴淳三郎演じる弓坂刑事もその一人であり、その事実がまた樽見を過去に閉じ込める)、また北海道行きの船上という、開放感の光景の中で、「死」という最後の逃避を選ぶ姿を描く。もう、これ以上に追いつめられた三國連太郎を見ようと思ったら、『真剣勝負』の宍戸梅軒を見るしかないでしょうなあ。
【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2014-06-02 23:33:17)
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