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《ネタバレ》 不条理は国が老年期だから蔓延る訳ではない。昔から文学の世界では、常に不条理に苛まれる個人こそが主題として描かれている。
この世の不条理。「この世の中の不幸、幼い子供が虐待によって何の罪もなく死んでいくという現実。それでも神を信じるのか?」という命題は『カラマーゾフの兄弟』のイワンの語りとして現れる。それは、人々にとって突然、何の脈絡もなく訪れる不幸、死という受難として、『ノーカントリー』("No Country for Old Men")の主題にもなっている。 ハビエル・バルデムは純粋な悪、絶対的な不条理そのものとして描かれる。実体として可視化された純粋悪。現実において、それは自然災害や交通事故、テロルとして否応なく現れる可能性として在りえる。純粋悪は、普段の私たちの生活や世の中から不可視なものであり、彼はその仮想的存在として設定されている。実体化した純粋悪は、私という凡庸な悪を簡単に駆逐する。それは私たちを恐怖に陥れると同時に私自身の存在を根底から揺さぶるものとして在る。 純粋な悪、不条理的な存在は、ホラー映画の常套であり、別に珍しいものではないが、この映画のハビエル・バルデムは、ジェイソンやフレディとは違うリアリティある恐怖として認識されることで、私たちはこの作品により一層の戦慄を覚えるのである。悪に内側から支配される可能性、その諦念の残渣として。 【onomichi】さん [インターネット(字幕)] 9点(2024-10-05 21:17:52)
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