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これけっこう好きなの。シリーズ中期の安定した語り口で、『あじさいの恋』や『口笛を吹く寅次郎』あたりと比べると地味だけど、同じくらい好き。岸本加世子がらみの部分でやや物足りないとこもあるが、部分的にキラッと光る。たとえば東八郎とのケンカ。「おまえの店の一軒や二軒なくったって、世間様は何ともないんだぞ」。こんなところに裏打ちされている庶民の必死さ、それと寅との乖離、さらにそこから寅の人生の自由と孤独も見通せる。そしてもう何度も見ているはずなのに、寅がフッてしまう場面てのはいつもいい。コミュニケーションて本当に難しいんですよね。デリケートになっちゃってて、互いに臆病になってしまっている。一歩さがって相手の出方・様子をうかがっているうちに、二人の距離が開いていってしまい、しかもそのことに当事者がなぜかホッとしてしまったりするんだな。そこが丁寧。自分を卑下し過ぎるってことなんだけど、これ股旅ものにあるある種の疚しさにも通じていて、日本人にとっては普遍的な礼儀正しさにも感じられる。作者はこれを肯定しているわけじゃなく滑稽と捉えるんだけど、肯定はしないが微笑を持って、だから人間いいじゃないか、と見ている感じ。このシリーズではいつも女優がうまく見え、テレビなどではさして印象に残ってなかった今回の音無美紀子もよかった。重層的な人生を見せてくれる、とりわけ舞台が東京に移ってから。夢の手術シーンがシュール。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 8点(2010-01-14 12:02:45)
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