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《ネタバレ》 まず言ってしまうと、この作品が「尊厳死」というテーマとしっかり向かい合ったものとは思えない。尊厳死を認めて欲しいと支持者と共に国を訴えた実在の人物の様子は描ききれていないと思う。法廷のシーンなどはとてもあっけなかったし、病に侵されたフリアの生死への決断なども曖昧に流してしまっている。この映画の視点は、主人公ラモンの周りにいる、私や多くの観客、そして監督も含めた「普通」の人のものに近いと感じた。日々のつたない大波小波で疲れ切っているロサ、日常の営みで一番多く義弟と向き合い、飛ぶ夢を見るどころか海辺の散歩もままならないマヌエラ、厳しい小言を言われながらも叔父が好きなハビ少年、自分と同じ視点を持った彼らに感情移入してしまうからこそ、愛する家族の胸の内を想い、希望を叶えたい気持ちと彼を手放したくない気持ちとの交差に胸が詰まるのだと思う。歳は取っても可愛い我が子に変わりない、その子が「死」を勝ち取りたいと願う姿を見る爺ちゃんなど、私にはまるで正視できなかった。「尊厳死」でなく、生きていれば誰もが直面する「死」と「命」について、自分自身の記憶も含めて思い起こさせ、ゆっくり向き合って考える良い機会を与えてくれたとは思う。しかし、ハビエル・バルデムの優しい佇まいはさすがのもので、死んでいくシーンよりも悲しげな笑顔の方が一層深く脳裏に残っている。この次はどんな姿の彼が見られるのか、期待が膨らむ。
【のはら】さん [映画館(字幕)] 7点(2005-06-21 18:00:02)(良:1票)
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