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《ネタバレ》 増村保造監督の映画での遺作となった角川春樹製作のサスペンス映画。増村監督の映画は既に20本以上見ているが、大映以外の作品を見るのはこれが初めて。冒頭の殺人事件のシーンは血が派手に飛び散るショッキングな演出で、ほとんど市川崑監督の金田一耕助シリーズのようなノリで、(音楽を大野雄二が担当してるし。)これだけで本当にこれが増村監督の映画なのかと思ったが、岩下志麻演じるヒロインの何を考えているのか分からないミステリアスさや、女の情念の描き方などはいかにも増村監督らしい部分だ。しかし、何か物足りない。ヒロインを演じる岩下志麻は復讐に燃える女を好演しているが、「鬼畜」などで既に強烈なインパクトのある怖い役がはまり役になりはじめた頃の岩下志麻では、どうもそのインパクトだけが先行してしまい、背景のドラマにあまり入っていけない。これが大映時代増村映画の顔だった若尾文子ならまた印象は違っていたのではないかと思うが、増村監督の演出にも衰えを感じる。たとえばこんなことは書きたくないが、岩下志麻の演技力にすべて頼ってしまっているような感じで、若尾文子や安田道代、緑魔子、野添ひとみといったこれまでの増村映画の主演女優が見事に増村監督の色に染まっていたのに対し、増村監督でなければ出せないような岩下志麻の魅力というものを感じなかった。ラストも増村監督にしては湿っぽい。それから「青空娘」でセーラー服姿の若尾文子をかわいらしく撮っていた増村監督だが、この映画では高校時代という設定でセーラー服を着た岩下志麻の写真が登場する。山田洋次監督の「いいかげん馬鹿」でのセーラー服姿が初々しかった岩下志麻だけど、その頃は20代。もうこの映画の頃は40代で、増村監督得意の変態的な演出かもしれないが、やはりおばさんが高校生のコスプレをしているようにしか見えず違和感がある。(笑えることは確かだが。)せめてその部分は若い頃の岩下志麻の写真を使うべきだったんじゃないのか。話自体はそこそこ見ごたえがあり、見ている間は退屈しなかったのだが、やはり遺作だからか出来としては今まで見た増村映画の中でははっきり言ってイマイチ。久しぶりに見た増村監督の映画だっただけに残念。でも、できれば増村映画に本格的にはまる前に見ておきたかったなという気持ちはある。今まで見る機会にあまり恵まれなかったんだからまあしょうがないんだけど、やはり増村映画をたくさん見た今になって初めて見たらなんだか物足りなく、まして遺作がこれなんだと思うとこの監督の映画を好きな者としてなんだか悲しくなってしまう。大目に見て6点くらいなのだが、寝物語に「あなたのお父さんは悪い人。大きくなったら仕返ししてね。」と毎晩のように幼い娘に言い聞かせ、「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌うヒロインの母親を演じた岸田今日子が怖く、インパクトが非常に強い。出番は多くないのだが、間違いなくこの映画の登場人物の中でいちばん印象に残る。かなり甘めだとは思うのだが、この岸田今日子の存在感に1点プラスの7点。それにしても増村監督はこの時58歳。この後も何本かテレビドラマの監督を手がけた後に62歳で他界しているけど、ちょっと若すぎる。もう少し長く生きていてほしかった。
【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 7点(2011-12-07 02:44:30)(良:1票)
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