3.スクリーンプロセスの多用などはいかにも予算の制約を感じさせつつ、
一方ではトム・ニールの電話シーンに交換手がそれを繋いでいくショットを律儀に
入れもする。
低予算映画ならば真っ先に削れそうなショットなのだが、この簡潔な長距離電話の描写が
あってこそ、後の大陸横断ヒッチハイクの距離感が印象づけられることになる。
同時にその電話線もまた終盤に活きてくるわけで、巧い。
道中、最初の思わぬ悲劇。
黒い車体に降りかかる激しい土砂降りの雨が、それだけでその後に主人公が陥っていく
泥沼状況を予感させる。
助手席で眠っていたかと思われたアン・サヴェージが不意に目を開けて
運転席のトム・ニールを凝視する、それだけの動き、その無表情がなんとも恐ろしい。
レコード盤からドラムへと、円によってスムーズにフラッシュバックへとカットを
繋ぐなど、編集の工夫も随所で光る。
満載されたノワールの意匠と低予算ならではの美徳が、不思議な魅力を放っている。