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登場人物や舞台設定の紹介が一通り終わると、「待ってました!」とばかりに登場するワイヤーアクション。前年に公開された「マトリックス」などは比較にもならない程の本家の素晴らしい技には度肝を抜かれます。演じる俳優及びスタントマンの身体能力の高さ、ワイヤーを扱うスタッフの熟練ぶり、カメラワークの的確さ、どれをとっても超一流です。アン・リー監督のフィルモグラフィーを振り返ると、英国貴族の恋愛物語に、郊外の家庭が崩壊するドラマに、南北戦争ものに、アメコミに、エロティックサスペンスにと、東洋のキューブリックと言えるほど幅広いものです。この恐るべき守備範囲の広さは、未知の題材を徹底的に研究して自分のものとする監督の勤勉さ、主題を丁寧に扱う生真面目さがあってこそのものだと思うのですが、本作についてもその資質は大きく貢献しています。監督にとってカンフーを扱うのは初めての経験でありながら、本作の最初の格闘シーンは香港映画が積み上げてきた実績が見事に吐き出された名場面となっているのです。公開当時本作は極めて高く評価されましたが、最初の格闘シーンを見れば、この映画には何か賞をやらねばと思わされてしまいます。それほどの名場面なのです。一方でこの監督は娯楽には不向きな傾向があり、残念ながら本作も娯楽アクションとしてもう一歩踏み込み切れていない部分があります。クレジット上はチョウ・ユンファがトップではあるものの、本作はチャン・ツィイー演じるイェンの成長物語であることは間違いありません。だとすると主人公イェンの心情を観客は理解する必要があるのですが、彼女が現状から逃げ出したいと思う物語の発端部分が描かれていないため、わがままなお嬢様が好き放題暴れているだけにしか見えません(幸い、チャン・ツィイーの魅力によってイェンは救われましたが)。このため、観客は感情的な部分で物語とシンクロすることができなくなっています。またカンフー映画のラスボスは強敵であるべきなのですが、本作の敵はリー・ムーバイどころかイェンにすら実力で負けてしまっているという設定。残念ながら、これでは盛り上がりません。本作の悪役はチョウ・ユンファ、ミシェル・ヨーというカリスマ俳優を二人も相手にせねばならないのですから、相応の設定を練り上げるべきでした。
【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 6点(2010-08-21 00:22:27)(良:3票)
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