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《ネタバレ》 主人公ミシェルはおしゃべりな男だ。盗んだ車を運転しながら、彼はくだらない独り言をのべつまくなし語り続ける。時に確信犯的カメラ目線さえこちらに向け語られる空疎で冗長なその戯言。やがて彼が美しいパトリシアと出会い、独白が対話となってもそれは変わらない。気怠い昼下がり、陽光差し込むホテルの一室でとりとめなく垂れ流される二人の美しいフランス語は、対話のようで、しかし対話ではない。饒舌に言葉を用いる彼らは、抜け殻のような独り言を、ただそれぞれに実りなく発しているに過ぎない。そんな彼らの意思が疎通することは決してない。二人が虚空に放つ過剰な言語がまるきり有用な意味をなさぬまま、じわじわと彼らの溝=空洞=孤独を拡げていくさまを、映画監督ジャン=リュック・ゴダールは冷徹にカメラに捉え続ける。この退屈な映画に素直に退屈するのは、ある意味とても正しい。ゴダールがここに描いているのはまさに救いようのない不毛な退屈、それそのものだからだ。退屈と孤独、そしてその不毛。「“二人で眠る”と言うけれど眠っているときは一人よ」というパトリシアの後の台詞が示すように、彼らは二人でありながら、けれどどこまでも一人だ。彼らが孤独でないこと、二人でいること、その実感がもしそこに存在するのだとすれば、それはパトリシアのスカートをめくり尻を撫でるミシェルの手のひらの感触と、彼のその不作法に平手打ちを食らわすパトリシアの手のひらの感触、ただそれだけだろう。つまりは言語など用いぬ肉体的接触だけが、不毛な言語では決して他者と結びつき得ぬ孤独な彼らをかろうじて媒介できる。だがそうした接触をパトリシアは冷淡に拒み続ける。彼女があっけなく密告という裏切りに転じ、ミシェルと“二人でいること”を気まぐれに終えるのは、その意味で至極当然の成り行きと言える。あなたを裏切ったのだから私はあなたを愛していないと饒舌なパトリシアは言う。だがそれは詭弁だ。彼女はただ、愛していないから彼を裏切った、それだけのことだ。そしてその詭弁が再び、彼らのかわし続けてきた言語の不毛を炙り出す。ミシェルは舗道に横たわり自らの指でまぶたを閉じる。そうしてその瞳から愛していたはずの女の姿を自らの意志で永遠に遮断する。不毛な言語はそれでも時に真実を言い当てる。パトリシアの言った通り、人は眠る時“も”やはり一人だ。それは確かに
最低だ。 【BOWWOW】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-08-08 20:16:51)(良:2票)
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