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《ネタバレ》 ■御存じイーストウッドのウエスタン引退作(のはず)。脚本はデヴィッド・ピープルズが無名時代に書いたものだが、内容が重すぎてどこの映画会社にも売れなかったそうです。イーストウッドが気に入って権利を獲得したが、自分がウイリアム・マニーと同年齢になるまで10年寝かせていた企画とのこと。そして盟友モーガン・フリーマンとの出会いともなったのも本作です。■ストーリーは、狙った結果ではあるけど登場人物の行動がすべてにおいてグダグダなところが、珍しい部類の映画だと思います。ウイリアム・マニー=イーストウッドの初登場シーンからして、飼っている豚を追いかけ廻して泥まみれになっているわけですから。かつての冷酷非情な殺人犯であるマニーも、亡妻の愛に触れてすっかり真人間に生まれ変わったおかげで、馬に跨るのにも苦労するし、銃の腕前もガタガタ。「こんなイーストウッド、観たことがない!」と悲鳴を上げるところですけど、彼のこの映画での狙いは“西部劇の様式を徹底的に否定する”ということなんです。保安官=ジーン・ハックマンとイングリッシュ・ボブ=リチャード・ハリスの遣り取りが象徴的なんですが、西部のガンマン伝説なんてくだらないいざこざに尾ひれがついただけのホラ話に過ぎないという事を暴露する身も蓋もなさ。賞金稼ぎを呼び寄せる娼婦暴行事件にしても、もう猟奇殺人ぐらいにまで大げさに伝わってゆくまるでフェイクニュース、まあ情報伝達手段も限られ人口密度も低い西部では実際こんな感じだったんでしょうね。■この映画のリアルなところはフリーマンやスコフィールド・キッドそしてイーストウッドにしても、人を銃で撃ち殺すという事には、たとえ過去に経験していても心理的にはかなりの抵抗があるという事、まあ普通の人間なら当たり前でしょうけど。ましてキッドに至っては初めての殺人ですからねえ、オリジナル脚本では彼はショックのあまりこの後自殺することになっていたそうです。やはり題名にもなっている“Unforgiven”は“殺人を行う者”だということなんでしょうし、フィクション上とは言っても数えきれないぐらい人を殺してきたイーストウッドの懺悔的な感慨も込められているのかもしれません。そうは言ってもフリーマンを殺されて誓いを破って酒を口にしてからのイーストウッドはもうブギーマン状態、薄暗い酒場であっという間に五人も射殺するという神業を見せる、でもあの暗くて何が起こっているか判りにくい映像は老体のイーストウッドの動きを隠すための苦肉の演出なのかもしれない。■死にゆくジーン・ハックマンが「今家を建てているのに、こんな最期になるなんて…」と嘆くところなんか見せられると、このキャラはほんとにヴィランだったんだろうかと、首を傾げたくなります(笑)。
【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-07-22 22:42:19)
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