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《ネタバレ》 バイオレンスを自称する他のすべての作品に対して「あんたら、本当の暴力をわかってないな」と言えるほどの強烈なバイオレンス作品。これに比べれば、スカーフェイスやグッドフェローズすら甘く感じられます。直接的なバイオレンスシーンはサウナでの死闘のみなのですが、暴力的でギラギラとしたオーラを作品全体が放っており、100分間すべてがバイオレンスシーンと言える状態となっています。コッポラやマイケル・マンが美学をもって描く闇の組織像もここにはなく、平然とモラルを侵し、人の不幸の上で生活する理不尽な縦社会がこれでもかと映し出されます。家族を大事にし孫をかわいがる一方で、10代の少女たちを売春宿に閉じ込めるセミヨンの憎々しさといったらありませんが、これがヨーロッパや、もしかしたら日本でも現実に起こっていることなのですから恐ろしい。監督と脚本家にはマフィアを糾弾したいという意思もあったようですが、現実社会の問題がよく物語に昇華しており、製作者たちがアンナやニコライに託した怒りに私たちも自然と共感できる形となっています。カタギからヤクザの世界を垣間見るアンナが私たちの視点となりますが、彼女の行動原理や直面する事態への反応が非常に自然なので、話に違和感がありません。口数の少ないニコライの人柄を僅かな行動や言葉からきちんと描けているのも見事。キリルから強要されたSEXのあと、情けなさと絶望感から泣くこともできない売春婦の少女に「まだ死ぬなよ」と声をかけるくだりは、作品の世界や彼の人柄を端的に示していました。また、本作の特徴である過激な暴力描写も決して露悪的ではなく、重みと必然性と作り手の責任感が伝わってきます。監督の手腕は神業の域に達していて、オリバー・ストーンあたりだと3時間以上かけそうな情報量を100分程度で無理なく片づけています。物語の進行と登場人物の感情が必ず同時に描かれ一切のムダが省かれており、駆け足も間延びもなく観客のバイオリズムにピタリと一致した構成となっています。テーマから逆算して描くべきものとそうでないものの取捨選択も的確に為されており、例えばFSB絡みの展開はいくらでも膨らませそうなものの、テーマの上では重要でない為触れる程度となっています。この監督は変な映画ばかり作ってるイメージがありましたが、いざシンプルなものを作らせても並の監督ではマネできないレベルにするのですから大したものです。
【ザ・チャンバラ】さん [DVD(字幕)] 9点(2008-12-19 01:11:27)(良:1票)
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