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レビュー情報
派手でなく、過激でもなく、ただ明と暗、陰と陽とのコントラストに執拗にこだわり続けるD.フィンチャーの絵画的センスがひとつの完成形を見た作品。暗く湿った夜の色彩を得意とする彼の映像の中で、絶妙なセンスで取り入れられるほの暗い「光」の存在に、あらためて映画が光で作られていることを実感させられる。男性の持つ根源的な闘争本能を真正面から捉えたこの作品でフィンチャーは、ネオナチを思わせる非合法の武装集団をモチーフに、現代社会で男たちがその喪失感にもがき続ける「男性」そのものを描いて見せる。小刻みに盛り込まれる自虐的なジョークの連打によって観客達を笑いの渦に巻き込むことで彼が笑おうとしているのは、現代社会の失った男性そのものと私には思えるのである。この映画に描かれている悲しい男たちを笑い飛ばすことのできるほど逞しい男性は残念ながら私の周辺にはいない。人はそれを狂気と呼ぶ。あくまでも本能に忠実な者をいつしかそういった境界線によって分け隔てようとしてきた文明はすでに、笑うことでしか憧憬を押し殺すことができない。映像の世紀と言われる20世紀の最後を飾るのに最もふさわしい作品がこれである。
【anemone】さん 10点(2003-12-21 01:52:13)(良:1票)
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