天気の子 の アンドレ・タカシ さんのクチコミ・感想

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天気の子 の アンドレ・タカシ さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 天気の子
製作国
上映時間114分
劇場公開日 2019-07-19
ジャンルドラマ,SF,ラブストーリー,ファンタジー,アニメ,青春もの
レビュー情報
《ネタバレ》 契約しているネットTVでの配信が始まりやっと鑑賞しました。
チコちゃんに「天気の子」ってなに?と問われたら「日本アニメに翻訳されたライ麦畑」と答えます。
そんなことを書いてみようと思いますが、「ボーっと生きてんじゃねーよ」を言われたらご勘弁w

家出した主人公が船中やネットカフェで読んでいた書籍がサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」です(最近出版された村上春樹翻訳バージョンでした)。米国での初版は1951年。
未読の方のために書いておくと、「ライ麦畑」は高校を放逐された未成年♂の主人公がニューヨーク近辺を彷徨う様を、主にその内面描写によって綴った青春小説です。日本で中二病と云う言葉が生まれる半世紀以上前に、中二病を描いた小説がアメリカにあった。それが、比較的歳を取ってから「ライ麦畑」を読んだ私の感想でした。主人公にはほとんど全く共感できず、腹が立ったくらいでしたよ。ひと昔前までは「反抗期」と云う言葉で括られていた態度ですけど、主人公が発する理屈が中二っぽいのです、コレが。本作で主人公が「ライ麦畑」を読んでいるのは、作者の照れ隠しだと思いました。「ライ麦畑のホールデンみたいな奴だけど、勘弁してね」って具合かな…。

「天気なんて狂ったままでいいんだ!」と主人公は叫びます。その結果なにが起こったかと云うと、東京の水没です。南極の氷が溶けない限り、あんなに海水位が上がるわけねぇだろ、と云うツッコミは脇に置くとして、その被害は甚大です。鉄道も地下鉄もビルも学校も、社会資本は全て使い物にならなくなり、何百万と云う人が家を失って難民になり、首都としての都市機能は消失したはず。呑気に船で通勤など出来る訳ないのです。例えば、幼児の水死体をひとつ浮かべるだけで本作の見え方は180度変わります。でも、それはしない。それが演出と云うものだから。

東京の水没よりも、意中の女性の方が大切だ。それは多分に意地悪な言い方で、彼らが天候を操作して災害をもたらした訳では無く、人柱になることを拒否した結果でした。で、ここが大事なのですが、もし私が主人公と同じ立場なら同様の判断をしたと思わされました。彼には東京水没は眼中に無く、と云うかそんなことを考える容量は無く、自分に身近な人の安否の方がよほど重要な要件でした。
「主人公と同じ判断をした」のは、主人公に共感したと云うことです。

「ライ麦畑」の主人公は、何をやっても、何を言っても、周囲の大人たちから全く理解されずに自分の中での完結度を高めて行きます。中二自己中を極めていくと言って良い。読者としての私が反感を覚えるほど面倒くさい奴でした。そして本作の主人公たちも、ほとんどの大人たちからは理解されず、状況は悪い方向へ転がります。客観的に、幾つも間違った判断をしているとも思います。でもそんな瑕疵より、好きな人と一緒にいたい想いや若者が持つ突破力や思い込みが発揮するパワーが、大人たちの常識や業務的ルールとの対比で、美点として抽出され強調される。ファンタジー設定で主人公を追い込み、ひとつの結論を出させる。その論調や結論に、大人の私が共感したのです。「ライ麦畑」には共感できなくても「天気の子」には共感できた。類似した中味に対してこの違いはなにか? 大げさに言うなら、日本アニメの力技。それが「日本アニメに翻訳されたライ麦畑」と云う意味です。キケンな映画なんですけどね(笑)。

この監督が20年ほど前に作ったデビュー作「ほしのこえ」のレビューを10年ほど前に書きました。私はそこに「この監督の個性とは、ハードSF的に設定を固めても表現したいのはティーンエイジが抱く感情だけ」と書きました。前作ではストーリーに人命救助を絡めたことで、社会性を持ったお話として個性が昇華されました。ひと皮剥けたのかなと思ったのですが、本作で元に戻りましたね。でも、それは悪いこととは思っておりません。良くも悪くも、個性がナンボの世界です。

あ、もうひとつ。朝、カーテンを引いて晴れていると、気分が高揚して前向きな気分になれる。それは年配の私にも実感。そのあたりを出発点にして映画を一本作ってしまうセンスは買いですね。
アンドレ・タカシさん [インターネット(邦画)] 6点(2020-07-04 17:54:43)(良:4票)
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2022-02-19DUNE デューン/砂の惑星(2021)7レビュー6.30点
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