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《ネタバレ》 キサーゴータミーは、愛する息子に死なれてしまった。彼女は息子の死を受け容れることができず、遺体を抱えながら「この子に効く薬を下さい」と言って回っていた。
彼女はブッダの元にも訪れ、同じことを言った。するとブッダは言った。 「芥子の種をもらって来なさい。ただし、一人も死者を出さなかった家からでなければならない。」 彼女は9日後に戻って来て、言った。 「私はシュラバスティの全ての家を回りました。しかし、一人も死者を出さなかった家は一軒もありませんでした。」 ============ 新海誠は「秒速50センチメートル」で、「さよなら」と書いた手紙を渡すことができず、少年の頃の思いを大人になるまで引きずる主人公を描いた。 本作では主人公のアスナが、少年シュンと親しくなるが、彼の唐突な死によって引き裂かれる。しかし地下世界を旅して、森崎先生の亡き妻リサの霊が体に入ると、アスナの霊は肉体から追い出され、死後の世界に行く。そこには死んだシュンとペットのミミがいて、束の間の再会を果たすが、シュンの弟シンがクラヴィスを破壊すると、リサの霊はアスナの体から抜ける。すると死後の世界にいるアスナは、シュンの霊に「行くんだね」と言われ「うん、さよなら」と告げて、元の肉体に戻る。 人には別れがあり、死は避けられないという現実を受け容れることで、人は大人になっていく。「さよなら」と告げるセレモニーを通して、自分にも相手にも別れを言い聞かせることが必要なのだ。 ゆえに、死者の復活を本気で願う森崎先生は、大人になりきれていない。彼は、復活した妻リサにも「さよなら」を告げていない。現実世界を拒否した彼は、地下世界を永遠にさまようことになる。 新海誠はこの次の作品「君の名は。」でも、ガールフレンドが村ごと消滅したのを、タイムラグを利用して丸ごとなかったことにする物語を描いている。彼はいつになったら大人になれるのだろう。 「喪失を抱えて生きることが人の宿命だ」というのが本作のテーマであることは明白だが、それを視聴者にアピールすることには失敗している。主人公には確固たる意思はなく、常に流されていて、常に男に助けられている。何のために地下世界に来たのか動機が曖昧だし、生死の門が崖の下にあるとわかっていても、そこを降りるだけの勇気もなければ、動機もないように思える。最後に現実世界に戻った彼女に、成長したような形跡も見られない。 イザナギ・イザナミの神話をモチーフにした「掴み」は興味深いが、主人公に意思や魅力が乏しく、せっかくのテーマを寓話にまで昇華できていない。キャラクターの造形が某社にそっくりなのはご愛嬌。 【高橋幸二】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2020-02-13 14:22:36)
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