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《ネタバレ》 タイラー・ダーデンが人畜無害な家族向け映画のフィルムに挿し込むたった1コマのサブリミナル映像は、なぜ「男根」なのか。この行為が猥褻物陳列を意図した単に道徳に反するだけのイタズラであるのなら、それは女性器でも構わないはずだ。レイティング規制の問題でそれが無理ならば、ソフトなポルノグラフィであってもいい。だがタイラーは、そして監督デヴィッド・フィンチャーは、大いなる意味をもって、あからさまな「男根」をそこに挿入する。またこの映画は、タイラーとマーラ・シンガーの獣じみたセックスやトイレに浮かぶコンドームなどの性的ニュアンスを多分に含むが、血色の悪いマーラや乳癌のクロエら登場する女たちにことごとく(アメリカ人男性の好む)グラマラスなセックスアピールが欠如していることが象徴するように、実は徹底的にセクシャルの対極にそのベクトルを向けている。つまり本作は言わば、女性器を拒む「男根」の映画なのだ。細胞レベルから、グロテスクに拡大された毛穴や皮膚へ、そしてジャックの喉奥に挿入されたそれこそ「男根」の如き銃創へと這い上がっていく導入部からしてそうだ。そこに同性愛的な意味合いを見出すのは早計だろう。『ファイト・クラブ』はあくまでポルノやセックスではなく「男根」そのものの映画だからだ。先述したサブリミナルの「男根」が勃起した状態のものでないのは、その意味でも必然だ。IKEAの家具を買い占め、コーヒー浣腸で美容と健康を追い求め、トレーニングジムで筋肉を美しくデザインする男たちは、さして必要に迫られているわけでもない鬱病対策に高価なプロザックを過剰服用し、その副作用で勃起不全となる。理想的な都市生活という強迫観念に去勢され「男根」を勃たせることすらままならない彼らは、それがゆえ、性衝動ではなく野蛮な暴力衝動を取り戻すことで「男」になろうとするのだ。高層ビルの窓辺に立ち、崩壊する夜景を見下ろすジャックとマーラ。キスすらせずにただ手をつなぐ彼らは、まるで少年と少女だ。だがそれは永遠に去勢されたはずの少年が、ついに性衝動に目醒める、その瞬間なのかもしれない。フィンチャーは最後の最後にイタズラめいた目配せをする。それはフィンチャーなりのメイヘム計画だ。頭を垂れた「男根」が、お前らはどうだ?と問いかける。「男」になれ、そして勃起せよ、と。それは映画を観る男たちへの覚醒の合図だ。
【BOWWOW】さん [ブルーレイ(字幕)] 9点(2011-01-02 21:13:01)
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