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《ネタバレ》 スコッセッシ監督の作品は良作が多いけれども、それほど自分にピタッとはまるようなものは少なかった。しかし、本作は彼の作品の中でも全く異なる印象を受けた。かなり自分にピタッとはまった。これほど丁寧に、繊細にかつ念入りに人間の孤独、心の闇を丁寧に描いた作品にはそうお目にかかれることはないだろう。一見するとテンポが悪いようにもみえるが、じわじわと一人の孤独の男が心の闇に支配されていくような感じも受けて、ぞくぞくする興奮を覚えた。トラヴィスは元々から狂っているわけではない。特殊な存在ではなく、どこにでもいるただの普通の寂しい男だ。寂しさを紛らわせるために、タクシードライバーを始め、働いているうちに道で見かけた女性に恋もしたりもする、やはり普通の男だ。ベッツィにとっても、彼のような不器用ながらも直球を投げてくるタイプの男は珍しかったのだろう。二人は少しはよい関係になるが、ありがちなコミュニケーション不足や、女性に対する接し方の経験不足から、あっさりとふられてしまう。振られた痛手が導く「自分が認められない、自分を受け入れてもらえない」気持ちと、さらに汚れた街、孤独な街がトラヴィスの心を一層、孤独にし、闇に染めていき、狂気へと駆り立てていく。しかし、どこかにまだ心の中に自分を必要としてくれる人がいるのではないかという希望は消えていない。それが忘れられない20ドル(アイリスの存在)である。トラヴィスの一方的な思い込みではあるが、やはり彼は完全な狂人ではなく、救いを求めている人間らしいところも垣間見れる。救いを求めたとしても、心の闇に支配された男はそう簡単に変われるものではない。狂気は実現へと進んでいく。狙撃する対象は、別に誰でもよかった。大統領候補でも、ギャングでも。この世界と、自分の環境が少しでも変わり、自分という存在が誰かに認められ、自分の孤独が少しでも癒されればよかった。しかし、大統領暗殺の犯罪者から一転して、トラヴィスはヒーローに祭り上げられた。アイリスの両親からも感謝され、新聞にも取り上げられた。自分の存在を誇示するように、新聞の切り抜きを自宅の壁に貼り付けるものの、彼は変わっただろうか。少しも自分の心の乾きは潤されることはなかった。ベッツィと復縁のチャンスがあっても、自ら孤独から逃れる機会を拒否している。やはり、孤独な男はいつまでも孤独でしかないのだろうか。
【六本木ソルジャー】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-07-29 02:18:13)(良:3票)
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