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「描き切れていない」というのが率直な感想。渡辺淳一氏の作品の底流に流れているのは生と死の美学で、初期の代表作「阿寒に果つ」などにその傾向が顕著だ。「失楽園」もその例外ではない。そもそもこの作品のモチーフは、「全ての虚飾を切り捨てた先にある男女間のプリミティブな性愛の有り様とその傍に横たわる死の深遠」だ。だとすれば、森田監督のこの作品はその最も大事な部分が描かれていない。原作には、物語とは別に実際にあった2つの「事件」が描かれている。「阿部定事件」と「有島武郎の心中事件」だ。その2つの「事件」がかもし出す男女間の情愛の生々しさこそ、この作品の「命」なはずで、そのあたり、この映画はまったく理解していないのだ。役所演じる九鬼と黒木演じる凛子の間で繰り広げられる「濡れ場」は、ちっとも「らしくない」。まったく観ている方がバカバカしくなるほど淡白で「美しい」のだ。実はこの「濡れ場」こそ、この作品のもっとも重要な場面なはずなのに、である。歳を重ねた男女間で繰り広げられる、「死」を強く意識しながらの性愛がもつ危うげで切実な様をどう描くかは、この映画化の最大の見せ場になるはずだった。それがまるで「環境ビデオ」のようになってしまった。いっそのこと、35歳以上限定のR指定にでもして、大人専用の作品としてつくりなおしてほしい。
【ヨアキム】さん [地上波(字幕)] 3点(2005-07-31 19:58:22)
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