ラストマイル の onomichi さんのクチコミ・感想

Menu
 > 作品
 > ラ行
 > ラストマイル
 > onomichiさんのレビュー
ラストマイル の onomichi さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 ラストマイル
製作国
上映時間128分
劇場公開日 2024-08-23
ジャンルアクション,ドラマ,サスペンス,犯罪もの,刑事もの,TVの映画化
レビュー情報
《ネタバレ》 連続爆破テロを巡るストーリー。近年こういうプロットの場合には愉快犯との頭脳戦、ハッキング合戦だったりして、動機などどうでもよい犯罪ドラマ、エンタメ映画の類型となっているように思う。
本作品『ラストマイル』はどうか? 犯人の影が見え始める中盤より、そこには連続爆破テロを実行する切実な理由があるように展開していく。では、テロルとは何か?

「埴谷雄高によって「暗殺の美学」と名づけられた「自らの死は暗殺を行う叛逆者達の行動の正当性の端的な証明である。殺した者は殺されねばならぬ。もし殺されずに生きてさえいれば、彼は殺人者になる」という思想になって結晶化した」 笠井潔『テロルの現象学』より

犯人の動機は正しく自らの命を掛けた殺戮、テロルの論理そのものであったが、それは結局達成されることなく終わる。主人公達の活躍によりギリギリのところで防がれたからである。実際には重傷者も出ているので、いくつかの爆破事件はあったが、大量殺戮は運良く防がれたと言ってもいい。その運の良さにより、従前にテロルだったものが、いつの間にかそうでないものに変わったような錯覚を生んでいる。実はテロリストは最初からいなかったかのような錯覚、ファンタジーである。そもそもテロルとは、現代社会のひずみが生み出したものである。北と南、資本家と労働者、搾取する側とされる側。その明確な違いから必然的に生じるひずみ。その変革の意志が絶望から生じることでテロルになるのであって、それが「精神を病んでバーン」という短絡的な表現に落ちるのには違和感を覚えた。

ラストマイルを担うドライバーの過酷な労働環境や巨大物流センター(大企業)の無責任体質等、物流業界の問題に焦点を当てているが、結局のところ、「精神を病んでバーン」とならないように、根詰めずに生きましょう、助け合いましょう、悪いの経営者、お上、システムだと。「そこに在るべき悪」を仮想敵に短絡するが、いつの間にか標的を見失ってしまう。実はどこまで行ってもそれは同じ人間、凡庸な悪で、それ故に私たち自身も、集団において自ら悪人であることに無自覚となる。私には何かモヤモヤとした結末だった。犯罪ドラマ、エンタメとしては面白かったが、それ以上のことを作品から汲み取ろうとすると、ファンタジーさ故に肩透かしをくらったような気分になる。ファンタジーではないエンタメから少しでも離れたドラマならば、人間の仄暗い部分、さまざまな欲望への視線、原罪、愚かさ、悪を探していたら善なのではなく、悪から善を生む物語があってもいいのではないかと感じてしまう。但し、この作品が共感頼みの現代的な人間の薄さ、能天気さを描いていると思えば、納得もしてしまうのだが。
onomichiさん [映画館(邦画)] 7点(2024-09-05 22:28:15)
onomichi さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2024-09-16ソウルの春10レビュー10.00点
2024-09-05ラストマイル7レビュー6.22点
2024-09-05君たちはどう生きるか(2023)8レビュー5.90点
2024-09-05映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ8レビュー7.37点
2024-09-05福田村事件8レビュー7.22点
2024-07-14サラリーマン一心太助8レビュー8.00点
2024-07-14一心太助 男一匹道中記7レビュー7.00点
2024-07-14家光と彦左と一心太助9レビュー8.75点
2024-07-14一心太助 男の中の男一匹8レビュー7.00点
2024-07-14一心太助 天下の一大事10レビュー7.16点
ラストマイルのレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS