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「かぐや姫の物語」は、「ここではないどこか」の人が、自分のいるべき場所を探す物語である。
■都の生活に適応できなかった彼女は、地獄のミサワ天皇に抱きしめられたとき、耐えられなくなり、「自分の元いた場所に帰りたい」と願ったことだろう。だがそれは人として育った里ではなく、本来の世界である月だった。 ■月の世界には悲しみはないはずなのに、地球を見て涙を流す人がいた。記憶を消されているはずなのに、なぜか地球が恋しくてたまらないという設定は、「時をかける少女」で主人公が記憶を消されたはずなのに、深町とすれ違ったとき思わず振り返ってしまうというのとよく似ている。 ■私は、実在の作家グレイ・アウルの伝記を書いた(http://bluejays.web.fc2.com/grey_owl.htm)。彼もまた育った家に適応できず、虚飾の生活を捨て、自分の本来いるべき場所を探してさまよい、最後に己の全てを捨てて異世界の住人になった。彼は自分らしく生きるため、自分を偽って生きる道を自ら選んだ。それは、自分の意志ではなく運命として、泣きながら自分が生まれた世界に戻って行くかぐや姫の人生とは、似ているようだが正反対であろう。 ■捨丸はどこかで再登場するだろうと思っていたら、案の定だった。かぐや姫は月に帰る前に、最後の心残りである里に帰り、捨丸との再会を果たす。どこまでも飛んで行く二人は幻想の世界にいるようで、夢オチのようにも見えるが、私は「時をかける少女」と同様に記憶を操作されたと解したい。つまり、二人は実際に再会したのだと。 ■自然の営みに比べたら、人の一生は一睡の夢のようなものかもしれない。かぐや姫は、地球はそんなにいいところなのかと憧れたため、罰として死も悲しみもある地球に送られた。だが彼女は、この世には死も悲しみもあるからこそ、生も喜びも感じることができるのだと知った。我々の心が欠乏を覚えるのは、そのありがたみを知っているからだ。限りある人生だからこそ、かげかえのないものなのだ。 【高橋幸二】さん [地上波(邦画)] 7点(2015-03-16 07:52:24)
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