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《ネタバレ》 本人は不本意な胸中だったかも知れないが、実際に零戦に乗って激戦をくぐり抜けたパイロットたちは愛機と死線をくぐる事をいとわなかった。
零戦に愛情を注いだ二郎の魂に、パイロットたち空に生きる人間の魂が共鳴していたからだろう。 だからこそ二郎は「諸刃の刃」の犠牲よりも、自分の飛行機を愛してくれた男たちの命を何とか助けてやれんかと叫ぶ。 座席の裏側に防弾の鉄板を設置できていたら、一体どれだけ多くのパイロットを生還させられたのだろうか。そんな二郎の願いは、物資の不足と軍部に握りつぶされる。 やり場の無い怒り、戻ってくる零戦の残骸に心を打ちのめされる日々(劇中では描かれないが、そういう虚しさがひしひしと伝わる)、そして最愛の人である菜穂子を蝕む病。 二郎の心は渇いていく。 まるで二郎に声を充てる庵野のように、仕事に対する冷静かつ、冷徹な「執念」だけが研ぎ澄まされていく。 憧れのカプローニのような飛行機をいつか作りたい。 夢と情熱を執念にかえて生きる二郎。 その強すぎる思いが、時に人を傷つけ、自身でも気づかない内に空回りする時もある。 そんな次郎を、菜穂子はただ黙って見つめる。 病に苦しむ菜穂子の横で、二郎は遠慮なく煙草を吸う。他人を思いやる余裕が心に無い次郎を、菜穂子は黙って許した。「いいわ」の一言で。 戦争が嫌いな男が戦闘機を作っている。そんな矛盾に満ちながらも、自分のやりたい事に真っ直ぐに生きる男に惚れてしまった、そんな女の「覚悟」でもある。 他人は「どうしてそんな事ができるの?信じられない?」と思うかもしれない。 解る人は解り、解らない人は一生解らない。 二郎と菜穂子の目に見えない「絆」は、その域に達してしまっていた。 戦争は終わりを迎える。 菜穂子は先にあの世に旅立ってしまったが、二郎は後に民間機の「YS-11(オリンピア)」を作った。武器も無い、多くの人々を安心して乗せられる旅客機だ。 彼の念願が自由に形にできる時代がやってきた。 二郎は本懐を遂げられたのだろうか。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-12-13 18:33:47)
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