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《ネタバレ》 起承転結の“起”で終わったようなストーリーとなっており、さすがにストーリーを褒める気にはなれない。ただ、失敗作かというと、そうでもない気はする。
鑑賞し終わった後は、どことなく穏やかで晴れ晴れした気持ちになれた。昆虫との戯れ、豊かな自然、平穏な日常生活や、少年と少女の交流が優しい視点から描かれている。本作には“争い”というものが描かれていないことも特徴だ。待ち針の剣、弓矢といった武器が登場するが、それらが使用されることもない。何がしたかったのか、いまいちよく分からなかったがハルさんやカラス程度の敵役であり、誰かが死んだり、傷ついたりすることもなかった(父親の脚の怪我を除く)。 小人の世界を大きく描くことはせずに、旧家の庭の小さな世界を小さく描くという展開はあまり見たことがなかった。映画作家というわけでもない者に監督をさせることで、過去のジブリ作品とは異なる“味”が生まれたのではないか。過去のジブリ作品と同じような冒険モノを作れなかったのか、作らなかったのかは分からないが、あまり見たことのない個性的な作品には仕上がった。過去の作品と同様のものを期待していた者にとっては肩透かしのような作品ではあるが、新しいモノにトライする懐の広さのようなものをジブリに感じることができる。また、ストーリーが大したことのない割には、映像に集中することが出来たので、アニメーターとしての技量は悪くないのかもしれない。 心臓病を抱える少年の成長という視点からも、それなりには描かれている。父親とは疎遠となり、母親も自分には構ってはくれない。自分の存在価値に疑問を抱くであろう少年が、小さな命、小さな家族を自分なりの方法で、自分の力で守ることで、『自分でも何かができる』と自信をもち、生きる希望へと繋げていったことも、穏やかな気持ちにさせてくれた要因だろう。少年と同様に、アリエッティにとっても、少年との交流によって、滅びゆく種族としての使命を強く認識し、生き続けるという強い想いを固めたのではないか。 自然や弱者を踏みにじる人間の愚かさを強く描くこともなく、説教的なメッセージを押し付けもせず、ストレートで純粋な子ども目線で描かれた作品である。大きな世界を大きく描くという“映画”らしさはないものの、自分の能力を超えない程度の世界を自分なりに描き出すという、あまり見られないタイプの作品ということを評価したい。 【六本木ソルジャー】さん [映画館(邦画)] 7点(2010-08-04 23:27:15)(良:3票)
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