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配役の上手さだけでも余裕で合格点の作品。実力のあるバイプレイヤーを集めて来て使い方にひとつの誤りもなく、それぞれが各自の持ち場をキチンと引き締めたこのバランスは見事。中西部独特の大自然に囲まれた町の持つ絶妙なスケール感と、刑事という仕事だけにアイデンティティを見出して来た男の孤独、その引退する最後の日に降って湧いた突然の「事件」に余生を引きずられて行く人間の危うさ。主観と客観との落差を調整するために必要不可欠な緩衝材としての「家族」を取り除かれた人間の孤独は、愛情さえも時として狂気にさえなり得ることを、観客の目にしか明かされない運命の皮肉という形であまりにも冷酷に描いた救いのない作品だが、逸脱した使命感を誰が何の権利を持って「異常」と決めつけるのか、その線引きの曖昧さ、難しさを描いた作品としてこれは明らかに傑作の域に達し得ていると思う。彼は本当に狂っているのか、あるいはどの時点からその心理状態は「狂気」と捉えて良いものなのか、物語はその経過を描きはするが結論は出していない。おそらく正常と狂気を見極める絶対的な価値観などは存在し得ず、万人が認めさえすれば愛情さえもその瞬間から狂気になるのだ。そして万人から認められた狂気はその瞬間から、人間を本物の狂気へと追い込んで行くのだろう。90年代以降、決して作品に恵まれて来たとは言えないジャック・ニコルソンが、老境に及んでなおその持ち味をいかんなく発揮できる作品に恵まれたことの意義は大きい。そしてその場を提供したジョーン・ペンこそ、実はニコルソンの最高のファンの一人と言えるのではないだろうか。
【anemone】さん 10点(2004-02-21 12:50:39)(良:2票)
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