4.《ネタバレ》 非常に具体的な地名が特定されているのはなぜかと思ったら、「協賛」として電力会社の名前が挙がっていたので何となく納得した。劇中で何かと地域社会の先細り感を強調していたのは白々しく、そのために発電所を設置してもらったのではないのか、と言いたくなるが、まあ環境にやさしい風力発電も映っていたので、これでも見て少し心を和ませろということかも知れない。ただし途中で突然サイレンを鳴らす場面があったのは、まるで深刻な事故でも発生したかのような不吉感があったのでやめてもらいたかった。
ところで劇中の台詞として語られたことを聞いていると、楽譜というのは作曲者からの手紙であり、そこにみんな(演奏者?)の思いを乗せて、目指す相手に伝えるのが指揮者の役割だということらしく、こういう一般理論のようなものを得たのがマエストラとしての収穫だったのだろうと思われる。これをこの映画に置き換えれば、作曲者は脚本家、指揮者は映画監督ということになるだろうが、観客に伝えることに関していえば残念な結果というしかない。その場限りの台詞と表情を羅列しても心の動きは自然に感じられず、前記の理屈がわかれば感動するというものでもない。また微妙に芝居じみた陳腐な台詞や展開も苛立たしく感じられるところがある。
一方で、劇中の出来事の結果としてオケに依頼が殺到していたのはどういう因果関係に基づくものか不明だが、いわば競技スポーツ的にコンクールでの好成績を目指すより、鑑賞側(例えば福祉施設、学校など)に合わせた音楽を提供するコミュニティ楽団を目指すのが適切だ、というのならその通りだろう。この映画に関しても、好意的に見てもらいたい範囲(石川県内程度か)を相手にした地元対策の映画としては目的にかなったものかも知れないが、しかし例えば、全国の音楽好きの人に広く見てもらえる映画には全くなっていない気がする。せめてもう少し音楽というものにまともに向き合ってもらいたいものだが、まあ何か事情もあったのだろう。
なお出演者自体に関して特に苦情はないが、点数は主に映像関係に対して付けておく。またついでに書いておくと、原作(マンガ)には体育館で演奏する場面はない。
[2017-02-19追記]2011年の原発事故の直後に、わざわざ別の原発の隣接地でこういう映画を撮ることにどういう思惑があったかわからないが、何やら胡散臭い気がするので当初の2点をさらに減点しておく。別に出演者が嫌いとかいうわけではなく、また冬の日本海岸の映像的な印象は悪くない。
ちなみに現時点では大規模な風力発電施設の建設が全国的に増えていると思われるが、現地からすれば単に周辺の生活環境や自然環境や地元貢献に配慮してもらいたい建設事業(多くは外部資本)に過ぎず、再エネなら何でも歓迎という雰囲気でもない。上に「環境にやさしい風力発電」と書いたのは吞気すぎたと反省しておく。