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《ネタバレ》 なんと言っても、2024年のあのタイミングでこの映画を製作〜公開までこぎつけたことにまずは拍手。焦点をトランプ、ロイ・コーン、最初の妻のイヴァナの3名の人間関係にしぼっていて、事実関係も相当単純化されていると思われる。なので「伝記」ではなく、トランプという存在がいかに生まれたのか、を象徴的に示唆した一作だと考えるべきなんだろう。
とにかくセバスチャン・スタンの再現度はすごい。序盤の自信なさげな青年期から成功した実業家時代まで立場は大きく変化しているのに、一貫して「トランプ」であり続けてた。物語でも事業での華やかな成功の陰で進行する「綱渡り」に焦点を当て、いつも「虚勢」や「ハッタリ」こそがトランプであったということを見事に言い当てている。結局、何もかもが他人からの受け売りであるという「中身のなさ」や「空虚さ」こそがこの映画の描きたかったトランプ像だったのだろう。 また、彼の師となるロイ・コーンは連続ドラマ『エンジェルズ・オブ・アメリカ』でアル・パチーノが演じていたのが印象的だったが、ジェレミー・ストロングは冷淡な現実主義者でありながらも右翼思想にどっぷりつかったカリスマ弁護士像を見事に更新したと思う。 あと、個人的には80年代のテクノポップを多用した音楽も新鮮。New OrderやPet Shop Boysなどイギリス系のアーティストが妙にはまっていた。 と、いろいろすばらしい点はあるのだが、残念ながら物語自体は正直あんまり面白くない。伝記ものにありがちな成功への軌跡と家族・人間関係の崩壊が描かれるのであるが、その流れ自体に目新しいものがなく、お話としては正直退屈に感じる場面も多かった。妻との関係では、現役大統領(公開当時は大統領候補)が妻を性的に屈服させるという、いろいろな意味で酷いシーンもあった。その後、彼女は離婚騒動でトランプを追い詰めるので、そのあたりの描写にも期待していたのだけれど、そこに至る前に物語は終わってしまった。もちろん、ロイ・コーンとトランプの関係を決定的に切り裂く役回りは見事ではあったのですが、二人の男のホモソーシャルな関係性のなかで彼女の位置づけにももう少し工夫があれば、なおトランプ的なものの有り様が鮮やかに浮かび上がったように思う。 【ころりさん】さん [映画館(字幕)] 6点(2025-01-22 07:24:44)
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