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《ネタバレ》 スピルバーグらしいヒューマニズムに満ちた暗殺スリラー映画。たぶん、このテーマだったら今ならもっと冷酷に徹したアクション・スリラーに仕上げることもできただろう。しかしスピルバーグは、登場人物たちの人間味を優先させ、それゆえに壊れていく主人公にフォーカスした悲劇に仕立て上げた。白眉だといえるのは、主人公たちが宿屋で敵と一夜を共にするシーン。ラジオの音楽で一触即発と思われた状況を救ったのは、なんとアメリカの黒人歌手アル・グリーンの「Let's Stay Together」! 1970年代という時代状況も考慮しながら、敵同士が意見を交わす本作でももっとも重要なシーンでの思わぬユーモアに少し心があたたかくなる。もちろん、だからこそその後に訪れる悲劇に打ちのめされるわけですが、このあたりのヒューマンな「甘さ」はスピルバーグならではです。その後の展開は復讐劇よりも、イスラエルという国家への疑念から、それまでかろうじて主人公を支えてきたものがガラガラと崩れ去る様のほうに力点が置かれるのですが、結局は「ユダヤ人」でも「パレスチナ人」でもなく「人間」としての描き方にこだわったスピルバーグらしい結末であったと思います。『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』と比べれば、物語的なバランスの悪さ、ヒューマニズムと復讐劇の噛み合わせの悪さは気になりますが、ある意味、21世紀になっても臆面なくこんな映画を撮れるスピルバーグの唯一無二さはむしろ貴重です。
【ころりさん】さん [インターネット(字幕)] 7点(2021-04-25 23:12:25)
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